愛の在り処
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#1 [果樹]
:08/06/04 21:36 :P902iS :☆☆☆
#2 [果樹]
ねぇ、お母さん。
貴方は何故お父さんを選んだの?
ねぇ、お父さん。
貴方はお母さんのどこを好きになって結婚したの?
私は望まれて生まれたのよね?
あなたたちの間に愛は確かに存在したのよね?
:08/06/04 21:49 :P902iS :☆☆☆
#3 [果樹]
私が証拠よね?
ねぇ・・・誰か教えて?
愛はどうして消えてしまうの?
愛し合ったはずの二人が何故離れてしまうの?
ねぇ、何故・・・?
――――――――・・・・
ピピピピッ・・・カチ
:08/06/04 21:50 :P902iS :☆☆☆
#4 [果樹]
目覚ましの音で目が覚めた。
ベッドを降りて暗い部屋に日が差し込むようにカーテンを開けると、眩い太陽が目に入る。
「おはよう。お父さん、お母さん」
机に立掛けてある写真に挨拶をして、私は部屋を出た。
キッチンに行って冷蔵庫を開け、麦茶を取り出す。
:08/06/04 21:51 :P902iS :☆☆☆
#5 [果樹]
グラスに注いでゴクッと一口飲むと、渇いていた喉が潤う。
私は麦茶を冷蔵庫に戻し、グラスはそのままにしてまた部屋に戻る。
シーンと静まり返った家の中には私の足音がするだけ。
カチャっとドアを開けて、中に入り、学校に行く支度をする。
鞄を持ち、鏡で最終チェックをして、最後に写真の前に行く。
:08/06/04 21:52 :P902iS :☆☆☆
#6 [果樹]
「行ってきます」
それだけ言って私は家に鍵をかけて、学校に向かう。
はぁと溜め息をついて重たい足を引きずるように学校に向けて動かすと、前から手を繋いだ親子が歩いてきた。
「ママー。今日はマナちゃんと遊ぶのー」
「そっかぁ。仲良くね?」
:08/06/04 21:54 :P902iS :☆☆☆
#7 [果樹]
「うん!」
楽しそうな会話。
いいなぁ。
ああいう仲の良い親子の姿を見るのは好きだ。
心がふっと軽くなる気がするから。
:08/06/04 21:54 :P902iS :☆☆☆
#8 [果樹]
「愛実ー!」
後ろから名前を呼ばれて振り向くと一哉が走ってくるのが見えた。
私の元まで来た一哉は、あんなに走ったのに息一つ切らせずに、「おはよう」と言った。
「おはよ」と私も返し私たちは歩き出す。
一哉は横でずっと喋っていたが、私は適当に相槌をうったり、たまに笑ったりするだけで、学校までの道のりを歩いた。
:08/06/04 21:57 :P902iS :☆☆☆
#9 [果樹]
「愛実ー!一哉くーん!」
後ろから呼ばれたので振り向くと、里奈が小走りで手を振りながら走ってきた。
「おはよ里奈」
「おはよ。一哉くんも」
笑って返すと、里奈もにぱっと笑って返してくれた。
一哉の方に目線を移しまたにぱっと笑う里奈。
:08/06/06 00:54 :P902iS :☆☆☆
#10 [果樹]
「おっす。じゃあ俺行くな」
「うん」
手を上げて里奈に挨拶してから、私の方を見て手を振って、一哉は校舎の方に走っていった。
私は頷いて一哉の背中を見送った。
「くーっ相変わらずかっこいい!朝から見せつけてくれますねー」
「そんなんじゃないよ・・・」
にやにやと笑いながら言う里奈に、私は口元だけで笑みを作って校舎に歩みを進めた。
:08/06/06 00:56 :P902iS :☆☆☆
#11 [果樹]
私は一哉と付き合っている。
でも別に好きなわけじゃない。
いや、好きか嫌いかって聞かれたら好きな方。
だけど別に“愛して”ないし“大好き”でもない。
「付き合って」っていわれたから付き合っている。
ただそれだけ。
:08/06/06 21:16 :P902iS :☆☆☆
#12 [果樹]
そもそもあたしは、“本物の恋愛”をしたことがない。
“好き”って感情もいまいちよくわからない。
わからないことだらけな私の心。
辞書を引いてもきっと私の望む答えは載っていないんだろうな・・・。
――――――――・・・・
「愛実ー今日お前んち行っていい?」
:08/06/06 21:17 :P902iS :☆☆☆
#13 [果樹]
昼休み、里奈とご飯を食べてる時に一哉が教室にきて、いきなり言った。
「いいよ」
私は作った笑顔でそれに答える。
「じゃあ放課後迎えに来るな」と言って一哉は自分の教室に戻っていった。
「一哉くんて愛実にゾッコンだよね」
ゾッコン・・・。
:08/06/07 02:12 :P902iS :☆☆☆
#14 [果樹]
今時そんな言葉は使わないと思うんだけど、と心の中で里奈にツッコミをいれる。
「そんなことないと思うけど?」
お弁当の中のウインナーをフォークで刺して、口に運びながら私は言う。
「いーや。あるね!てゆうか愛実は淡白すぎる」
そんな私に里奈はフォークの切っ先を向けながら言う。
:08/06/07 02:13 :P902iS :☆☆☆
#15 [果樹]
「性格だもん。しょうがないじゃん」
もぐもぐとウインナーを食べながらいうと里奈はふぅと少し溜め息を吐く。
「まぁ愛実のそゆとこ好きだけどね」
里奈はパンをかじりながらにやりと笑って言う。
“好き”か・・・。
里奈の言葉を口の中で繰り返す。
:08/06/07 02:13 :P902iS :☆☆☆
#16 [果樹]
友達としての“好き”ならわかる。
あたしも里奈は好きだ。
でも恋愛は違う。
好きという言葉の重さが違う。
「どうかした?」
「なんでもない」
里奈の言葉で思考の世界から現実に戻ってきた私は、頭の中にあった考えを払拭するように、フォークで卵焼きを刺した。
:08/06/09 23:51 :P902iS :☆☆☆
#17 [果樹]
放課後―――・・・
「おじゃましまーす」
玄関で靴を脱ぎ、一哉はまるで我が家同然にズカズカと家の中に入っていく。
はぁと溜め息をついて靴を並べてから私も一哉の後に続く。
「相変わらず何もないなー愛実の家は」
:08/06/12 00:45 :P902iS :☆☆☆
#18 [果樹]
一哉はリビングをぐるぐる歩き回る。
「このへんにこーさ、でっかい8人掛けぐらいのソファでも置けばいーのに」
「邪魔だから」
部屋の角に立って手でその大きさを表して言う一哉に一喝して私はキッチンに入る。
「今日はコーヒーにする?それとも紅茶?」
:08/06/12 00:45 :P902iS :☆☆☆
#19 [果樹]
マグカップを手に取り一哉に訪ねると一哉がキッチンに入ってきた。
「そんなことよりさ」
いきなり後ろから一哉に抱き締められた。
「部屋行かね?」
「部屋行かなくてもベッドならそこにあるけど」
鼻先を髪に埋めながら言う一哉に私はリビングにあるソファを指して言う。
:08/06/12 00:46 :P902iS :☆☆☆
#20 [果樹]
うちのソファはベッドみたいに広くて充分寝れるくらいの3人掛けだからだ。
「ちっがーうよ愛実ちゃん!雰囲気が違うの!」
「はいはい。分かったわよ」
私の言葉に対し一哉が力説してきたので軽くあしらって私たちは部屋に行く。
――――――――・・・・
「愛実・・・」
:08/06/12 00:47 :P902iS :☆☆☆
#21 [果樹]
パタンとドアを閉めると一哉が色っぽい艶めいた声を出して抱き締めてきた。
「ン・・・」
耳から首にかけて舐められれば私の口からは声が洩れる。
「ハァ・・・ンッ・・・」
ブラウスの間から手を突っ込まれて胸を揉まれれば、体が反応する。
スッと手を抜かれ一哉は私の横を通りすぎてベッドに座る。
:08/06/12 00:48 :P902iS :☆☆☆
#22 [果樹]
「おいで」
手を出されたのでその手を取って私も一哉の元に行く。
・・・・・・・・・・・・・・
「入れるよ?」
一哉は自分の高ぶったものを出して私の密部にあてがう。
こくんと首を縦に振れば、一哉は自分のものを私の中に押し込む。
:08/06/12 00:49 :P902iS :☆☆☆
#23 [果樹]
「ンッ・・・!ンン・・・」
体が反応する。
滴る私の愛液が潤滑剤になる。
「愛実・・・」
「ン・・・ッ」
ギッギッと一哉が動くリズムに合わせてベッドが鳴る。
「愛実飲んで・・・?」
イキそうになった一哉は自分のものを取り出して私につき出す。
:08/06/12 00:49 :P902iS :☆☆☆
#24 [果樹]
