【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#191 [◆KHkHx8enOg]
九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。

よくわからないが、私は気恥ずかしさでいっぱいだった。
この感覚は知っていた。
昔、体験したことがある。
ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。
自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなった私は、逃げるようにその場を離れた。

⏰:08/09/14 18:33 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#192 [◆KHkHx8enOg]
私は走った。
顔の熱は冷める兆しはなく、私のスピードを上げた。
息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。
夢の中の全力疾走のような感じだ。
それでも私は走った。
息切れはないが疲労感が込み上げてくる。
身体が脱力しきって走るのを止めた時、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。

不思議だ。
私は死んだ。
なのに生きていたときより心が躍っているような気がする。

⏰:08/09/14 18:34 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#193 [◆KHkHx8enOg]
私は怖かった。
道標がない未来に怯えていた。
突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。
突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。
だけど今は違う。
私は怖くない。
身体が熱い。
実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。
だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。
どちらにせよ、私は今赤面しているだろう。

⏰:08/09/14 18:35 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#194 [◆KHkHx8enOg]
私の身体を取り巻く熱が引くまでに、かなり時間が掛かった。
とっぷりと暮れた夜空の下、私は公園のベンチにいた。
さっきの公園とは違う公園。
今にも切れそうな街灯に視線を送りながら、私は頭を抱える。

変わっていない。
九年前と。
あの頃は子供だった…なんて、笑ってしまう。
私は今も子供だ。

⏰:08/09/14 18:36 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#195 [◆KHkHx8enOg]
変わっていない。
九年前と。
私は九年前に、気持ちを置いてきてしまったのかもしれない。
だけど気付いてしまった。
九年もの間、全く気付かなかったことに私は気付いてしまった。

じわりじわりと熱が蘇ってくる。

私は…、


孝が…、




満天の星空の下、私は心の奥底に秘めた気持ちを隠した。

⏰:08/09/14 18:36 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#196 [◆KHkHx8enOg]
暗い暗い心の奥に…二度と上がってこないように。
気付いてしまった以上は、仕方がない。
私は死んだのだ。
私にはもう道は残されていない。
希望はないのだ。
失望することがわかっている以上、封印してしまおう。
それが良い。
そうしよう。

その日、私はベンチで夜を明かした。

⏰:08/09/14 18:37 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#197 [◆KHkHx8enOg]
月曜日の朝になった。
退屈とは拷問に近い。
孝がいるから学校に行く気もしないし、家に帰る気もしない。
私はいつか消えるのだろうか。
その時は昨日の気持ちも消えていくのだろう。
その先には天国か地獄があるのかな。
その時は昨日の気持ちも一緒に持って行くのだろう。

私は初めて自分が女々しいことに気付いた。
こうした考えを巡らすのは、隠したはずの気持ちが漏れだしている証拠ではないか。
振り出しに戻った気がした。
心が空っぽになった気がした。
膝をぱんっ、と叩いて立ち上がる。

⏰:08/09/14 18:38 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#198 [◆KHkHx8enOg]
「私、これからどうしようかな」

気が重いがとりあえず家に帰ろうか。
ふらふらと家の方角に歩き出した。

家の前に着いた。
玄関先には父と母の姿があった。

「じゃあ、行ってくる」

スーツ姿の父が鞄を下げて手を上げる。

「行ってらっしゃい」

「今日は早めに帰るよ」

父がそう言うと母は笑った。

⏰:08/09/14 18:39 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#199 [◆KHkHx8enOg]
「早く帰りたい、でしょ?」

「まぁ、そうだな。じゃ、そろそろ行ってくる」

「はいはい。私もこのまま出ますよ」

「…良枝。これから、頑張ろうな」

微笑む父に母はまた笑った。
私は何故か違和感を覚えたが、父に「いってらっしゃい。頑張ってね」と声を掛けると玄関に向かった。

⏰:08/09/14 18:39 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#200 [◆KHkHx8enOg]
リビングに上がると違和感が一気に増した。
違う。
何かが違う。
仏壇に私の写真がない?
母の笑顔が頭にちらつく。
父の言葉が頭を過ぎる。
「頑張ろうな」
頑張ろうな?
昨日から何かが変だ。
前向きだが、何かが違う。
私は母が家に入って来ないことに気付いた。
母の声が再生される。
「私もこのまま出ます」
出る?何処へ?
何故一昨日帰ってこなかった?
何故一昨日普段着だった?
私は弾かれたように家を出た。
キョロキョロと辺りを見渡せば、彼方に母の後ろ姿が見えた。
私は走って後を追った。

⏰:08/09/14 18:40 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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