ギンリョウソウ
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#301 [向日葵]
>>292

誤]道なり
正]道のり

>>300

誤]呆れていれ
正]呆れている

⏰:08/08/24 11:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#302 [向日葵]
それなのに自分は……と何度も思い返す度、椿の顔の火照りはしばらくやみそうになかった。

「まぁいいけどさ……」

「ごめんなさい……」

さっきから何度も消えてしまいそうな声で謝る椿がさすがに可哀想だと思ってきた要は、密かにため息混じりの微笑みを浮かべると窓に歩みより、開ける。

爽やかな風が吹いてくるのに気づいた椿は、少しだけ顔を上げる。
風で、目の前にある紅茶の香りが漂ってくる。

「しかし、君の友達もおせっかいだね。僕の事が気に入らないくせに君とくっつけようとする」

⏰:08/08/24 12:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#303 [向日葵]
完全に顔を上げ、要を見ると、要は窓の外を眺めていた。
そんな要が夕焼けで綺麗に見えたれば、胸がドキリとした椿は、別の意味で顔を火照らす。

「で、そのお節介な友人に連れてこられた君は、僕に何か用事でもあったの?」

「え……」

言われてみれば、要に会おうなどと考えていなかった椿だ。
急に連れて来られたから、美嘉の気持ちに答えねばと入って来たが、ちゃんとした理由はあまりなかった。

訊きたかった唯子の事は分かったし、だからと言って前言ってくれた言葉は本当なのか訊く勇気は今の椿には無かった。

⏰:08/08/24 12:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#304 [向日葵]
ぼんやりとしながら目線を徐々に下へやれば、要の手に巻いてる包帯を見つけた。
そこに視線を釘付けていると、要が気づいた。

「あぁ……これ?これが心配だったの?」

「え、あの、えと……」

「なら心配いらないよ。傷もだいぶんよくなってるしね。見たい?」

椿はいきおいよく首を振る。
そんな椿に要はクスリと笑う。

「冗談」

笑ってくれれば、椿も緊張がほぐれていった。

「さて……そろそろ暗くなる。君を送るよ」

⏰:08/08/24 12:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#305 [向日葵]
椿は呟くように「え……」と言った。
椿の方に歩みより、立たせる為に手を差し出す。

「さ、行こう」

要の怪我はマシになっている。
怪我のせいでたまっていた仕事は多いだろう。
それを済まさなければならないのなら椿も早く帰った方がいい。

頭では椿も分かっている事だった。
でも、なかなかその手を取る事は出来ず、ただ手をジッと見つめているだけ。

そんな椿に、要は不思議そうな顔をする。

「椿……?」

⏰:08/08/24 12:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「あ、ハイ……」

手をゆっくりと要の手に重ねようとする。

早く帰らなければ、要に迷惑がかかってしまう。

しかし、椿はあと数センチという所でキュッと拳を作り、手を降ろしてしまった。
そして悲しげに要を見る。

「もう……会ってはくれないのですか……?」

「椿……?」

椿はずっとそんな気がしてならなかった。
送ると言った要はあまりに惜しみなくて、あっさりとしていた。
まるでばっさりと縁を切ってしまうかのように。
そう思えば、椿はなんだか悲しかった。

⏰:08/08/24 12:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
「私が……いらなくなりましたか……?」

要に会った瞬間、胸が甘く疼き、その奥にある分からない気持ちが浮き出す。

ずっと……会いたかった。

分かったけれど、もう遅いのだろうか。

「いらない?そんな訳ないだろ!君は……っ。……僕の言葉……忘れたのか?」

少し顔を赤らめて、椿から視線を外す要。
その態度に、椿のもう1つの疑問は無くなった。

「じゃあ、この頃姿をお見せになってくれなかったのは……?」

⏰:08/08/24 12:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
黙り込んだ要は、椿の隣に腰かける。
やがて、ゆっくりと話し出した。

「この前の事、本当に申し訳なかった。反省してる。君からの電話やメールも無視してすまなかった」

「私は……気にしてませんでしたわ」

要はちゃんと謝ってくれたし、その後乱暴な行動とは違い、優しく抱き締めてくれた。

「僕はずっと気にしてたよ。それにね椿、僕は椿が嫌でなんじゃない。僕が嫌で仕方なかった」

「どうしてですか?」

「苛立ちにも似た気持ちを君にぶつけたから」

⏰:08/08/24 12:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
要は自分の膝に肘をつき、頬杖をついた。
絨毯をぼんやりと眺めていると、苦いため息をはいた。

「君も身をもって実感しただろ。僕はこんな奴だ。今度は歯止めすらきかなくなるかもしれない。それが恐いなら、あの聖史さんとやらを選べばいい」

椿は目を見開く。
それは、要はこの争いから手を引くということなのだろうか。
唯子の正体が分からなかった時感じた痛みより、更に鋭い痛みが胸を貫く。

「あの人は僕と違って優しいし、君も幼い頃からの知り合いなのだろう?なら尚更いいじゃないか」

要のあの告白は本当の気持ちなのに、諦める?

⏰:08/08/24 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
じゃあやっぱり椿がいらない?

それならば、やっぱり、あの言葉は嘘?

椿は突然立ち上がる。
そしてドアの方へと歩いて行った。
それに驚いた要は椿を呼び止める。

「椿、どうかした?」

しかし椿は答えなかった。

ドアノブに手をかけ、開けようとした時、要が後ろからドアに手をつき、出ていくのを阻止した。

「椿、何か言ってくれないと分かんないよ」

椿は要に背を向けたまま黙り込む。
痺れを切らした要は、肩を持ち、自分の方へ向かせる。

「椿!何か言ったらど……」

要はハッと気づいた。
うつむいてる椿から、絨毯にかけて滴が落ちている。

⏰:08/08/24 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
椿は声を殺して泣いていた。

頭が混乱していた。
本当だと言ったのに何故諦めてしまうのか。
どうして聖史を選べと言うのか。

「椿、どうしたんだ?」

「わ……たしは……聖史さまを好きだたと思った事は……、いち……ど……も、ありません……」

要は恐くなんかない。
確かに押し倒された時や、要の手を素肌に感じた時は、何をされるか分からない恐怖でいっぱいだった。

けれど、勝つと言って頬に柔らかく触れた唇や、少し強引に押しつけられた唇は、嫌ではなかった。

⏰:08/08/24 12:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
そう思えば、椿は徐々に理解していた。

会いたいと思う気持ちも、諦めて欲しくないと思う気持ちも、要が好きだから心が叫ぶのだと。

だから要が聖史を選べと言った時、胸が張り裂けそうなぐらい痛かったのだ。

「それでも要さまが……選べとおっしゃるならば……わたしは……」

「椿……」

包帯を巻いた手で、椿の頬に触れる。
椿はその手に自分の手を重ねて、まだ潤む目で要を見つめる。
要は、見たことがないような穏やかな微笑みを浮かべる。

⏰:08/08/24 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#313 [向日葵]
「椿が僕に勝って欲しいと思ってくれてるなら、僕は手を引かないよ。いいの?椿」

