ギンリョウソウ
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#660 [向日葵]
「やったね椿いっ!!」
要は椿に抱きついた。
二人の間に幸せムードが漂う。
―――が、明智の表情はやはり優れなかった。
「先生……?」
椿がゆっくりと呼ぶ。
「二人とも、よく聞いてね。子供が出来た事は喜ばしい事だ、だけどね……お姫さんの体が……」
「え……」
話はこうだった。
椿の体は、前に比べれば驚く程よくなっていた。
だが、もともと体力がなく、出産に耐えれるかどうかがわからない状態に今あった。
:09/03/21 03:03
:SO906i
:☆☆☆
#661 [向日葵]
椿の体を考えるならば、授かった命をあきらめてしまうか、それとも、産むか……。
「あたしからは何も言えない。お姫さんの命も、授かった命も大切だ。だから、二人にはよく考えてほしい。あたしからは、以上だ……」
重い空気が、診察室を覆いつくす。
要は頭が混乱しそうになっていた。しかし椿は、お腹を柔らかく手のひらで包み、シャンと背筋を伸ばしたままだった。
――――――――…………
「産みます」
今は帰りの車の中だ。
静かに、けれどはっきりと、椿はそう言った。
:09/03/21 03:08
:SO906i
:☆☆☆
#662 [向日葵]
要は眉を寄せて椿を見る。
「椿……。でも……もう少し、考えないか……?」
「私は、命にかえてもこの子を産みます。要さまに、会わせてあげたいんです」
「……」
要は何も言わなかった。
要にだって決めれる訳がない。
どちらも大切な命。
簡単にどちらかを切り捨てるだなんて非情な事は出来ない。
だからと言って、無責任に産めとも言えなかった。
どっちつかずな自分の気持ちに、要は吐き気がしそうだった。
:09/03/21 03:12
:SO906i
:☆☆☆
#663 [向日葵]
家に着いて、椿が家に入ろうとすると、要が椿の腕を引いた。
そのまま手を握って、ゆっくりと庭を歩き出した。
綺麗に剪定された植え込みからは、いい香りがする。
色とりどりの花壇の前で止まり、要は深呼吸した。
「マイナスに、考えちゃいけないよね」
椿は要を見る。
要も椿を見つめて、ぎこちなく微笑んだ。
「体力が無ければ、つければいい。だからさ、こうやって、毎日散歩しようか、椿」
その答えを聞いて、椿は嬉しそうに笑った。
:09/03/21 03:17
:SO906i
:☆☆☆
#664 [向日葵]
「はいっ……」
「しかし、どっちだろうね」
椿のお腹に触れようとして、要は躊躇う。
どうしたのかと、椿は要を見ると、要が照れ臭そうに笑う。
「面白いよね。ここに小さな宝物がいるかと思うと、壊れないか心配で、触るのさえ怖いよ」
要の言葉に、椿は笑う。
そして要の手をとると、優しく自分のお腹へと当てた。
その上から、椿は自分の手を重ねる。
「大丈夫です。触れれば触れる程、この子が喜びますよ」
椿がいとおしそうに、お腹を見つめる。
その姿が、また要はいとおしくて、椿を柔らかく抱き締める。
:09/03/21 03:22
:SO906i
:☆☆☆
#665 [向日葵]
でも、やはりどこかぎこちないその腕に、椿はクスリと静かに笑った。
椿は安心して要に身を預ける。
春の日差しに当たっているように、椿の心はほっこりと幸せに満ちていた。
しかし要は、やはりどこか迷っているように、腕の中にいる二つの命を大事に包んだ。
―――――――――…………
「わーっ!ホントにいっ!」
越宅に遊びに来た椿は、越に赤ちゃんの事を言った。
越はキラキラと、椿のお腹を見る。
「なにがあ?」
:09/03/21 03:27
:SO906i
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#666 [向日葵]
越の妹、苺が、越の膝に乗りながら聞く。
「椿ちゃんのお腹に、赤ちゃんがいれのよ」
「ほあーっ!いちご、あかちゃんだっこするー」
「はい。いっぱいしてあげてください」
苺は満面の笑みで頷くと、兄の空に呼ばれ、出て行った。
しかし入れ替わりに、越の恋人である柴が入ってきた。
越には慣れた事なのか、柴が入ってきても特に気にはしなかった。
「で、どうかしたの?」
:09/03/21 03:32
:SO906i
:☆☆☆
#667 [向日葵]
「え?」
「相談があったから、うちに来たんでしょ?」
椿は急にシュンとする。
うつむいて、言いにくそうにする。
「実は……」
赤ちゃんについて、椿は越に話した。
話を聞いていくうちに、越の顔はだんだんと深刻になった。
「……そう。で、要くんはなんて?」
「一緒に頑張ろうと言って下さいました」
越は自分の事のようにホッと胸を撫で下ろす。
:09/03/21 03:35
:SO906i
:☆☆☆
#668 [向日葵]
「でも……。私が迷い始めてしまいました」
「え……」
椿は数日前、こんな会話を聞いた。
――――――――
―――――――――――
「大久保、僕は怖くて仕方ない」
椿が要の仕事部屋の前を通った時だった。
つい声がしたので、そこで足を止めてしまった。
「もし、椿も、子供も、僕は失う事になったら僕はどうしたらいいと思う?」
椿は目を見開いた。
:09/03/29 03:04
:SO906i
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#669 [向日葵]
「要さま、弱気はいけません」
「分かってる。でも、不安がつきまとうのは仕方ないだろ……。僕は……それ程強い人間じゃない……っ」
表情は見えなくても、その苦しそうな声に、椿は顔を歪ませた。
もしかして、このままこの子を諦めた方が、要の為でもある……?
椿はお腹に手を触れた。
でも撫でる度、いとおしさが溢れてくれば、そんな事考えたくもなかった。
大切な、大切な一つの命。
そんな簡単に、手放せる訳がなかった。
:09/03/29 03:08
:SO906i
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