鬼が哭くよるに
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#1 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
おや、これはこれは旦那じゃあないですかい
毎度、御贔屓に…
いやはや、此処のところ見掛けませんでしたが御元気でしたかい?
さあさ立ち話は何ですから中へどうぞ…
骨董屋に入る
>>2
:08/08/13 14:56
:L704i
:Fm6tqpd2
#2 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
ははあ、そうですか…
最近はこの辺りに辻斬りが現れるそうで、同心をなされている旦那はさぞかし労しいことでしょうなあ…
まったく物騒な世の中になったもんです
……、え、あの桐箱は何か、ですって……?
更に問い詰める
>>3
:08/08/13 14:59
:L704i
:Fm6tqpd2
#3 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
はあ、この桐箱で御座いますか?
ああ、生憎、この桐箱の中身の人形は曰く付きの代物でして、わたくしも見たことはないのです
そんな、いくら金を積まれたって御譲りはできませんよ、いやあ、参った、参った
わたくしは何があっても責任は負えませんぜ
それでも、御覧になられるのですかい?
桐箱を開く
>>2
:08/08/13 15:01
:L704i
:Fm6tqpd2
#4 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
これは、たまげた…
まさか、桐箱の中身がこんなに美しい人形だったとは驚きましたな
いやはや、この肌の瑞々しさといい黒々とした髪の艶といい…
……、恐ろしや…
これは本当に人形か?
人形を抱き上げる
>>4
:08/08/13 15:03
:L704i
:Fm6tqpd2
#5 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
だ、だ、旦那!
いくら旦那でも勝手な事はしねえでくだせえ
だ、だから、その人形はもうすぐ人形寺に供養に出すつもりなんですから、いくら頼まれても…
……!
あんた、どうしちまったんだいその眼は、まるで何かにとり憑かれてるみてえな…
主人を斬る
>>5
:08/08/13 15:04
:L704i
:Fm6tqpd2
#6 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
なんですか、その刀をどうするおつもりで?
おおーい! 誰でもいい、早く誰か来てくれ、旦那が人形にとり憑かれちまったあ!
あ、そこのあんた、同心の御方かい?
あの刀を振り回す気違いと不気味な人形をどうにかしてくれ!
人形と逃げる
>>7
:08/08/13 15:05
:L704i
:Fm6tqpd2
#7 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
よし、有難うよ、同心の御方と通りすがりの皆さん
ああ、人形はそのまま縛ったままで、旦那の目の届かないところに…
まったく、寿命が縮んだよ
さあ旦那、正気にお戻りくだせえ、ほら、水を飲んで目を閉じて…
水を飲む
>>8
:08/08/13 15:07
:L704i
:Fm6tqpd2
#8 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
旦那、眼が正気に戻ってますぜ
ああ良かった、良かった
へえ、これは梅さん、どうしたんだい?
はあ、あの不気味な人形を知ってるって、それは本当かい?