私は躊躇いもせずそれを口に含んで唾液をたっぷり絡めてしごく。
「ン・・・・っ!」
ゴクン
ドピュッと勢いよく口の中に放たれた白濁を私は身体に流し込む。
「おいしい?」
「まぁ・・・」
:08/06/12 00:50 :P902iS :☆☆☆
#25 [果樹]
私の頬に触れながら聞く一哉にまずいと言うわけにもいかないので、口を手の甲で拭いながら適当に答える。
それから一哉は部屋でだらだらして8時くらいに帰っていった。
――――――――・・・・
お風呂から上がって10時くらいに私はコンビニに向かった。
:08/06/12 00:51 :P902iS :☆☆☆
#26 [果樹]
:08/06/12 00:53 :P902iS :☆☆☆
#27 [果樹]
コンビニで適当にお菓子や飲み物を買って、私は真っ直ぐ家へと続く道を歩く。
すると途中、男が二人乗った原付が私の横に止まる。
「お姉さん。一人?」
ヘルメットを被った前の男がにやにや笑いながら話しかけてきた。
私が足を止めないので、ゆっくりと原付も動きだし、私の速度に合わせる。
:08/06/12 16:11 :P902iS :☆☆☆
#28 [果樹]
「遊び行かない?」
「行きません」
後ろに座っている男がにたにたと嫌な笑い方で言う。
私はそれを断り、さらに歩く速度を速め家に帰る。
男たちは諦めたようで、Uターンをして、私とは逆の方向に走っていった。
ばっかみたい。
:08/06/12 16:12 :P902iS :☆☆☆
#29 [果樹]
心の中で悪態をついて私は家路に急いだ。
――――――――・・・・
「ただいまー」
シーンと静まり帰る家の中で私の声だけが響く。
“おかえり”の声なんて聞こえないのに、何故か私は家に帰ると必ず言ってしまう。
:08/06/12 16:13 :P902iS :☆☆☆
#30 [果樹]
はぁと溜め息をつき、靴を脱いでキッチンにある冷蔵庫の中に買ってきたデザートやジュースを入れ、部屋に行く。
パタンとドアを閉めて向かうところは一つ。
「お父さんお母さんただいま」
写真に写る父と母に笑いかけてから私はベッドに寝転ぶ。
この家に暮らし始めてからもうすぐ2年か。
早いなぁ・・・。
:08/06/12 16:13 :P902iS :☆☆☆
#31 [果樹]
私は武藤(むとう)愛実(まなみ)
高校2年生。
中3の冬にここに住み始めてもうすぐ2年が経つ。
この3LDKのマンションは私一人で住むにはやっぱり広すぎる。
そう思いながらも暮らしてはいるけれど。
父と母は私が小1の時に離婚した。
:08/06/12 16:14 :P902iS :☆☆☆
#32 [果樹]
原因はなんだったか忘れてしまった。
離婚後、私は父に引き取られた。
離婚後も月1で母には会っていたが、それも私が中1になったのを期になくなった。
母に恋人が出来たからだ。
その人と再婚するから私とはもう会えない。
それが私に向けた母の言葉だった。
:08/06/12 16:15 :P902iS :☆☆☆
#33 [果樹]
それからは、父と普通に暮らしていたが中3の秋、父が女を連れて家に帰ってきた。
「結婚したいんだ」
そう言った父の相手は、10も年の離れた父の秘書をしている女だった。
社長という肩書きを持つ父といつも一緒にいたせいで情でも移ったのか、はたまた財産目当てか。
どっちにしても、私には気に食わないことだった。
:08/06/12 16:16 :P902iS :☆☆☆
#34 [果樹]
その女が家に住み始めてからも、私は一切その女と話そうとはしなかった。
一ヶ月程経ったある日、父が私を居間に呼び出した。
「マンションを買ってやるからそこに住みなさい。その方がお前も気兼しなくて済むだろう」
それが父の言葉だった。
一見私の事を考えた苦渋の選択と取れる父の言葉。
:08/06/12 16:18 :P902iS :☆☆☆
#35 [果樹]
でも本音は、二人だけになりたかった。
私とあの女との板挟みが辛かった。
などそんなとこだろう。
父にとってはマンションを買うくらい安いものだったのだ。
私は頷くだけの返事をして、一週間後、ここに住み始めた。
こんな広い家でのたった一人の生活は孤独以外の何ものでもなかった。
:08/06/12 16:22 :P902iS :☆☆☆
#36 [果樹]
笑い合う相手も一緒に食事をする相手もいない。
一人きりの生活。
銀行に月に20万振り込まれる父からの生活費。
生活に困ることはなかったが、寂しさが私も侵食していくのがわかった。
かつて愛し合った二人は離れ、子供をも見捨てて自分の愛に走る。
私は愛が何かわからなくなった。
:08/06/12 16:23 :P902iS :☆☆☆
#37 [果樹]
次第に私はぬくもりを求めて彷徨うようになった。
真実の愛がないのなら誰かに身体を委ねて一時だけでもぬくもりが欲しかった。
一哉もその一人。
男は付き合うと必ず肉体関係を求めてくる。
だれかが生殖行為は子孫を残す為だとか言っていたけど、本当にそうなのか疑ってしまう。
:08/06/12 16:24 :P902iS :☆☆☆
#38 [果樹]
ただ気持よければそれだけでいい獣なんじゃないのかな?
でも、私も同じか・・・。
気持ちいいから身体を委ねる獣。
――――――――・・・・
「お父さーんお母さーん」
満面の笑みで走る私。
:08/06/12 16:26 :P902iS :☆☆☆
#39 [果樹]
「愛実。そんなに走ると転ぶわよー」
「愛実は元気だなー」
遠くで笑う父と母
幸せだった。
生温いくらいの幸せ。
ずっとつかっていたかった幸せ。
「愛実はお父さんもお母さんも大好き!」
:08/06/12 16:26 :P902iS :☆☆☆
#40 [果樹]
大好きなんだよ
――――――――・・・・
パチッと目を開けると白い天井が目に飛込んできた。
「夢か・・・」
布団に入ったままぼそっと呟く。
そうだよね・・・。
:08/06/14 00:08 :P902iS :☆☆☆
#41 [果樹]
もう戻れないあの時の記憶。
生温い夢。
「支度しよう」
ギシッとスプリングを鳴らして、私はベッドから降りる。
父と母に「おはよう」を言ってから部屋を出た。
――――――――・・・・
「愛実もう帰るの?」
:08/06/14 00:09 :P902iS :☆☆☆
#42 [果樹]
HRも終わって、教室を出ようと鞄を持ったら里奈が声をかけてきた。
きっと言葉の意図は“一哉と帰らないのか?”なんだろう。
誘われた時だけしか私は一緒に帰るつもりはない。
そして今日は、一哉は迎えにこないし、待っているのも面倒だから早々に帰ろうと思っているのだ。
「うん」
「そっかーバイバイ!」
:08/06/14 00:10 :P902iS :☆☆☆
#43 [果樹]
「ばいばい」
満面の笑みで手を振る里奈に私も軽く手を振って返し、教室を出た。
・・・・・・・・・・・・
「あ」
昇降口に続く廊下を歩いてる途中、ある事に気付いて足がピタリと止まる。
一哉にCD返すの忘れてた。
:08/06/14 00:10 :P902iS :☆☆☆
#44 [果樹]
鞄を覗き込むとやっぱりあった。
朝入れたと思ったのは間違いじゃなかったか。
仕方がないので私は踵を返して一哉の教室に向かった。
・・・・・・・・・・・・
私のクラスの近くまで来ると、教室の電気がまだついていた。
外は薄暗くなってるっていうのに教室の中からは話声が聞こえる。
:08/06/14 00:11 :P902iS :☆☆☆
#45 [果樹]
教室にまだ誰かいるんだ。
私がなるべく邪魔をしないように廊下を静かに歩くと、教室から話が聞こえた。
声の主は
「キャハハッ一哉くんまぢウケるー」
里奈と
「だろー!」
一哉だ。
:08/06/14 00:12 :P902iS :☆☆☆
#46 [果樹]
私は一哉にCDを返すために教室に入ろうとドアに手をかけたが、私の手はドアを引くことなく止まる。
「てゆうかさぁ、一哉くんて愛実のどこが好きなの?」
里奈が私の名前を口にしたからだ。
「顔かな?あと身体?」
私は一哉の言葉に一つ溜め息をつく。
一哉もこんなもんか。
:08/06/14 12:33 :P902iS :☆☆☆
#47 [果樹]
「あー確かに愛実って可愛いもんね。この間もD組の会田君に告白されてたし」
「ふーん」
一哉の声はあまり気にしていない様子だ。
「ねぇ、私じゃ駄目?私一哉くんのこと好きなの・・・」
え?
