【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#242 [◆1y6juUfXIk]
「なるほど、これはつまらない」

「更に死にたくさせてどうすんだよ……」

「あぁ、そうだったな。えーと、ちょっとリアリティに欠けるんじゃないか?」

「どういうことだ?」

「全体的に見て主人公に都合がよすぎる。共感できない」

「小説ってそんなもんじゃねえか?」

「まぁそれはそうだろうが、程度というものがあるよ」

「具体的にどうすりゃいい?」

「そうだな……」

太郎は花子に言われた通りに、内容を少しずつ書き換えていく。

次の日も、その次の日も花子は家にやって来て、太郎の小説にあれこれと文句をつけた。

⏰:08/09/14 19:15 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#243 [◆1y6juUfXIk]
花子は物言いにまったく遠慮を持ち込まないタイプの人間だった。
だから言葉遣いも淡々としているのかもしれない。

太郎にとって、それは善くも悪くもあった。

「この展開はクソだな」

「頼むからもうちょい優しく言ってくれ。そんなに俺をあの木に吊るしたいのか」

「吊りたいのは私だから遠慮なく言ってるんだよ」

それにしてもおかしな会話だ。
まともな人間同士の会話ではあり得ないだろう。

⏰:08/09/14 19:16 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#244 [◆1y6juUfXIk]
「この娼婦の設定は変だな」

「ん? どこが?」

夕食として買ってきたハンバーガーをかじりつつ、2人は再度プロットを見直していた。

「ピンでやる娼婦なんかいないよ。大抵はポン引き…ピンプって言うんだけど、そういう男が1人頂点に立っている」

⏰:08/09/14 19:17 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#245 [◆1y6juUfXIk]
「ピンプ1人が所有する娼婦は1人から10人以上と様々だけど、常に流動的。

仕事は娼婦の上がりをハネたり殴ったり怒鳴ったり愛してやったり麻薬漬けにしてやること。

マフィアと繋がってる奴も多い。上納金を納める代わりに縄張りを確保してもらったりな。

ピンプなんてまともな人間じゃない。
少なくとも、まともに女性を愛せる男にできる仕事じゃない。

でもこの業界はまともじゃない奴ほど頭がキレるんだ、だから………」

「………」

「女を支配することに天才的な才能を持っていて……ん?」

⏰:08/09/14 19:17 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#246 [◆1y6juUfXIk]
花子の話を聞いていた太郎は、ポテトをくわえたまま黙り込んでいた。
花子はそれを見て変な顔をする。

「どうした?」

「あ、いや。何でもない」

太郎は慌てて首を横に振った。

……今は他人の過去に拘るのはよしとしよう。
今は、どうでもいいじゃないか。

どうせこのゲームに勝った方はこの世にいられなくなるんだ。

⏰:08/09/14 19:18 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#247 [◆1y6juUfXIk]
「勉強になったわ」

「他にも聞きたそうな顔してるけど?」

「別に何もねーよ」

ここでこれ以上聞く理由はない。
花子もまた、それ以上は何も言わなかった。



残り1日を残し、小説の手直しはすべて終わった。
2人は郵便局に行って原稿を賞に送ったあと、駅前の喫茶店に入った。

「まだ明日いっぱい残ってるけど」

「俺はもう一作書こうと思ってる。俺の遺言と遺作を兼ねた私小説だ」

⏰:08/09/14 19:18 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#248 [◆1y6juUfXIk]
それを聞いて花子は笑った。
太郎が始めてみた花子の笑顔。微笑みに近かったが、表情は暗く感じた。

「勝つ気満々だな」

「内容はこうだ。俺が死を決意したところから始まり、お前と出会って…」

「てことはオチはまだ決まってない?」

「そうだな」

「それって、どう転んでもバッドエンドじゃない?」

「さぁな。万一のハッピーエンドが、あるかもしれないだろ?」

 

⏰:08/09/14 19:19 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#249 [◆1y6juUfXIk]
 
そして、翌日。

2人は太郎の家で新作のプロットを検討した。

粗方終わったあと、花子がふと言った。

「ちょっと思ったんだけど、賞の発表っていつ?」

「半年後だけど」

「じゃあ、あなたはそれを見るまで死ねないじゃない」

「ん? あー……ま、そうかもな」

「私の勝ちでいい?」

「それはダメだ。フェアじゃない。俺の番がすんでから結論を出す、それでいいだろ」

「……やれやれ」

⏰:08/09/14 19:20 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#250 [◆1y6juUfXIk]
花子は疲れたような顔でうなじを撫で付けた。

「めんどくさいものだな、人生とは」

「うんざりするほど同感だ」




花子がそろそろ帰ると言い出したので、太郎は駅まで送るために家を出た。

夕暮れに染まったオレンジの街を、2人並んでとぼとぼ歩く。

⏰:08/09/14 19:20 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#251 [◆1y6juUfXIk]
「で、明日からはあなたの番だけど」

「あー、そだな。まずは俺同様に話を聞かせてもらう事にするわ」

「……そうか」

花子は複雑そうな顔をした。

まあ自殺したい奴なんて、そいつの人生丸ごとが触れてほしくない大きなかさぶたのようなものだ。

だが目立つかさぶたは、やはり自分でひっぺがしてみたくなる。

それに多少の苦痛が伴うとしても。

「うむ。人生とはかくもかさぶたのようなものだな」

「ん? 何か言ったか?」

「いや何も」

⏰:08/09/14 19:21 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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