ギンリョウソウ
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#55 [向日葵]
「これ、僕のだから」
サングラスを取り、目だけで相手を威嚇する。
男子2人は、うっ……、とだけ唸って黙って去って行った。
と同時に椿も抱えられていた腕から解放された。
後ろを振り向けば、そこにはやはりと言うか、椿のよく知っている人物が立っている。
「葵さま……。今日はイタリアの筈じゃ……」
「それが延期になったんでね。でも酷いな椿。こんな行事があるなら教えてほしかったよ」
にっこり笑って言っているが、本心は何を思っているか分からない。
:08/06/15 01:29
:SO903i
:☆☆☆
#56 [向日葵]
今だって助けてくれたが、それは自分が有利になる為の作戦であると椿は思っている。
しかし、嫌な顔はしてはいけないのだと頭を素早く切り替え、にこりと微笑む。
「暑い場所はお嫌いと耳にはさみましたんで……」
「嫌いだねー」
着ているスーツは本当に暑そうだ。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ボタンを2、3個外す。
とても同学年とは思えない大人っぽさが彼から漂う。
「でも君の体操服姿が見れるだなんて貴重じゃないか」
:08/06/15 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#57 [向日葵]
貴重って何が貴重なんだろうとか思ったが椿は微笑みだけで要の言葉を受け止めていた。
「……葵さま」
「あのさ椿、前にも言ったけどいい加減“要”って言ってくれないかな?」
「はぁ……。でも、これで慣れていますんで……」
そしてこれは彼女自身の軽い反発でもあった。
簡単に好きになんかなるまい、と。
「ふーん。でもあんまりよそよそしいと僕が困るんだから。君だって、大切なお父さまを悲しませたりはしたくないでしょ?」
:08/06/15 01:39
:SO903i
:☆☆☆
#58 [向日葵]
その言葉にピクリと体を震わせ、椿は深々と要に頭を下げた。
「申し訳……ありませんでした……。努力いたしますんで……」
「うん。それでいいんだよ」
椿は短パンをギュッと握る。そして唇を軽く噛んで静かに深呼吸して微笑んでから顔を上げた。
「葵さま……、助けていただきありがとうございました。……でもここは一般の方が入っては駄目なのです。申し訳ありませんが、保護者席の方へ移動して下さい……」
:08/06/15 01:44
:SO903i
:☆☆☆
#59 [向日葵]
「別に気にしなくてもいいじゃないか。それに屋根もない。日陰が……。そうだ。椿、それ、貸して」
指差したのは椿が持っていた日傘だ。
これにはさすがに椿は笑顔を消し、えっ……、と戸惑う。
「でも、あの……」
「言う事が聞けないの?」
威圧的な低い声と、冷たい目で椿を脅す。
ぐっと泣きそうになるのを堪えて、椿は日傘を差し出した。
満足そうに要は受け取る。
:08/06/15 01:48
:SO903i
:☆☆☆
#60 [向日葵]
「君は何か競技に出るの?」
強い日差しにくらりとめまいを感じた気がした。
要の声が遠くから言ってるように聞こえる。
「何も……出ません……」
それでも椿は笑顔でいる。
「ふーん。つまんないね。周りの人も、君自身も」
それだけ言って、要は立ち去る。
そんな要に頭を下げて椿は見送った。
しかし頭を上げる事はなかなか出来なかった。
風がまた、彼女の髪の毛を揺らす。
:08/06/15 01:52
:SO903i
:☆☆☆
#61 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「椿ーただいまーっ。あれ?日傘は?」
美嘉の声に、椅子に座ってうつ向いていた椿は顔を上げながらホッとする。
自然と顔が綻ぶ。
「……壊れたので、違うのを取りに行ってもらってます……」
「え、大丈夫?」
「椿、これかぶってな」
越が1枚の大きめのタオルを椿の頭に被せた。
優しい洗剤の香りが椿の鼻をかすめる。
「ちょっとは涼しいでしょ?」
:08/06/15 01:56
:SO903i
:☆☆☆
#62 [向日葵]
にっこり笑いながら椿の顔を覗き込む越。
そんな越に、心からの微笑みを向ける。
ささくれだった椿の心が、癒されていく瞬間だった。
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笑うしかしないな。と要は思っていた。
椿から教えられた保護者席に彼は立っている。
椿から取り上げた日傘をさして。
彼女の考えや思いがまったく分からない。
あれだけ酷い事を言っても泣きもせず、ただずっと笑っているのだ。
:08/06/15 02:00
:SO903i
:☆☆☆
#63 [向日葵]
何故なんだろう。
要の頭は先ほどからそればかり考えていた。
言い返せばいいのに……。
そう思うなら酷い事を言わなくていいだなんて彼は思いつかないでいる。
別に嫌いな訳じゃない。
客観的に見ても他の令嬢みたいに高飛車でもないし、控え目な所だって可愛いとは思う。
けれど酷い事を言っていじめたくなる。
言い返して欲しいと思うのに、やっぱり椿は笑っているしかしないのだった。
:08/06/15 02:05
:SO903i
:☆☆☆
#64 [向日葵]
今日初めて彼女を抱き締めた。
驚く程の細さだった。
モデルをいつも相手にしているし、彼女達だって体のラインを気にしているから細く見えるし実際に細い。
でも椿はそれ以上だった。
触れた所はすぐに骨が当たる。
柔らかい感触はもちろんあるが、とにかく細かったのだ。
きっと彼女の病弱な体のせいだろう。
そう思えば体の事を悪く言ってしまっただろうかと気になる。
誰よりも病弱な事を気にしているのは彼女だろう。
なのに酷な事を言った。
:08/06/17 00:18
:SO903i
:☆☆☆
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