里奈の言葉に私は自分の耳を疑った。
:08/06/14 12:33 :P902iS :☆☆☆
#48 [果樹]
「里奈ちゃん・・・」
え?
「ん・・・っ」
教室の中からは卑猥な声が漏れる。
くだらない。
所詮彼氏なんて。
所詮友達なんて。
バンッ!
:08/06/14 12:34 :P902iS :☆☆☆
#49 [果樹]
私は力いっぱい教室のドアを開けて教室の中でキスをしている一哉と里奈を睨む。
音に驚いた二人が私を見ながら硬直している。
「愛実っ!」
「あ、あの・・・」
一哉は今にも飛び出そうなくらい目を開けていて、里奈は真っ青になっている。
:08/06/14 12:35 :P902iS :☆☆☆
#50 [果樹]
私は早歩きで二人の元まで行き鞄の中から一枚のCDを取り出して一哉に突き付ける。
「一哉。これ借りてたCD」
「あ、ああ・・・」
一哉は驚きながらもそれを受けとる。
「あの、愛実これは・・・」
里奈がしどろもどろになりながらも言葉を紡ぐが、私はそれを遮る。
:08/06/14 12:36 :P902iS :☆☆☆
#51 [なぁ]
修羅場…おもしろい笑
がんばって下さい因y~
:08/06/15 02:25 :W51P :sISJlpvI
#52 [果樹]
なぁさんへのコメントは感想板で
>>1:08/06/16 02:31 :P902iS :☆☆☆
#53 [果樹]
「いいよ別に。言い訳なんて聞きたくないし。別れよう一哉。それで里奈と幸せになりなよ。じゃあね」
それだけ言って私は二人に背中を向け、教室を出る。
後ろでは一哉が私の名前を叫ぶ声と里奈の泣く声がしたが、私は昇降口に向かう足を止めることなく歩いた。
「一哉は失ってもよかったけど、里奈は失いたくなかったなぁ・・・」
:08/06/16 02:32 :P902iS :☆☆☆
#54 [果樹]
一人ぽつりと呟いて、私は学校を後にした。
――――――――・・・・
次の朝、席につくとすぐに里奈がやってきて、気まずそうに口を開いた。
「お・・おはよう」
「おはよ」
私は無表情で答える。
:08/06/16 02:33 :P902iS :☆☆☆
#55 [果樹]
「あ、あのね愛実・・・。私一哉君と付き合うことになったの」
里奈はうつ向いて振り絞るような声でいう。
その声は微かに震えていた。
「よかったね」
「っ!」
私が口元に笑みを浮かべていうと、里奈が顔を上げる。
:08/06/16 02:33 :P902iS :☆☆☆
#56 [果樹]
その顔はみるみるうちに歪み、今にも泣きそうな顔になる。
「ごめんなさい・・・」
そういって里奈は教室を出ていってしまった。
ごめんね、かぁ・・・。
ねぇ、里奈。
それは何へのごめんね。
私を裏切ったことへのごめんね?
それとも彼氏を盗ったことへのごめんね?
:08/06/16 02:34 :P902iS :☆☆☆
#57 [果樹]
どっち・・・?
私はその日の授業を受ける気にならず、机に突っ伏したまま寝て過ごした。
――――――――・・・・
「お姉さん今、暇?」
学校帰り、一人で買い物に出ると金髪の男と背の高い男が話しかけてきた。
:08/06/16 02:35 :P902iS :☆☆☆
#58 [果樹]
:08/06/16 02:41 :P902iS :☆☆☆
#59 [果樹]
「暇だけど何?」
無表情で言う私にも一切怯まない男たち。
「俺らと遊ばない?」
遊ぶ、ね。
結局最後は身体目的だろう。
断ろうと思ったがでも、と思い直す。
一哉とも別れたし。
ちょうどいい“ぬくもり”にはなるかな。
:08/06/19 02:01 :P902iS :☆☆☆
#60 [果樹]
「いいよ」
私がそう言うと、男たちは嬉しそうに私の手を引いて、カラオケに連れて行った。
カラオケで二時間歌った後は、もちろんホテルに直行だった。
・・・・・・・・・・・・・
「ん・・・はぁっ」
「こっちも」
:08/06/19 02:01 :P902iS :☆☆☆
#61 [果樹]
目の前につき出される男の肉棒を躊躇いもなく口に含む。
「んっ・・・んっ」
「休んじゃ駄目だよ」
後ろからは突かれて前では肉棒をくわえる。
休む暇もなく与えられる快感。
「あっ・・・んぅ・・」
肌と肌が触れ合う。
:08/06/19 02:02 :P902iS :☆☆☆
#62 [果樹]
一時の“ぬくもり”
――――――――・・・・
「はぁ・・・」
男たちと別れて暗い夜道を歩く私の口から、何度目かになる溜め息が漏れる。
虚しい・・・。
感情の無い性行為が終わった後に必ず残る空虚感。
:08/06/19 02:02 :P902iS :☆☆☆
#63 [果樹]
それでも“ぬくもり”を求めてしまう自分。
「はぁ・・・」
ん?
だるい身体を引きずるように動かしながら家に続く道を歩いてると、数メートル先にダンボールが置いてあるのが目に入った。
近付いて見てみてもただの茶色いダンボール。
蓋はしまっていて“みかん”の文字が書いてある。
:08/06/19 02:03 :P902iS :☆☆☆
#64 [果樹]
ただのゴミか。と思って通り過ぎようとした時、微かに聞こえた音。
これからだよね?
聞こえた音を辿って、視線を再度ダンボールに移して、まじまじと見るが何も変わったところはない。
気のせいか。と足を進めようとしたが、今度こそはっきり聞こえた音に私の足は止まる。
:08/06/19 02:04 :P902iS :☆☆☆
#65 [果樹]
ダンボールの中から聞こえる音が気になり、ダンボールの前にしゃがみこんで蓋を開けると、中ではまだ生まれたばかりの子猫が自分の存在を主張するように鳴いていた。
ミャアミャア
本来は白いはずのその子猫は汚れて灰色っぽくなっていた。
「お前一人なの?」
手を伸ばして頭を撫でると子猫は嬉しいのか目を細めた。
:08/06/19 02:04 :P902iS :☆☆☆
#66 [果樹]
:08/06/19 02:05 :P902iS :☆☆☆
#67 [果樹]
この子捨てられたんだ。
でも飼ってあげられない。
一つの命を育てるなんて私には無理だ・・・。
「ごめんね。もっと良い飼い主に拾われなよ」
ぽんぽんと子猫の頭を叩いてから私は立ち上がって、子猫を背に家へと歩き出す。
――――――――・・・・
「ただいまー」
:08/06/20 01:39 :P902iS :☆☆☆
#68 [果樹]
ガチャンと玄関の鍵を閉めて真っ先に自分の部屋に向かう。
パタンとドアを閉めると鞄をベッドに放り投げてすぐに写真の前に行く。
「お父さんお母さんただいま」
写真の中の父と母に笑いかける。
習慣を終えるとブレザーをハンガーにかけてから部屋を出てリビングに向かう。
:08/06/20 01:39 :P902iS :☆☆☆
#69 [果樹]
「ふぅ・・・」
一息つくように私はソファに身体を沈めて目を閉じる。
シーンと静まりかえった部屋の中では時計の音が妙にはっきり聞こえた。
その音に混じるようにパチパチと言う音が少しずつ大きくなる。
「雨・・・?」
目を開けて窓を見ると、雨がパチパチと音を立てて窓ガラスを濡らしていた。
:08/06/20 01:40 :P902iS :☆☆☆
#70 [果樹]
ふと、帰り道で会った猫の事を思い出した。
さっきの猫大丈夫かな。
きっともう誰かに拾われてるよね。うん。
自己完結をするも目が行くのは窓の外。
・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
ああもうっ!