椿はまた沢山涙を流してこくりと頷いた。

そんな椿を、要は優しく抱き締める。

「ありがとう……。これでまた明日から、仕事に力が入るよ」

聖史のようなしっかりとした腕ではなく、覚えのある腕に抱かれて椿はホッとした。

2人はしばらくそのまま抱き合っていた。

―――――――――…………

家に帰ってきた椿は、ほっこりとした気持ちで玄関のドアを開けた。

⏰:08/08/24 13:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#314 [向日葵]
[明日からまた仕事だけど、ちゃんと電話に出るしメールも返すから。椿も僕が連絡した時はちゃんと返してね]

帰り際に要が言った言葉だ。
こう言った後、また要は椿を抱き締めた。
お見送りと玄関ホールにやって来た大久保と唯子の前で。

唯子は「またお話して下さいね」と笑い、まるで姉にするみたいに抱きついてきた。

その時、椿は気づいた。
自分と同じくらい細い唯子の体。

門まで一緒に来てくれたら要にそれを言ってみれば、どうやら唯子は心臓が弱いのだと言う。
今まで唯子を見かけなかったのは、入院していたかららしい。

⏰:08/08/24 13:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#315 [向日葵]
[だから僕は君が放っておけないのかもね]

と笑う要に、椿も笑った。
要はどうやら妹が可愛くて仕方ないらしい。

[そういえば、唯子の事知ってるような感じがしたんだけど、どうして?]

それは訊かれるとは思ってなかったので、椿は顔を赤らめながら事情を話した。
すると要は意地悪そうに笑った。

[へぇー……妬きもち妬いてたんだ]

やっぱり顔を赤くする椿に、要は頭を撫でる。

[また唯子とも遊んでやってよ。じゃあね、おやすみ]

⏰:08/08/24 13:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#316 [向日葵]
自分の部屋についた椿は、着替え始める。

膝ぐらいまである花柄のチュニックを着た途端、後ろから誰かに抱き締められた。
驚いた椿は声が出せず、固まってしまう。
するとクスクスと笑い声が聞こえた。

「ゴメンネ。驚かしちゃった?」

「聖史さま……」

「でも着替え中にこんな事するのは、男として最低だね。向こう向いてるから、早く下を履いた方がいい」

そこで気づけば、下着は見えていないが、チュニックを来ただけの椿は白い足が出たままだった。
急いでジーパンを履く。

⏰:08/08/24 13:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#317 [向日葵]
「着替えました」

聖史は振り向き、にっこり笑う。
椿のベッドに腰かけると、手招きして自分の隣をポンポンと叩く。

座れと言いたいらしい。
素直に椿は座る。

「今日は遅かったんだね」

「あ、ハイ……えと、ちょっと用事がありまして」

「そう。なんか良いことがあったのかな?」

「え?」

「表情が柔らかくなってる」

そう言われて、椿は自分の顔の両手を添える。

⏰:08/08/25 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#318 [向日葵]
そんな事自分では分からないから、もしそうならば、今日要に会えたからだろう。
そう感じる自分に少し恥ずかしくなって、椿は頬を桃色に染める。

その一方で、聖史がは自分がまとっている柔和な空気をふと消す。
椿はそれにまだ気づいていない。

「椿をそこまで喜ばすなんて、きっとすごい人なんだろうね」

「ハイ。本当にすごいと言うか、優しい方で……。……え?」

椿はおかしいと感じる。

だって聖史には、“誰か”と会っただなんて一言も言ってない。

⏰:08/08/25 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#319 [向日葵]
聖史の方を見るのを何故か躊躇う。
そろりと徐々に首を回していく。心臓が不規則に跳ねるのは何故だろう。

そしてようやく聖史の方を見れば、微笑んでいた。
無機質な目をして。
その笑顔に、椿は背中がゾクリとした。

―――コワイ。

そう思いさえした。

要に襲われそうになった時の不安のような恐怖とはまた違う。
ただ恐いのだ。

「あ、あの……」

「何?」

⏰:08/08/25 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#320 [向日葵]
「お、同じクラスの、神田越さんと言う方がいまして、その人のお家にお、お邪魔、してまして……」

椿は咄嗟に嘘をつく。
けれど聖史にはそれが嘘だと分かっているだろう。
なのに聖史は「へぇ……」と椿の嘘に何故か付き合い、話の先を促す。

まるで、追い詰める事を楽しんでいるかのように……。

だから椿は余計に恐くなる。
気づけば膝の上に置いていた手が、小刻みに震えている。
それを抑えるように、もう片方の手を重ねる。

「越さんのお家は4人兄妹でして、すごく、仲が良いんです……。う、羨ましいくらい……に」

⏰:08/08/25 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#321 [向日葵]
いつの間にか、少し空いていた椿と聖史の間を埋めるように聖史は椿に接近していた。

「そう。その越さんのお家で何をしてきたの?」

「4才の妹さんがいるんですが……妹さんと遊んだり、していました……」

「どんな?」

「い、色塗りや、お人形で……」

「そうか……。それは是非会ってみたいね。僕は子供が好きだし、椿みたいに色塗りや人形でその子と遊んでみたいよ。明日会えないかな?」

「え、越さんは忙しいので、たまにしか、遊べなくて……」

⏰:08/08/25 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#322 [向日葵]
言い訳のようになってしまっている。
いや実際越が忙しいのは事実なのだが、今この状況では、椿の苦しい言い逃れのようだ。

「ねぇ椿、何故嘘をつくの?」

耳元で低く囁く聖史に、ビクリと肩が震える。

今から、攻撃が始まる……。

椿はそう予感した。

「う、嘘では……」

「残念ながら君が要くんの家に行った事は知ってるんだよ」

「……っどうして……!」

「なんだ、やっばりそうだったのか」

⏰:08/08/25 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#323 [向日葵]
「え……」と椿は呟く。
そして頭を思いきり叩かれたように、重みを感じる衝撃を受ける。

聖史は要の家に椿が行ったと言う確かな証拠がなかったが、予想はしていた。
そして椿自身に真実を吐かした。
つまりカマかけていたのだ。

「それでその嬉しそうな様子かぁ……。僕は完全に出遅れてしまったのかなぁ……?」

喉の奥でクククと笑い出す聖史。

椿の頭に、「この人は誰?」と言う疑問が浮かんでは消える。
あの優しい聖史は?

