【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#233 [◆1y6juUfXIk]
「は、はじめまして…」

「こちらこそ」

「えっと…この場所を譲る気はないんだよな?」

「毛頭な」

「俺もだ」

「じゃあどうする? 並んで吊るか?」

「それもマヌケだな」

「ならこうしないか。より納得できる理由がある方に譲るんだ」

「話し合って、『ああ、そりゃ死ぬしかねーわ』って方がここで吊る、と?」

「そうだ」

⏰:08/09/14 19:11 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#234 [◆1y6juUfXIk]
一瞬名案な気がしたが、何か間違ってる。

「でも俺にとっては深刻な問題とか理由が、お前にとってもそうとは限らないだろ。逆も然りだ」

「うーん……」

沈黙が続く。
折り畳み椅子に座り、2人はしばらく考え込んだ。

少しして、太郎が口を開く。

「じゃあ、こういうのはどうだ? 相手の死ぬ気を挫くんだ」

⏰:08/09/14 19:11 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#235 [◆1y6juUfXIk]
「…?」

「励ますんだよ。死ぬ気がなくなればここで吊る必要もないだろ?」

「がんばれー」

「………」

「ご、ごめん…」

⏰:08/09/14 19:12 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#236 [◆1y6juUfXIk]
「……あなたには今すぐに死ななければならない理由があるのか?」

「まぁ別にそういうわけじゃねーけど、なるべくすぐに死にたいな」

「じゃあ、1週間だ」

「は?」

「お互いに1週間使って、相手の死ぬ気を無くすんだ。先攻後攻に別れてな」

「その発想はなかったわ」

「どうする?」

「うーん、まぁそれでもいいけど」

「順番はコインで決めよう」

「じゃ、俺は表で」

⏰:08/09/14 19:12 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#237 [◆1y6juUfXIk]
女は財布から硬貨を取り出し、親指で弾く。
それを左手の甲と右手の掌でキャッチした。

右手を開く。
硬貨は表を向いていた。

「表だな。じゃあ…俺は後攻にする」

「最初の1週間は、私があなたを助けるわけだ。じゃ、とりあえずここを出よっか」

2人とも自分のロープをほどき、椅子を持って林を出た。

電車に乗り、並んで座席に腰を下ろす。

⏰:08/09/14 19:13 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#238 [◆1y6juUfXIk]
「ところで、俺を励ますってどうするつもりだ?」

「まず、あなたがなぜ死にたいのか、それを教えてもらわないと」

「それもそうだな。…どう話せばいいもんかな…」

「ゆっくり話して。時間ならたっぷりある」

まったくもってその通りだが、それにしてもおかしなことになってしまった。

まさに事実は小説よりも、ってやつだ。

街に出たところで電車を降り、2人は駅前の喫茶店に入った。

⏰:08/09/14 19:13 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#239 [◆1y6juUfXIk]
「俺は小説家志望で、でも全然賞をとれなくて…」

太郎はそこで自分の事情をすべて吐き出した。

若い女と会話するのは久しぶりだったが、内容が内容なだけにどんどん気分が重くなる。

人生で一番楽しくないデートだ。

女の名前は花子と言うらしい。
おかしな状況だったせいか林の中では気付かなかったが、よく見ると整ったとても綺麗な顔立ちだった。

でも、表情が少し無機質な気がする。
言葉遣いも淡々としていて、女らしい感じはしなかった。

まぁ自殺志願者なんだし当然と言えば当然だが。

⏰:08/09/14 19:14 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#240 [◆1y6juUfXIk]
「…んでまぁ、無能な俺の唯一の長所、頼みの綱である小説ですらまったく通用しないっていう……まぁそんなわけだ」

「なるほど、よく分かった」

花子はため息をついて頷く。

「それじゃ早速、その小説を読ませてもらおうか」

「え!?」

「私の指針は決まった。1週間であなたにこれ以上ないくらい面白い小説を書かせてあげる」

「えー…?」

「さ、そうと決まれば行動開始。あなたの家に行こう」

⏰:08/09/14 19:14 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#241 [◆1y6juUfXIk]
なんとも行動的な自殺志願者だ。

太郎はそう考えながら、花子を連れて2度と戻らないはずだった自宅へ向かった。

家に着いた太郎はパソコンを起動し、自分の作品を印刷して花子に読ませる。

テーブルについて一通り読んだあと、花子はきっぱり言い放った。

⏰:08/09/14 19:15 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#242 [◆1y6juUfXIk]
「なるほど、これはつまらない」

「更に死にたくさせてどうすんだよ……」

「あぁ、そうだったな。えーと、ちょっとリアリティに欠けるんじゃないか?」

「どういうことだ?」

「全体的に見て主人公に都合がよすぎる。共感できない」

「小説ってそんなもんじゃねえか?」

「まぁそれはそうだろうが、程度というものがあるよ」

「具体的にどうすりゃいい?」

「そうだな……」

太郎は花子に言われた通りに、内容を少しずつ書き換えていく。

次の日も、その次の日も花子は家にやって来て、太郎の小説にあれこれと文句をつけた。

⏰:08/09/14 19:15 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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