ギンリョウソウ
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#53 [向日葵]
そんな椿が儚げな少女に見え、周りの男子がため息をつきたくなるように感じながら見つめているだなんて事は、彼女は知らない。

「野々垣さん」

2人の男子が、話しかけてくる。

「体弱いのに日の下にいて大丈夫?」

「ハイ。日傘もさしてますし、平気です……」

「なんなら一緒に日陰に行かない?」

「え……あの、いいです……」

日傘をギュッと握り、少し引くように体をずらすと、1人の手が細く白い椿の腕を掴んだ。

⏰:08/06/15 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
息をのみ、かすかに震える。
しかし男子2人はそんな事おかまいなしに椿を連れて行こうとする。

「野々垣さん細すぎ!やっぱり行こうよ」

「わ、私、友達を待ってますんで……っ」

「まぁいいじゃん。トイレに行ったとか思うって」

嫌……っ!

ギュッと目を瞑った時だった。
後ろから肩を抱かれ、引き寄せられる。

「嫌がってるって分かんない?」

この声は……と、チラリとだけ視線を後ろに向ける。

⏰:08/06/15 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
「これ、僕のだから」

サングラスを取り、目だけで相手を威嚇する。
男子2人は、うっ……、とだけ唸って黙って去って行った。
と同時に椿も抱えられていた腕から解放された。

後ろを振り向けば、そこにはやはりと言うか、椿のよく知っている人物が立っている。

「葵さま……。今日はイタリアの筈じゃ……」

「それが延期になったんでね。でも酷いな椿。こんな行事があるなら教えてほしかったよ」

にっこり笑って言っているが、本心は何を思っているか分からない。

⏰:08/06/15 01:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
今だって助けてくれたが、それは自分が有利になる為の作戦であると椿は思っている。
しかし、嫌な顔はしてはいけないのだと頭を素早く切り替え、にこりと微笑む。

「暑い場所はお嫌いと耳にはさみましたんで……」

「嫌いだねー」

着ているスーツは本当に暑そうだ。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ボタンを2、3個外す。
とても同学年とは思えない大人っぽさが彼から漂う。

「でも君の体操服姿が見れるだなんて貴重じゃないか」

⏰:08/06/15 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
貴重って何が貴重なんだろうとか思ったが椿は微笑みだけで要の言葉を受け止めていた。

「……葵さま」

「あのさ椿、前にも言ったけどいい加減“要”って言ってくれないかな?」

「はぁ……。でも、これで慣れていますんで……」

そしてこれは彼女自身の軽い反発でもあった。

簡単に好きになんかなるまい、と。

「ふーん。でもあんまりよそよそしいと僕が困るんだから。君だって、大切なお父さまを悲しませたりはしたくないでしょ?」

⏰:08/06/15 01:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
その言葉にピクリと体を震わせ、椿は深々と要に頭を下げた。

「申し訳……ありませんでした……。努力いたしますんで……」

「うん。それでいいんだよ」

椿は短パンをギュッと握る。そして唇を軽く噛んで静かに深呼吸して微笑んでから顔を上げた。

「葵さま……、助けていただきありがとうございました。……でもここは一般の方が入っては駄目なのです。申し訳ありませんが、保護者席の方へ移動して下さい……」

⏰:08/06/15 01:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
「別に気にしなくてもいいじゃないか。それに屋根もない。日陰が……。そうだ。椿、それ、貸して」

指差したのは椿が持っていた日傘だ。
これにはさすがに椿は笑顔を消し、えっ……、と戸惑う。

「でも、あの……」

「言う事が聞けないの?」

威圧的な低い声と、冷たい目で椿を脅す。

ぐっと泣きそうになるのを堪えて、椿は日傘を差し出した。
満足そうに要は受け取る。

⏰:08/06/15 01:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」

強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。

「何も……出ません……」

それでも椿は笑顔でいる。

「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」

それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。

⏰:08/06/15 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「椿ーただいまーっ。あれ?日傘は?」

美嘉の声に、椅子に座ってうつ向いていた椿は顔を上げながらホッとする。
自然と顔が綻ぶ。

「……壊れたので、違うのを取りに行ってもらってます……」

「え、大丈夫?」

「椿、これかぶってな」

越が1枚の大きめのタオルを椿の頭に被せた。
優しい洗剤の香りが椿の鼻をかすめる。

「ちょっとは涼しいでしょ?」

⏰:08/06/15 01:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
にっこり笑いながら椿の顔を覗き込む越。
そんな越に、心からの微笑みを向ける。
ささくれだった椿の心が、癒されていく瞬間だった。

*******************

笑うしかしないな。と要は思っていた。

椿から教えられた保護者席に彼は立っている。
椿から取り上げた日傘をさして。

彼女の考えや思いがまったく分からない。
あれだけ酷い事を言っても泣きもせず、ただずっと笑っているのだ。

⏰:08/06/15 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


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