逃げたい衝動にかられる。
しかし足に力を入れたくても入らない。

⏰:08/08/25 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#324 [向日葵]
「椿、はっきり言ってよ。僕はもう君達の間に入る余地はないのかい?」

口の端を上げただけの奇妙な笑い方。
でも椿は言わなければならない。
自分は選ぶ権利などないと思ったが要がそばにいてくれれば嬉しいと思ってしまうから……。

毅然として、背筋をしっかり伸ばす。
はっきり言わなければ、それこそ聖史に失礼だと椿は思った。

「ごめんなさい聖史さま……。聖史さまは素敵な方ですし、私には勿体無いと思う程です。……ですが私は……」

そこまで言うと、きつく抱き締められる。

⏰:08/08/26 01:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#325 [向日葵]
あまりのきつさに、椿の細い体は耐えられず、苦しさを感じる。

「せ……じさ……」

「やっぱり言わせない。僕が負けだなんて認めたくない。椿は僕と幸せになるべきなんだ!」

聖史は椿に強く口づける。
驚いた椿はすぐさま抵抗するが、片腕は椿の腰を捕らえ、もう片方は椿の後頭部に添えられ離れないようにされる。

要の時感じた恐怖をまた感じ出す。それも、あの時以上の恐怖を。
手加減してないからだ。

それでも椿は胸を押し返し、離れようと頑張る。
胸を叩いて止めてくれと意思表示する。

⏰:08/08/26 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#326 [向日葵]
助けて……っ!
要さま…………っ。

要の事を強く心の中で、呼んだ時、ようやく椿の唇は解放された。

「椿、僕とキスしちゃったね……。これを要くんはどう思うかな」

ドクリと頭の中で鼓動を聞いた気がした。
動揺し、固まっている椿を見て満足気に微笑んだ聖史はいつもな聖史に戻っていた。

「椿の事、ふしだらだと思って嫌うかもね」

椿は目を大きく見開く。
その瞳の奥で、要が冷たく自分を見下ろす姿が見える。

⏰:08/08/26 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#327 [向日葵]
ベッドから降り、椿と視線を合わすように片膝をついた聖史は、さらりと椿の髪の毛をよけながら頬に触れる。

「でも僕なら椿をそんな風になら思わない。もしそうされたなら、要くんの温もりがないくらい椿を愛してあげる」

立ち上がり、ドアの方へ向かっていく。

「どちらが寛大か、椿、よく考えるんだね。じゃ、また明日……」

やけにドアが閉まる音が部屋に響いた気がした。
椿の体は、おさえきれない震えに襲われていた。

ベッドから、ズルズルと床に落ち、座り込む。

⏰:08/08/26 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#328 [向日葵]
今さっきの事が、本当に起こった事なのかまだ信じられずにいる。

どうして聖史があんな事をしたのかも分からない。

ただ恐くて、嫌で仕方なかった。

[ふしだらだって……]

その言葉が、頭の中を響き渡る。

要が自分をふしだらだと思う。
それは、嫌われるという事だろう。
諦めないで欲しいと言い、嫉妬までしたくせに、他の男性に唇を許してしまったのだ。

また椿の瞳の奥で、要が出現する。

⏰:08/08/26 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#329 [向日葵]
「君は僕に嘘をついた。これがどういう事か分かる?」

違う、あれは望んでした事じゃない。

「逃げる事だって出来たんじゃないの?」

……足に力が入らなくて……。

「望んでないとか言ってさ、本当は望んでたんじゃないの?逃げる気すら無かったんじゃないの?」

そんな事ない……っ!

「僕はそんないやらしい女性は嫌いだよ。悪いけど、僕はこの争いから手を引くよ」

待って下さい……!
お願いいかないで!!

⏰:08/08/26 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#330 [向日葵]
ガタン!と窓が風に揺れる音で、椿は我に返る。

そして唇にそっと指先を触れ、その手を拳の形にし、手の甲でぐいぐい拭く。
聖史の唇の感触全て無くなるよう、唇が摩擦で熱く痛くなるまで擦る。

要に嫌われたくない。
せっかく勝つと言ってくれたのに、こんな事で自分自身惑わされたくない。

それなのに……。

まだ震えが止まらない体を、自分の腕でしっかりと抱き、椿はうずくまる。

そして助けてと、心の中で必死に叫んだ。
助けてほしいのは、父でも美嘉でも誰でもない。

ただ、要に……。

⏰:08/08/26 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#331 [向日葵]
[第8話]

「椿さま、椿さまっ」

ハッと目を覚ました椿は、額にじっとりと汗を滲ませていた。
目の前には、心配そうにこちらを覗き込むメイドの佐々木がいた。

「佐々木さ……」

「大丈夫ですか?とても苦しそうなお顔をされていましたし、いつもの時間になっても朝食に来ませんもので……」

ゆっくりと体を起こした椿は顔が真っ青だった。
昨日の今日で、気分はすぐれない。
夢を見れば要が出てきて、椿はいくら追いかけても、遠くにいる要に追いつく事は出来なかった。

⏰:08/08/26 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#332 [向日葵]
走り疲れて息を切らして座り込む。すると世界が闇に包まれ、その闇が椿にまとわりつく。
その闇を振り払おうとするが、闇は段々と椿を覆っていく。
そして闇にのまれていくと感じた時、声が聞こえる。

「要くんに嫌われちゃうね」

聖史の声だった。

「今日は、学校休まれますか……?」

どこが悪いのか分からないが、とりあえず背中をさする佐々木は椿に問う。

しかし椿は首を振った。

「いえ、行きます。ご心配かけてすいません」

⏰:08/08/27 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#333 [向日葵]
佐々木はまだ不安そうな顔をしながらも、椿が着替えると言うので部屋を出て行った。

椿は制服を取るも、体にあまり力が入らなかった。
重いため息をついて、ベッドから降りる。

その時、テーブルに置いていた携帯が震えだす。
突然の派手な音に、びくりとした。

手を伸ばして、携帯を開けば、知らない番号だった。
とりあえず出てみる。

「……もしもし」

{おはよう}

⏰:08/08/27 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#334 [向日葵]
椿は胸が高鳴った。
それと同時に、胸の中がほっこりと安心感に包まれる。

「おはようございます……要さま……」

{なんだか眠そうだね。起きたて?}

意地悪そうでも、どこか優しい要の言葉は、今さっきの悪夢を忘れさせてくれそうだった。

「少し、寝坊してしまいまして……」

{珍しいね……。昨日眠れなかったの?}

その言葉に、椿は息を詰める。
悪夢が走馬灯のように椿の脳裏を駆け抜ける。

⏰:08/08/27 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#335 [向日葵]
追いつかない要。
闇に包まれる椿。
楽しそうに笑う聖史。

[要くんに嫌われちゃうね]

一点を見つめる椿の目は、何を写しているか分からない。
携帯を持ったまま固まり、立ち尽くす。

携帯の向こうの要は、いっこうに喋らない椿を不思議に感じ、呼びかける。

{椿?}

椿は要の声など耳に入っていないようだった。
要もそれが分かったのか、今度は強めに呼んでみる。

{椿っ!}

⏰:08/08/27 01:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#336 [向日葵]
ようやく椿は我に返る。

