【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#187 [◆KHkHx8enOg]
「…はぁ」

「…どうしたの?溜め息なんか付いちゃって」

「……」

「ま〜ただんまり?」

「……」

「もう、何か喋りなよ。私なんか死んでから独り言ばかりだよ?猫しか遊び相手いないし、つまんない」

愚痴を言いながらも、私はわずかに微笑んでいた。

⏰:08/09/14 18:29 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#188 [◆KHkHx8enOg]
孝の隣は居心地が良い。
悪ふざけをしない孝は悪いもんじゃないなと、あの屋上でのひと時以来しばしば感じていた。
沈黙すら楽しんでいる。

「…二時三十分か」

私が公園の時計を見て呟くと、孝の声とぴったり重なった。
驚いて隣に視線を向ければ、孝も携帯電話の時計を見ていた。
カチカチと、無造作にボタンを押す孝。
私は先程の電話の件もあってつい画面を覗き込んだ。

⏰:08/09/14 18:30 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#189 [◆KHkHx8enOg]
「孝。…何考えてるの?」

画面には私の名前と電話番号が映っていた。
しばらく停止した後、孝は通話ボタンを押した。
ゆっくりと耳に近付けると、呼び出し音が響く。
三回…、四回…。
私は出るはずがない、と確信しながら、孝の行動の意味を考えていた。
結論、理解不能。
八回目を過ぎると、孝は電話を切った。
溜め息を吐く孝を横目に、私は少し気まずさを覚えた。
孝が、教室で黙祷の時に見せた、私の机を見つめていた時のあの目をしていたのだ。

⏰:08/09/14 18:30 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#190 [◆KHkHx8enOg]
何を考えているのか…私にはわからない。
そう、思っていた。
孝の漏らした言葉を聞くまでは。

「…千恵。おまえはもう帰ってこないんだな、本当に…」

不意打ちだった。
有り得ないと思っていたことが現実に起きた瞬間、私は顔に熱が昇るのを感じた。
かぁっ、と頬が熱くなる。
孝は、私を想ってくれていたのだろうか。
張り合い相手がいなくなったのを、寂しがってくれていたのだろうか。
私は初めて見た、孝のそんな姿を。

⏰:08/09/14 18:32 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#191 [◆KHkHx8enOg]
九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。

よくわからないが、私は気恥ずかしさでいっぱいだった。
この感覚は知っていた。
昔、体験したことがある。
ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。
自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなった私は、逃げるようにその場を離れた。

⏰:08/09/14 18:33 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#192 [◆KHkHx8enOg]
私は走った。
顔の熱は冷める兆しはなく、私のスピードを上げた。
息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。
夢の中の全力疾走のような感じだ。
それでも私は走った。
息切れはないが疲労感が込み上げてくる。
身体が脱力しきって走るのを止めた時、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。

不思議だ。
私は死んだ。
なのに生きていたときより心が躍っているような気がする。

⏰:08/09/14 18:34 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#193 [◆KHkHx8enOg]
私は怖かった。
道標がない未来に怯えていた。
突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。
突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。
だけど今は違う。
私は怖くない。
身体が熱い。
実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。
だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。
どちらにせよ、私は今赤面しているだろう。

⏰:08/09/14 18:35 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#194 [◆KHkHx8enOg]
私の身体を取り巻く熱が引くまでに、かなり時間が掛かった。
とっぷりと暮れた夜空の下、私は公園のベンチにいた。
さっきの公園とは違う公園。
今にも切れそうな街灯に視線を送りながら、私は頭を抱える。

変わっていない。
九年前と。
あの頃は子供だった…なんて、笑ってしまう。
私は今も子供だ。

⏰:08/09/14 18:36 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#195 [◆KHkHx8enOg]
変わっていない。
九年前と。
私は九年前に、気持ちを置いてきてしまったのかもしれない。
だけど気付いてしまった。
九年もの間、全く気付かなかったことに私は気付いてしまった。

じわりじわりと熱が蘇ってくる。

私は…、


孝が…、




満天の星空の下、私は心の奥底に秘めた気持ちを隠した。

⏰:08/09/14 18:36 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#196 [◆KHkHx8enOg]
暗い暗い心の奥に…二度と上がってこないように。
気付いてしまった以上は、仕方がない。
私は死んだのだ。
私にはもう道は残されていない。
希望はないのだ。
失望することがわかっている以上、封印してしまおう。
それが良い。
そうしよう。

その日、私はベンチで夜を明かした。

⏰:08/09/14 18:37 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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