【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
最新 最初 全
#227 [◆1y6juUfXIk]
自分のことで誰かが騒ぐところを見たくなかった。
自分など最初から生まれてこなかったことにしたかった。
「ここらへんでいいか。この枝なら…」
折り畳み椅子を広げて上に乗り、枝にロープをくくりつける。
ほどけないようにしっかりと結び付け、もう一端に頭が通るサイズの輪を作った。
ここまで終えると、さすがに緊張してくる。
「…もう何一つ惜しいものなんかないだろう。何を躊躇してるんだ、俺は?」
生きていたい理由なんて1つもない。
思いきって輪に頭を突っ込んだ瞬間、視界の端をかすめる人影に初めて気が付いた。
:08/09/14 19:06 :P903i :☆☆☆
#228 [◆1y6juUfXIk]
「………」
大木の反対側に、同じ格好でこちらを向く女がいた。
頑丈なロープ、それを結び付けた枝、折り畳み式の椅子。
驚嘆したような呆然としたような顔。
そこに立っているのが自分ではないこと以外は、鏡を合わせたようにまったく同じだった。
2人はしばらくの間、身を乗り出して互いを見つめていた。
:08/09/14 19:07 :P903i :☆☆☆
#229 [◆1y6juUfXIk]
「………」
「………」
しばらくして、同じように顔を引っ込める。
見なかったことにしよう。
見なかったことにして、自分がやろうとしていたことに意識を戻そう。
そんな感じに。
「………」
「………」
だがしかし、この状況ではお互い相手が気にならないはずがなかった。
:08/09/14 19:08 :P903i :☆☆☆
#230 [◆1y6juUfXIk]
堪えきれず、太郎がとうとう声を出した。
「あー…失礼だがちょっといいか?」
「なに?」
「いや、何をしてるのかなー、と」
「そっちがやろうとしてる事と同じだと思うけど」
そりゃそうだ。
目の前の女がピクニックに来ているようには見えない。
ピクニックに来る奴は、椅子に乗ってロープをかけて輪を作ってそこに頭を突っ込んだりはしない。
「死のうとしてるのか?」
「まあね」
「そうか…」
「そう」
:08/09/14 19:09 :P903i :☆☆☆
#231 [◆1y6juUfXIk]
こういう状況は想定していなかったもんだから、どう喋っていいのか分からない。
やはりここは見なかったことにして、先に死んでしまうべきだろうか。
しかし見知らぬ女と並んでブラブラとぶら下がってるのは、かなり間抜けな格好だ。
天秤じゃないんだから。
太郎は思いきって口を開いた。
「えっと……悪いけど他所でやってくれないかな」
「あなたが別の場所に行ったらいいんじゃないか?」
「ここは俺の予約席だ」
「いつから?」
「一年前に来て見つけた」
「そうか。ここは私の子供の頃の遊び場だ。15年ほど前のな」
(……手強いな…)
:08/09/14 19:09 :P903i :☆☆☆
#232 [◆1y6juUfXIk]
とりあえずこんな格好じゃ長話はできない。
2人は椅子から降りて顔を見合わせた。
「………」
「………」
変な感じだ。ものすごく変な感じだ。
この空気の微妙さをどう表現すればいいのだろうか。
太郎には考えても分からなかった。
:08/09/14 19:10 :P903i :☆☆☆
#233 [◆1y6juUfXIk]
「は、はじめまして…」
「こちらこそ」
「えっと…この場所を譲る気はないんだよな?」
「毛頭な」
「俺もだ」
「じゃあどうする? 並んで吊るか?」
「それもマヌケだな」
「ならこうしないか。より納得できる理由がある方に譲るんだ」
「話し合って、『ああ、そりゃ死ぬしかねーわ』って方がここで吊る、と?」
「そうだ」
:08/09/14 19:11 :P903i :☆☆☆
#234 [◆1y6juUfXIk]
一瞬名案な気がしたが、何か間違ってる。
「でも俺にとっては深刻な問題とか理由が、お前にとってもそうとは限らないだろ。逆も然りだ」
「うーん……」
沈黙が続く。
折り畳み椅子に座り、2人はしばらく考え込んだ。
少しして、太郎が口を開く。
「じゃあ、こういうのはどうだ? 相手の死ぬ気を挫くんだ」
:08/09/14 19:11 :P903i :☆☆☆
#235 [◆1y6juUfXIk]
「…?」
「励ますんだよ。死ぬ気がなくなればここで吊る必要もないだろ?」
「がんばれー」
「………」
「ご、ごめん…」
:08/09/14 19:12 :P903i :☆☆☆
#236 [◆1y6juUfXIk]
「……あなたには今すぐに死ななければならない理由があるのか?」
「まぁ別にそういうわけじゃねーけど、なるべくすぐに死にたいな」
「じゃあ、1週間だ」
「は?」
「お互いに1週間使って、相手の死ぬ気を無くすんだ。先攻後攻に別れてな」
「その発想はなかったわ」
「どうする?」
「うーん、まぁそれでもいいけど」
「順番はコインで決めよう」
「じゃ、俺は表で」
:08/09/14 19:12 :P903i :☆☆☆
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194