ギンリョウソウ
最新 最初 全 
#339 [向日葵]
――――――――…………
車で学校へ向かっている椿は、ため息をついていた。
「……8回目」
隣に乗っていた美嘉が呟く。
「へ……?」
「ため息の回数。……ねえ、昨日アイツに会った?」
「あ、ハイ。そういえば、昨日はありがとうございました美嘉ちゃん。」
美嘉は照れ臭そうに頬をポリポリとかく。
「そ、それより、会ったなら、どうしてそんなに元気がないのよ」
:08/08/27 02:02
:SO906i
:☆☆☆
#340 [向日葵]
椿はうつむく。
こんな弱気ではいけない。
きっと、これは聖史の作戦だと感じている。
そう思えば、昨日の聖史の奇妙な雰囲気を思い出して、椿は身震いした。
「椿?どうかした?寒い?」
「い、いえ……」
[要くんの温もりがないくらい椿を愛してあげる]
まるでどこかの国の暴君。
思い通りにしようとする。
あんなに優しかった聖史なのに……。
そこで椿はハッとする。
:08/08/27 02:08
:SO906i
:☆☆☆
#341 [向日葵]
もしかして、要を3針も縫う怪我をさせたのは……聖史なのか……?と。
椿は人間が分からなくなりだしていた。
自分にビジネス目的で近づいた人は、今じゃ優しいフィアンセに。
優しい兄的存在の人は近づくのさえ躊躇いそうになる恐ろしい人に。
――――母なら……。
椿は思う。
母なら、どんな人でも受け入れたのだろうか……。
それが相手の個性だと、何もかも大きな心を持って受け入れたのだろうか……。
自分は、母に、ならなきゃならないのに。
その義務があるのに……。
:08/08/27 02:13
:SO906i
:☆☆☆
#342 [向日葵]
「はぁ……」
「9回目っ」
椿は慌てて口を塞いだ。
学校について、下駄箱まで歩いて行く。
すると越がいた。
「越!おっはよー!」
美嘉が元気よく挨拶する。
彼女は椿たちの存在に気づくと静かに笑った。
「おはよう」
いつもと違う越の雰囲気に、椿と美嘉は顔を見合わす。
全然、いつもの彼女らしい元気がないのだ。
「越、どうかした?」
:08/08/29 01:15
:SO906i
:☆☆☆
#343 [向日葵]
越はどこかぼんやりした表示で首を傾げる。
「何が?」
「いや何がって……」
「何もないよ。早く行こう」
彼女の足取りを見ていれば、若干足元がフラついていた。
心配になりながら、椿と美嘉は越がうっかり柱で頭を打たないかと後ろから見守る。
「大丈夫……でしょうか、越ちゃん……」
「ど―――して美嘉の周りってこんな子達ばっかなのぉっ!?」
椿が目をまん丸くする。
「こんな……?」
:08/08/29 01:21
:SO906i
:☆☆☆
#344 [向日葵]
美嘉は椿を指差し、目をつり上げる。
「椿みたいな困ってても何も言わない子っ!」
「え、私は別に困っては……」
「じゃあ9回のため息は何よっ!美嘉は友達じゃないのぉっ!?」
美嘉はもどかしかった。
友達の筈の自分は何も頼られず、ただ見ておくだけだなんて。
困っている友人を助ける事が出来ない自分は、どうでもいい存在なのかとさえ思う。
「美嘉ちゃん……」
だから椿は、美嘉がそれだけ傷ついているのを初めて知った。
「ごめんなさい、ちゃんと、話ますので……」
:08/08/29 01:27
:SO906i
:☆☆☆
#345 [向日葵]
教室にカバンを置いて、椿達は屋上へ向かう事にした。
越に行くか聞いたが、やはり彼女はぼんやりしながら断った。
元気がない、と言うよりは、どこか物思いにふけっていると言う風に思うなくもないが……。
屋上で吹く風は冷たい。
椿は持ってきていたカーディガンを羽織った。
「そこらに座ろっか」
手すりに背を預け、2人してまだ白っぽい空を眺める。
「で、アイツの事で悩んでるの?」
少し当たっているが、また違う。
悩みの大半は聖史だ。
:08/08/29 01:31
:SO906i
:☆☆☆
#346 [向日葵]
だが美嘉は聖史になついている。
そんな彼女に、こんな事を告げていいのか迷ったが、それすら教えないと、美嘉はまた悲しむだろう。
だから椿は思い切って言う事にした。
昨日聖史とあった出来事、全て。
聖史が聖史じゃなくなってしまった事、無理矢理キスされた事、どこか脅かすような言葉を言われた事……。
美嘉はあの聖史がそんな事をするのが信じられないのか、目を大きく見開いて口を小さくパクパク動かしていた。
「な、何それっ、どういう事っ!?おかしいじゃない!聖史兄ちゃんがそんな事するなんて……っ」
:08/08/29 01:37
:SO906i
:☆☆☆
#347 [向日葵]
「私も頭が混乱してしばらくは上手く整理出来ませんでした……」
「でも椿……やっぱり椿ってアイツが好きだったんだ」
“アイツ”が誰なのかすぐには言葉を変換出来なかった椿は、やっと意味を解した時、首から上が真っ赤になった。
「き、気づいたのは最近で……、と言うか昨日で……っ、きっと美嘉ちゃんが会わせるようセッティングしていませんでしたら、まだ気づく事はなかったと思いました……」
椿は両手を頬に添え、顔の体温を冷たい自分の掌で冷まそうとする。
「こんな気持ち、初めてで……自分自身どうすればいいのか分からないんですけど……」
:08/08/29 01:42
:SO906i
:☆☆☆
#348 [向日葵]
美嘉はおかしそうに笑い出した。
「アンタ達2人とも、頭良いのに変な所頭悪いよね」
アハハハと笑う美嘉の笑い声が心地よく感じる。
そう感じるのは、胸をくすぐるこのこそばい感情のせいだろうか……。
「椿のやりたいようにやりなよ。それが1番良いと、美嘉は思うよ。椿が感じてる“お母さんの責任”は、もう捨ててもいいと思うよ」
「それは……出来ません……」
椿はそれだけは拒否した。
簡単に投げ出しては、皆許してくれない。
生まれてきた自分を、受け入れてくれない……。
:08/08/29 01:47
:SO906i
:☆☆☆
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194