私はすくっと立ち上がると急いで風呂場に行ってタオルを掴む。
バタバタと廊下を走り、傘を持って鍵もそこそこに急いで家を出た。
:08/06/20 01:41 :P902iS :☆☆☆
#71 [果樹]
「はぁはぁ」
雨の中走ったせいで足元や肩がほんの少し濡れてしまったが、そんなのも気にせず私は猫が入ったダンボールに駆け寄る。
いませんように。と祈った私の願いも虚しく、子猫は身体を震わせながらダンボールの中で蹲っていた。
「ごめんね」
私はその子猫の姿と自分の姿が重なって悲しい気持ちになった。
:08/06/20 01:42 :P902iS :☆☆☆
#72 [果樹]
そっと持ってきたタオルで子猫を包み抱き上げる。
暖かいものに包まれたからなのか、子猫は目を細めて気持ちが良さそうだ。
そんな子猫の姿に私は心が締め付けられるようなでも暖かいものを感じた。
「その子飼うの?」
え・・・?
:08/06/20 01:44 :P902iS :☆☆☆
#73 [果樹]
突然横槍を入れるように聞こえてきた声に振り向けば、背の高い黒髪の優しそうな顔をした男が傘を差して立っていた。
「その子。今君が抱いてる子猫。飼うの?」
男は私の隣に来て、首を傾げながら子猫を指差す。
「わかんない。雨で濡れるのが心配で来ちゃっただけだし」
「ハハッ」
:08/06/20 01:49 :P902iS :☆☆☆
#74 [果樹]
子猫を見ながら言うと男は白い歯を見せて笑った。
「何がおかしいの?」
意味の分からない男の笑いに私の眉間に皺が寄る。
「いや、ごめん。俺と同じ考えの人もいるんだなぁと思ったらつい・・・ね」
なんだそれ。
ますます意味がわからない。
だいたいついで笑うっていうのも気に入らない。
:08/06/20 01:49 :P902iS :☆☆☆
#75 [果樹]
心の中で悪態をついていたら男の手が伸びてきて子猫の顎を擦る。
「飼ってあげてよ」
優しい声色で言う男。
「あなたが飼えば?」
「俺は駄目なんだ」
私の言葉に眉を下げ悲しそうに男はいう。
なんでと口を開く前に男が口を開いた。
:08/06/20 01:50 :P902iS :☆☆☆
#76 [果樹]
:08/06/20 01:52 :P902iS :☆☆☆
#77 [果樹]
「お願い!雨の中一人なんて可哀想すぎる」
顔の前で手を合わせて私に頼み込む男。
なんか犬みたい・・・。
「わかった」
「ありがとう!」
私が猫を飼うのを承諾すると男はにぱっと屈託のない笑みを溢した。
:08/06/24 05:46 :P902iS :☆☆☆
#78 [果樹]
.
――――――――・・・・
「ただいま・・・あっ!」
あれから私は男と別れ家に帰ってきた。
もちろん子猫も一緒に。
そして今はその子猫が玄関を開けた直後に私の腕の中から脱走し、リビングに向かって猛ダッシュしていってしまった。
「ちょっ!」
:08/06/24 05:49 :P902iS :☆☆☆
#79 [果樹]
あんな泥まみれで走られたら家の中泥だらけになっちゃう!
私も急いで靴を脱ぎ子猫の後を追う。
――――――――・・・・
「捕まえた・・・」
やっとの思いで部屋の中をかけずり回っていた子猫を手の中に収めた。
泥だらけでずぶ濡れな子猫が荒らしてくれたおかげで部屋の中はぐちゃぐちゃ。
:08/06/30 04:10 :P902iS :☆☆☆
#80 [果樹]
後で片付けよ・・・。
はぁと溜め息を漏らし今は手の中でごろごろ鳴く子猫を抱き上げ風呂場に向かう。
・・・・・・・・・・・・・・・
ジャー
シャワーから流れる生温いお湯で子猫の濡れた体を温める。
ついでに泥も落としながら洗うが、子猫は嫌がるように爪を出し少し震えている。
:08/06/30 04:10 :P902iS :☆☆☆
#81 [果樹]
ンニャーとたまに鳴く子猫の嫌がった声が風呂場に木霊する。
「じっとして!」
伝わる訳もないのに口からはついそんな言葉が漏れる。
ある程度洗い終えてタオルで子猫の体を拭くが、子猫は嫌がるようにまだ爪を立てて私にしがみついてくる。
「はぁ・・・」
タオルで子猫の体を拭き終えた私は一息つくようにソファに体を沈める。
:08/06/30 04:10 :P902iS :☆☆☆
#82 [果樹]
疲れた・・・。
猫の世話がこんなに疲れるものだったとは思わなかった私は、マラソンでもしたかのようにどっと体力を消耗し、もう手の一本も動かせない感じだった。
そんな私とは裏腹に子猫はさっきあげたツナ缶を嬉しそうに頬張っていた。
明日は猫缶買いに行かなきゃ・・・。
後子猫の寝床てトイレと・・・。
:08/06/30 04:11 :P902iS :☆☆☆
#83 [果樹]
子猫に必要な物を思い浮かべながら私はいつのまにか眠りについていた。
――――――――・・・・
ミャアミャア
うるさ・・・。
ミャアミャアミャア
猫の声・・・?
なんか近い・・・。
猫なんかいたっけ?と思いながら目を開けると視界には天井とお腹の辺りに重みを感じた。
:08/06/30 04:12 :P902iS :☆☆☆
#84 [果樹]
ミャア
まただ・・・。
顔を少し上げ腹部に目をやると白い子猫が私の方を見ながら鳴いていた。
あ・・・そっか。
昨日猫拾ったんだ。
寝惚けた頭で昨日の事を思い出しながら体を起こし、子猫の頭を撫でる。
「お腹減ったの?」
ミャアミャアと煩いくらいに鳴いて擦り寄ってくる子猫。
:08/06/30 04:12 :P902iS :☆☆☆
#85 [果樹]
時計を見るともう10時を回っていた。
「ちょっと待っててね」
子猫の頭を軽く撫でてからキッチンに向かい、ツナ缶の蓋を開けて油を切ってから子猫用の皿に入れる。
子猫は待ってましたと言わんばかりに飛んできてご飯にがっついた。
「ふふっ・・・」
そんな子猫を見ながら私はなんとなく笑みを溢して、風呂場に向かった。
:08/06/30 04:13 :P902iS :☆☆☆
#86 [果樹]
風呂から出てくると満腹になったのか子猫はソファの上で体を丸めて寝ていた。
私は子猫をそのままにまだ少し濡れている髪の毛を後ろに流して、家を出る。
――――――――・・・・
えっとペット用品は・・・。
私が今来ているのは近所にある大型スーパー。
猫缶ついでに自分用の食材も買う為だ。
:08/06/30 04:13 :P902iS :☆☆☆
#87 [果樹]
カートを押しながらスーパーの中を回ってやっと見つけたペット用品コーナー。
しかし来たまではいいが何を買ったらいいのか全くわからない。
とりあえず目についたものを数個と固めの餌もカゴに入れて、ペットコーナーを後にする。
――――――――・・・・
重た・・・。
:08/06/30 04:14 :P902iS :☆☆☆
#88 [果樹]
食材と子猫の餌が入ったビニール袋は結構な重さがあり、家までたった数分の距離も長く感じる。
「ただいま・・・」
やっとのことで家に着いた頃には息が切れていた。
袋を引きずるようにキッチンに行くと子猫が足元に擦り寄って来た。
「何?またご飯?」
袋から食材や猫缶を出しながら子猫に話かけると子猫はミャアと小さく鳴く。
:08/06/30 04:14 :P902iS :☆☆☆
#89 [果樹]
いまいちわかんない。
言葉の通じない相手と喋るのに苦労しながらもとりあえず子猫に水とさっき買ってきたばかりの餌を与えて私はまた家を出る。
次に向かったのはホームセンターだ。
家からは20分くらいの場所にあるためちょっと長い道のりだ。
「あ!」
:08/07/01 20:26 :P902iS :☆☆☆
#90 [果樹]
スタスタと歩いているといきなり後ろから大きな声が聞こえた。
煩いと思いながらも振り向くのも面倒なので進む足を止めることなく歩く。
「ちょっと待って」
誰に言ってるのか、私の後ろの方にいるであろう人はまた叫ぶ。
グイッ!!