主人と皆に謝る
>>8
:08/08/13 15:10
:L704i
:Fm6tqpd2
#9 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
そんな、いいんですよ、わたくしも悪かったんだ
無事で何より
なんだい、先程のいざこざもあって人だかりができちまったねえ
こんな暑い日だ、皆で怪談話と洒落込もうかい
梅さん、頼むよ…
梅の話を聞く
>>9
:08/08/13 15:11
:L704i
:Fm6tqpd2
#10 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
その昔のこと、偉大な帝を亡くした京の町は人も物も全てが荒れ果てた
そんな時代に、源川秋吉は生きていた
妻子には流行り病で先立たれ親族は誰一人いない
埋まらぬ虚無をただひたすら満たそうとするかの如く身寄りの無い女を漁るように抱き
不味い酒や掛け金すらない博打に溺れる日々
希望などない
生きる意味さえ解らない
そんな時、秋吉は偶然薄汚れた桐箱を拾う
その中には息を飲むほど美しいおなごの姿をした人形がいた
そこから、その人形をめぐる輪廻は始まったのだ
:08/08/13 15:13
:L704i
:Fm6tqpd2
#11 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
:08/08/13 15:40
:L704i
:Fm6tqpd2
#12 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
辺りが濃霧におおわれ、朧月が妖しく煌めく夜、その男、源川秋吉(みなみがわあきよし)は焦点の定まらぬ目を光らせ林の中を駆けていた。
草鞋(わらじ)は鼻緒が両方とも千切れ、もはや草鞋としての役割を成してはいない。
着物は胸元がはだけていた。
:08/08/13 15:59
:L704i
:Fm6tqpd2
#13 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
けれども、そんなことを気にしてはいられない、否、気にならないほど秋吉は先を急いでいたのだ。
「まだ着かぬか、まだ着かぬのか。ええい、この足を切り落としてやりたい。すぐに疲れたと泣き寝入りする、この心臓を一突きしてやりたい」
:08/08/13 16:28
:L704i
:Fm6tqpd2
#14 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
水気を含んだ生温い風が木々を撫でて、木の葉の擦れあう音が不気味に絶え間なく響いている。
秋吉にはその音が、お宮の泣き声に聞こえていた。
やがて秋吉の前に小汚ない小屋が現れた、と同時に秋吉は足を止めた。
:08/08/13 16:30
:L704i
:Fm6tqpd2
#15 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
荒れる息を無理矢理抑え、乱れた着物や髪を直す。
「無事であれよ、お宮」
小屋の扉には、錆びてはいるものの重量感のある鉄で出来た、立派な閂がこしらえてあった。
それを秋吉は手慣れた手付きで外した。
:08/08/13 16:33
:L704i
:Fm6tqpd2
#16 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
小屋の中は、雨漏りのために床に所々水溜まりができており、埃は宙を舞い、壁や床に白い膜を張っていた。
家具類は一切ない。
:08/08/13 16:37
:L704i
:Fm6tqpd2
#17 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
ただ、小屋の中央には異様に大きい桐箱がひとつ、置かれている。
それにも埃がたまっていた。
:08/08/13 16:38
:L704i
:Fm6tqpd2
#18 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
Break Time
暑中見舞い申し上げます。うだるようなこの夏、いかがお過ごしでしょうか?
主はホラー作品は「鬼の哭くよるに」、これが処女作だったりします。
ヒンヤリするどころか逆にヤボったくてムシムシしてきた、という苦情が感想板に殺到しそうなものになりそうです。
どうしよう(´・ω・`)
:08/08/13 17:00
:L704i
:Fm6tqpd2
#19 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
:08/08/13 17:04
:L704i
:Fm6tqpd2
#20 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
桐箱には「お宮」と書かれた白い札が貼られ、蓋と箱は赤糸で離れないよう入念に絡めてある。
秋吉はお宮に逢える期待に胸を膨らませながら、震える手で桐箱の赤糸を解いていった。
:08/08/13 18:25
:L704i
:Fm6tqpd2
#21 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
両手で左右を掴み桐箱の蓋を持ち上げると、箱の中に月明かりが射し込み中に在る物を照らす。
桐箱の中には、純白の絹でできた綿布団の上に、澄んだ眼(まなこ)を大きく見開き、此方をじっと見据えた「お宮」が横たわっていた。
秋吉は安堵の溜息をもらす。
:08/08/13 19:34
:L704i
:Fm6tqpd2
#22 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「無事であったか、お宮。山賊や見知らぬ輩にお主を奪われていないか、この身が裂けんばかりに心配していたぞ。お主は相も変わらず美しいことよ」
秋吉は、恍惚とした表情でお宮の艶やかな髪を優しく撫でた。
:08/08/13 19:47
:L704i
:Fm6tqpd2
#23 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
お宮というのは、秋吉が拾った日本人形だった。
