【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#107 [◆1jVUKlu67k]
「……ねぇ母さん。今日結婚記念日でしょ?親父ってプロポーズの言葉なんて言ったの?」
寝っ転がってテレビを見ていた少年は思い出したように起き上がり、好奇心のまなざしで女性を見る。
少年の体格はもう大人だが、真っ直ぐに母をとらえた瞳はまだまだ子供のような無邪気な面影を残していた。
「まぁ、小太郎もマセたこと聞くようになったのね〜。母さん感激!!」
:08/09/14 16:42 :F905i :☆☆☆
#108 [◆1jVUKlu67k]
ふふっと笑った女性の顔は、新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。
「もぉ、うるさいなぁ!!いーから教えてよ」
「お父さんはね『僕の隣で毎日笑って下さい。そのためなら何でもします』って言って指輪を渡してくれたの」
女性はそう言って、過去を振り返るように、過去を懐かしむようにゆっくりと自分の薬指をなぞる。
:08/09/14 16:43 :F905i :☆☆☆
#109 [◆1jVUKlu67k]
「親父やるじゃん!!今つけてる指輪が親父から貰ったやつなんだろ?」
「そー思うでしょ?でも違うの。お父さんがくれた指輪、大きすぎてね……。今つけてるのは、後で買い直したやつ」
クスクスと笑みをこぼす女性は、一児の母だとは思えないほど可愛らしく笑った。
:08/09/14 16:44 :F905i :☆☆☆
#110 [◆1jVUKlu67k]
「親父だめじゃん……。
なにが『隣で笑って下さい。そのためなら何でもします』だよ…」
小さくため息をつく我が子をみながら、また女性は微笑んだ。
「でもね、お父さんはワザと大きいのを買ったと思うの」
だって薬指をみたら「付き合った時から太郎さんは、そそっかしいんだから」って毎日笑えちゃうでしょ?
:08/09/14 16:45 :F905i :☆☆☆
#111 [◆1jVUKlu67k]
:08/09/14 16:46 :F905i :☆☆☆
#112 [◆KHkHx8enOg]
今から投下します
【死んで初めて気付く大切に人】
:08/09/14 17:23 :SH905i :☆☆☆
#113 [◆KHkHx8enOg]
僅かな音すらない静けさの中、ゆっくりと意識が戻ってくる。
ふわふわと宙に浮いているような奇妙な感覚に包まれて、私は目を覚ました。
たった今、生まれ落ちたばかりのように頭がうまく働かず、無心でぼーっと天井を見つめる。
天井とはこんなに低かっただろうか。
ちょっと手を伸ばせば触れてしまいそうなほどに近く感じる。
いや、実際近いのではないか?と考えが頭を過ぎったりもしたが、正直どうでもよく感じ、あっさりと思考を停止させた。
そんなことを考えながら天井を見つめていると、次第に世界に音が戻ってきた。
:08/09/14 17:24 :SH905i :☆☆☆
#114 [◆KHkHx8enOg]
…何の音だろう。
聞き覚えのある一定のリズムが耳に届く。
ぽくぽくぽく…。
これは確か…。
あぁ、木魚の音か。
そういえば、さっきからお経のような声も聞こえるし、これは夢だろうか。
そうでないとするなら、私は葬式中に寝ていることになる。
頭が少しずつ機能してきた時、聞き覚えのある母の啜り泣く声が聞こえてきた。
:08/09/14 17:26 :SH905i :☆☆☆
#115 [◆KHkHx8enOg]
…お母さん?
「うっ、うぅっ…」
「良枝…」
母の泣き声に次いで、父のなだめるような声が母の名前を呼んだ。
お母さん?
どうして泣いてるの?
お父さん?
何があったの?
私の声は喉から出てくることはなく、心の中で虚しく響いて消えた。
:08/09/14 17:27 :SH905i :☆☆☆
#116 [◆KHkHx8enOg]
声が、出ない。
身体も動かない。
母と、その他のいくつかの泣き声とお経だけが耳に届く。
「千恵…」
母が私を呼んでいる。
どうしたの?お母さん。
答えは返ってこなかった。
私の意識は一気に覚醒してきた。
先程からずっと続いている奇妙な感覚。
身体を取り巻く違和感に、生きた心地がしなかった。
:08/09/14 17:28 :SH905i :☆☆☆
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