「!?」
:08/07/01 20:27 :P902iS :☆☆☆
#91 [果樹]
いきなり強い力で肩を掴まれた私は驚いて思わず足が止まる。
私の肩を掴んで足を止めたのは今私の目の前で息を切らしている男。
「待ってって言ったのに・・・」
ハァハァと荒い息を整えながら男は私を見る。
長身で端正な顔立ちの黒髪の男。
こいつは間違いなく昨日あの子猫を拾った時に私に飼ってくれと頼み込んだ男だ。
:08/07/01 20:27 :P902iS :☆☆☆
#92 [果樹]
記憶が合致したところでまた男を見ると男はにこりと私を見ながら笑っている。
「なに?」
「あ、いや・・。君が目の前を通りすぎたから思わず走って追い掛けちゃった」
そんなことで追い掛けてきたのか。
と男を冷ややかな目で見るが男は相変わらずにこにこと笑っている。
:08/07/08 00:14 :P902iS :☆☆☆
#93 [果樹]
「昨日の子猫いいこにしてる?」
「まぁね」
素気なく答えても男は笑顔を絶やさずに私に歩調を合わせるように歩く。
「そっか。ところで何処に行くの?」
「ホームセンター」
「何しに?」
「猫のトイレ買いに」
:08/07/08 00:14 :P902iS :☆☆☆
#94 [果樹]
「俺も付き合っていい?」
「は?」
なんつった?
「俺も行きたい」
男の目はらんらんと輝いていて何故か拒否できなかった。
「はぁ・・・来れば?」
溜め息をついてから言うと男は「やった」と小さくガッツポーズをした。
:08/07/08 00:15 :P902iS :☆☆☆
#95 [果樹]
男の名前は一ノ瀬 慶 (イチノセ ケイ)
最近このあたりに引っ越してきたらしい。
その前までは海外暮らしの帰国子女だという。
男、いや慧はホームセンターに着くまでずっとそんな話をしていた。
――――――――・・・・・
「そーいえばさ、あの猫ちゃんの名前なんてつけたの?」
:08/07/10 07:03 :P902iS :☆☆☆
#96 [果樹]
慧→慶です
ミスってすみません
:08/07/10 07:04 :P902iS :☆☆☆
#97 []
続きが気になります
更新頑張って下さい
:08/07/11 15:30 :SH903i :JVfCN4qM
#98 [果樹]
:08/09/09 17:18 :P902iS :☆☆☆
#99 [果樹]
猫砂を選んでる途中、慶が唐突に聞いてきた。
「ないよ」
「え?」
私は横で驚く慶を尻目にたんたんと言葉を繋ぐ。
「だから無いの。名前無し」
そう、私はまだあの子猫に名前をつけていない。
理由はなんて付けたらいいかわからないから。
:08/09/09 17:19 :P902iS :☆☆☆
#100 [果樹]
「じゃあ俺がつけてもいい?」
「へ?」
慶の言葉に思わず変な声が出た。
「名前。俺がつけたい」
「・・・いいよ」
少しの沈黙の後、私はつけてくれるならそれでいいやと思って承諾した。
:08/09/09 17:19 :P902iS :☆☆☆
#101 [果樹]
顎に手を当てて暫く考え込む慶の横顔は、何だか様になっていてやけに人目を引いた。
「じゃあ・・・モア!」
「モア?」
「そう。モア」
笑いながら言う慶のそのの笑顔はまるであの子猫のように可愛く見えた。
「変わった名前だね」
「だめ・・・?」
:08/09/09 17:20 :P902iS :☆☆☆
#102 [果樹]
私の言葉を否定的に取ったのか、慶はとても不安そうに眉根を下げて聞いてきた。
「いいと思うよ。可愛い」
そう言うと慶の顔がパッと明るくなった。
私は動物みたいだなぁなんて思いながら、猫砂を手に取った。
:08/09/14 22:54 :P902iS :☆☆☆
#103 [果樹]
――――――――――・・・・
「ありがとう。助かった」
家の前に着いた私は慶から猫砂と猫用トイレを受取りお礼を言った。
慶はホームセンターから家まで、ずっと猫砂と猫用トイレを持っていてくれた。
「あの・・・さ。言いにくいんだけど」
:08/09/14 22:54 :P902iS :☆☆☆
#104 [果樹]
私がマンションに入ろうと背中を向けると後ろから慶が話しかけてきた。
何かと思って振り返ると申し訳無さそうにしている慶がいた。
私は首を傾げる。
「今度あの子猫見せて貰ってもいい・・かな?」
「・・・いいよ」
:08/09/14 22:55 :P902iS :☆☆☆
#105 [果樹]
私の言葉に、慶は目を見開いてからへらっと柔らかい笑みを溢した。
――――――――――・・・・
「ただいまー」
玄関を開けて家に入ると子猫がタッタッとこちらに向かって走ってきた。
足下でミャーミャーと子猫が何かを訴えるように鳴く。
:08/09/20 09:41 :P902iS :☆☆☆
#106 [果樹]
「ちょっと待ってね」
私は、子猫を踏まないように気を付けながらリビングに行って、猫のトイレを用意した。
「はい。出来たよ」
猫砂を入れた猫用トイレに子猫を入れるとどこで覚えたのか、そのまま用を足した。
なんとも気持ち良さそうで満足気な顔だ。
:08/09/20 09:43 :P902iS :☆☆☆
#107 [果樹]
「えらいえらい」
優しく子猫の頭を撫でてから私は、ソファに座る。
すると子猫もそれを追うようにソファによじ登って来て、ちょこんと私の膝の上にその小さい体を丸める。
その無邪気さに思わず口元が緩んで笑みが溢れる。
「お前の名前が決まったよ」
:08/10/05 12:31 :P902iS :☆☆☆
#108 [果樹]
子猫の両脇に手を入れて抱き上げ、ゴロゴロと喉を鳴らす子猫に微笑みかける。
「モアだって。いい名前付けてもらったね」
その日は、モアと一緒に暖かい布団にくるまって眠りについた。
――――――――――・・・・
ミャーミャー
:08/10/05 12:36 :P902iS :☆☆☆
#109 [果樹]
:08/10/05 12:37 :P902iS :☆☆☆
#110 [果樹]
「わかったわかった。今あげるから待ってて」
私は足元で物欲しそうに鳴くモアに話しかけながら、手早く缶詰の中身を皿に盛り付ける。
モアが来てからの一週間は、ほとんど記憶がない。
慣れない一人と一匹暮らしに加えて、手のかかるモアのおかげで一週間はまるで嵐の様に過ぎていった。
:08/10/14 10:48 :P902iS :☆☆☆
#111 [果樹]
「やばっ遅刻する!」
時計を見ると8時15分。
ホームルームが始まるまでにあと25分しかない。
「じゃあねモア。いってきまーす」
私は急いでテーブルにあった鞄を持ち、モアの頭を一撫でして家を出た。
――――・・
「間に合った・・・」
:08/10/14 10:48 :P902iS :☆☆☆
#112 [果樹]
椅子を引き、うなだれるように私は席についた。
ホームルームが始まるまでの暫しの休息だ。
「まーなちゃーんおっはよー!」
軽快な声が聞こえて振り向けば、やっばり声同様に金髪頭の軽い奴がたっていた。
「・・・おはよ」
「暗いよ〜もっと元気よくさっ!ね?」
:08/10/14 11:04 :P902iS :☆☆☆
#113 [果樹]
朝から煩い奴・・・。
私の机の周りで煩いくらいに騒ぐこの男は、佐々木逞(ささきたくま)。
一週間前にうちのクラス転校してきた奴で、転校初日から何故か私に付きまとっている。
「・・・佐々木くん」
「佐々木ってなんて堅苦しい呼び方じゃなくて逞でいいよ。まなちゃん!」
:08/10/14 11:05 :P902iS :☆☆☆
#114 [果樹]
逞のこの軽いノリが私をイラつかせるのだ。
「じゃあ逞。あのね・・・煩い」
私はにっこりと最上級の笑顔で逞に文句を言う。
そして私はそのまま机に突っ伏した。
それでも逞は相変わらずで、「まなちゃんのいけず〜」とかほざいていたが、あえて放っておいた。
:08/10/21 09:56 :P902iS :☆☆☆
#115 [我輩は匿名である]
おもろいな
更新待っとるし
:08/10/21 16:26 :SH903i :jDCAaFqs
#116 [果樹]
匿名さん
ありがとうございます!
