【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#247 [◆1y6juUfXIk]
「勉強になったわ」
「他にも聞きたそうな顔してるけど?」
「別に何もねーよ」
ここでこれ以上聞く理由はない。
花子もまた、それ以上は何も言わなかった。
残り1日を残し、小説の手直しはすべて終わった。
2人は郵便局に行って原稿を賞に送ったあと、駅前の喫茶店に入った。
「まだ明日いっぱい残ってるけど」
「俺はもう一作書こうと思ってる。俺の遺言と遺作を兼ねた私小説だ」
:08/09/14 19:18 :P903i :☆☆☆
#248 [◆1y6juUfXIk]
それを聞いて花子は笑った。
太郎が始めてみた花子の笑顔。微笑みに近かったが、表情は暗く感じた。
「勝つ気満々だな」
「内容はこうだ。俺が死を決意したところから始まり、お前と出会って…」
「てことはオチはまだ決まってない?」
「そうだな」
「それって、どう転んでもバッドエンドじゃない?」
「さぁな。万一のハッピーエンドが、あるかもしれないだろ?」
:08/09/14 19:19 :P903i :☆☆☆
#249 [◆1y6juUfXIk]
そして、翌日。
2人は太郎の家で新作のプロットを検討した。
粗方終わったあと、花子がふと言った。
「ちょっと思ったんだけど、賞の発表っていつ?」
「半年後だけど」
「じゃあ、あなたはそれを見るまで死ねないじゃない」
「ん? あー……ま、そうかもな」
「私の勝ちでいい?」
「それはダメだ。フェアじゃない。俺の番がすんでから結論を出す、それでいいだろ」
「……やれやれ」
:08/09/14 19:20 :P903i :☆☆☆
#250 [◆1y6juUfXIk]
花子は疲れたような顔でうなじを撫で付けた。
「めんどくさいものだな、人生とは」
「うんざりするほど同感だ」
花子がそろそろ帰ると言い出したので、太郎は駅まで送るために家を出た。
夕暮れに染まったオレンジの街を、2人並んでとぼとぼ歩く。
:08/09/14 19:20 :P903i :☆☆☆
#251 [◆1y6juUfXIk]
「で、明日からはあなたの番だけど」
「あー、そだな。まずは俺同様に話を聞かせてもらう事にするわ」
「……そうか」
花子は複雑そうな顔をした。
まあ自殺したい奴なんて、そいつの人生丸ごとが触れてほしくない大きなかさぶたのようなものだ。
だが目立つかさぶたは、やはり自分でひっぺがしてみたくなる。
それに多少の苦痛が伴うとしても。
「うむ。人生とはかくもかさぶたのようなものだな」
「ん? 何か言ったか?」
「いや何も」
:08/09/14 19:21 :P903i :☆☆☆
#252 [◆1y6juUfXIk]
狭い路地を抜けようとすると、目の前に人影が立ちはだかった。
ガタイのいい男だ。明らかに太郎と花子を待ち受けていた感じだった。
危険を感じた太郎が振り返ると、そこにも男が2人いた。
囲まれた。それも明らかにチンピラだ、かなりマズイ。
太郎は恐怖で心臓が縮み上がるのを感じながら、地面を見回して武器になるようなものが転がっていないか探した。
:08/09/14 19:22 :P903i :☆☆☆
#253 [◆1y6juUfXIk]
「こんな時間にうちの縄張り歩いてるから誰かと思えば……」
「ひょろい男と…女はいけそうだなァ」
「男は金置いて消えな、それで勘弁してやる」
男たちの話を聞くふりをして地面を探すが、何もない。
ビール瓶も角材も鉄パイプもパイロンも、小さな石ころすらもない。
現実はやっぱり小説のように都合よくはいかないものだ。
3人は懐からナイフを取り出して、真っ直ぐに間合いを詰めてくる。
:08/09/14 19:22 :P903i :☆☆☆
#254 [◆1y6juUfXIk]
前後からじわじわと迫る男を牽制しながら、右手で花子の前を制する。
花子に聞こえるように小声で囁く。
「花子、俺が正面の1人にタックルをかけるから、その隙に……」
言いながら視線を後ろにやると、花子はポケットに手を突っ込んだまま動いていない。
太郎の言葉を制し、彼女は言った。
「太郎、何もするな。何もするなよ」
:08/09/14 19:23 :P903i :☆☆☆
#255 [◆1y6juUfXIk]
後ろの2人が花子を羽交い締めにした瞬間、花子はポケットから手を抜いた。
同時に、ヒュッという空気を短く切り裂く音。
「つーかまえたァ……ってあれ?」
「!?」
何が起きたのか、花子以外は誰も理解していなかった。
だが刹那も待たずに、男2人の手の甲と顔に赤い直線が走る。
間髪入れずに血が吹き出した。
血が吹き出したのだけは、太郎にも見えていた。
:08/09/14 19:23 :P903i :☆☆☆
#256 [◆1y6juUfXIk]
「あべしっ!?」
意外だ。男の叫び声が、じゃない。
太郎は、人間の体に刃物が突き刺さる音は『グサリ』とか『ブスリ』とかそんな音だと思っていたが、実際は『カンッ』というわりと甲高い小さな音だった。
花子が2本目のナイフを懐から抜き出す。
男たちは顔を見合わせると、捨て台詞もなしに一目散に逃げ去った。
正面の男は腕にナイフが刺さったまま走り去る。
大丈夫なのだろうか。
「あのー……今のは?」
「当たって良かった」
花子は深く安堵のため息をついた。
:08/09/14 19:24 :P903i :☆☆☆
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