ギンリョウソウ
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#533 [向日葵]
「美嘉は掃除でもしてますよ」
「なら、それは私がいたします」
「あなたこそ、ちょっとは休めばどうですか?働き詰めはよくないと思いますけど」
「いえそんな。私はいいのです」
「じゃあ美嘉もいいです」
そんな言い合いをして数分。
ラチがあかないと美嘉は黙る。
同じ事を思ったのか、従者も黙った。
しばらくして、美嘉が両手をパンと合わせる。
「じゃあ2人で散歩しましょう」
「えぇっ!?」
:08/10/30 16:30
:SO906i
:☆☆☆
#534 [向日葵]
うろたえる大久保をよそに、美嘉はさっさと用意を始めていく。
「たまにはアイツの事なんか忘れて、のんびり過ごす事も大切だと思いますよ。ホラッ!」
美嘉は強引に大久保の手を引く。
大久保は抵抗する間もなく、外へと連れていかれてしまった。
――――――――…………
どこへ行くかなどは決めず、のんびりと林の中を歩く。
暖かく柔らかな日差しが心地よく感じる。
美嘉は落ち葉を踏み、パキパキと鳴るその感触を楽しんでいた。
「美嘉さまは、いつから椿さまとお友達で?」
:08/11/16 01:37
:SO906i
:☆☆☆
#535 [向日葵]
「ずーっと昔からです。たまたまいた近所の公園にいて、それから。あんな大きな家に住んでるのにわざわざ外へ出るなんて、変わってる子ですよね」
大久保は静かに微笑む。
大久保より数歩先を歩いていた美嘉は、片足を軸にくるりと回って大久保の方を向く。
「大久保さんは?いつからアイツのとこへ?」
「父が要さまのお父様の従者をしてまして、私も父に連れられて、要さまとは幼い頃から交流がありましたので」
「従者って言うよりは、親しげですよね、あなた」
「それは……大変光栄にございます」
:08/11/16 01:43
:SO906i
:☆☆☆
#536 [向日葵]
本当に嬉しそうに笑うものだから、美嘉もつられて笑顔になる。
そして再び歩き出す。
「そういえば、アイツの両親って……」
「お2人共、海外で暮らしてらっしゃいます。ご多忙な為、要さまとお会いするのは3年に1度ほどなのです」
「それは、小さい頃から?」
「はい」
じゃあ、要の自己中心的な所は、小さい頃つもりつもった両親に対する寂しさからくるものなのだろうか。
と美嘉は首を傾げる。
そして思う。
そういう人だから、椿の事を理解してくれたのかもしれない、と。
:08/11/16 01:49
:SO906i
:☆☆☆
#537 [向日葵]
しかし過度な愛情表現は如何なものか……。
それも仕方のないこと?
どちらにしても第三者である美嘉はなんとも言えなかった。
いや、椿が困っていたらそれなりに止める事も出来るが、最近の椿はまんざらでもない様子なので、美嘉も言うに言えなかったりする。
だから子供っぽくも、2人の邪魔をしてみたり。
「そういえば美嘉さま、ギンリョウソウと言うのをご存知ですか?」
「ギンリョウソウ?」
どこかで聞いた事があると思えば、まだ椿の婚約が決まりたての頃、椿から訊かれたものだった。
:08/11/16 01:54
:SO906i
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#538 [向日葵]
分からないから一瞬で忘れた美嘉は特に気にした事もなかった。
「それが、何か?」
「要さまが、椿さまをそのように表現してらしたので」
「で、何かは分かりましたか?」
「植物である事は分かりました。……ただ」
大久保の表情が少しくもる。
美嘉はじっと彼の顔を見つめる。
「……あまり、いい印象を受けないものでして……」
美嘉は明らかに苛立った顔をした。
:08/11/16 01:59
:SO906i
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#539 [向日葵]
どういう事だ。
仮にも要は婚約者だ。
その婚約者が、どうして椿をそんな風に称すのか。
「あ、でも、要さまにも何かお考えがあるのかも……。今のは聞かなかった事にして下さい」
椿は“ギンリョウソウ”を知っているのだろうか……。
「……椿は不幸にはなりませんか?それを、保証出来なければ、美嘉は納得しません」
大久保は一瞬驚いた顔をした後、いつもの彼らしく優しく笑う。
「主人だからという贔屓目を抜いたとしても、要さまは椿さまを大切になさって下さると思います」
大久保は美嘉に並ぶ。
美嘉はまだ不安げな顔で大久保を見ていた。
:08/11/16 02:05
:SO906i
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#540 [向日葵]
「私は今まで、あんなに穏やかに笑う要さまを1人を除いては見た事がありません」
「1人?」
「ご兄妹であります唯子さまでございます」
美嘉は頷く。
「要さまは、いつも孤独に戦ってらしたように思います。ご存知かとは思いますが、要さまは有名ブランドのデザイナーであります。そして、要さまのお父上であります旦那さまも、デザイナーなのです」
美嘉はまた頷く。
大久保のいつもの柔らかな表情は消え、固く厳しいものになっていた。
:08/11/16 02:10
:SO906i
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#541 [向日葵]
「有名ブランドを背負うデザイナーの息子……。それがどれだけ要さまの背中にのしかかった事でしょう……」
父の地位へ上り詰める事は容易くなく、評価が重なり、それはまた彼を押し潰してしまいそうだった。
そんな要を近くで見守り続けたのは、従者である大久保だった。
しかし、自分の無力さを、大久保は呪っていた。
見守るのは、いつも要の寂しげな後ろ姿だった。
「あの方に、何が出来るか考えました。考えた末に見つけた答えは、見守る事だけだったのです」
あぁ……自分は何も出来ないのかと、ただただ失望した。
:08/11/16 02:16
:SO906i
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#542 [向日葵]
そんなある日、要は言った。
強い眼差しは今でも鮮明に覚えている。
[大久保、お前だけは僕と対等な関係でいろ。なんでも言い合える、友のような存在でいろ]
黙って見守り続けていた事は無駄ではなかったのだ。
ビジネスを続ける上で、自分に寄り添い、支えてくれた大久保は、要にとって唯一、心を許せる相手だったのだ。
「それからは、主従関係は抜けませんが、心の中では対等なお付き合いをさせて頂いてます」
そんな彼が、変わり始めた。
それは1人の少女との出会いだった。
:08/11/16 02:22
:SO906i
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