【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#155 [◆KHkHx8enOg]
「……今、俺が」
私は突然の孝の言葉に驚いて勢いよく顔をやった。
「俺が死んだら、千恵はまだその辺にいんのかな」
私は思わず吹き出してしまった。
というか、ここにいます。
孝は突然何を言うのかと思ったら、やはり私のことだった。
概ね、やはり張り合う相手が突然いなくなったのでつまらないのだろう。
それとも事故死した当日も私をからかっていたから罪悪感でも感じているのだろうか。
:08/09/14 18:02 :SH905i :☆☆☆
#156 [◆KHkHx8enOg]
私の隣の男は、小さく息を吐いた。
「なんだか…つまらないな、今日は。からかう相手がいないと、こんなに調子出ないんだな」
「だからって、他の女子いじめないでよ?孝の悪ふざけは度が過ぎてるんだからね」
私は懐かしい雰囲気に、思わず頬が緩んでしまった。
:08/09/14 18:03 :SH905i :☆☆☆
#157 [◆KHkHx8enOg]
これで孝の元気がない理由がわかった。
孝自身は大丈夫だろう。
楽観的だから、きっとすぐに男友達と元通りにふざけて生活していくに違いないだろう。
しばらくの間、久々の雰囲気を味わっていた私は、昼休み終了のチャイムが鳴るまで青空の下、ずっと孝の隣にいたのだった。
:08/09/14 18:04 :SH905i :☆☆☆
#158 [◆KHkHx8enOg]
孝はチャイムが鳴ると焦ったように立ち上がり、片手で無造作にお尻を叩いた。
紺色のズボンから細かい埃が舞い上がり、私の服を通り抜けて力無く地面に落ちていく。
そのまま踵を返して足早に教室に戻っていく孝の後ろ姿を、私は虚ろに眺めていた。
:08/09/14 18:05 :SH905i :☆☆☆
#159 [◆KHkHx8enOg]
あれはいつのことだろうか。
青空を見上げた私は記憶を辿る。
小学校三学年の時、孝と私の関係は壊れた。
その学年は、私が生まれて初めて男の子から告白を受けた歳だった。
相手は、当時クラスで一番足が速くてムードメーカーだった中川君という男の子だ。
中川君はやんちゃで、日焼けした肌にツンツンと尖った髪の毛が印象的なサッカー少年だった。
:08/09/14 18:05 :SH905i :☆☆☆
#160 [◆KHkHx8enOg]
それは、放課後に日直で残っていた私に対する突然の告白だった。
あの頃は免疫もなく困惑したりもしたが、私はそれよりも初めての告白に恥ずかしさでいっぱいだった。
頬を真っ赤に染めて呆然とする私の手から、赤いランドセルが滑り落ちた。
今思えば初々しい反応が子供だったなと微笑ましく感じる。
彼は今こそ違う高校に通っているが、街中で偶然逢った時に、あの無邪気な子供っぽさは変わっていなかったと笑った記憶がある。
:08/09/14 18:06 :SH905i :☆☆☆
#161 [◆KHkHx8enOg]
結局その告白は私の恥ずかしさのために断ったのだが、次の日にはクラス中の噂になっていた。
男子グループからは冷やかされ、女子からは質問攻めにされた。
小学生では足の速さが好感度に繋がるのはよくある話で、中川君はモテる部類だったために女子からの質問には偽りなく答えた。
しかし、小学生だった私には今のように男子グループからの冷やかしに堪える精神は持ち合わせておらず、泣きながら帰って母に学校に行きたくないと困らせたりもした。
その時の男子グループの中に、一番仲が良かった孝がいたのだ。
:08/09/14 18:07 :SH905i :☆☆☆
#162 [◆KHkHx8enOg]
それがきっかけだろうか。
以来、孝は率先してグループのリーダーになり、事あるごとに私を冷やかした。
初めは私もひどく裏切られた衝動に駆られて傷付いたが、孝を嫌いになっていくに連れて傷はみるみるうちに塞がっていった。
時間と比例して塞がる傷は、私の心も一緒に閉ざしてしまったのだろう。
ひと月もしないうちに私と孝はお互い嫌いになっていた。
そのまま時は流れ、気が付けば高校生になっていた。
:08/09/14 18:08 :SH905i :☆☆☆
#163 [◆KHkHx8enOg]
時間が進んでも私と孝の関係は変わることはなく、時計はあの小学生時代で止まったまま卒業と入学を二回ずつ繰り返して今に至る。
どうして私たちの関係は拗れてしまったのだろう。
仲が良かった日々の時計はあの日に止まってしまい、新しい時計が刻み始めたのだろうか。
なら、今度の新しい時計もいつか止まるのだろうか。
次に動き出す時計にはどんな日々が待っているのだろう。
止まった時計が、もう一度動くことはあるのだろうか。
:08/09/14 18:09 :SH905i :☆☆☆
#164 [◆KHkHx8enOg]
空を見上げる私は不意に込み上げてきた哀しさに胸を押さえ付けられた。
同時に、新しい時計はもう止まっているのだと気付いた。
そして、次の時計はないのだということも。
あまりに色々なことが頭に蘇りすぎて、忘れていた。
私は、死んだのだ。
あの日の時計は止まったまま、私自身の時計は停止してしまったのだ。
家に帰ろう…。
私は曇り空を見上げた。
:08/09/14 18:09 :SH905i :☆☆☆
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