【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#161 [◆KHkHx8enOg]
結局その告白は私の恥ずかしさのために断ったのだが、次の日にはクラス中の噂になっていた。
男子グループからは冷やかされ、女子からは質問攻めにされた。
小学生では足の速さが好感度に繋がるのはよくある話で、中川君はモテる部類だったために女子からの質問には偽りなく答えた。
しかし、小学生だった私には今のように男子グループからの冷やかしに堪える精神は持ち合わせておらず、泣きながら帰って母に学校に行きたくないと困らせたりもした。
その時の男子グループの中に、一番仲が良かった孝がいたのだ。
:08/09/14 18:07 :SH905i :☆☆☆
#162 [◆KHkHx8enOg]
それがきっかけだろうか。
以来、孝は率先してグループのリーダーになり、事あるごとに私を冷やかした。
初めは私もひどく裏切られた衝動に駆られて傷付いたが、孝を嫌いになっていくに連れて傷はみるみるうちに塞がっていった。
時間と比例して塞がる傷は、私の心も一緒に閉ざしてしまったのだろう。
ひと月もしないうちに私と孝はお互い嫌いになっていた。
そのまま時は流れ、気が付けば高校生になっていた。
:08/09/14 18:08 :SH905i :☆☆☆
#163 [◆KHkHx8enOg]
時間が進んでも私と孝の関係は変わることはなく、時計はあの小学生時代で止まったまま卒業と入学を二回ずつ繰り返して今に至る。
どうして私たちの関係は拗れてしまったのだろう。
仲が良かった日々の時計はあの日に止まってしまい、新しい時計が刻み始めたのだろうか。
なら、今度の新しい時計もいつか止まるのだろうか。
次に動き出す時計にはどんな日々が待っているのだろう。
止まった時計が、もう一度動くことはあるのだろうか。
:08/09/14 18:09 :SH905i :☆☆☆
#164 [◆KHkHx8enOg]
空を見上げる私は不意に込み上げてきた哀しさに胸を押さえ付けられた。
同時に、新しい時計はもう止まっているのだと気付いた。
そして、次の時計はないのだということも。
あまりに色々なことが頭に蘇りすぎて、忘れていた。
私は、死んだのだ。
あの日の時計は止まったまま、私自身の時計は停止してしまったのだ。
家に帰ろう…。
私は曇り空を見上げた。
:08/09/14 18:09 :SH905i :☆☆☆
#165 [◆KHkHx8enOg]
閉められた玄関をくぐると孤独感の波に苛まれた。
家には人の気配がなかった。
その無人の静けさだけが私の孤独感を増していく。
家を歩き回っていると、私はあることに気付いた。
私の抜け殻がない。
安置されていた場所に敷かれていた布団も綺麗に片付けられていた。
「…火葬場かな」
:08/09/14 18:10 :SH905i :☆☆☆
#166 [◆KHkHx8enOg]
ぼうっと遺体があった場所を見つめる私の口から自然と出た答えに、何故か全身が脱力した。
これからどうするかなど、見当も付かない。
道標が欲しい。
私は壁に寄り掛かると、体育座りで小さく縮こまった。
…そういえば。
死んだ者は四十九日を使って知り合いに挨拶巡りをすると聞いたことがある。
使命ではなさそうだが、私もやるべきなのだろうか。
四十九日が終わったら、次には何があるのだろう。
疑問は次から次へと出てくる。
私は暇潰しも兼ねて挨拶巡りをしようかとしばらく思案したが、自分が火葬されるところなど見たくないと思い断念した。
:08/09/14 18:11 :SH905i :☆☆☆
#167 [◆KHkHx8enOg]
私はこの暇な時間を潰すために街に繰り出すことにした。
相変わらず身体の浮遊感や無呼吸のような息苦しさには慣れない。
靴が土を踏みしめても何の感触も伝わってこない。
風が草木を揺らしても私の肌をくすぐることはない。
これからもこの違和感に慣れることはないだろう。
私は太陽の陽射しに目を細めた。
:08/09/14 18:12 :SH905i :☆☆☆
#168 [◆KHkHx8enOg]
街中を歩いていて不思議に思ったことがある。
たまにちらりと目が合う人がいるのだ。
彼等には私の姿が見えているのだろうか。
試しに話し掛けてみるが、ほとんど反応は得られなかった。
しかし中には反応する人もいた。
ただそれは話し掛ける前に逃げてしまう人たちだった。
私は面白くなってつい後を付けたりなど意地悪をした。
ふと、これが取り憑くってことなのかなと尾行しながら自らに対して苦笑いを零した。
:08/09/14 18:13 :SH905i :☆☆☆
#169 [◆KHkHx8enOg]
それと、もう一つ気になったのは猫だ。
動物たちは過敏に私に反応する。
通り掛かれば首を回してこちらを伺い、近寄れば目を丸くする。
中には威嚇する猫もいた。
私はここでも悪戯心に駆られて追い回したりした。
小さな背中をしなやかに動かして逃げる猫。
久々に得られた感覚に胸を撫で下ろす。
私はここに居るのだと。
三日前まで当たり前のようにいたその世界が突然愛しく思えた。
私はここに居る。
まだ、存在している。
切なさと哀しさが入り混じる中、私は確かに実感した。
:08/09/14 18:14 :SH905i :☆☆☆
#170 [◆KHkHx8enOg]
日が傾いて街が夜に入り出した頃、私は再び帰宅した。
暗闇が濃くなると、ふと私の体が闇に溶けてしまいそうな錯覚に陥る。
またもや家には誰もおらず、電気を付けることも叶わない私は暗い部屋の中で家族の帰りを待った。
どういう訳か、その日は誰一人として帰ってくることはなかった。
一度だけ鳴った電話の呼び出し音が、寂しく響いた。
やはりソファで夜を明かすのには慣れない。
私は軽い苦痛を感じながらも朝を待った。
:08/09/14 18:15 :SH905i :☆☆☆
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