【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#282 [◆1y6juUfXIk]
「警察を呼ぼう」

「それは……」

「やっぱり何か事情があるんだな? …とりあえずうち来いよ」

花子に服を着せ、気絶した男を路地裏に放り出して救急車を呼んだ。


太郎の家で、とりあえず花子の傷に薬を塗る。
男から引っこ抜いてきた万年筆についた血をタオルで拭いながら、太郎は花子に聞いた。

「あの野郎がお前のピンプか?」

⏰:08/09/14 19:39 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#283 [◆1y6juUfXIk]
花子は無言で首を横に振る。

「私のピンプはあいつが殺した」

「え?」

「あいつ自身のことはよく知らない。警察だか何だかの関係者らしいけど……

最初は客として来て、2度目に仕事をしないかって持ちかけられた。仕事内容は殺し。
ハニートラップ、って聞いたことない?」

「……いや」

⏰:08/09/14 19:39 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#284 [◆1y6juUfXIk]
「当時の私は欲に目が眩んで、いろんな奴を殺した。ナイフの使い方も、男の喜ばせ方もあいつに教わった。

クソ仕事だった。でも逆らえば何をされるか分からないし、それに……」

「金か」

「…しょうがなかったんだ!! 高校も出てない、家族もいない私なんて他にどうすることも……」

「誰も咎めてないよ。だから落ち着け」

「……ごめん…」

⏰:08/09/14 19:40 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#285 [◆1y6juUfXIk]
いつの間にか花子の目は、涙で少し滲んでいた。
太郎は、静かに花子の肩を抱いた。

「……それで金が貯まって…あいつから逃げ出したってわけか。だがあいつは追ってきた、と」

「そう」

花子は、手のひらで顔を覆った。

「私の人生は、真っ暗だった。夢を持っていたあなたが羨ましかった。

……私は生き延びても、やる事が何もないの。ただ追われ続けるだけ……それで、あの木に行ったらあなたがいて……」

そこで花子は言葉を切り、しばらく顔を覆ったまま沈黙した。

太郎も何も言わず、花子を見守っていた。

⏰:08/09/14 19:41 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#286 [◆1y6juUfXIk]
 
やがて、花子は言った。

「……私達、今日限りで他人になりましょう」

「何だって?」

「もしこのあとどっちかがあの木で死んだら、残された方は『あいつを救えなかった』って悩む事になる」

「…そうだな」

「もう行くよ。お元気で」

花子が立ち上がったが、太郎にはそれを止める事はできなかった。

⏰:08/09/14 19:42 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#287 [◆1y6juUfXIk]
花子はドアの前で一度立ち止まり、振り返った。

「あなたの作戦って、結局なんだったの?」

「いや…もう言っても意味ねぇ気がするけど」

「いいから」


「1週間で、お前を俺にホレさせる」




それを聞いた花子は、太郎の家を出ていった。



「それ、失敗じゃなかったと思う」

そう言い残して。

⏰:08/09/14 19:42 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#288 [◆1y6juUfXIk]
花子が出ていったあと、太郎はパソコンを立ち上げた。
書きかけの私小説にも、これでオチがつく。

だが、どうにも筆が進まない。
心にモヤモヤとしたものが残っていた。

コーヒーを飲んだり部屋の中をうろつき回った挙げ句に、太郎は洗面所へ向かった。

鏡の中の人は落胆したような、すっきりしない顔をしている。

⏰:08/09/14 19:43 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#289 [◆1y6juUfXIk]
「彼女はああ言ったが、計画は失敗さ。なぜなら……お前が彼女にホレちまったからな。

これからどうすればいいかなんて、考えなくても分かるだろう?

お前は彼女にホレたんだから、小説のオチはまだ決まらない。

……行けよ。行くんだ」

すでに夜明けが近い。
花子が出ていってから4、5時間が経っている。

迷っている時間はなかった。

太郎は服を着替えて家を出た。

⏰:08/09/14 19:43 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#290 [◆1y6juUfXIk]
家に帰る気がせず、花子はいつもの喫茶店に1人でいた。

落ち着こうとコーヒーを1杯頼んだが、頭の中はこんがらがって何を考えればいいのか分からなかった。

「これから、どうしよう……」

あの男は恐らく警察に捕まるだろう。
もう逃げる意味もなくなった。
かといってやる事も何もなかった。

これから、どうすればいいのか。

それを考えたとき、太郎の顔が頭に浮かんだ。

それ以外には、何も思い浮かばなかった。

窓の外はすでに明るくなってきている。

花子はコーヒーを飲み干し、支払いを済ませて喫茶店を後にした。
 

⏰:08/09/14 19:44 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#291 [◆1y6juUfXIk]
 
もし、あの人が死ぬつもりなら、その時は自分が止めないといけない。

先にその場所に着くために、足は自然と早くなる。

太郎は始発に乗って、林の中を続くハイキングロードから。

花子はタクシーに乗って、子供の頃に見つけた秘密の抜け道から。

2人は、共にあの木へ向かっていた。


自分はやっぱり、あの人と一緒にいたいから。




─それって、どう転んでもバッドエンドじゃない?─

─さぁな。万一のハッピーエンドが、あるかもしれないだろ?─


   ....お し ま い

⏰:08/09/14 19:45 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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