しかし、人形というにはあまりに大きく、その身の丈ときたら本物のおなごと大して変わらぬものであるのだ。
:08/08/13 21:00
:L704i
:Fm6tqpd2
#24 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
きらびやかな着物を脱がせば、童顔には似合わぬふくよかな白い乳房がある。
体の節々、いわゆる肘や膝にはある程度曲げる為の「繋ぎ目」というものが見当たらない。
しかしお宮の腕や足は自由に動いた。
:08/08/13 21:25
:L704i
:Fm6tqpd2
#25 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
瞳は先程水で濡らしたように常に潤み、唇は紅を挿したてのように鮮やかでみずみずしい。
お宮は、人形らしくない、限りなく人間に近い「人形」だった。
:08/08/13 21:26
:L704i
:Fm6tqpd2
#26 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
けれども、秋吉はお宮を不気味がることなく、彼女を人間同等(もしくはそれ以上かもしれない)に愛したのである。
お宮はそんな秋吉の想いに答えるように、日に日にその美しさを増していった。
:08/08/13 21:34
:L704i
:Fm6tqpd2
#27 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「こんな汚ならしい小屋にお主を閉じ込めて面目ないな。環境は人を変えるという、お主の美しさも色褪せよう。もうすぐ妻であるお主に相応しい部屋をやる。それまでの辛抱だぞ」
「…………」
「そうか。お主は健気よのう」
:08/08/13 22:13
:L704i
:Fm6tqpd2
#28 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
お宮は当然、答えない。
しかし、秋吉にはお宮の声なき声が確かに聴こえていた。
:08/08/13 22:13
:L704i
:Fm6tqpd2
#29 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
:08/08/13 22:19
:L704i
:Fm6tqpd2
#30 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「さあ、お宮、髪をといてやろうぞ」
そう言うと、秋吉は、懐(ふところ)から赤い漆塗りの櫛を取り出した。
それは、桐箱を拾った時、お宮の傍らに置かれていた櫛であった。
:08/08/14 12:37
:L704i
:djKd2ZK.
#31 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
今にも砕け散らんとする天鵞絨(ビロード)であるかのように、ひどく優しくお宮を抱えあげた。
お宮の長く伸びた髪が秋吉の顔を簾(すだれ)のように覆った。
:08/08/14 12:59
:L704i
:djKd2ZK.
#32 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
秋吉の緊迫を孕んだ手を伝い、重点の定まらない、まるで膓(はらわた)のつまった生き物のような重さを感じる。
秋吉は思わず息を呑んだ。
:08/08/14 13:47
:L704i
:djKd2ZK.
#33 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「お宮、お主の美しさときたら、もはや感嘆の溜息しか出ぬわ」
秋吉の瞳に、人形の美しい顔が映った。
:08/08/14 14:15
:L704i
:djKd2ZK.
#34 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
睫毛は黒炭のように黒ぐろしく艶めき、こちらを見る瞳は底無しの湖のような深く、透き通った輝きがある。
肌は雪の如しである。
なんとまあ、この世にこのような艶かしさを兼ね備えた人形があろうとは思わなんだ。
:08/08/14 14:16
:L704i
:djKd2ZK.
#35 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
誰がお宮を造り、お宮を捨てたのかは知らぬ。
しかし、その因果にわしは感謝するしかあるまい。
秋吉は思った。
:08/08/14 14:19
:L704i
:djKd2ZK.
#36 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「そうだ、お宮、今日はお主に伝えたいことがあるのだ」
お宮を抱き寄せて膝に乗せ、秋吉は言った。
「お主と出会ってからというもの、仕事に精が出てな。幾らか金に余裕が出来たゆえ、住(すまい)を都に移すことにしたのだ。どうだ? 嬉しかろう?」
「…………」
:08/08/14 20:47
:L704i
:djKd2ZK.
#37 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
秋吉は内気な男だった。
それゆえに仕事場では仕事をこなす力量はあるが同僚に愛想の悪い者として避けずまれてきた。
:08/08/14 21:40
:L704i
:djKd2ZK.
#38 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
しかし、お宮を拾ってからというもの、お宮に幾度となく自身を持たれよと励まされ続けた。
結果、お宮の必死の呼び掛けが実を結び、秋吉は「他人を労れる類い稀なる優男」に見事変貌したのである。
:08/08/14 21:42
:L704i
:djKd2ZK.
#39 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「京の都には腕利きの人形職人がおるでな。お主の手入れもより一層と磨きがかかろうぞ」
それから間もなくして、秋吉はお宮と共に京の都へと住を移した。
:08/08/14 21:46
:L704i
:djKd2ZK.