{どうかした?}

嫌われる。
その言葉が頭から離れない。
恐くなった椿は、無意識に電源ボタンを押していた。

―――――――…………

要の耳に、電子音が鳴り響く。

無言でいきなり切られた要は半ば唖然としていた。

要は受話器を置く。
椿の携帯に表示されなかったのは、要が自宅の電話機からかけていたからだ。
携帯の充電をしておくのを忘れたのだ。
流れで登録しとけと言うつもりが、いきなりの無言切り。

⏰:08/08/27 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#337 [向日葵]
自分は何か傷つける事を言ったかと首を傾げる。

コンコンとノックされると、大久保が入ってきて、朝の紅茶を運んできた。

「大久保、今日午後何か予定はあったかな?」

「午後は12時から3時までデザイン画に合わせた装飾品デザインの会議が都内の川島ビル15階の会議室でありますが……。それが何か?」

「そう。それならちょうどいい時間になるだろう。分かった。……それより大久保」

「ハイ」

要は不満そうな顔をして、紅茶のカップを大久保にずいっと渡す。

⏰:08/08/27 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#338 [向日葵]
「今日はセイロンティーが飲みたい」

「え、要さま昨日アールグレイが飲みたいと言ったじゃありませんか」

大久保の困った顔も無視で、要は無言でカップを押しつける。
大久保はわざと大きなため息をついて、苦笑いしながら言う。

「椿さまにはそんな意地悪しちゃいけませんよ?」

「してないよ」

してると思いながらも、大久保はフフフと笑って、紅茶をいれ直しに部屋を出て行った。
もっとも、要の意地悪や憎まれ口は、愛情の裏返しだと言うのも、彼はちゃんと分かっているのだ。

⏰:08/08/27 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#339 [向日葵]
――――――――…………

車で学校へ向かっている椿は、ため息をついていた。

「……8回目」

隣に乗っていた美嘉が呟く。

「へ……?」

「ため息の回数。……ねえ、昨日アイツに会った?」

「あ、ハイ。そういえば、昨日はありがとうございました美嘉ちゃん。」

美嘉は照れ臭そうに頬をポリポリとかく。

「そ、それより、会ったなら、どうしてそんなに元気がないのよ」

⏰:08/08/27 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#340 [向日葵]
椿はうつむく。

こんな弱気ではいけない。
きっと、これは聖史の作戦だと感じている。

そう思えば、昨日の聖史の奇妙な雰囲気を思い出して、椿は身震いした。

「椿?どうかした?寒い?」

「い、いえ……」

[要くんの温もりがないくらい椿を愛してあげる]

まるでどこかの国の暴君。
思い通りにしようとする。
あんなに優しかった聖史なのに……。

そこで椿はハッとする。

⏰:08/08/27 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#341 [向日葵]
もしかして、要を3針も縫う怪我をさせたのは……聖史なのか……?と。

椿は人間が分からなくなりだしていた。
自分にビジネス目的で近づいた人は、今じゃ優しいフィアンセに。
優しい兄的存在の人は近づくのさえ躊躇いそうになる恐ろしい人に。

――――母なら……。
椿は思う。
母なら、どんな人でも受け入れたのだろうか……。

それが相手の個性だと、何もかも大きな心を持って受け入れたのだろうか……。

自分は、母に、ならなきゃならないのに。
その義務があるのに……。

⏰:08/08/27 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#342 [向日葵]
「はぁ……」

「9回目っ」

椿は慌てて口を塞いだ。

学校について、下駄箱まで歩いて行く。
すると越がいた。

「越!おっはよー!」

美嘉が元気よく挨拶する。
彼女は椿たちの存在に気づくと静かに笑った。

「おはよう」

いつもと違う越の雰囲気に、椿と美嘉は顔を見合わす。
全然、いつもの彼女らしい元気がないのだ。

「越、どうかした?」

⏰:08/08/29 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#343 [向日葵]
越はどこかぼんやりした表示で首を傾げる。

「何が?」

「いや何がって……」

「何もないよ。早く行こう」

彼女の足取りを見ていれば、若干足元がフラついていた。
心配になりながら、椿と美嘉は越がうっかり柱で頭を打たないかと後ろから見守る。

「大丈夫……でしょうか、越ちゃん……」

「ど―――して美嘉の周りってこんな子達ばっかなのぉっ!?」

椿が目をまん丸くする。

「こんな……?」

⏰:08/08/29 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#344 [向日葵]
美嘉は椿を指差し、目をつり上げる。

「椿みたいな困ってても何も言わない子っ!」

「え、私は別に困っては……」

「じゃあ9回のため息は何よっ!美嘉は友達じゃないのぉっ!?」

美嘉はもどかしかった。
友達の筈の自分は何も頼られず、ただ見ておくだけだなんて。
困っている友人を助ける事が出来ない自分は、どうでもいい存在なのかとさえ思う。

「美嘉ちゃん……」

だから椿は、美嘉がそれだけ傷ついているのを初めて知った。

「ごめんなさい、ちゃんと、話ますので……」

⏰:08/08/29 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#345 [向日葵]
教室にカバンを置いて、椿達は屋上へ向かう事にした。
越に行くか聞いたが、やはり彼女はぼんやりしながら断った。
元気がない、と言うよりは、どこか物思いにふけっていると言う風に思うなくもないが……。

屋上で吹く風は冷たい。
椿は持ってきていたカーディガンを羽織った。

「そこらに座ろっか」

手すりに背を預け、2人してまだ白っぽい空を眺める。

「で、アイツの事で悩んでるの?」

少し当たっているが、また違う。
悩みの大半は聖史だ。

⏰:08/08/29 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#346 [向日葵]
だが美嘉は聖史になついている。
そんな彼女に、こんな事を告げていいのか迷ったが、それすら教えないと、美嘉はまた悲しむだろう。

だから椿は思い切って言う事にした。
昨日聖史とあった出来事、全て。

聖史が聖史じゃなくなってしまった事、無理矢理キスされた事、どこか脅かすような言葉を言われた事……。

美嘉はあの聖史がそんな事をするのが信じられないのか、目を大きく見開いて口を小さくパクパク動かしていた。

「な、何それっ、どういう事っ!?おかしいじゃない!聖史兄ちゃんがそんな事するなんて……っ」

⏰:08/08/29 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#347 [向日葵]
「私も頭が混乱してしばらくは上手く整理出来ませんでした……」

「でも椿……やっぱり椿ってアイツが好きだったんだ」

“アイツ”が誰なのかすぐには言葉を変換出来なかった椿は、やっと意味を解した時、首から上が真っ赤になった。

「き、気づいたのは最近で……、と言うか昨日で……っ、きっと美嘉ちゃんが会わせるようセッティングしていませんでしたら、まだ気づく事はなかったと思いました……」

椿は両手を頬に添え、顔の体温を冷たい自分の掌で冷まそうとする。

「こんな気持ち、初めてで……自分自身どうすればいいのか分からないんですけど……」

⏰:08/08/29 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#348 [向日葵]
美嘉はおかしそうに笑い出した。

