ギンリョウソウ
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#376 [向日葵]
「で、でもお茶をせっかく運んで頂いたのに」
「帰ってきたら僕が飲むよ」
椿は少し落ち着きを取り戻す。
いつまでも泣いていたら要を困らすと思ったからだ。
黙って帰る準備をすすめる。
車を門前にまわしてくれた要は、その場で別れると思いきや一緒に乗ってきた。
どうしたのかと思ったが、彼は何も言わず、そして椿も何も言えず、車内は沈黙に包まれた。
しばらくして、椿の家が見えると要が言った。
「久しぶりに君の家にあがりたいんだけどいいかな?」
「あ、ハイ。どうぞ……」
:08/09/03 02:07
:SO906i
:☆☆☆
#377 [向日葵]
玄関ホールに入る前、ドア前で椿が一旦立ち止まる。
足が……動いてくれない……。
「どうかした?」
要の声にハッとして、苦笑いを返すと、手に力を入れてドアを握る。
高鳴る心臓は、嫌な予感を表すものか。
それとも……。
:08/09/03 02:10
:SO906i
:☆☆☆
#378 [向日葵]
[第9話]
玄関ホールに来て間もなく、メイドの佐々木がやってきた。
「おかえりなさいませ椿さま、そしていらっしゃいませ要さま」
「やぁ。久しぶり」
「お怪我の具合は大丈夫ですか?」
「だいぶ良くなったよ。そろそろ抜糸だ」
そんな他愛もない会話を聞きながら、椿は辺りに神経をとがらせた。
いつどこから、聖史が出てくるのかと……。
すると思い出したように佐々木が言った。
「椿さま、聖史さまを見かけませんでした?辺りを散歩してくると言って、帰られた姿を見ないのですが」
:08/09/03 02:18
:SO906i
:☆☆☆
#379 [向日葵]
それを聞いて椿は少しホッとした。
今ここにいないだけマシだ。
現れでもしたら、それこそ要と火花を撒き散らすかもしれない。
その心配もあった。
でも、いると言う事には変わりないのか……。
「か、要さま。夕飯を一緒に食べませんか……っ?」
要は少し驚いた顔をした。
聖史と会うまで、少しの間でも要といたい。
椿は純粋にそう思った。
「いいけど……じゃあどこか食べに行く?」
「いえ、ここで」
「分かった。じゃあ着替えておいで」
:08/09/03 02:26
:SO906i
:☆☆☆
#380 [向日葵]
安堵の笑みを浮かべ、椿は自室へと早歩きで行ってしまった。
「ねぇ」
要は近くにいる佐々木に問いかける。
「椿様子が変だけどいつから?昨日?」
「いえ、今朝からです。青い顔をして起床なさいましたから」
「うーん……。また風邪かなぁ……」
要が最早心配しているだなんて知らない椿は少し気分が明るくなり、いそいそと着替えをする。
脱いだ制服を綺麗にハンガーでかけ、出ていこうとした時、後ろから何かに引っ張られた。
:08/09/03 02:31
:SO906i
:☆☆☆
#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。
「僕だよ椿」
耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。
「聖史……さま……」
聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。
「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」
「離して……下さい……」
椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。
:08/09/03 02:39
:SO906i
:☆☆☆
#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」
「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」
「もしかして要くん?」
密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。
「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」
穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。
:08/09/03 02:44
:SO906i
:☆☆☆
#383 [向日葵]
椿は目を見開く。
聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。
「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」
にっこり笑ってそう言う。
椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。
・・・・・・・・・・・・・・・
パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。
「こんばんわ要くん。久しぶりだね」
「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」
:08/09/03 02:48
:SO906i
:☆☆☆
#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。
「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」
「やだ」
「椿の許可がおりていても?」
それには要はグッと押し黙る。
彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。
本当の事は、何も知らないまま……。
「……なら、いいよ」
聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。
:08/09/03 02:52
:SO906i
:☆☆☆
#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。
「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」
「え……っ!」
椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。
自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。
それよりも……。
「椿、なんだか唇が赤くない?」
これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。
:08/09/03 02:55
:SO906i
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