話がまとまり次第更新します☆
:08/10/26 08:25 :P902iS :☆☆☆
#117 [果樹]
「席につけー。ホームルームやるぞー」
丁度いいタイミングで、先生が教室に入ってきたので逞は渋々自分の席に戻って行った。
「えー今日は大学の方から教育実習生がきてるから紹介するぞ」
間伸びした声の担任の衝撃発言。
:08/10/30 02:31 :P902iS :☆☆☆
#118 [果樹]
「キャアアアァ!!」
教室中に女子の甲高い叫び声にも似た声が木霊する。
机に突っ伏していた私は、何が起きたのか分からずただただその甲高い声に驚く。
「静かにー!」
担任はもううんざりした様子で、声を張り上げる。
:08/10/30 02:32 :P902iS :☆☆☆
#119 [果樹]
「今日から英語を教えてもらう一ノ瀬慶先生だ。みんな仲良くするように」
軽い睡魔に襲われていた私は、教育実習生の名前を聞いて思わず椅子から立ち上がる。
「ん?何だ?どーかしたのか武藤」
音に反応した担任が首を傾げてこちらを見る。
:08/10/30 02:33 :P902iS :☆☆☆
#120 [果樹]
「へ?あ・・・いえ何でもないです」
私は、ドクドク鳴る心臓を抑えながら静かに腰を下ろす。
その間も私は教育実習生から目がそらせないでいた。
あの目、あの髪、あの声。
間違いない。
:08/10/30 02:34 :P902iS :☆☆☆
#121 [果樹]
――――・・
「先生!一ノ瀬先生!」
「はい?」
私が呼ぶと一ノ瀬慶は首を傾げて振り向いた。
「えっと・・・A組の?」
「武藤愛実です」
:08/10/30 02:35 :P902iS :☆☆☆
#122 [果樹]
私が名前を名乗ると一ノ瀬慶はふわりと優しい顔をする。
「じゃあ武藤さん。ちょっとお手伝いしてもらってもいいですか?」
「へ?あの・・・」
「早く早く。授業に遅れちゃう」
:08/10/30 02:37 :P902iS :☆☆☆
#123 [果樹]
:08/10/30 05:08 :P902iS :☆☆☆
#124 [果樹]
私は一ノ瀬慶のペースに乗せられたまま英語科準備室に連れていかれた。
――――・・・
「これを運べばいいんですか?」
私は目の前にある数十冊のノートの指していう。
:08/11/04 04:31 :P902iS :☆☆☆
#125 [果樹]
「うん。ちょっと重いかもしれないけどお願いします」
「わかりました」
とだけ言って英語科準備室を出ようとしたら後ろから名前を呼ばれた
なんだろう?
と思い振り向いて首を傾げると一ノ瀬慶は優しく柔らかい笑顔を見せた。
:08/11/04 04:31 :P902iS :☆☆☆
#126 [果樹]
「モアは元気ですか?」
急にモアの名前を出されて少しびっくりしたが、覚えていてくれたことに私は嬉しさを覚えた。
「うん。元気。食べ過ぎっていうくらい食べてるからね」
「そっか。よかった」
:08/11/04 04:32 :P902iS :☆☆☆
#127 [果樹]
ほっとしたような優しい笑みで言う一ノ瀬慶。
「名前・・・気に入った。ありがとう」
私がいい忘れていたお礼をすると一ノ瀬慶は満面の笑みで微笑んだ。
――――・・・
「慶ちゃんおはよー」
:08/11/04 04:33 :P902iS :☆☆☆
#128 [果樹]
「おはようございます」
「ねー慶ちゃんうちらとお喋りしよー」
「まだやることが残ってますから」
一ノ瀬慶がうちの学校に来てからというもの一ノ瀬慶を呼ぶ女子たちの甘ったるい声が嫌でも耳に入る。
:08/11/04 04:33 :P902iS :☆☆☆
#129 [果樹]
あの顔と少し無邪気なところが女子たちの乙女心を掴んだのだろう。
“慶ちゃん”という愛称までつけられて毎日のように一ノ瀬慶には女子軍団が張り付いている。
「イッチーすんごい人気だなー。ねっまなちゃん」
:08/11/04 04:34 :P902iS :☆☆☆
#130 [果樹]
私の側に来て廊下でちやほやされている一ノ瀬慶を見ながら逞が話しかけてきた。
「逞・・・顔近い」
「ありゃ?照れてんの?可愛いー!!」
私の顔との距離がわずか5センチという近さにいる逞に表情を変えずに言うと逞が嬉しそうに笑えない冗談を言ってきた。
:08/11/04 04:34 :P902iS :☆☆☆
#131 [果樹]
「まなちゃん顔怖いってー」
「うるさい」
逞のヘラヘラした笑いに嫌気がさす。
「武藤さん。ちょっといいですか?」
「え?はいっ」
:08/11/04 04:35 :P902iS :☆☆☆
#132 [果樹]
いきなり名前を呼ばれて私は立ち上がる。
見ると一ノ瀬慶がドアの近くでおいでおいでをしている。
「まなちゃんもイッチー信者?」
とアホなことを言う逞を放って私は一ノ瀬の元に行った。
:08/11/04 04:35 :P902iS :☆☆☆
#133 [果樹]
――――・・・
「ついてきてください」
と言われて着いた先は英語科準備室。
またお手伝い?
と思い眉間に皺がよる。
「ちょっと待っててください」
:08/11/04 04:36 :P902iS :☆☆☆
#134 [果樹]
そう言って一ノ瀬慶は一人でなにやら机周りをゴソゴソと探り始めた。
「あった!はいあげます」
そういって手渡されたビニール袋の中には、ねずみのオモチャや猫じゃらしみたいなものが見えた。
なにこれ?
と顔で表す私。
:08/11/04 04:36 :P902iS :☆☆☆
#135 [果樹]
それを察知したのか一ノ瀬慶が言葉を続ける。
「モアのオモチャですよ。ペットグッズを見ていたらモアのことを思い出してつい買ってしまいました」
照れたように一ノ瀬慶が笑う。
:08/11/04 04:37 :P902iS :☆☆☆
#136 [果樹]
それにしてもこんなにたくさん。
自分の猫でもないのに・・・。
「気に入りませんか?」
「ううん。ありがとう」
私はモアの遊び道具が入ったビニール袋を抱える。
:08/11/05 16:54 :P902iS :☆☆☆
#137 [果樹]
それを見た一ノ瀬慶は照れているのか嬉しいのか頭をかきながら笑った。
「それをみている間モアのこと考えていたらモアに会いたくなりましたよ」
そんなに昔のことでもないのに懐かしそうに一ノ瀬慶が言う。
:08/11/05 16:55 :P902iS :☆☆☆
#138 [果樹]
だからだろうか?
