ギンリョウソウ
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#398 [向日葵]
寒さをようやく感じる余裕の出来た椿の肩には、要の上着がかかっている。
2人は座りながら天高く昇っていく三日月を見上げていた。
手は、強く握られたまま……。
「そうだ。君の友達を今から呼ぶ事は出来ないかな?」
唐突に要が言った。
要は椿にかけている上着の内ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。
「8時……、かぁ。別に来れない時間でもないし」
「どうして呼ぶのですか?」
「君を僕の代わりに守ってもらう為」
:08/09/04 02:59
:SO906i
:☆☆☆
#399 [向日葵]
「え……」と呟く椿の頬に、要は触れる。
すると椿は小さくびくりとしてしまって、申し訳なさそうにうつむく。
「まだ恐い?」
「……すいません」
「いいよ。それだけ君が嫌がってたって事さ」
要は自分の携帯を椿に差し出す。
椿はそれを黙って受け取る。
「今からあの人に勝利を告げにいく。1人で僕のそばにいるのは心細いだろうから、友達に君のそばにいてもらう。その方がきっといいよ」
:08/09/04 03:05
:SO906i
:☆☆☆
#400 [向日葵]
「電話しろと、言う事でしょうか」
「正解」
椿は携帯を開き、美嘉の家の電話番号を押す。
押してから携帯を耳に当てて呼び出し音を聞きながら、なんとなく要の方を見た。
要は椿の視線に気づくと、柔らかく微笑む。
月明かりに照らされた彼の顔はいつもより素敵に見えた。
だから椿はドキドキ高鳴る胸を抑えねばならなかった。
しばらくして、美嘉が電話に出る。
訳を話せば「すぐ行く!」となんだか張り切っていた。
「自転車でとばして10分ぐらいで着いてみせると意気込んでました」
:08/09/04 03:09
:SO906i
:☆☆☆
#401 [向日葵]
「面白いよね君の友達」
要はクスクス笑いながら立ち上がり、椿を立たせた。
「椿が僕を選んでくれて良かった。自惚れてないと信じていいんだよね?」
椿は決意をかためたように神妙に頷く。
だから要も微笑む。
握っている手をしっかりと握り直す。
「良かった」
握っている手を持ち上げ、 淑女にするようなキスをする。
要の唇を感じれば、椿は息が出来なくなりそうだった。
「リハビリ。徐々に慣れていこうね」
:08/09/04 03:14
:SO906i
:☆☆☆
#402 [向日葵]
椿を気遣うその目に椿はうっとりとしていた。
母のようになれない。
誰かを傷つけるしかない自分。
そんな自分でも、要は好きだと言ってくれる事が嬉しい。
震えてしまうのは要のせいじゃない。
正直まだ恐い部分はある。
それでも、要が触れていけばいく程、その恐怖心が消えていくような気がした。
キキーッと派手な音が乾いた空気に響く。
どうやら美嘉が到着したらしい。
「行っておいで。玄関前で待っててあげるから」
:08/09/04 03:18
:SO906i
:☆☆☆
#403 [向日葵]
要に背中を押されて促されるようにして椿は足を進める。
その途中で何度も要の方を振り返る。
彼はいつになく穏やかに微笑んで椿を見つめている。
門までくれば、自転車に跨がった美嘉がいた。
「やっほー椿っ!」
椿は何も言わず美嘉に抱きついた。
「え?椿、どうしたよっ」
椿はただ抱きつきたかった。
よく考えれば、今からあんな事をされたとはいえ、聖史の求婚を断り、傷つけてしまうのだ。
けれどこのむずむすとする幸せをどうする事も出来ず、美嘉にだきつく事で鎮めようとする。
:08/09/05 02:00
:SO906i
:☆☆☆
#404 [向日葵]
「美嘉ちゃん。私……要さまが大好きみたいです……」
しばらくぼんやりとしていた美嘉は、椿を抱き締め返す。
「ノロケならまた後で聞いてあげる。そりゃ耳がタコになっちゃうくらいにねっ。でも椿、良かったね……」
もしかすると美嘉は父よりも椿が幸せになる事を望んでいたのかもしれないと思えば、激励の言葉に胸が切なくなる。
「はい……」
「ま、とりあえず行こう。大好きな要さまが待ってんでしょ」
美嘉はニカッと笑うと自転車を隅に止めて椿と手を繋いで歩き出す。
玄関前には言った通り要が待っていた。
そして要を見れば、浮わついた心を封印して、椿は覚悟を決める。
:08/09/05 02:06
:SO906i
:☆☆☆
#405 [向日葵]
要が開けるドアは、運命の扉のような重いものに感じた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「話って何か」
応接間にいた聖史は自分のノート型パソコンで仕事をしていた。
要が聖史のそばに進み出る。
「椿は僕を選んだ。君が用意した作戦は失敗だ。僕は椿をそう簡単に見放したりはしない」
聖史のキーボードを打つ手がピタリと止まる。
ため息をついて、していた眼鏡を外すと彼は立ち上がって要と向き合う。
「椿が言った事が全て正しいと?そんなの嘘かもしれないじゃないか」
余裕なのか、なんなのか、聖史は微笑む。
そう言われて要がどんな反応をするか椿は心配だった。
:08/09/05 02:11
:SO906i
:☆☆☆
#406 [向日葵]
「そんな訳ない」
きっぱりとした口調で要が言った。
「椿は嘘をつくような子じゃない。君はおかしい。好きな子を犠牲にしてまで自分のものにするなんて間違えてる」
聖史は歩いてドア近くまで歩く。
そして手を振り上げたと思うと、近くにあった花瓶を手で払い落とす。
耳障りな音が、応接間に響く。
美嘉はそんな聖史を初めて見るので、驚きを隠せないでいた。
「君には本当に腹が立つよ……」
品定めのように、割れた花瓶の破片を広いあげる。
:08/09/05 02:16
:SO906i
:☆☆☆
#407 [向日葵]
そしてまたこちらへ歩み寄る。
「君さえいなかったら……椿は僕のものなのに……っ!」
破片が握られた手を、要に降り下ろす。
それは要の胸めがけて真っ直ぐに下ろされていく。
椿が咄嗟に出ていく。
要の前に躍り出た細い椿の腕に、破片が突き刺さる。
「いやぁっ!椿っ!」
美嘉が叫ぶ。
椿の白い服が、段々と赤くなっていく。
絨毯の上に、聖史はポトリと破片を落とした。
要は痛さでよろめく椿を支える。
「全部……全部要くんのせいだ!!君のせいで椿が……っ!」
:08/09/05 02:21
:SO906i
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