「アンタ達2人とも、頭良いのに変な所頭悪いよね」

アハハハと笑う美嘉の笑い声が心地よく感じる。
そう感じるのは、胸をくすぐるこのこそばい感情のせいだろうか……。

「椿のやりたいようにやりなよ。それが1番良いと、美嘉は思うよ。椿が感じてる“お母さんの責任”は、もう捨ててもいいと思うよ」

「それは……出来ません……」

椿はそれだけは拒否した。
簡単に投げ出しては、皆許してくれない。
生まれてきた自分を、受け入れてくれない……。

⏰:08/08/29 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#349 [向日葵]
>>326

誤]いつもな聖史
正]いつもの聖史

>>345
誤]思うなくも
正]思わなくも

⏰:08/08/31 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#350 [向日葵]
要がそんな事ないと言ってくれた事がある。
しかし椿の心の中がすぐに全て切り替わるのかと言ったらそうではない。

「そういえば、越どうしたんだろうね」

美嘉が呟くと、頭の中が越の事で切り替わる。
どこかフワフワしている彼女が心配になる。
落ち込んでいるのかと思ったがそうでもなさそうだ。

「元気になるまで待ちましょう」

「そうだねー」

「あ、あの、美嘉ちゃん。どうして要さまに会わせてくれたんですか?あんなに反対してらしたのに……」

⏰:08/08/31 02:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#351 [向日葵]
美嘉は「んー」と唸るとニヤリと笑う。

「アイツが年相応に見えたからかな。なんか親近感湧いて」

そういえば、忘れがちになってしまうが、要は自分と同い年なのだ。
姿や容姿、身についた動作や考え方は、もう大人のように感じる。

「頭の堅い、ただのビジネス目的の最低な奴だと思ったよ。でも椿をどう思ってるか聞いたらさ、17歳の男子の意見だったんだ」

それが椿に言った事とほぼ一緒だと言うことは、椿は知らない。

「しっかし……」

美嘉は歯の隙間からシシシシと笑う。
椿は何がおかしいのかと言葉の続きを待つ。

⏰:08/08/31 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
美嘉はニヤニヤと緩む口元を両手で隠す。

「椿、アイツ椿にメロメロみたいよね」

「な……」

要が自分にメロメロな筈はない。

そう思っても、昨日抱き締められた時の体温や力加減を思い出せばうつむいて顔を隠すので精一杯だった。

「椿も実は、アイツにメロメロ?」

明らかにからかっている美嘉の口調に、耳まで真っ赤にする。

「み、美嘉ちゃん……っ!」

⏰:08/08/31 02:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
「いいじゃんメロメロならメロメロでー。楽しいねー。美嘉も早く彼氏が欲しいよ」

カラリと笑う彼女のその口調は、本当にそう思っているかは分からなかったけれど、もし彼女に好きな人が出来たと言うのなら、自分は何がなんでも協力しようと椿は決意した。

決意した途端、携帯が震える。
スカートのポケットから携帯を出せば、メールが2件届いていた。

椿は携帯を落としそうになるのを必死にこらえた。
2通のうち1通は聖史からだったのだ。

<今日も行くよ。君に会うまでずっと待ってる。だから逃げようなんて、思わないよね?>

⏰:08/08/31 02:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
脅迫文ともとれる内容に、椿はさっきとは逆に顔を青くさせた。

逃げられない。
聖史の作った迷路から抜け出せるのだろうか……。

「椿?やっぱりここ寒い?」

大丈夫と告げようとして、顔を上げた時予鈴が鳴った。
立ち上がり、携帯をスカートのポケットにしまう。

そして美嘉と2人で教室に小走りで戻って行った。

――――――――…………

掃除をする前に、美嘉が越も連れて3人で出かけようと言った。

⏰:08/08/31 02:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
少しは気が紛れる。

今日帰ったら何が起こるか分からない。
もしまたあんな事をされてしまったら、自分の精神状態がおかしくなってしまうのではないかと恐く思う。

ため息をついて胸の中を空にしても重い気分は一向に晴れはしない。

「ねえ、なんか高そうな車止まってない?」

「本当だ、外車?」

窓の外を眺める女の子達が口々に言う。

それを耳にしながら椿は自分のところの車だろうと思い、しばらく考えてから首を少し傾げた。

⏰:08/08/31 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#356 [向日葵]
まだ迎えの車が来るには早い。
なら誰の車だろう。

「赤ってやっぱ目立つねー」

椿の迎えの車は黒だ。

聖史かと考えるが、頭の隅では違うように感じる自分がいる。

もしかしてと女の子達と同じように窓の外を見れば、丁度その車から人が降りてくるとこだった。

「大久保さん……?」

両目が2.0の椿だが、遠くにいる人物をあと1歩確かめる事は出来ない。
しかしその姿は要の従者である大久保にそっくりだった。

大久保にそっくりな人物は後部座席のドアを開ける。
するとまた見た事がある人が。

⏰:08/08/31 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#357 [向日葵]
「あれ?アイツじゃん」

椿と同じく視力が良い美嘉が後ろからニョキリと顔を出して言う。
「美嘉ちゃんもそう思われますか?」

「スーツ着てるしねぇ。アイツ私服ないのかって感じだよね」

要と思われる人物はふと上を見上げる。
こちらに気づいたのかと一瞬ドキリとするが、すぐに顔を戻して校舎へ入ってくる。

「もしかして椿をデートに誘いに来たとか?」

「いえ、今日は何も予定はありませんし……」

「へー。じゃあ何だろうね」

⏰:08/09/01 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#358 [向日葵]
とりあえず掃除も終わったので、椿は教室に戻る。
放課後になれば越も少し元気を取り戻していていつもの彼女らしかった。

教室にまだいる他の友達に挨拶をして出ようとドアに手をかけようとした時、先にドアが開けられた。
反射的に手を引っ込めた椿は目の前にいる人物に驚く。

「か、要さま……っ!」

「ここが君の教室かぁ。質素だねー。ここら辺なんかひびが入っちゃってるじゃないか」

見知らぬ来客に、教室に残っている何人かのクラスメイトがこちらに視線を注ぐ。
それを背中でひしひしと感じている椿はただどうしようと思う。

⏰:08/09/01 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#359 [向日葵]
「椿、こちらは?」

