ギンリョウソウ
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#687 [向日葵]
「椿、何か変だと思ったらすぐに言うんだよ?ああそれと、明智にはちゃんと色々頼んでるから心配はいらないからね。それと……」

「要さま」

クスクスと笑っている椿は、大きくなったお腹を優しく撫でながら要の手を取る。

「そんなにすぐには産まれませんから。とりあえず座りましょう」

手を引かれる要は、少々情けなくなっていた。

自分がこういう落ち着いた態度でいなくちゃいけないのに、取り乱してばかりだ。

「この子に笑われちゃいますよ」

⏰:09/04/03 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
複雑な顔をする要に、また椿は笑う。

「いよいよ、会えますね。どんなに、待ち望んでいたか……」

椿がお腹を撫でるのにならって、要も撫でる。

「ん……男の子のような気がする」

「そうですか」

「椿はどっちがいい?」

「どちらでも」

「欲がないなあ」

「元気に産まれてくれたら、それだけでいいんです」

「そうだね」と呟いて、要は椿の肩を抱き寄せると、頬にキスをする。

⏰:09/04/03 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
「どちらにしても、可愛い僕らの子供だよ。世界一、いや宇宙一可愛いに違いない」

「はい……」

それからまた、数日間、何事もなく過ごした。
要は、とにかく椿に安静にするようにと、椿にあまり仕事を手伝わせなかった。

その間、椿は、花壇の世話をしたりするのだった。

「もうすぐで、この花の蕾が開きそうですわね」

椿についているメイドが言う。

⏰:09/04/03 02:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
淡いピンク色の花。
椿が前に種を植え、育ててきたのだ。
それに、じょうろで水をやる。

「花が開く瞬間が見れたらいいんですけど……。……っ?」

椿はお腹をおさえる。

確かに今、チクンと痛みがあった。
気のせいかと思えば、またチクンとくる。
それは段々と時間差がなくなり、痛みは、次第に増していく。

「椿さま……?椿さま!大丈夫ですかっ!?」

椿は顔をしかめる。

ああ、あなた、産まれてくるのね。

⏰:09/04/03 02:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
――――――――――…………

分娩室に椿が入って、30分が経った。

椅子に座っても落ち着いていられない要は、先ほどから立ったり座ったりを繰り返していた。

そこに、椿の父が、病院へ来た。
要は一礼する。

「椿は?」

「まだです。30分ほど前に入ったままです」

「そうか……」

父も落ち着かず、近くの窓から外を眺めたり、壁によっかかったりする。

⏰:09/04/03 02:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
「椿は……」

「……え」

「とても、軽く産まれてきてね。なんグラムかは忘れてしまったけど、私は毎日心配だったよ」

要は黙って話を聞く。

「それでも、生きようと、力強く泣く姿に、私は涙が溢れたよ。命というのは、本当に素晴らしいものだと思えた」

「……そうですね」

要も、今は分かる。

自分が父親になるんだと思えば、椿の父のように、ああなんて素晴らしいと思った。

「椿は、体が危ないそうだね」

⏰:09/04/03 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
やはり、体の事は、安心出来ないと明智に言われた。

それでも今日まで、二人は光を信じて過ごしてきた。

「でも、私は、椿は大丈夫な気がするよ」

椿の父は、いとおしそうに、分娩室のドアを見る。
その中の椿を見守るように。
もしかすると、妻に重ねているのかもしれない。

要も、ドアを見つめる。

頑張れ……。

それしか言えないけど、要は思った。

―――――――
――――――――――

⏰:09/04/03 03:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
――――――どれくらい、時間が経っただろう。

時計を見るのも、落ち着きなく動くのも疲れてしまった要は、ただただ椅子に座り、祈るように手を組み合わせて、額に押しつけていた。

目を、ふと閉じた時だった。

(…………ま)

「要は目を開ける」

何故か要は、真っ暗な空間にいた。
でもその空間の四方八方には、星のようにチカチカと小さな光が瞬いていた。

どうなってる?
疲れて寝てしまったのか?

⏰:09/04/03 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
(と……ま……)

また聞こえた。
可愛らしい声だ。

温かい、黄色い光が、要の腕に宿る。
触ってみれば、ふかふかとしていた。
それはまるで、羽毛のよう。

(父さま……やっと、会えた……)

その声は、その黄色い光から聞こえてきた。

「……君は……」

言いかけた時だった。
突然、大きな泣き声が聞こえてきた。

要はハッとした。
すると、そこは元の病院だった。

⏰:09/04/03 03:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
腕の中に、もう光はなかった。

ガチャと開けられると、白い布にくるまれたものを、看護婦が抱いて歩いてくる。

近づくにつれ、泣き声は大きくなっていった。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

要は顔を覗き込む。

小さな小さな口を、目一杯開けて、その子は泣いていた。

ああ……僕たちの光だ……。

「あの、看護婦さん、娘は……」

父に言われ、要はハッとした。

⏰:09/04/03 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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