あんな言葉がポロリと出てしまったのは。
「会いに来る?」
「いいんですか?!」
すごい食い付きに思わず笑いが溢れる。
:08/11/05 16:55 :P902iS :☆☆☆
#139 [果樹]
「フフッ・・いいよ」
年上なはずの一ノ瀬慶は無邪気すぎて年上には見えなかった。
――――・・・
学校を一緒に出るのはまずいからと電話番号を交換して私は家で待機になった。
:08/11/05 16:56 :P902iS :☆☆☆
#140 [果樹]
モアはさっきから一ノ瀬慶に買ってもらったオモチャに夢中になっている。
「楽しい?モア」
声をかけるがコロコロ転がるボールに夢中になって一向に側に来ない。
諦めて私はソファに横になる。
:08/11/05 16:57 :P902iS :☆☆☆
#141 [果樹]
突然ピルルル―・・とテーブルの上で鳴る携帯の音で飛び起きる。
時計を見ると6時を回っていた。
いつの間にか眠ってしまったのか・・・。
私は相変わらず鳴っている携帯に手を伸ばしそれを耳に当てる。
:08/11/11 06:06 :P902iS :☆☆☆
#142 [果樹]
「はい」
『もしもし?一ノ瀬ですけど・・・武藤さんですか?』
まるで家の電話にかけてきたような応答に少し笑ってしまう。
「はい。そうです」
『えっとマンションの前に着いたのですがどうやって行けば・・・』
:08/11/11 06:06 :P902iS :☆☆☆
#143 [果樹]
「オートロックなんで迎えにいきます」
それだけ言って私は電話を切り玄関へと急いだ。
――――・・・
マンションの正面玄関を開けてすぐのところに一ノ瀬慶はいた。
「すみません。わざわざ」
:08/11/11 06:07 :P902iS :☆☆☆
#144 [果樹]
そう言いながら私が押さえていた玄関の扉を一ノ瀬慶が何気無く押さえてくれた。
こうゆうので女子は惚れるのか・・・とどこか他人事の私はそのまま一ノ瀬慶を部屋まで案内する。
「はい。どうぞ」
「お邪魔します・・・」
:08/11/11 06:07 :P902iS :☆☆☆
#145 [果樹]
玄関の扉を開けて一ノ瀬慶を家の中に招き入れる。
「あっモアー!!」
靴を脱いでリビングまで招き入れると一ノ瀬は直ぐ様モアに飛び付く。
ビクッとしたモアは逃げようとしたが結局一ノ瀬慶の腕の中に収められグリグリされている。
:08/11/11 06:08 :P902iS :☆☆☆
#146 [果樹]
「相変わらず可愛いなぁ。ちょっと大きくなったか?」
いやいやそんなに変わらないよお兄さんと心の中でツッコミをいれる。
「そんなにグリグリしたらモアがはげちゃいます」
「あっごめん!」
:08/11/13 15:11 :P902iS :☆☆☆
#147 [果樹]
冗談で行ったつもりだったが本気にしたらしい一ノ瀬慶はパッとモアから手を離す。
「冗談ですよ。先生コーヒーと紅茶どちらにしますか?」
私はキッチンに入ってキッチンから一ノ瀬慶に問掛ける。
「コーヒーで。後その先生っていうのやめよ?」
:08/11/13 15:12 :P902iS :☆☆☆
#148 [果樹]
私の方を向きながら一ノ瀬慶が苦笑いで言う。
「じゃあなんて呼べば?」
「慶でいいよ」
「わかった」
そう返事をすると慶は笑ってまたモアと遊び始めた。
「はい」
:08/11/13 15:14 :P902iS :☆☆☆
#149 [果樹]
コトリとテーブルの上にコーヒーが入ったマグカップを置く。
「ありがとう」
慶は私が座っているソファの隣に座る。
「そういえば俺普通に家に上がっちゃったけど親御さん大丈夫?」
いつのまにか丁寧口調じゃなくなった慶は、心配そうに聞いてきた。
:08/11/16 16:51 :P902iS :☆☆☆
#150 [果樹]
「大丈夫だよ。あたし一人暮らしだから」
「そっか・・」
詳しいことを聞かれると思ったがそうではなかったので少し驚く。
「その話し方の方がいい」
「え?」
私の言葉に慶は首を傾げる。
:08/11/16 16:52 :P902iS :☆☆☆
#151 [果樹]
「学校で使ってる丁寧口調だとこっちが疲れる」
「あれじゃなきゃいろいろ面倒くさいんだよ」
私の言葉に慶は困った顔で答える。
そのまま私が何も言わないと慶はふぅと軽く息をはく。
「わかった。武藤さんの前では丁寧口調はやめるよ」
:08/11/16 16:52 :P902iS :☆☆☆
#152 [果樹]
「武藤さんじゃなくて愛実でいい」
「はい」
私の言葉に慶はまるで参りましたとでもいうように膝に手を置いて頭を下げる。
「ふふっ」
私はそんな姿に笑いが溢れ慶もつられて笑いだす。
:08/11/16 16:54 :P902iS :☆☆☆
#153 [果樹]
――――・・・
「今日はありがとう」
正面玄関まで送って行くと慶に笑顔でお礼を言われた。
「約束だったから」
「え?」
「また会わせるって約束だったから」
:08/11/16 16:56 :P902iS :☆☆☆
#154 [果樹]
そう。約束だった。
慶に二度目にあった時。
またモアに会いたいって慶が言った時、私はいいよと言った。
私は約束を果たしただけのこと。
それでも慶は「ありがとう」と言って帰って行った。
:08/11/16 16:57 :P902iS :☆☆☆
#155 [果樹]
――――・・・
それから慶はちょくちょく家に遊びに来るようになった。
ある日、私は前から疑問に思っていたことを慶に聞いてみた。
「ねぇ、どうしてそんなに猫が好きなのに飼えないの?」
すると慶は少し悲しそうな顔をしながら答えた。
:08/11/17 13:30 :P902iS :☆☆☆
#156 [果樹]
「俺の弟が昔猫に引っ掛かれて以来猫が怖くて触れないんだよ。だから俺がどんなに好きでも飼えないんだ」
「そう・・だったんだ・・。猫恐怖症治るといいね」
そう言うと慶は笑って「ありがとう」と言った。
なんであんな優しい笑顔ができるのだろうと慶を見てると不思議になる。
:08/11/17 13:30 :P902iS :☆☆☆
#157 [果樹]
心が優しい人は笑顔も優しくなる。
いつかどこかで誰かが行っていた。
慶を見ているとそれが本当な気がする。
あたしにはあんな温かい優しい笑顔はできない。
――――・・・
「まーなちゃんっ」
学校に来るといつものように逞が近付いてきた。
:08/11/17 13:31 :P902iS :☆☆☆
#158 [果樹]
「うるさい逞」
「まだ何にも言ってないよ!?」
一喝すると逞は悲しそうな顔をする。
なんでこうも顔で気持ちが表せるのか不思議でしょうがない。
「そんなことより俺昨日見ちゃったんだ」
「へぇーよかったね」
:08/11/17 13:32 :P902iS :☆☆☆
#159 [果樹]
逞がうざいくらい楽しそうに言うのを私は軽くあしらう。
「だから最後まで聞いてって」
またしょぼんとなる逞。
「まなちゃんイッチーと付き合ってんの?」
「は?」
唐突にそんなおかしなことを言われて私は思わず反応してしまう。
:08/11/17 13:33 :P902iS :☆☆☆
#160 [果樹]
「だって昨日まなちゃんの家から出てくるイッチーみちゃったんだもん」
しれっと言うものだから私は慌てて、逞を教室から引きずり出す。
「ちょっ逞こっち来て!」
――――・・・
「その話誰にも言ってないよね!?」
:08/11/18 06:33 :P902iS :☆☆☆
#161 [果樹]
階段脇まで連れてきた逞に詰め寄る。
「うん」
「誰にも言わないで!」
「言わないよ?」
けろっとした顔で逞が言うものだから呆気にとられてしまう。
「ぜ、絶対に?」
:08/11/18 06:34 :P902iS :☆☆☆
#162 [果樹]
「誓います」
少し不安気に聞くと逞は珍しく真面目な顔で答えた。
「俺はただ真実が知りたいの。まなちゃんはイッチーと付き合ってんの?」
「・・付き合ってない」
「そっか!」
:08/11/18 06:35 :P902iS :☆☆☆
#163 [果樹]
ニカッと笑うと逞は教室の方へ戻っていった。
「はぁぁ」
私は頭を抱えて階段に座り込んだ。
付き合っているわけではないがさすがに知れたのはまずい。
逞本当に言わないかな・・?
:08/11/18 06:35 :P902iS :☆☆☆
#164 [果樹]
――――・・・
教室に行くと見せかけて俺は全く別の場所に来ていた。
「おしっ!」
ある部屋のドアの前で俺は意気込みいきおいよくドアを開ける。
ガラガラッ
「失礼しまーす。一ノ瀬先生いますか?」
:08/11/19 07:46 :P902iS :☆☆☆
#165 [果樹]
「はい?何ですか?」
入り口で大声で叫ぶと奥の方からイッチーが顔を覗かせた。
俺はそのままイッチーの側まで行く。
「ちょっと相談したいことがあるんすけどいいですか?」
「はい」
俺はイッチーを廊下まで連れ出す。
:08/11/19 07:47 :P902iS :☆☆☆
#166 [果樹]
「相談ていうのは何ですか?」
イッチーの言葉を合図に俺はキッとイッチーを睨みつける。
「もうこれ以上まなちゃんに近付くな」
イッチーは少しの沈黙の後、間の抜けた声を出す。
「えーと・・まなちゃんとは・・?」
:08/11/19 07:47 :P902iS :☆☆☆
#167 [果樹]
俺はその言葉にイラッとしてつい声を荒げる。
「武藤愛実!家に行ったり。あんた仮にも教師だろ?教師が生徒誘惑してんじゃねぇ。言いたいことはそんだけだ」
それだけ言って俺はイッチーをもう一睨みしてからその場を去る。
:08/11/19 07:48 :P902iS :☆☆☆
#168 [果樹]
――――・・・
「あれ・・・?」
教室に行くと逞がいなかった。
不思議に思いながらも私は席に座る。
そわそわしながらも待っているとチャイムが鳴るギリギリで逞は教室に入ってきた。
:08/11/19 07:49 :P902iS :☆☆☆
#169 [果樹]
逞が席につく前何故かバチンとウインクされた。
意味がわからない。
私は不安なままその日一日を過ごすこととなった。
――――・・・
今日も慶は来るんだろうか?