要を初めて見る越が後ろの方から問いかける。

椿は恥ずかしくて黙っている。
しかし要はそんなのお構いなしに椿の頬に手を添えたと思うと、そのまま抱き寄せる。

「はじめまして。僕は椿のフィアンセです」

しばしの沈黙が流れた後、越が「あぁ、あの……」と言って納得してからすぐ他のクラスメイトが大声を出して驚いた。

「椿ちゃんフィアンセとかいたのー?」

「そんなの漫画とかの中だけだと思ってたよーっ!」

「やっぱり惹かれあったとか?」

「ちょっと待って……。あ!この人、ブランドのAKAの人じゃん!」

⏰:08/09/01 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#360 [向日葵]
するとまた教室は絶叫に包まれる。
少人数しかいないのに一体どこから声が出るんだろうと、椿は疑問に思う。

「あのブランド可愛いよねー!リーズナブルだし!」

「私もネックレス持ってるよー」

このままじゃ混乱を招かない、と言うかもう混乱気味だが、椿は要から離れて要を押す。

「なに椿?」

「と、とりあえず外へ出てくださいませっ!」

美嘉達が出てくる前にドアを閉め、要の手を引いて人気のない場所まで行く。
周りに人がいないか再度確かめ、ふうと一息つく椿に対し、要はどこか楽しそうだった。

⏰:08/09/01 02:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#361 [向日葵]
「女の子が騒ぐって面白いよね。しかも僕のブランドを知ってるなんて、いい子達ばかりだ」

「そ、それより要さま、どうしてここへ?」

「君の様子がおかしいと思ってね。電話より直接話した方がいいと思ったんだ」

微笑みを向けながらも、真剣な目で見つめるものだから、どこか気まずくなって椿はうつむく。

「ってか、メールで知らせたけど」

それに椿は驚き、また顔を上げた。

「見なかったの?まぁ学校だし、見にくいかなとは思ったけど」

⏰:08/09/01 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#362 [向日葵]
椿はそういえば2件メールがきていた事を思い出す。
携帯を開けば聖史の事を思い出しそうでずっとほったらかしにしていた。

そしてまた聖史の事を思い出せば、椿はうなだれていった。
その様子を見て、要は困った顔をする。

「えっと……来ない方が良かった?じゃあ今日は帰るよ」

「……っ!待ってくださいっ!!」

去って行こうとした要の腕に飛びつくように椿は要をひき止めた。
急な椿の行動に要は驚く。
そして椿も自分がした事に気づけばすぐにパッと離れた。

⏰:08/09/01 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#363 [向日葵]
恥ずかしくてそっぽを向く椿に、要は嬉しくて椿の頭を撫でる。

「珍しいね、ひき止めてくれるだなんて。そんなに会いたかったとか?」

「いえ、あの……っ」

「本当に……?」

髪の毛をよけて、要の手が頬に触れる。
触れられるだけで疼く甘い衝撃は要にだけしか起こらない現象だ。

しかしふとフラッシュバックのように昨日の出来事が目の中で見えれば、パシリと要の手をはたいていた。
動揺しながら恐怖に高鳴る胸を押さえて椿は少し後ずさる。

⏰:08/09/01 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#364 [向日葵]
「……どうかした?」

椿の態度に少し気分を害してそうな顔をする要に椿は焦る。

どうかしてる。
要と聖史が被るだなんて。
それによって要が傷つくだなんて、そんなのダメだ。

「か、要さまの手が、冷たくて……びっくりしたんです」

眉を寄せて、要は頬に自分の手をつけてみる。

「あ、本当だ。気づかなかった。でも君にはいいんじゃない?平均体温高いんだし」

笑ってくれた要はどうやら椿の嘘を信じたようだ。
少しホッとする。
あの出来事は絶対要に知られてはいけない。

⏰:08/09/01 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#365 [向日葵]
もうこれ以上、自分は誰も傷つけてはいけない……。

「あ、でさ、今日来たのは他でもないんだ。椿の様子だけじゃなくって、僕も用事があったんだ」

「あ、ハイ、なんでしょう?」

「ここで言う訳にはいかないからな。とりあえず家に来てくれる?」

要は少し歩き出してから振り向く。
椿はどうしたのかと首を傾げる。

「手くらいは、繋いでも平気?」

また離されるのが嫌なのか、わざわざ訊いてくる。
それも、遠慮がちに笑って。
そんな風に、少しずつ心の中を見せてくれるから、椿は要から目が離せなくなる。

⏰:08/09/02 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#366 [向日葵]
返事代わりに椿はおずおずと手に触れる。
控えめに手を握れば、要が代わりにギュッと握り返してくる。
自分より大きな掌や、長い指に、椿はドキドキした。

要の冷たい手が、心地よく感じる程、体温が上昇しているのにも気づく。

「椿が過ごしている学校の中を1度見て見たかったんだ」

少し顔を上げれば、まるで自分の母校に帰って来たかのように要は辺りを見渡していた。

「で、でも、要さまにはやっぱり質素に見えてしまうんでは……」

「確かにね。でも、アットホームな感じでいいじゃないか」

⏰:08/09/02 01:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
温かい笑顔にホッとする。

要にはそうやって笑っていて欲しい。

椿は心からそう思った。

――――――――…………

「椿さまは何をお飲みになりますか?」

要宅に着いて、部屋に案内されると大久保が訊いてきた。

「仕入れたばかりの紅茶の葉があるだろう。それを出せ」

「それは要さまが飲みたいものでしょう?椿さまのお好みを訊きませんと」

まるで友人のように接する2人に、自然と笑みが溢れる。

⏰:08/09/02 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
まるで自分とメイドの佐々木のようだと思う。
彼女は椿にとって母親のようでもあり姉のようでもある。

「私はじゃあキャンブリックティーをお願いします」

「かしこまりました」

大久保はお茶を淹れに部屋を出ていった。
そして改めて要の部屋の中を見れば、色々な資料の山で一杯だった。

「あ、あの……本当にお忙しくなかったのでしょうか?」

「忙しくないと言ったら嘘になるけど今日の用事は全て済ませたから」

要はスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩める。
そんな姿にもドキドキする自分がなんだか信じられなくて、椿は要が脱ぎ捨てた上着を拾って上着をかける場所にかける。

⏰:08/09/02 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
その姿を、ソファーに座っている要がジッと見つめる。

「そうしてると、本当に奥さんになったみたいだね」

「え……」

椿は動揺してその場で硬直してしまう。

「そろそろ婚約を正式にしない?それとも、まだ君は迷ってる部分がある?」

椿は答えられずにいた。
要はそれを想定していたのか、ポケットから小さな箱を出す。

「あげる。開けてみて」

椿は指先を使って開けてみた。
開けてみて彼女は驚く。

⏰:08/09/02 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
中には小さな椿がついた指輪が入っていたからだ。

椿は要を見る。
彼は穏やかに微笑むと、その指輪を手に取った。

「つけさせてくれる?」

椿はもちろんと思った。
思った一方で、つけて帰った時の自分を想像しているもう1人の自分がいた。

帰ったら聖史がいる。

要と聖史は正式にはまだ戦っている最中なのだ。
これをつけて帰った時、椿は自分が何をされるのかと恐ろしくなった。
そして要に何を話すのかも、不安になった。

⏰:08/09/02 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
沢山の事を思えば思う程、椿は要の訊ねに首を縦に振る事は出来なかった。

