【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#236 [◆1y6juUfXIk]
「……あなたには今すぐに死ななければならない理由があるのか?」

「まぁ別にそういうわけじゃねーけど、なるべくすぐに死にたいな」

「じゃあ、1週間だ」

「は?」

「お互いに1週間使って、相手の死ぬ気を無くすんだ。先攻後攻に別れてな」

「その発想はなかったわ」

「どうする?」

「うーん、まぁそれでもいいけど」

「順番はコインで決めよう」

「じゃ、俺は表で」

⏰:08/09/14 19:12 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#237 [◆1y6juUfXIk]
女は財布から硬貨を取り出し、親指で弾く。
それを左手の甲と右手の掌でキャッチした。

右手を開く。
硬貨は表を向いていた。

「表だな。じゃあ…俺は後攻にする」

「最初の1週間は、私があなたを助けるわけだ。じゃ、とりあえずここを出よっか」

2人とも自分のロープをほどき、椅子を持って林を出た。

電車に乗り、並んで座席に腰を下ろす。

⏰:08/09/14 19:13 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#238 [◆1y6juUfXIk]
「ところで、俺を励ますってどうするつもりだ?」

「まず、あなたがなぜ死にたいのか、それを教えてもらわないと」

「それもそうだな。…どう話せばいいもんかな…」

「ゆっくり話して。時間ならたっぷりある」

まったくもってその通りだが、それにしてもおかしなことになってしまった。

まさに事実は小説よりも、ってやつだ。

街に出たところで電車を降り、2人は駅前の喫茶店に入った。

⏰:08/09/14 19:13 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#239 [◆1y6juUfXIk]
「俺は小説家志望で、でも全然賞をとれなくて…」

太郎はそこで自分の事情をすべて吐き出した。

若い女と会話するのは久しぶりだったが、内容が内容なだけにどんどん気分が重くなる。

人生で一番楽しくないデートだ。

女の名前は花子と言うらしい。
おかしな状況だったせいか林の中では気付かなかったが、よく見ると整ったとても綺麗な顔立ちだった。

でも、表情が少し無機質な気がする。
言葉遣いも淡々としていて、女らしい感じはしなかった。

まぁ自殺志願者なんだし当然と言えば当然だが。

⏰:08/09/14 19:14 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#240 [◆1y6juUfXIk]
「…んでまぁ、無能な俺の唯一の長所、頼みの綱である小説ですらまったく通用しないっていう……まぁそんなわけだ」

「なるほど、よく分かった」

花子はため息をついて頷く。

「それじゃ早速、その小説を読ませてもらおうか」

「え!?」

「私の指針は決まった。1週間であなたにこれ以上ないくらい面白い小説を書かせてあげる」

「えー…?」

「さ、そうと決まれば行動開始。あなたの家に行こう」

⏰:08/09/14 19:14 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#241 [◆1y6juUfXIk]
なんとも行動的な自殺志願者だ。

太郎はそう考えながら、花子を連れて2度と戻らないはずだった自宅へ向かった。

家に着いた太郎はパソコンを起動し、自分の作品を印刷して花子に読ませる。

テーブルについて一通り読んだあと、花子はきっぱり言い放った。

⏰:08/09/14 19:15 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#242 [◆1y6juUfXIk]
「なるほど、これはつまらない」

「更に死にたくさせてどうすんだよ……」

「あぁ、そうだったな。えーと、ちょっとリアリティに欠けるんじゃないか?」

「どういうことだ?」

「全体的に見て主人公に都合がよすぎる。共感できない」

「小説ってそんなもんじゃねえか?」

「まぁそれはそうだろうが、程度というものがあるよ」

「具体的にどうすりゃいい?」

「そうだな……」

太郎は花子に言われた通りに、内容を少しずつ書き換えていく。

次の日も、その次の日も花子は家にやって来て、太郎の小説にあれこれと文句をつけた。

⏰:08/09/14 19:15 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#243 [◆1y6juUfXIk]
花子は物言いにまったく遠慮を持ち込まないタイプの人間だった。
だから言葉遣いも淡々としているのかもしれない。

太郎にとって、それは善くも悪くもあった。

「この展開はクソだな」

「頼むからもうちょい優しく言ってくれ。そんなに俺をあの木に吊るしたいのか」

「吊りたいのは私だから遠慮なく言ってるんだよ」

それにしてもおかしな会話だ。
まともな人間同士の会話ではあり得ないだろう。

⏰:08/09/14 19:16 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#244 [◆1y6juUfXIk]
「この娼婦の設定は変だな」

「ん? どこが?」

夕食として買ってきたハンバーガーをかじりつつ、2人は再度プロットを見直していた。

「ピンでやる娼婦なんかいないよ。大抵はポン引き…ピンプって言うんだけど、そういう男が1人頂点に立っている」

⏰:08/09/14 19:17 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#245 [◆1y6juUfXIk]
「ピンプ1人が所有する娼婦は1人から10人以上と様々だけど、常に流動的。

仕事は娼婦の上がりをハネたり殴ったり怒鳴ったり愛してやったり麻薬漬けにしてやること。

マフィアと繋がってる奴も多い。上納金を納める代わりに縄張りを確保してもらったりな。

ピンプなんてまともな人間じゃない。
少なくとも、まともに女性を愛せる男にできる仕事じゃない。

でもこの業界はまともじゃない奴ほど頭がキレるんだ、だから………」

「………」

「女を支配することに天才的な才能を持っていて……ん?」

⏰:08/09/14 19:17 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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