【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#205 [◆KHkHx8enOg]
これじゃ…生き返ったなんて言えない。

肉体は生き返っても、私の心はこうして死んだままだ。

でも、悲しくはない。
ようやく希望が見えた。

生きているとわかったその時から、私の心の中心はある感情に支配されていた。
あの時、奥深くに封印したはずの想いが、いつの間にか溢れ出していた。

…孝。
この数日、孝は悲しんでいただけかも知れないけど、私は変わったと思う。
孝には悪いけど、私はもう止まれない。
例え希望が断たれても、私は突き進むと決めた。

⏰:08/09/14 18:44 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#206 [◆KHkHx8enOg]
私には、まだやり残したことがある。
孝の気持ちを聞いていない。
盗み聞きはよくないと思うが、今じゃなきゃ出来ないのも事実だ。
私はまた走っていた。
学校に行ってみたが今日は孝はいなかった。
ならばと家まで押しかけたが生憎の不在。
次に所に向かっていた。
脱力感は最高潮に達する。
もしあそこにいなかったら、私はしばらく動けなくなるに違いない。
一歩進む度に孝に近付いているのだろうか。
私は鎖が巻き付いたような重い足を踏み出しながら、歩を進める。
やがて足は動かなくなり、そして完全に停止した。

⏰:08/09/14 18:45 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#207 [◆KHkHx8enOg]
「も…動けない」

膝に手をつきながら顔を上げる。

「けど…間に合った…!」

正面にはあの公園。
そしてベンチには大嫌いだった男。
私は微笑みながら足を引きずって隣に座った。

「あんたさぁ…いい加減にしてよね。死んでからも私をいじめる気?」

笑ってみせるが、やけに清々しい。
孝は静かに正面を見据えつつ、足を組んでいる。
馬鹿馬鹿しい。
私がこんなに一生懸命なるなんて、生きてた時は思ってもいなかった。
…だが、悪い気分ではない。

⏰:08/09/14 18:46 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#208 [◆KHkHx8enOg]
「今日はいつもみたいに退かないからね。答えを聞くまで、粘るよ」

ベンチに身を委ねて空を仰げば、隣から声が響く。

「…不思議な気分だ」

「…え?」

「千恵がいなくなってから、たまに千恵を近くに感じる時がある…」

屋上や公園でのことだろうか。

「…今も」

「…うん」

しばらく沈黙が続く。
小さく息を吐いて次の言葉を待った。

「なぁ…」

私は孝を横目でみる。

⏰:08/09/14 18:47 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#209 [◆KHkHx8enOg]
孝は相変わらず同じ姿勢を保っている。
今日はやけに独り言が多いなぁ。
いつもより饒舌ではないか。
少し黙った孝に私は視線を送り続けた。

「俺はおまえが嫌いだったよ」

「……」

うん…。
それはわかっていた。
世界は灰色に変わる。
悲しみも衝撃もない。
でも大丈夫。
私は、気付いてしまったから。

「……で?」

気付いたから、
違うんだと今は信じれる。

⏰:08/09/14 18:48 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#210 [◆KHkHx8enOg]
「嫌いだって、思ってた。いや、思い込んでた」

ほらね…
信じることが出来る。

「あの日の延長線…」

孝は一つ一つ言葉を落としていく。
きっと私の高鳴りは最高潮に違いない。

「格好悪いって躊躇っていたら、後戻りが出来なくなっていた」

…まただ。
またあれが来た。
気恥ずかしさが心を埋めていく。
一刻も早くここから去りたい衝動に駆られる。
少しずつ体が熱を帯びる。

「でも、今になって俺は…」

でもね、もう大丈夫。
逃げ出したりはしない。
何より大切なものを見付けたから。

「好きなんだって、気付けたんだ」

そう言い終えた孝は切なそうな視線を空に映した。

⏰:08/09/14 18:49 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#211 [◆KHkHx8enOg]
「孝…」

私もね、気付いたんだ。
孝が、好きみたいだって。

…だけど、ここまでだよ。
私は初めから知っていたのかも知れない、こうなることを。

間に合って良かった。

最後に、答えを聞けて良かった。

⏰:08/09/14 18:51 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#212 [◆KHkHx8enOg]
それた突然やってきた。

身体に暖かさを感じる。
死んでから一度も感じなかった温もりだ。
身体が小さく細かい光の粒に変わっていく。
目に映る景色も白くなり始め、視界の端から崩壊していった。
それらの感覚はじわりじわりと私の身体を侵食していく。
少しずつ、少しずつ…。

⏰:08/09/14 18:52 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#213 [◆KHkHx8enOg]
もう、時間か…。

どうやら、ようやくお迎えがきたようだ。

九年前に止まった時計は、九年の時を経て再び刻み始めた。



十八年間。
短いようで長い人生だった。

今から行くのは天国だろうか、地獄だろうか。

色々あったが、ようやく私の臨死体験は終わりを告げるようだ。

⏰:08/09/14 18:53 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


#214 [◆KHkHx8enOg]
死んでから気付いた大切な人。

もし生き返ることが出来たなら、きっと私は告白することが出来るだろう。



でも後悔するのは嫌だから、今言えるだけ言っておこう。


今までありがとう。

貴方が大好きでした。


そして最後に…、



さようなら。




薄れゆく意識の中で、私はゆっくりと微笑んだ。

⏰:08/09/14 18:54 📱:SH905i 🆔:☆☆☆


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