でももう少し用心しないと・・・。
:08/11/19 07:49 :P902iS :☆☆☆
#170 [果樹]
まさか見られてるなんて思わなかったし、しかも逞。
本当に最悪だ。
ガチャリと玄関の鍵を開け私は暗い気分のまま中に入る。
「ただいまー・・・」
ニャーン
私が帰って来たのに気付いたモアが一目散にすっとんできた。
:08/11/20 13:51 :P902iS :☆☆☆
#171 [果樹]
私はモアを抱き上げて部屋に向かう。
「お父さんお母さんただいま」
写真の中で笑う父と母にいつものを言って、着替えて部屋を出る。
キッチンに入り冷蔵庫から夕飯の食材を取り出す。
最近は慶が夕食も食べて行くため私は二人分の夕飯を用意する。
:08/11/20 13:52 :P902iS :☆☆☆
#172 [果樹]
トントントン
カシャカシャ
ジュウゥ・・・
夕飯の準備をしながらたまに携帯を覗くが慶からの連絡はない。
もう6時を回っているのに・・・。
――――・・・
「はぁ」
テーブルの上に並んだ料理を見ながら私は溜め息をつく。
:08/11/20 13:52 :P902iS :☆☆☆
#173 [果樹]
時間は夜の9時。
結局慶は来なかった。
何やってるんだろう私。
馬鹿みたい。
私は冷えきった料理をタッパーに移して冷蔵庫にしまう。
ソファに寝転び片腕をだらりと垂らし指先でモアと遊ぶ。
:08/11/20 13:53 :P902iS :☆☆☆
#174 [果樹]
「モアは慶が好き?」
ミャーン
モアの鳴き声はなんだか肯定しているように聞こえた。
「ふふっそっか。明日は来るといいね」
私はモアを抱き締めて眠りについた。
:08/11/21 04:13 :P902iS :☆☆☆
#175 [果樹]
――――・・・
それから慶はぱったりと家にこなくなった。
学校で話しかけてもかわされ、電話をしても忙しいからと切られた。
心当たりが何もないまま1週間が過ぎ、また1週間が過ぎた。
そして慶は教育実習期間を終えて学校を去っていった。
:08/11/21 04:13 :P902iS :☆☆☆
#176 [果樹]
――――・・・
家に帰った私はソファでモアを抱き締めながら話しかける。
「ごめんねモア。もう慶は来ないんだ・・」
ニャーン
「ごはん。たくさん残ってるから冷凍しなきゃね」
ンニャー
:08/11/21 16:33 :P902iS :☆☆☆
#177 [果樹]
冷蔵庫には慶がいつ来てもいいようにと少し多めに作ったごはんがところ狭しと並んでいた。
「たくさん遊んで貰えてよかったね」
ニャン
「でも少し寂しくなっちゃったね・・」
私の言葉はシーンとした部屋の中で嫌になるくらい響いた。
:08/11/21 16:33 :P902iS :☆☆☆
#178 [果樹]
――――・・・
最近まなちゃんの元気がない。
学校に来ても溜め息ばっか。
原因はなんとなくわかる。
「はぁ・・・」
ほらまた溜め息。
「まーなちゃんっ」
無視ですか・・・。
:08/11/21 16:34 :P902iS :☆☆☆
#179 [果樹]
笑顔がみたくて笑いかけてほしくて声をかけてもまなちゃんは一回も俺に笑ってくれたことはない。
イッチーにはあんな笑顔で笑うのに・・・。
転校してきたその日に俺はまなちゃんを好きになった。
無愛想で言葉がきつくて、なのに綺麗でどこか弱そうで俺はまなちゃんに惹かれていた。
:08/11/21 16:45 :P902iS :☆☆☆
#180 [果樹]
俺がぼけーっとまなちゃんを見ているとガタンとまなちゃんが席を立つ。
「あれ?どこ行くの?」
「・・・帰る」
「え!?な、なんで?」
驚いて目を丸くする俺にまなちゃんは
「つまんないから」
と言ってスタスタと教室を出ていってしまった。
:08/11/21 16:46 :P902iS :☆☆☆
#181 [果樹]
俺はその後ろ姿を口を開けて見ていた。
――――・・・
私の生活は元に戻るだけ。
ただそれだけ。
慶が来る前の生活に・・・。
なのに胸にぽっかりと穴が空いたような空虚感はなんなんだろう。
:08/11/22 23:59 :P902iS :☆☆☆
#182 [果樹]
ぼーっと歩いているとモアを拾った道、そして初めて慶と会った道に出た。
あの時の慶の笑顔が頭から離れない。
二度目に会ったのはその次の日。
警戒心のない少年のような無邪気な笑顔だった。
三度目は学校に教育実習生として来た慶に会った。
:08/11/22 23:59 :P902iS :☆☆☆
#183 [果樹]
驚いたけど優しい笑顔は変わってなかった。
一緒にご飯を食べてモアと遊んで慶が笑っていたあの日々がなんだか懐かしくて・・・。
私は慶との思い出を振り払うように走って家に帰った。
――――・・・
慶が学校を去ってから一週間が過ぎ。
一ヶ月が過ぎ。
二ヶ月が過ぎていった。
:08/11/23 00:00 :P902iS :☆☆☆
#184 [果樹]
私の生活は前に戻った。
何にも関心を持たず干渉せず、過ごしていた。
「暇だなぁ・・・」
今日は日曜日。
出掛ける場所もなく、私は家でソファに寝転びながら呟く。
洗濯も終わって掃除もしてしまいやることが無い私はただぼーっと天井を見つめた。
:08/11/23 00:00 :P902iS :☆☆☆
#185 [果樹]
ピーンポーン
そんな時、部屋の中に人が来たことを告げるチャイムが鳴り響いた。
私はむくっと起き上がりインターホンの受話器を取る。
「はい」
『あの・・・武藤さんですか?』
私は受話器から聞こえた声に驚いて受話器を落としそうになった。
:08/11/23 00:02 :P902iS :☆☆☆
#186 [果樹]
うそ・・・でしょ。
『あの・・武藤さん?』
返事をしない私を不思議に思ってか受話器からは、しきりに私を呼ぶ声が聞こえる。
私はガチャンッと受話器をインターホンに戻し、玄関に走った。
――――・・・
エレベーターを待っている時間も惜しくて私は下に行くボタンを何度も押した。
:08/11/23 00:03 :P902iS :☆☆☆
#187 [果樹]
早くっ早く・・・っ
――――・・・
ガチャとマンションの正面玄関を開けるとそこには私の求めていた人・・・慶がいた。
正面玄関を開けるボタンキーの前で何度も通じることのない部屋の番号を押していた。
「あ・・・」
私に気付くと気まずそうに目線を下に向ける。
:08/11/27 04:09 :P902iS :☆☆☆
#188 [果樹]
私はその態度が頭にきて慶に詰め寄った。
「なんで・・っ。何で今まで来なかったの?学校では避けるし電話はすぐ切るし。今更になって何で・・」
「すみません・・」
慶の胸ぐらを掴み揺さぶる私に慶は謝る。
「すみませんじゃない!学校はさっさと辞めて大学に帰るし。あんたの為に作ったご飯は無駄になっちゃうしモアは寂しがるし。今頃になっていきなり何よ・・!」
:08/11/27 04:11 :P902iS :☆☆☆
#189 [果樹]
一気に巻くし立てたせいで私は息が荒くなる。
「あの・・怒るのは最もなんだけどとりあえず場所変えない?」
「え?!」
慶の言葉で周りを見て私は硬直する。
ここはマンションの真ん前。
目の前には多くの通行人。
:08/11/27 04:11 :P902iS :☆☆☆
#190 [果樹]
公道に面するこのマンションの前であんな大声を張り上げたものだから私達はいつのまにか注目の的となっていた。
流石にこの場での言い争いはまずいと判断した私は慶を部屋にあげることにした。
――――・・・
「はいどーぞ」
コトンとコーヒーが入ったマグカップを置くと慶がペコっと頭をさげる。
:08/11/27 04:12 :P902iS :☆☆☆
#191 [果樹]
長らく放置して本当にすみませんでした
実は愛の在り処を諸事情で打ち切りにしたいと思います(>_<)
というか新しく改訂版として書き直したいんです!!
愛の在り処を読んで下さっていた皆様には大変申し訳ないです
話を少し変えて再び愛の在り処を書くつもりなのでその時、もしお付き合いいただけるのであればまた読んで下さいm(__)m
とりあえずこのスレは削除依頼出しておきます。
:08/12/19 07:00 :P902iS :☆☆☆
#192 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age
:22/10/08 20:22 :Android :xK0uSzd2
#193 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a
:22/10/08 21:12 :Android :xK0uSzd2
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