#40 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
その頃、京では強盗やら家事やらが流行していた。
その為、一軒家を建てたり町中の大きな長屋などに住むのは止めて、町外れの老夫婦が管理する小さな長屋を選んだ。
長屋の住人は皆、人の良い秋吉を快く受け入れて歓迎した。
お宮に異変が現れたのは、それから間もなくした蝉の鳴き始める初夏のことであった。
:08/08/14 21:48
:L704i
:djKd2ZK.
#41 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
秋吉は以前にも増して仕事に精を出し、京の都での長屋暮らしにも随分と慣れてきていた。
お宮も腕利きの人形職人に定期的に手入れを施され、美しさを増した。
長屋の衆とも交友は順調で、なに不自由ない生活を送れていることを、不意に、恐ろしく感じることもあった。
:08/08/14 21:55
:L704i
:djKd2ZK.
#42 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
そんなある日、異変が起きた。
秋吉が何時も通りに仕事から変えると、長屋の裏庭にある物干し竿に干してあった筈の洗濯物が取り込まれていた。
長屋の誰かが気を利かせて取り込んでくれたのだろう。
:08/08/14 22:55
:L704i
:djKd2ZK.
#43 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
秋吉はそう解釈し、長屋の衆に誰が取り込んでくれたのかを聞いてまわった。
しかし、そこで可笑しなことがおきる。
:08/08/14 23:07
:L704i
:djKd2ZK.
#44 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
誰一人として、秋吉の洗濯物を取り込んでなどいないと言うのだ。
洗濯物が一人でに動くわけもなく、秋吉は不思議なこともあると首を傾けた。
:08/08/15 12:39
:L704i
:IknIGERo
#45 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
それだけではなかった。
その後、昼寝をしている間にお茶が準備されていたり、いつの間にか煮物がこしらえてあったりと不思議なことが立て続けに起こったのだ。
秋吉は流石に気味が悪くなり祈祷師に祓いを頼んだ。
:08/08/15 18:34
:L704i
:IknIGERo
#46 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
祈祷師が言うには、狐狸の類いの仕業であるから部屋に札を貼り塩をまけとのことだった。
札も貼った。
塩もまき念仏も唱えた。
けれど異変はおさまらない。
:08/08/15 20:00
:L704i
:IknIGERo
#47 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
しかし、強がりを言っても秋吉も生身の人間。
不安で眠れぬ夜が続いた。
:08/08/15 20:24
:L704i
:IknIGERo
#48 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「お宮、可哀想に、家に一人残されたお主は恐ろしかろう。どうしたものか……。何とかせねばな……」
その夜も秋吉はお宮と寄り添い寝ていた。
:08/08/15 20:46
:L704i
:IknIGERo
#49 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
不安と恐ろしさで気がおかしくなりそうになる秋吉を癒すのは、最早、お宮しかいなかった。
「わしは恐ろしい。わしが何をしたというのだろうか。狐狸を殺めた覚えもない。居心地の良い長屋を離れたくもない。どうすれば良いのだ」
「…………」
:08/08/15 21:00
:L704i
:IknIGERo
#50 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
鈴虫の鳴き声が微かに聴こえてくる。
「静か、だな」
ふと、秋吉は妻子が生きていた頃のことを思い出していた。
:08/08/15 21:01
:L704i
:IknIGERo
#51 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
見て、蚊帳の外に蛍がいると、無邪気に笑う息子の可愛らしい声。
愛しております、と顔を赤く染めて秋吉に優しく微笑みかける美しい妻。
二度と戻らぬ、優しい思い出があふれだす。
秋吉は涙していた。
:08/08/16 07:33
:L704i
:be.0TE3Q
#52 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「お宮、わしは、恐ろしいのだ」
「…………」
「狐狸の災いも、思い出も、何もかもが恐ろしいのだ」
秋吉はお宮をきつく抱き締め、その胸に顔を埋めて追憶を無理矢理に遮った。
:08/08/16 08:38
:L704i
:be.0TE3Q
#53 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「今は、わしにはお主しかおらぬ。故に、お主しか見えぬのだ」