「椿……?嫌なの?」

椿はうつむいた。

要は長いため息を吐く。

「僕の自惚れじゃなかったら、君は少しでも僕に好意を抱いてくれてるんだろ?聖史さんとやらよりも僕を選んでくれるのだろう?」

これには、椿は力強く頷いた。

「じゃあ何がダメなの?」

それはあなたを傷つけてしまうかましれないから。
私が何をされるか分からない恐怖に包まれるから。

⏰:08/09/02 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
「……ごめん、なさい……」

「分からない。君は僕に諦めないでほしいと言ったんだ!なのに何故婚約が出来ない!……もしかして、まだ僕の気持ちを疑ってる?」

「ちが……」

「じゃあなんで……っ!」

肩を掴み、椿を揺する。
椿はされるがままになりながら泣きそうになっていた。
聖史にされた事を告げても、要はそばにいてくれるだろうか。
夢のように、去って行ってしまわないだろうか……。

「失礼します」

お茶を持ってきた大久保が部屋に入ってくると、要は部屋を出ていった。

⏰:08/09/02 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
部屋の隅で、椿は震える。
大久保はテーブルにお茶を乗せたトレーを置くと、椿に歩み寄り優しく語りかける。

「何かありましたか?」

椿は大久保を見る。
大久保は優しく椿を見つめる。
堪えきれなくなって、椿は涙を流し始めた。

「き、昨日、聖史さんに、無理矢理キスされました……。怖くてすごく嫌なのに、離してくれなくて……」

椿は昨日あった事を全て大久保に話した。
大久保は何も言わず、ただ黙って椿の話に耳を傾けた。

「こんな事、要さまに知られるのが恐いんです……っ。嫌われたらって……っ。こんな事する人だとは思わなかったって、ショックを与えたくないんです……」

⏰:08/09/02 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
顔を覆って泣く椿を、大久保は淑女のようにソファーにエスコートする。

「だから、要さまには告げないのですね……」

「ハイ……言えませんこんな事……」

大久保は上着からハンカチを出し、椿の手に握らせた。
それに気づいた椿は、遠慮がちにハンカチで涙を拭く。

「私が口出しするのもなんですが、要さまは椿さまの事を嫌いになんかなりませんよ。大丈夫です」

口元をハンカチで押さえ、まだ潤む目で大久保を見る。
屈んで目線を合わせてくれている大久保は優しく微笑む。

⏰:08/09/03 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
「それでも、椿さまにまだ告げる勇気がないのであれば、私はもちろん喋りません。椿さまも、勇気が出たら要さまにお話してあげてください」

最後にニコリと微笑むと、大久保はふとドアの方を気にした。

「要さまの機嫌が治ったみたいですね。こちらに向かってきます。では、私はこれで……」

ドアから出た彼は、丁度外で出くわしただろう要に一礼して行ってしまう。
代わりに要が部屋に入って来た。

椿の涙を見た要は、幾分気まずそうだった。

「送るよ。だから今日は帰ろう……」

⏰:08/09/03 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#376 [向日葵]
「で、でもお茶をせっかく運んで頂いたのに」

「帰ってきたら僕が飲むよ」

椿は少し落ち着きを取り戻す。
いつまでも泣いていたら要を困らすと思ったからだ。

黙って帰る準備をすすめる。

車を門前にまわしてくれた要は、その場で別れると思いきや一緒に乗ってきた。

どうしたのかと思ったが、彼は何も言わず、そして椿も何も言えず、車内は沈黙に包まれた。

しばらくして、椿の家が見えると要が言った。

「久しぶりに君の家にあがりたいんだけどいいかな?」

「あ、ハイ。どうぞ……」

⏰:08/09/03 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#377 [向日葵]
玄関ホールに入る前、ドア前で椿が一旦立ち止まる。

足が……動いてくれない……。

「どうかした?」

要の声にハッとして、苦笑いを返すと、手に力を入れてドアを握る。

高鳴る心臓は、嫌な予感を表すものか。

それとも……。

⏰:08/09/03 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#378 [向日葵]
[第9話]

玄関ホールに来て間もなく、メイドの佐々木がやってきた。

「おかえりなさいませ椿さま、そしていらっしゃいませ要さま」

「やぁ。久しぶり」

「お怪我の具合は大丈夫ですか?」

「だいぶ良くなったよ。そろそろ抜糸だ」

そんな他愛もない会話を聞きながら、椿は辺りに神経をとがらせた。
いつどこから、聖史が出てくるのかと……。

すると思い出したように佐々木が言った。

「椿さま、聖史さまを見かけませんでした?辺りを散歩してくると言って、帰られた姿を見ないのですが」

⏰:08/09/03 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#379 [向日葵]
それを聞いて椿は少しホッとした。
今ここにいないだけマシだ。
現れでもしたら、それこそ要と火花を撒き散らすかもしれない。
その心配もあった。

でも、いると言う事には変わりないのか……。

「か、要さま。夕飯を一緒に食べませんか……っ?」

要は少し驚いた顔をした。

聖史と会うまで、少しの間でも要といたい。
椿は純粋にそう思った。

「いいけど……じゃあどこか食べに行く?」

「いえ、ここで」

「分かった。じゃあ着替えておいで」

⏰:08/09/03 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#380 [向日葵]
安堵の笑みを浮かべ、椿は自室へと早歩きで行ってしまった。

「ねぇ」

要は近くにいる佐々木に問いかける。

「椿様子が変だけどいつから?昨日?」

「いえ、今朝からです。青い顔をして起床なさいましたから」

「うーん……。また風邪かなぁ……」

要が最早心配しているだなんて知らない椿は少し気分が明るくなり、いそいそと着替えをする。

脱いだ制服を綺麗にハンガーでかけ、出ていこうとした時、後ろから何かに引っ張られた。

⏰:08/09/03 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。

「僕だよ椿」

耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。

「聖史……さま……」

聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。

「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」

「離して……下さい……」

椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。

⏰:08/09/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」

「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」

「もしかして要くん?」

密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。

「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」

穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。

⏰:08/09/03 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
椿は目を見開く。

聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。

「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」

にっこり笑ってそう言う。

椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。

・・・・・・・・・・・・・・・

パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。

「こんばんわ要くん。久しぶりだね」

「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」

⏰:08/09/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。

「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」

「やだ」

「椿の許可がおりていても?」

それには要はグッと押し黙る。

彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。

本当の事は、何も知らないまま……。

「……なら、いいよ」

聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。

⏰:08/09/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。

「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」

「え……っ!」

椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。

自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。

それよりも……。

「椿、なんだか唇が赤くない?」

これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。

⏰:08/09/03 02:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
「あ、荒れて……いまして……」

