【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#260 [◆1y6juUfXIk]
翌日、太郎は身支度を整え鏡の前に立った。
クローゼットを掻き回して揃えた、いつもより少しだけお洒落な服だ。

「…よし」

家を出て、花子の待ついつもの喫茶店へ急いだ。



「よう」

「ん」

すでに来ていた花子の隣に腰を下ろす。
彼女は口をつけていたコーヒーカップに視線を落とし、一息置いてから言った。

⏰:08/09/14 19:26 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#261 [◆1y6juUfXIk]
「…私の事情を話そう」

「あー、それなんだけど別にいい」

「? どういう事だ?」

「俺には俺なりの計画があるんだ。だからまぁ、いつかは聞くかもしれんが、今はいい」

「そうか。では、その計画というのは?」

「秘密だ」

「秘密……?」

「まぁ任せとけって。とにかく外に出ようぜ」

⏰:08/09/14 19:27 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#262 [◆1y6juUfXIk]
向かった先は、なぜか近所の動物園。

「見ろよ、ハダカネズミだ。モンハンに出てくるフルフルのモデルってこれじゃないか?」

「さぁ………」

花子は目の前の珍獣を眺める事と自分の人生の救済とが結び付かず、少し悩んだ。

この男は一体何を考えているのだろうか。
それとも何も考えていないのか?

⏰:08/09/14 19:28 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#263 [◆1y6juUfXIk]
 
途中で太郎は突然、進行方向を変えた。

「えーっと……んじゃ次は向こう行こうぜ」

「ん? 待って、見てあれ、爬虫類館だって。私はあっちに行きたい」

「いや……楽しくないだろ、蛇とかカエルとかトカゲとか見たって」

「何で? 行こうよ」

花子は頻りに嫌がる太郎の腕を無理やり引っ張って、爬虫類館へ入った。

建物の一角では「蛇に見て触れて楽しもう」というキャンペーンをやっていた。
毒を持たない大人しい種類の蛇がケージの中に入っている。

⏰:08/09/14 19:28 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#264 [◆1y6juUfXIk]
「小さい蛇ってカワイイね。ほら、あなたも」

「遠慮するわ」

花子が指に絡ませている黄色い蛇を差し出したが、太郎は青ざめて後ずさった。

「もしかして蛇とか苦手?」

「にににに苦手ちゃうわ!」

「噛まないし大丈夫だって。ほら」

逃げ出そうとする太郎を掴まえて、ズボンを掴む。

「ズボンの中に入れてやろう。マムシパワー直腸注入〜!」

「やーめーてーーー!!」

⏰:08/09/14 19:29 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#265 [◆1y6juUfXIk]
飼育員に怒られて追い出され、その日はお開きになった。

夕暮れの中を駅に向かって歩きながら、花子は太郎に聞いた。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? 一体どんな計画なんだ?」

「秘密だ。とにかく、明日も同じ時間に喫茶店でな」

「まぁ別にいいけど…1週間は付き合うよ、約束だし」
 

⏰:08/09/14 19:29 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#266 [◆1y6juUfXIk]
 
次の日も、その次の日も太郎は花子をいろんな場所に連れていった。

映画館、博物館、遊園地に水族館に、何かのお祭りにも行った。

太郎は時にはおどけてみたりして花子の笑顔を誘った。
だが花子は困ったような、苦笑いのような顔を浮かべるだけだった。

本当の意味で笑った顔を、花子はまだ一度も見せていない。



そして、6日目の夕方。

⏰:08/09/14 19:30 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#267 [◆1y6juUfXIk]
2人は河口に面した公園のベンチに座り、夕焼けに染まった海と川の境界を眺めていた。

海も川も流れは穏やかなのに、2つが混ざりあう場所は流れが早い。
その早い流れで水面が小刻みに揺れ、夕方の太陽のオレンジ色の光を細かく反射している。

ダイヤモンドが水面のあちこちに落ちているみたいで、とてもきれいだ。

それを眺めながら、花子が呟いた。

「あなたの計画がわかった」

「ん?」

「つまり、この世にはあんな楽しいことがあるんだとか、こんな綺麗なものがあるんだとか、そういうことを教えたかったんじゃないか?」

⏰:08/09/14 19:30 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#268 [◆1y6juUfXIk]
「えーっと、まぁそうでもあるんだけど」

「違う?」

「少し、な」

「そう」

花子は少し空を仰いで、不意にベンチから立ち上がった。

「ナイフの使い方を教えてあげる」

⏰:08/09/14 19:31 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#269 [◆1y6juUfXIk]
「何だよいきなり」

「いいからほら、立って。こうして構えてみて」

太郎は立ち上がり、手にナイフを持っているつもりで、言われた通りの格好をした。

花子が太郎の腕を持ち上げ、姿勢を修正する。

「ナイフは一撃必殺の武器だ。自分が持ってることを相手に悟られてはいけない。
だから抜いてから攻撃するんじゃなく、抜くのと攻撃を同時にやるんだ」

そう言って花子は太郎の横で手を取り、ナイフを投げるマネをさせる。

そう言えば、チンピラを追い払った時も、花子はギリギリまでナイフを抜かなかった。

⏰:08/09/14 19:31 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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