【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
最新 最初 全
#388 [◆ZPM9124utk]
絢が脳内で悶々と
悩んでいると、
歩道橋を通った子どもが一人
悠二に近づいた。
「お兄ちゃん何してるの?」
不思議そうな顔をして
その子どもは悠二に聞いた。
悠二はしゃがみ込むと、
子どもに微笑み、答えた。
「大切な人、待ってるんだ。」
「大切な人?それって
お兄ちゃんの彼女なの?」
「……たぶん。」
:08/09/15 01:55 :F705i :☆☆☆
#389 [◆ZPM9124utk]
悠二は少し困ったように
言った。そんな悠二に子どもは
へんなのー、と言って、
歩道橋を駆けていった。
「…だよな。」
絢には悠二がぼそりと
つぶやいたのがわかった。
人ごみに混ざったざわめき
なんてもう聞こえなかった。
悠二にスピーカーが
ついているかのように
彼の声だけ聞こえた。
「…何もかもわかんない
なんて変だよな…。」
:08/09/15 01:56 :F705i :☆☆☆
#390 [◆ZPM9124utk]
「どういうこと?」
いつの間にか絢は
悠二の目の前に
しゃがみ込んでいた。
長い沈黙が流れた。
悠二の目はまん丸だ。
「…………え?」
悠二が絢に向かって言った
第一声はそれだった。
「………すみません、
もしかしてあなた、
立架絢さんですか?」
…―これは冗談?
絢の思考は停止する。
悠二は絢を見つめたままだ。
…―もし本当に悠二が
忘れたとしたら、彼の記憶
が丁度消えているのなら…。
:08/09/15 01:57 :F705i :☆☆☆
#391 [◆ZPM9124utk]
絢はうつむいて、
悠二を見つめた。
「すみません、違います。」
…―これはきっと
彼にとって、私にとって
一番いいのかもしれない。
悠二は、絢の答えを聞くと、
慌ててぺこりと
謝り、立ち上がった。
「そうですよね、すみません。
よくその人に
似ていたもので。」
「…いえ。それより、
さっき、何もかもわからない
って…。」
:08/09/15 01:58 :F705i :☆☆☆
#392 [◆ZPM9124utk]
絢も立ち上がって悠二
と並び、橋の下を眺める。
鞄を握り跡がついて
しまいそうなくらい
強く掴んだ。
「あ、はい。僕、丁度一年前に
事故で記憶
なくしちゃいまして、」
絢の目の前が真っ暗に
なった。
「事故っていっても
ぶつかった程度なんです
けどね…でも厄介なことに
なかなか記憶が
戻ってくれないんですよ。」
「…………。」
何も言い出せない絢を
お構いなしに悠二は
話を続ける。
:08/09/15 01:59 :F705i :☆☆☆
#393 [◆ZPM9124utk]
「親や少人数の
親しい友人に大まかな話を
聞いて大体の記憶は
取り戻したんですが、一年前
の数ヶ月のことだけ
誰に教えてもらっても
しっくり来ないんですよ。
ほら、あのパズルで形が
似てるピースが
当てはまらないみたいに。」
「…………はい。」
なんとか絢は頷いた。
「立架絢さんという女性が
僕の大切な人だった、
ということはわかるんですが。」
:08/09/15 02:00 :F705i :☆☆☆
#394 [◆ZPM9124utk]
同じく絢は頷く。
…―落ち着け私。
彼にとって私を思い出さない
方が幸せなはず。
「記憶って大きいキーワード
を思い出したらあとは
思い出せるらしいんです。
あと少しなんですよね。」
…―そのために早く
私のことを諦めせなくちゃ。
絢の呼吸が荒くなる。
「て、ごめんなさい。
見ず知らずの人にこんな
こと話してしまって…。」
悠二は慌てて絢に
謝った。
:08/09/15 02:01 :F705i :☆☆☆
#395 [◆ZPM9124utk]
「記憶をなかなか
思い出せないのは、あなたの
どこかで思い出したくない
自分がいるんじゃない?
そんな辛い過去、忘れたまま
の方がいいに決まってる!
こんな先の見えない
記憶探し、馬鹿みたい!!」
絢は悠二に言った。
胸が痛くて今にも
倒れてしまいそうだった。
:08/09/15 02:02 :F705i :☆☆☆
#396 [◆ZPM9124utk]
絢が歩道橋を引き返そう
とした時、悠二の足元に
見覚えのあるマフラーを
見つけた。
…―私が去年あげた
マフラー。
「これ、落としてる。」
乱暴にそれを悠二に
押し付けると絢は
振り向きもせずに歩道橋の
階段を駆け下りた。
:08/09/15 02:03 :F705i :☆☆☆
#397 [◆ZPM9124utk]
悠二はマフラーを
受け取りながら絢の
背中を見つめていた。
「さっきの…もしかして……。」
一人暮らししている
マンションの部屋の
鍵を開けてベッドに
倒れ込んだ絢の顔は
涙でぐちゃぐちゃだった。
「…あのマフラー、
まだ使ってた…。」
ふとさっきの情景が
絢の中で思い出された。
「悠二…。」
絢はいつの間にか
眠って夢をみていた。
一年前の話だ。
:08/09/15 02:04 :F705i :☆☆☆
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194