【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#98 [◆1jVUKlu67k]
「もう2年か……」
湿った髪の毛をドライヤーで乾かしながら、太郎は2年前の記憶の糸を手繰り寄せる。
彼女と出会ったのは、薔薇の刺のようにチクチクとした鋭い風が吹き荒れる冬の日。
当時彼女は週に一回水曜日に、駅前でティッシュを配るアルバイトをしていた。
:08/09/14 16:37 :F905i :☆☆☆
#99 [◆1jVUKlu67k]
茶色に染めた短い髪を冷たい風になびかせながら、一生懸命ティッシュを配る姿に、気付いたらもう釘付け。
それからと言うもの、毎週水曜日は何度も彼女の前を通り、数え切れないほどのティッシュを家に溜めていった。
そんなストーカー混じりの行為を毎週していれば、さすがに彼女も気付くわけで……
「あの、そんなにティッシュ欲しいんですか?」
キレイに整えられた眉をひそめ、苛立ちを露わにして問う。
:08/09/14 16:38 :F905i :☆☆☆
#100 [◆1jVUKlu67k]
明らかに自分は嫌悪されていると分かってはいるものの、みるみるうちに自分の中の“何か”がキュウっと締め付けられる。
人はこれを切なさと呼ぶのだろうか。
「いや、あの、目的はティッシュじゃなくて、あなたなんです……あれ?」
この言葉はまずい、と思った瞬間にはもう遅かった。
乾いた音が冬空に響く。
:08/09/14 16:38 :F905i :☆☆☆
#101 [◆1jVUKlu67k]
彼女は顔を真っ赤にしながら、太郎の右頬を思いっきりひっぱたいたのだ。
「私が目的!?この変態!!!!」
ティッシュと共にその言葉を投げ捨て、彼女は去っていった。
“今思い出しても、あのビンタは強烈だったな”
水分を含んでいた髪も、今では水気を失い、一本一本が芯を持つ。
:08/09/14 16:39 :F905i :☆☆☆
#102 [◆1jVUKlu67k]
彼女との思い出が懐かしくてなのか、頬にふれる毛先がくすぐったくてなのか、いつのまにか頬がゆるんでいるのが自分でも分かった。
出会いは最悪。
自分に対しての第一印象も最悪。
こんな状況から二人が付き合うようになったのには、太郎のマメな性格と、彼女に気に入られようとする血の滲むような努力が実を結んだものだった。
:08/09/14 16:40 :F905i :☆☆☆
#103 [◆1jVUKlu67k]
ビンタを食らってからは、毎日のように謝罪の言葉を言った。
ことごとく無視されたが。
何回目かの謝罪で彼女の誤解も解け、許してくれた時に食事に誘った。
そこで1回目の告白。
まぁ、フラれたのだが……。
けれど根気強く、何度も食事に誘い、何度も告白した結果、今に至ることができた。
:08/09/14 16:40 :F905i :☆☆☆
#104 [◆1jVUKlu67k]
「あ〜あ。明日は指輪渡せたらいいな……」
小さな小箱に入った、小さい指輪を手にとって眺める。
こんな小さな輪っかで彼女の愛をつなぎ止められるのなら、いくらでも自分は買う。
けれど、この指輪はそんな陳腐なものじゃない。
もっと大切な……
二人をつなぐ、目に見える絆。
:08/09/14 16:41 :F905i :☆☆☆
#105 [◆1jVUKlu67k]
そう。これは一方的につなぎ止める鎖ではなく、二人で支え合っていくための証。
そして太郎は指輪を割れ物を扱うかのように大切に鞄にしまい、自身も毛布にくるまった。
「明日こそ、ちゃんと言わなきゃ……」
そう呟くと、自然と閉じてきた瞼に逆らうことを止め、太郎は深い眠りについた。
:08/09/14 16:41 :F905i :☆☆☆
#106 [◆1jVUKlu67k]
――――――…………
ある晴れた春の日。
木造の小さな家の中に少年と一人の女性がいた。
少年はソファーの上に寝っ転がり、女性は短く切られた髪の毛を揺らしながら、リズムよく野菜を刻む。
そんな当たり前の風景の中を柔らかい風が吹き抜けると、不思議とその部屋が一枚の絵画のような穏やかな空間へと変わる。
:08/09/14 16:42 :F905i :☆☆☆
#107 [◆1jVUKlu67k]
「……ねぇ母さん。今日結婚記念日でしょ?親父ってプロポーズの言葉なんて言ったの?」
寝っ転がってテレビを見ていた少年は思い出したように起き上がり、好奇心のまなざしで女性を見る。
少年の体格はもう大人だが、真っ直ぐに母をとらえた瞳はまだまだ子供のような無邪気な面影を残していた。
「まぁ、小太郎もマセたこと聞くようになったのね〜。母さん感激!!」
:08/09/14 16:42 :F905i :☆☆☆
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