【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#197 [◆KHkHx8enOg]
月曜日の朝になった。
退屈とは拷問に近い。
孝がいるから学校に行く気もしないし、家に帰る気もしない。
私はいつか消えるのだろうか。
その時は昨日の気持ちも消えていくのだろう。
その先には天国か地獄があるのかな。
その時は昨日の気持ちも一緒に持って行くのだろう。

私は初めて自分が女々しいことに気付いた。
こうした考えを巡らすのは、隠したはずの気持ちが漏れだしている証拠ではないか。
振り出しに戻った気がした。
心が空っぽになった気がした。
膝をぱんっ、と叩いて立ち上がる。

⏰:08/09/14 18:38 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#198 [◆KHkHx8enOg]
「私、これからどうしようかな」

気が重いがとりあえず家に帰ろうか。
ふらふらと家の方角に歩き出した。

家の前に着いた。
玄関先には父と母の姿があった。

「じゃあ、行ってくる」

スーツ姿の父が鞄を下げて手を上げる。

「行ってらっしゃい」

「今日は早めに帰るよ」

父がそう言うと母は笑った。

⏰:08/09/14 18:39 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#199 [◆KHkHx8enOg]
「早く帰りたい、でしょ?」

「まぁ、そうだな。じゃ、そろそろ行ってくる」

「はいはい。私もこのまま出ますよ」

「…良枝。これから、頑張ろうな」

微笑む父に母はまた笑った。
私は何故か違和感を覚えたが、父に「いってらっしゃい。頑張ってね」と声を掛けると玄関に向かった。

⏰:08/09/14 18:39 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#200 [◆KHkHx8enOg]
リビングに上がると違和感が一気に増した。
違う。
何かが違う。
仏壇に私の写真がない?
母の笑顔が頭にちらつく。
父の言葉が頭を過ぎる。
「頑張ろうな」
頑張ろうな?
昨日から何かが変だ。
前向きだが、何かが違う。
私は母が家に入って来ないことに気付いた。
母の声が再生される。
「私もこのまま出ます」
出る?何処へ?
何故一昨日帰ってこなかった?
何故一昨日普段着だった?
私は弾かれたように家を出た。
キョロキョロと辺りを見渡せば、彼方に母の後ろ姿が見えた。
私は走って後を追った。

⏰:08/09/14 18:40 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#201 [◆KHkHx8enOg]
おかしい。
人間の頭で考えるのも変だが、どうもおかしい。
私は死んだ。
消滅するのはいつだ?
三途の川はどこだ?
お花畑や血の池地獄にはいつ行くのだ?
それに、まだ見ていない。
私という死者が存在しているのに、私以外の死者の姿を。
私は何だ?
一つの希望が頭に浮かんだ。
希望を断たれた時に傷付くのは嫌だが、往生際が悪いのは私の性格だ。
だが、私はそれに賭けてみたかった。
私は死んでしまった。
だけど、夢くらいは見ても罰は当たらないだろう。
希望くらいは持っても、神様は許してくれるだろう。

⏰:08/09/14 18:41 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#202 [◆KHkHx8enOg]
母の隣を歩いて、やがてある建物に着いた。
ここは…、

「…病院?」

白に統一された建物を見て、私の気持ちは高鳴った。
落ち着け、私。
まだ早い。
答えは母について行けばわかるだろう。
施設に入ると、内部を一瞥してから母は受付を済ました。
エレベーターで三階に上がると、廊下を通り抜けてある病室の前で立ち止まる。
母がドアを開ければ、中は個室になっていた。
室内を見た私は、目を丸くした。

「なんで…?」

⏰:08/09/14 18:42 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#203 [◆KHkHx8enOg]
そこには、病室のベッドに身を埋めて眠る私の姿があった。
口元には呼吸を助けるためなのか、規則正しい音を出す機械が伸びている。
呆然とする私の前で、母はせっせと世話をし始めた。
花瓶の水を変えている母を眺めていたら、ふと我に返る。
即座に病室の前の名札を見に行けば、桜井千恵と書かれていた。
間違いない、私だ。
もう一度目を向けると、ベッドの上の私は眠るように胸を上下させていた。
予想は当たっていた?
私は死んでなかった…?
夢を見ているのではないか。

⏰:08/09/14 18:43 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#204 [◆KHkHx8enOg]
喜びと同時に疑問も溢れた。
母や父が元気になった理由は頷ける。
しかし、私の葬式は確かにあった。
ならば、いつ私は生き返ったのだろうか。
いやそれより、何故私は肉体に戻れないのだろうか。
これは意識不明の昏睡状態というものか。
それとも植物状態というものか。
それより問題は身体に戻れないこと。
私が何度試しても、映画のように魂が肉体に戻ることはなかった。

⏰:08/09/14 18:43 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#205 [◆KHkHx8enOg]
これじゃ…生き返ったなんて言えない。

肉体は生き返っても、私の心はこうして死んだままだ。

でも、悲しくはない。
ようやく希望が見えた。

生きているとわかったその時から、私の心の中心はある感情に支配されていた。
あの時、奥深くに封印したはずの想いが、いつの間にか溢れ出していた。

…孝。
この数日、孝は悲しんでいただけかも知れないけど、私は変わったと思う。
孝には悪いけど、私はもう止まれない。
例え希望が断たれても、私は突き進むと決めた。

⏰:08/09/14 18:44 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#206 [◆KHkHx8enOg]
私には、まだやり残したことがある。
孝の気持ちを聞いていない。
盗み聞きはよくないと思うが、今じゃなきゃ出来ないのも事実だ。
私はまた走っていた。
学校に行ってみたが今日は孝はいなかった。
ならばと家まで押しかけたが生憎の不在。
次に所に向かっていた。
脱力感は最高潮に達する。
もしあそこにいなかったら、私はしばらく動けなくなるに違いない。
一歩進む度に孝に近付いているのだろうか。
私は鎖が巻き付いたような重い足を踏み出しながら、歩を進める。
やがて足は動かなくなり、そして完全に停止した。

⏰:08/09/14 18:45 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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