鬼が哭くよるに
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#55 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

秋吉は目を覚ました。

寝惚け眼で天井を見つめていると、何やら味噌汁の薫りが漂ってくる。

それだけではない。

まな板に細かく包丁が打ち付けられる音に、桶にはられた水で鍋を洗う音まで聞こえてきたのである。

⏰:08/08/16 10:39 📱:L704i 🆔:be.0TE3Q


#56 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

誰かいるのか。

秋吉はいよいよ恐ろしくなり、静かに床から這い出した。

この時に秋吉は少しの違和感を感じたが、特に気に止めることもなく、怪しい音のする所へと忍び足で向かう。

⏰:08/08/16 15:29 📱:L704i 🆔:be.0TE3Q


#57 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「…………」

桶やら鍋やらが詰め込まれている部屋を覗く。

とたんに秋吉は心のなかで悲鳴を上げた。

⏰:08/08/16 15:36 📱:L704i 🆔:be.0TE3Q


#58 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

そこには、薄手の赤い着物を着て、吸い込まれてしまいそうになるほど黒々しい髪が腰まで伸びたおなごがいたのだ。

このような者、長屋にはおらぬぞ。

秋吉は恐怖におののき後ずさる。

⏰:08/08/16 15:46 📱:L704i 🆔:be.0TE3Q


#59 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

それが失態であった。

古く傷んだ長屋の床は、時折、足で踏むたびに板同士が軋(きし)んでキイイ、と悲鳴のような音を出した。

その為、秋吉が後ずさった後ろ足が傷んだ板を踏み、目の覚めるような音を出したのである。

⏰:08/08/17 14:53 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


#60 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

おなごはその音に気づき、首を不自然にねじ曲げて此方を向いた。

命ある人間のものとは思えぬ生気のない青白い瓜ざね顔に、血のように赤い紅がひかれた小さな唇が印象だった。

おなごは白い歯を覗かせて、無邪気に笑う。

⏰:08/08/17 15:01 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


#61 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「起きておられたのですか、秋吉様。もう御飯の仕度はできておりますよ」

秋吉は絶句した。

己に笑顔を向けるおなごに、見覚えがあった。

一時たりともけして忘れたことはない、愛しい顔である。

⏰:08/08/17 15:03 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


#62 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

おなごは秋吉の前に近づいていくと、優しくその手を取った。

秋吉の肩が跳ね、虚ろな目がおなごをとらえる。

その目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。

⏰:08/08/17 15:06 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


#63 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

慈しむように、労るように、恐れるように、秋吉はおなごの白い頬に手を添えた。

おなごの頬の柔らかさが、血の通った肌の血色と温かさが、手を伝い秋吉の全身に揺るぎない真実を伝える。

⏰:08/08/17 15:08 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


#64 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]

「……お宮。お主、真に、お宮なのか……?」

おなごは頷いた。

それがおなごの秋吉に対する答えだった。

⏰:08/08/17 15:09 📱:L704i 🆔:P3f9E//o


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