【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#385 [◆ZPM9124utk]
…―間違いない。
彼と別れた日だ。

絢は紅茶に手もつけず
鞄に入れていた財布から
千円札を乱暴に抜き取り、
副店長に渡した。

「え!?絢ちゃん!??」

副店長が驚いている間に
絢は鞄をつかみ、勢い良く
店を出た。

…―もしかして、
歩道橋にいるのは…

⏰:08/09/15 01:52 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#386 [◆ZPM9124utk]
絢は雑踏をかき分けて
例の歩道橋まで急いだ。
人にぶつかったって
コートがめくれたって
気にもしなかった。
ただ、絢は歩道橋にいる
女性を見ているイケメンが
誰なのか確信していた。

緑色の急な階段を
一気に駆け上がる。

男性はいた。

歩道橋の真ん中で
悲しい目で通る人々を
眺めている。

…―一年前の翌日に
この場所で別れた
元彼、悠二だ。

⏰:08/09/15 01:53 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#387 [◆ZPM9124utk]
「ゆう…」

そう言って伸びた手を
絢はふと我に返って
制した。

…―今更悠二に声
かけるものじゃ
ないかもしれない…。
まして、あんな別れ方
だったんだから…。

絢は悠二を見つめながら
制した手を強く握った。

…―でもみんな心配してた
し、私が一声かけるくらい…。

⏰:08/09/15 01:54 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#388 [◆ZPM9124utk]
絢が脳内で悶々と
悩んでいると、
歩道橋を通った子どもが一人
悠二に近づいた。

「お兄ちゃん何してるの?」

不思議そうな顔をして
その子どもは悠二に聞いた。

悠二はしゃがみ込むと、
子どもに微笑み、答えた。

「大切な人、待ってるんだ。」

「大切な人?それって
お兄ちゃんの彼女なの?」

「……たぶん。」

⏰:08/09/15 01:55 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#389 [◆ZPM9124utk]
悠二は少し困ったように
言った。そんな悠二に子どもは
へんなのー、と言って、
歩道橋を駆けていった。

「…だよな。」

絢には悠二がぼそりと
つぶやいたのがわかった。
人ごみに混ざったざわめき
なんてもう聞こえなかった。
悠二にスピーカーが
ついているかのように
彼の声だけ聞こえた。

「…何もかもわかんない
なんて変だよな…。」

⏰:08/09/15 01:56 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#390 [◆ZPM9124utk]
「どういうこと?」

いつの間にか絢は
悠二の目の前に
しゃがみ込んでいた。

長い沈黙が流れた。
悠二の目はまん丸だ。

「…………え?」

悠二が絢に向かって言った
第一声はそれだった。

「………すみません、
もしかしてあなた、
立架絢さんですか?」

…―これは冗談?

絢の思考は停止する。
悠二は絢を見つめたままだ。

…―もし本当に悠二が
忘れたとしたら、彼の記憶
が丁度消えているのなら…。

⏰:08/09/15 01:57 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#391 [◆ZPM9124utk]
絢はうつむいて、
悠二を見つめた。

「すみません、違います。」

…―これはきっと
彼にとって、私にとって
一番いいのかもしれない。

悠二は、絢の答えを聞くと、
慌ててぺこりと
謝り、立ち上がった。

「そうですよね、すみません。
よくその人に
似ていたもので。」

「…いえ。それより、
さっき、何もかもわからない
って…。」

⏰:08/09/15 01:58 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#392 [◆ZPM9124utk]
絢も立ち上がって悠二
と並び、橋の下を眺める。
鞄を握り跡がついて
しまいそうなくらい
強く掴んだ。

「あ、はい。僕、丁度一年前に
事故で記憶
なくしちゃいまして、」

絢の目の前が真っ暗に
なった。

「事故っていっても
ぶつかった程度なんです
けどね…でも厄介なことに
なかなか記憶が
戻ってくれないんですよ。」

「…………。」

何も言い出せない絢を
お構いなしに悠二は
話を続ける。

⏰:08/09/15 01:59 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#393 [◆ZPM9124utk]
「親や少人数の
親しい友人に大まかな話を
聞いて大体の記憶は
取り戻したんですが、一年前
の数ヶ月のことだけ
誰に教えてもらっても
しっくり来ないんですよ。
ほら、あのパズルで形が
似てるピースが
当てはまらないみたいに。」

「…………はい。」

なんとか絢は頷いた。

「立架絢さんという女性が
僕の大切な人だった、
ということはわかるんですが。」

⏰:08/09/15 02:00 📱:F705i 🆔:☆☆☆


#394 [◆ZPM9124utk]
同じく絢は頷く。

…―落ち着け私。
彼にとって私を思い出さない
方が幸せなはず。

「記憶って大きいキーワード
を思い出したらあとは
思い出せるらしいんです。
あと少しなんですよね。」

…―そのために早く
私のことを諦めせなくちゃ。

絢の呼吸が荒くなる。

「て、ごめんなさい。
見ず知らずの人にこんな
こと話してしまって…。」

悠二は慌てて絢に
謝った。

⏰:08/09/15 02:01 📱:F705i 🆔:☆☆☆


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