ギンリョウソウ
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#311 [向日葵]
椿は声を殺して泣いていた。
頭が混乱していた。
本当だと言ったのに何故諦めてしまうのか。
どうして聖史を選べと言うのか。
「椿、どうしたんだ?」
「わ……たしは……聖史さまを好きだたと思った事は……、いち……ど……も、ありません……」
要は恐くなんかない。
確かに押し倒された時や、要の手を素肌に感じた時は、何をされるか分からない恐怖でいっぱいだった。
けれど、勝つと言って頬に柔らかく触れた唇や、少し強引に押しつけられた唇は、嫌ではなかった。
:08/08/24 12:56
:SO906i
:☆☆☆
#312 [向日葵]
そう思えば、椿は徐々に理解していた。
会いたいと思う気持ちも、諦めて欲しくないと思う気持ちも、要が好きだから心が叫ぶのだと。
だから要が聖史を選べと言った時、胸が張り裂けそうなぐらい痛かったのだ。
「それでも要さまが……選べとおっしゃるならば……わたしは……」
「椿……」
包帯を巻いた手で、椿の頬に触れる。
椿はその手に自分の手を重ねて、まだ潤む目で要を見つめる。
要は、見たことがないような穏やかな微笑みを浮かべる。
:08/08/24 13:01
:SO906i
:☆☆☆
#313 [向日葵]
「椿が僕に勝って欲しいと思ってくれてるなら、僕は手を引かないよ。いいの?椿」
椿はまた沢山涙を流してこくりと頷いた。
そんな椿を、要は優しく抱き締める。
「ありがとう……。これでまた明日から、仕事に力が入るよ」
聖史のようなしっかりとした腕ではなく、覚えのある腕に抱かれて椿はホッとした。
2人はしばらくそのまま抱き合っていた。
―――――――――…………
家に帰ってきた椿は、ほっこりとした気持ちで玄関のドアを開けた。
:08/08/24 13:09
:SO906i
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#314 [向日葵]
[明日からまた仕事だけど、ちゃんと電話に出るしメールも返すから。椿も僕が連絡した時はちゃんと返してね]
帰り際に要が言った言葉だ。
こう言った後、また要は椿を抱き締めた。
お見送りと玄関ホールにやって来た大久保と唯子の前で。
唯子は「またお話して下さいね」と笑い、まるで姉にするみたいに抱きついてきた。
その時、椿は気づいた。
自分と同じくらい細い唯子の体。
門まで一緒に来てくれたら要にそれを言ってみれば、どうやら唯子は心臓が弱いのだと言う。
今まで唯子を見かけなかったのは、入院していたかららしい。
:08/08/24 13:16
:SO906i
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#315 [向日葵]
[だから僕は君が放っておけないのかもね]
と笑う要に、椿も笑った。
要はどうやら妹が可愛くて仕方ないらしい。
[そういえば、唯子の事知ってるような感じがしたんだけど、どうして?]
それは訊かれるとは思ってなかったので、椿は顔を赤らめながら事情を話した。
すると要は意地悪そうに笑った。
[へぇー……妬きもち妬いてたんだ]
やっぱり顔を赤くする椿に、要は頭を撫でる。
[また唯子とも遊んでやってよ。じゃあね、おやすみ]
:08/08/24 13:21
:SO906i
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#316 [向日葵]
自分の部屋についた椿は、着替え始める。
膝ぐらいまである花柄のチュニックを着た途端、後ろから誰かに抱き締められた。
驚いた椿は声が出せず、固まってしまう。
するとクスクスと笑い声が聞こえた。
「ゴメンネ。驚かしちゃった?」
「聖史さま……」
「でも着替え中にこんな事するのは、男として最低だね。向こう向いてるから、早く下を履いた方がいい」
そこで気づけば、下着は見えていないが、チュニックを来ただけの椿は白い足が出たままだった。
急いでジーパンを履く。
:08/08/24 13:34
:SO906i
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#317 [向日葵]
「着替えました」
聖史は振り向き、にっこり笑う。
椿のベッドに腰かけると、手招きして自分の隣をポンポンと叩く。
座れと言いたいらしい。
素直に椿は座る。
「今日は遅かったんだね」
「あ、ハイ……えと、ちょっと用事がありまして」
「そう。なんか良いことがあったのかな?」
「え?」
「表情が柔らかくなってる」
そう言われて、椿は自分の顔の両手を添える。
:08/08/25 00:37
:SO906i
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#318 [向日葵]
そんな事自分では分からないから、もしそうならば、今日要に会えたからだろう。
そう感じる自分に少し恥ずかしくなって、椿は頬を桃色に染める。
その一方で、聖史がは自分がまとっている柔和な空気をふと消す。
椿はそれにまだ気づいていない。
「椿をそこまで喜ばすなんて、きっとすごい人なんだろうね」
「ハイ。本当にすごいと言うか、優しい方で……。……え?」
椿はおかしいと感じる。
だって聖史には、“誰か”と会っただなんて一言も言ってない。
:08/08/25 00:42
:SO906i
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#319 [向日葵]
聖史の方を見るのを何故か躊躇う。
そろりと徐々に首を回していく。心臓が不規則に跳ねるのは何故だろう。
そしてようやく聖史の方を見れば、微笑んでいた。
無機質な目をして。
その笑顔に、椿は背中がゾクリとした。
―――コワイ。
そう思いさえした。
要に襲われそうになった時の不安のような恐怖とはまた違う。
ただ恐いのだ。
「あ、あの……」
「何?」
:08/08/25 00:48
:SO906i
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#320 [向日葵]
「お、同じクラスの、神田越さんと言う方がいまして、その人のお家にお、お邪魔、してまして……」
椿は咄嗟に嘘をつく。
けれど聖史にはそれが嘘だと分かっているだろう。
なのに聖史は「へぇ……」と椿の嘘に何故か付き合い、話の先を促す。
まるで、追い詰める事を楽しんでいるかのように……。
だから椿は余計に恐くなる。
気づけば膝の上に置いていた手が、小刻みに震えている。
それを抑えるように、もう片方の手を重ねる。
「越さんのお家は4人兄妹でして、すごく、仲が良いんです……。う、羨ましいくらい……に」
:08/08/25 00:56
:SO906i
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