お宮の白く華奢な手を握り、接吻した。
秋吉は恥ずかしさのあまりに頬を紅に染めあげて布団に潜り込んだ。
:08/08/16 09:13
:L704i
:be.0TE3Q
#54 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
ご安心ください。
貴方様の不安も、思い出も、わたくしが全て忘れさせてあげましょう。
布団越しに、そのようなお宮の言葉が確かに聞こえてきた。
秋吉はお宮の無償なる温もりを胸に抱えたまま、微睡みに身をゆだね眠りについた。
:08/08/16 09:29
:L704i
:be.0TE3Q
#55 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
秋吉は目を覚ました。
寝惚け眼で天井を見つめていると、何やら味噌汁の薫りが漂ってくる。
それだけではない。
まな板に細かく包丁が打ち付けられる音に、桶にはられた水で鍋を洗う音まで聞こえてきたのである。
:08/08/16 10:39
:L704i
:be.0TE3Q
#56 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
誰かいるのか。
秋吉はいよいよ恐ろしくなり、静かに床から這い出した。
この時に秋吉は少しの違和感を感じたが、特に気に止めることもなく、怪しい音のする所へと忍び足で向かう。
:08/08/16 15:29
:L704i
:be.0TE3Q
#57 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「…………」
桶やら鍋やらが詰め込まれている部屋を覗く。
とたんに秋吉は心のなかで悲鳴を上げた。
:08/08/16 15:36
:L704i
:be.0TE3Q
#58 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
そこには、薄手の赤い着物を着て、吸い込まれてしまいそうになるほど黒々しい髪が腰まで伸びたおなごがいたのだ。
このような者、長屋にはおらぬぞ。
秋吉は恐怖におののき後ずさる。
:08/08/16 15:46
:L704i
:be.0TE3Q
#59 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
それが失態であった。
古く傷んだ長屋の床は、時折、足で踏むたびに板同士が軋(きし)んでキイイ、と悲鳴のような音を出した。
その為、秋吉が後ずさった後ろ足が傷んだ板を踏み、目の覚めるような音を出したのである。
:08/08/17 14:53
:L704i
:P3f9E//o
#60 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
おなごはその音に気づき、首を不自然にねじ曲げて此方を向いた。
命ある人間のものとは思えぬ生気のない青白い瓜ざね顔に、血のように赤い紅がひかれた小さな唇が印象だった。
おなごは白い歯を覗かせて、無邪気に笑う。
:08/08/17 15:01
:L704i
:P3f9E//o
#61 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「起きておられたのですか、秋吉様。もう御飯の仕度はできておりますよ」
秋吉は絶句した。
己に笑顔を向けるおなごに、見覚えがあった。
一時たりともけして忘れたことはない、愛しい顔である。
:08/08/17 15:03
:L704i
:P3f9E//o
#62 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
おなごは秋吉の前に近づいていくと、優しくその手を取った。
秋吉の肩が跳ね、虚ろな目がおなごをとらえる。
その目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
:08/08/17 15:06
:L704i
:P3f9E//o
#63 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
慈しむように、労るように、恐れるように、秋吉はおなごの白い頬に手を添えた。
おなごの頬の柔らかさが、血の通った肌の血色と温かさが、手を伝い秋吉の全身に揺るぎない真実を伝える。
:08/08/17 15:08
:L704i
:P3f9E//o
#64 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「……お宮。お主、真に、お宮なのか……?」
おなごは頷いた。
それがおなごの秋吉に対する答えだった。
:08/08/17 15:09
:L704i
:P3f9E//o
#65 [神崎もえ子◆Hi9o8eIXuA]
「昨夜、貴方様はわたくしに魂を吹き込まれました。秋吉様。わたくしは生きております。人間のおなごのように、呼吸をして胸を高鳴らせ血を全身にめぐらせ、……生きているのです」
お宮も涙していた。
二人はその後、背に手を回してきつく抱き合い、ただひたすら泣いた。
:08/08/17 15:58
:L704i
:P3f9E//o
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