ギンリョウソウ
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#303 [向日葵]
完全に顔を上げ、要を見ると、要は窓の外を眺めていた。
そんな要が夕焼けで綺麗に見えたれば、胸がドキリとした椿は、別の意味で顔を火照らす。

「で、そのお節介な友人に連れてこられた君は、僕に何か用事でもあったの?」

「え……」

言われてみれば、要に会おうなどと考えていなかった椿だ。
急に連れて来られたから、美嘉の気持ちに答えねばと入って来たが、ちゃんとした理由はあまりなかった。

訊きたかった唯子の事は分かったし、だからと言って前言ってくれた言葉は本当なのか訊く勇気は今の椿には無かった。

⏰:08/08/24 12:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#304 [向日葵]
ぼんやりとしながら目線を徐々に下へやれば、要の手に巻いてる包帯を見つけた。
そこに視線を釘付けていると、要が気づいた。

「あぁ……これ?これが心配だったの?」

「え、あの、えと……」

「なら心配いらないよ。傷もだいぶんよくなってるしね。見たい?」

椿はいきおいよく首を振る。
そんな椿に要はクスリと笑う。

「冗談」

笑ってくれれば、椿も緊張がほぐれていった。

「さて……そろそろ暗くなる。君を送るよ」

⏰:08/08/24 12:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#305 [向日葵]
椿は呟くように「え……」と言った。
椿の方に歩みより、立たせる為に手を差し出す。

「さ、行こう」

要の怪我はマシになっている。
怪我のせいでたまっていた仕事は多いだろう。
それを済まさなければならないのなら椿も早く帰った方がいい。

頭では椿も分かっている事だった。
でも、なかなかその手を取る事は出来ず、ただ手をジッと見つめているだけ。

そんな椿に、要は不思議そうな顔をする。

「椿……?」

⏰:08/08/24 12:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「あ、ハイ……」

手をゆっくりと要の手に重ねようとする。

早く帰らなければ、要に迷惑がかかってしまう。

しかし、椿はあと数センチという所でキュッと拳を作り、手を降ろしてしまった。
そして悲しげに要を見る。

「もう……会ってはくれないのですか……?」

「椿……?」

椿はずっとそんな気がしてならなかった。
送ると言った要はあまりに惜しみなくて、あっさりとしていた。
まるでばっさりと縁を切ってしまうかのように。
そう思えば、椿はなんだか悲しかった。

⏰:08/08/24 12:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
「私が……いらなくなりましたか……?」

要に会った瞬間、胸が甘く疼き、その奥にある分からない気持ちが浮き出す。

ずっと……会いたかった。

分かったけれど、もう遅いのだろうか。

「いらない?そんな訳ないだろ!君は……っ。……僕の言葉……忘れたのか?」

少し顔を赤らめて、椿から視線を外す要。
その態度に、椿のもう1つの疑問は無くなった。

「じゃあ、この頃姿をお見せになってくれなかったのは……?」

⏰:08/08/24 12:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
黙り込んだ要は、椿の隣に腰かける。
やがて、ゆっくりと話し出した。

「この前の事、本当に申し訳なかった。反省してる。君からの電話やメールも無視してすまなかった」

「私は……気にしてませんでしたわ」

要はちゃんと謝ってくれたし、その後乱暴な行動とは違い、優しく抱き締めてくれた。

「僕はずっと気にしてたよ。それにね椿、僕は椿が嫌でなんじゃない。僕が嫌で仕方なかった」

「どうしてですか?」

「苛立ちにも似た気持ちを君にぶつけたから」

⏰:08/08/24 12:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
要は自分の膝に肘をつき、頬杖をついた。
絨毯をぼんやりと眺めていると、苦いため息をはいた。

「君も身をもって実感しただろ。僕はこんな奴だ。今度は歯止めすらきかなくなるかもしれない。それが恐いなら、あの聖史さんとやらを選べばいい」

椿は目を見開く。
それは、要はこの争いから手を引くということなのだろうか。
唯子の正体が分からなかった時感じた痛みより、更に鋭い痛みが胸を貫く。

「あの人は僕と違って優しいし、君も幼い頃からの知り合いなのだろう?なら尚更いいじゃないか」

要のあの告白は本当の気持ちなのに、諦める?

⏰:08/08/24 12:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
じゃあやっぱり椿がいらない?

それならば、やっぱり、あの言葉は嘘?

椿は突然立ち上がる。
そしてドアの方へと歩いて行った。
それに驚いた要は椿を呼び止める。

「椿、どうかした?」

しかし椿は答えなかった。

ドアノブに手をかけ、開けようとした時、要が後ろからドアに手をつき、出ていくのを阻止した。

「椿、何か言ってくれないと分かんないよ」

椿は要に背を向けたまま黙り込む。
痺れを切らした要は、肩を持ち、自分の方へ向かせる。

「椿!何か言ったらど……」

要はハッと気づいた。
うつむいてる椿から、絨毯にかけて滴が落ちている。

⏰:08/08/24 12:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
椿は声を殺して泣いていた。

頭が混乱していた。
本当だと言ったのに何故諦めてしまうのか。
どうして聖史を選べと言うのか。

「椿、どうしたんだ?」

「わ……たしは……聖史さまを好きだたと思った事は……、いち……ど……も、ありません……」

要は恐くなんかない。
確かに押し倒された時や、要の手を素肌に感じた時は、何をされるか分からない恐怖でいっぱいだった。

けれど、勝つと言って頬に柔らかく触れた唇や、少し強引に押しつけられた唇は、嫌ではなかった。

⏰:08/08/24 12:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
そう思えば、椿は徐々に理解していた。

会いたいと思う気持ちも、諦めて欲しくないと思う気持ちも、要が好きだから心が叫ぶのだと。

だから要が聖史を選べと言った時、胸が張り裂けそうなぐらい痛かったのだ。

「それでも要さまが……選べとおっしゃるならば……わたしは……」

「椿……」

包帯を巻いた手で、椿の頬に触れる。
椿はその手に自分の手を重ねて、まだ潤む目で要を見つめる。
要は、見たことがないような穏やかな微笑みを浮かべる。

⏰:08/08/24 13:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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