ギンリョウソウ
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#381 [向日葵]
悲鳴をあげそうになった口を、何かに塞がれる。
「僕だよ椿」
耳元で囁かれれば、違う意味で椿はぞくりとした。
「聖史……さま……」
聖史は後ろから椿を抱き締め、椿の髪に頬擦りすると満足そうに微笑む。
「早く会いたかった。驚かせようと思ったんだ。あ、心配しなくても着替えは見てないからね」
「離して……下さい……」
椿がそう呟くと、椿を抱き締めていた片手がほどけ、その手の指先で頬に触れる。
:08/09/03 02:39
:SO906i
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#382 [向日葵]
「どうして?いいじゃない少しくらい」
「今から、夕飯で……その、お客様も一緒で……っ」
「もしかして要くん?」
密かに苛立った声音。
椿は小刻みに震えだす。
まだ離されていないのに、その場から逃げ出そうとする。
当たり前に、聖史はそれを阻止し、椿を自分の方へ向ける。
「そうなんだね。……まったく椿、どうして僕の言う事を分かってくれないのかな……」
穏やかに笑ってるのに、その言葉は椿に恐怖をもたらすだけだった。
どうにか逃げようとまた試みた時、聖史の唇が椿の唇に重なる。
:08/09/03 02:44
:SO906i
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#383 [向日葵]
椿は目を見開く。
聖史はしばらく重ねていると、椿を解放した。
「要くんがいるなら、僕も挨拶しないとね」
にっこり笑ってそう言う。
椿はショックで聞いているのかいないのか分からない。
しかし聖史が先に出て行くと、唇が痛くなるまで手で擦った。
・・・・・・・・・・・・・・・
パタンと音がしたので要はその方を見る。
が、要はあからさまに嫌そうな顔をした。
「こんばんわ要くん。久しぶりだね」
「久しぶりだろうが何だろうが、君に会うつもりは更々無かったよ」
:08/09/03 02:48
:SO906i
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#384 [向日葵]
不機嫌を露にした要を涼しい顔で流すと、聖史は続けた。
「今から夕飯らしいね。僕も一緒にいいかな?」
「やだ」
「椿の許可がおりていても?」
それには要はグッと押し黙る。
彼女はもう聖史の事を兄のようにしか見ていないのかもしれない。
それに実はもう椿は聖史に答えを告げたのかもしれないと思えば、要は少し胸を張れる気分になった。
本当の事は、何も知らないまま……。
「……なら、いいよ」
聖史はにやりと笑う。
すると静かにまたドアを閉める音が聞こえた。
:08/09/03 02:52
:SO906i
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#385 [向日葵]
どこか元気のなさそうな椿が姿を現した。
「椿、聖史さんとやらも一緒に夕飯食べるんだってね」
「え……っ!」
椿はとても驚く。
それを要は怪訝に思った。
自分から許可しておいて、何故そんな反応を見せるのかと。
しかし然程気にはしなかった。
それよりも……。
「椿、なんだか唇が赤くない?」
これには更に椿は動揺した。
口を押さえ、うつむいてしまう。
:08/09/03 02:55
:SO906i
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#386 [向日葵]
「あ、荒れて……いまして……」
「そうなの?この時期リップクリームはかかせないよ?」
そんな会話をしているそばで、聖史が密かにニヤリと笑っている事を、2人は知らなかった。
食事の間へ行った3人は、それぞれ席に座る。
しばらくすれば料理が運ばれてきて、ナイフとフォークを持つ。
椿は食べる気が起きなかった。
あまり動く事のない椿の手を見て、やはりおかしいと要が声をかける。
「……椿、どうした?」
椿はびくりとすると、ナイフを落としてしまった。
:08/09/03 02:59
:SO906i
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#387 [向日葵]
ナイフは床を滑っていくと、聖史の足元へと行ってしまった。
慌てて椅子からおり、身を屈める。
「僕が取ってあげよう」
聖史がそれにならう。
「いえ、いいんで……」
「僕のキスがそんなに嫌だった?」
耳元で聖史が囁く。
椿は青い顔をして素早く立ち上がった。
と思うと、部屋を出ていってしまった。
「椿、どうしたんだ?」
テーブルで四角になっていた為見えなかった要は、椿が落としたナイフを静かにテーブルに置く聖史に問う。
:08/09/03 03:04
:SO906i
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#388 [向日葵]
聖史は静かに微笑む。
「さぁ、ただ聞いただけなのにね……」
要は首を傾げる。
「僕のキスがそんなに嫌だった?ってね……」
要は目を見開くと、テーブルを叩くようにして立ち上がった。
聖史はやはり静かに微笑むだけだ。
「お前……っ!」
「前のは刺激が強すぎたからと思って、今日は優しくしたつもりなんだけどなぁ……」
自分の唇をなぞりながら、聖史は楽しそうに呟く。
その聖史を殴りつけるよりも、要は椿の元へ急いだ。
:08/09/03 03:08
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#389 [向日葵]
:08/09/03 03:14
:SO906i
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#390 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・
椿は庭の阿舎(アズマヤ)にいた。
柱に寄りかかるようにしてしゃがみ込んでいる。
膝を抱え、その膝に顔を埋めるようにして、荒くなる息を沈めようと頑張っていた。
椿は限界だった。
足枷をつけられて自由を奪われているような気持ちでいた。
好きでもない人と何度も唇を重ね、好きな人には傷つける態度で接するしか出来ない自分にも苛立っていた。
いっその事……消えてしまいたい……。
どう頑張ったって自分は母のようになれないのだと思ってしまえばそれも許せない事実だった。
:08/09/04 02:17
:SO906i
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