「そうなの?この時期リップクリームはかかせないよ?」

そんな会話をしているそばで、聖史が密かにニヤリと笑っている事を、2人は知らなかった。

食事の間へ行った3人は、それぞれ席に座る。
しばらくすれば料理が運ばれてきて、ナイフとフォークを持つ。

椿は食べる気が起きなかった。
あまり動く事のない椿の手を見て、やはりおかしいと要が声をかける。

「……椿、どうした?」

椿はびくりとすると、ナイフを落としてしまった。

⏰:08/09/03 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
ナイフは床を滑っていくと、聖史の足元へと行ってしまった。

慌てて椅子からおり、身を屈める。

「僕が取ってあげよう」

聖史がそれにならう。

「いえ、いいんで……」

「僕のキスがそんなに嫌だった?」

耳元で聖史が囁く。
椿は青い顔をして素早く立ち上がった。
と思うと、部屋を出ていってしまった。

「椿、どうしたんだ?」

テーブルで四角になっていた為見えなかった要は、椿が落としたナイフを静かにテーブルに置く聖史に問う。

⏰:08/09/03 03:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。

「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」

要は首を傾げる。

「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」

要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。

「お前……っ!」

「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」

自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。

⏰:08/09/03 03:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
>>387

誤]四角
正]死角

⏰:08/09/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。

膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。

椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。

好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。

いっその事……消えてしまいたい……。

どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。

⏰:08/09/04 02:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
誰の傷を癒す事も出来ない。
傷つけてしまうだけの自分。
足を引っ張ってしまうだけの自分。

こんな役立たずな自分なんて、要に好きでいてもらう資格はない……。

顔をあげて、袖でもう1度口を拭く。

赤くなろうが、痛くなろうがどうでもいい。

ただあの瞬間の出来事、感触。
全てを無かった事にしてしまいたい……っ。

椿はひたすら口を拭く。
しかしその手は止められた。
手首を掴む手に、椿はビクリと肩を震わして小さく「ひ……っ」と悲鳴を漏らす。

⏰:08/09/04 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
「僕だよ椿」

要の声だった。
もう暗くなってしまった庭園には、彼の姿はあまり見えないけれど、柔らかな声音は彼のものだった。

それでも、椿の震えは治まらない。

「ご……めなさ……。ただ、寒い……だけです……」

寒さなんて感じない。
いや、感じれない。
椿の頭の中は、もう破裂寸前だった。
そんな椿の前に、要は片膝をつく。

彼女の姿は、彼女が要の姿を見えないように見えないが、何かに怯えているのだけは、掴んでいる華奢な手首から伝わってきた。

⏰:08/09/04 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
「ちゃんと呼吸出来てる?なんか息が荒いよ?」

「大丈……夫……です……」

「落ち着いて。大丈夫、僕はここにいるから。椿、落ち着くんだ」

促されるように、椿は落ち着こうとする。
何回も深呼吸して、荒い息を穏やかにしようとする。
要は手首から手を移動させ、椿の指先を包むようにして握る。

指先は、驚く程冷たくなっていた。

椿が段々落ち着いてきたらしい。
耳だけで聞く彼女の息遣いがゆっくりになった。

手を握っていない方の手で、そっと彼女の肩に触れれば、また大きくビクリと震えた。

⏰:08/09/04 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
彼女が何に怯えているのかは要には分からない。

だがとりあえず、聖史から聞いた事を話す。

「あの人から聞いたよ。椿……君、あの人とキスしたんだってね」

椿は息を吸って止まる。
夢の中の要が目の奥に映し出される。
我慢出来なくて、椿は声を押し殺して涙を流す。

「椿……」

「違うんです……っ、私、すご、く嫌で、逃げたくても逃げれなくて……っ」

望んだんじゃない。
好きな訳でもない。

⏰:08/09/04 02:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
いやらしい女だなんて思わないで。
嫌いにならないで。

「私はしたくてしたんじゃないんですっ!私はそんな事したくなかったっ!そんな……要さまを裏切るような事……っ」

椿は声を荒げて要に訴える。
それに要は驚いた。
椿の本気の否定。
どんな言葉を受けても、笑顔で堪え、全て受け入れていたあの椿が、自分の過ちを全て否定した。

思いをどうにか聞き入れて欲しくて、声をあげてしまった椿はもう声を押し殺して泣く事が出来なくなった。

嗚咽を漏らし、鼻をすする。

そんな椿の両手を、優しく、しかし強く、要は握りしめ、自分の胸元に持っていく。

⏰:08/09/04 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「椿、大丈夫だよ……。僕は君を責めたりしない」

椿がこちらを見つめるのが分かる。
多分そこにあるだろうと微かな光に見える椿の目をまっすぐ見つめ、要は続ける。

「僕はちゃんと分かってるから。君がそういう子じゃないって知ってるから。……だから、幻滅なんてしない。嫌いになんか、ならないよ」

要は握っている椿の手に力が入るのを感じた。
椿は目をギュッと瞑ってうつむいた。

「信じれない?それじゃ言うよ。僕は君が好きだ」

椿の手が、ピクリと固まる。
彼女は少し身じろぎする。

⏰:08/09/04 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
「椿が好きだよ。信じてくれないなら信じてくれるまで何度でも言う。好きだから、嫌いになんかならないから。ずっと、そばにいるから……」

椿の中に棲んでいた悪夢の塊が、次々に流れ去っていく。

嘘なんて感じない彼の言葉に、椿は自分から要の胸に飛び込む。

急にやって来た重みに、一瞬ぐらついたが、すぐにその細い体を自分の腕で包む。

椿は腕だけで、彼が自分を好きなのが分かった気がした。
だから椿も伝えたかった。

だから思いきりその胸にしがみついた。





どれくらい時間が経っただろう。

⏰:08/09/04 02:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。

2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。

「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」

唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。

「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」

「どうして呼ぶのですか?」

「君を僕の代わりに守ってもらう為」

⏰:08/09/04 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。

「まだ恐い?」

「……すいません」

「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」

要は自分の携帯を椿に差し出す。

椿はそれを黙って受け取る。

「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」

⏰:08/09/04 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」

「正解」

椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。

要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。

しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。

「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」

⏰:08/09/04 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#401 [向日葵]
「面白いよね君の友達」

要はクスクス笑いながら立ち上がり、椿を立たせた。

「椿が僕を選んでくれて良かった。自惚れてないと信じていいんだよね?」

椿は決意をかためたように神妙に頷く。
だから要も微笑む。
握っている手をしっかりと握り直す。

「良かった」

握っている手を持ち上げ、 淑女にするようなキスをする。

要の唇を感じれば、椿は息が出来なくなりそうだった。

「リハビリ。徐々に慣れていこうね」

⏰:08/09/04 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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