【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#256 [◆1y6juUfXIk]
「あべしっ!?」

意外だ。男の叫び声が、じゃない。

太郎は、人間の体に刃物が突き刺さる音は『グサリ』とか『ブスリ』とかそんな音だと思っていたが、実際は『カンッ』というわりと甲高い小さな音だった。

花子が2本目のナイフを懐から抜き出す。

男たちは顔を見合わせると、捨て台詞もなしに一目散に逃げ去った。
正面の男は腕にナイフが刺さったまま走り去る。
大丈夫なのだろうか。

「あのー……今のは?」

「当たって良かった」

花子は深く安堵のため息をついた。

⏰:08/09/14 19:24 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#257 [◆1y6juUfXIk]
「投擲には自信がある」

「いやそういうことを聞いてるんじゃなくて」

「わかってる」

駅はもうすぐそこ。
花子は振り返って太郎に向き直った。

「明日、全部話すよ。全部話す。今日はここまででいい」





花子を見送って、太郎は家に帰ってきた。

洗面所に向かい、鏡を覗きこむ。
もう1人の自分がこっちを見ていた。

⏰:08/09/14 19:24 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#258 [◆1y6juUfXIk]
「変な女だな。娼婦について妙に詳しかったり、ナイフの扱いが妙に上手かったり……

まぁそれはいいとして、お前はどうするつもりだ?

彼女が抱えている問題は、恐らくお前とは比にならない。それぐらいは俺でも予想がつく。

………どうするんだ? お前に彼女を救えるのか? 自分の人生ですら救済できなかったお前ができるのか?」

目の前の男は、絶望的な顔をする。

「お前が今考えてることを当ててやるよ。
今すぐ家を飛び出して電車に飛び乗って、あの木に行く。勝負を放り出して反則勝ちする気だ」

⏰:08/09/14 19:25 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#259 [◆1y6juUfXIk]
太郎は目の前の男をたしなめた。あらんかぎりの同情の念を込めて。

「やめとけよ。それはフェアじゃねぇ」

そうさ、そんな勝ち方に意味はない。
人生最後の、プライドを賭けた戦いだ。

このままあそこで死んだって、イマイチすっきり死ねそうにない。
死にきれないままに怨霊になって、あの林を永遠にさ迷うのはゴメンだ。

「こんな俺でもできること。小説以外に、何か………」

その夜、太郎は一晩中考え込んでいた。
 

⏰:08/09/14 19:26 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#260 [◆1y6juUfXIk]
翌日、太郎は身支度を整え鏡の前に立った。
クローゼットを掻き回して揃えた、いつもより少しだけお洒落な服だ。

「…よし」

家を出て、花子の待ついつもの喫茶店へ急いだ。



「よう」

「ん」

すでに来ていた花子の隣に腰を下ろす。
彼女は口をつけていたコーヒーカップに視線を落とし、一息置いてから言った。

⏰:08/09/14 19:26 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#261 [◆1y6juUfXIk]
「…私の事情を話そう」

「あー、それなんだけど別にいい」

「? どういう事だ?」

「俺には俺なりの計画があるんだ。だからまぁ、いつかは聞くかもしれんが、今はいい」

「そうか。では、その計画というのは?」

「秘密だ」

「秘密……?」

「まぁ任せとけって。とにかく外に出ようぜ」

⏰:08/09/14 19:27 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#262 [◆1y6juUfXIk]
向かった先は、なぜか近所の動物園。

「見ろよ、ハダカネズミだ。モンハンに出てくるフルフルのモデルってこれじゃないか?」

「さぁ………」

花子は目の前の珍獣を眺める事と自分の人生の救済とが結び付かず、少し悩んだ。

この男は一体何を考えているのだろうか。
それとも何も考えていないのか?

⏰:08/09/14 19:28 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#263 [◆1y6juUfXIk]
 
途中で太郎は突然、進行方向を変えた。

「えーっと……んじゃ次は向こう行こうぜ」

「ん? 待って、見てあれ、爬虫類館だって。私はあっちに行きたい」

「いや……楽しくないだろ、蛇とかカエルとかトカゲとか見たって」

「何で? 行こうよ」

花子は頻りに嫌がる太郎の腕を無理やり引っ張って、爬虫類館へ入った。

建物の一角では「蛇に見て触れて楽しもう」というキャンペーンをやっていた。
毒を持たない大人しい種類の蛇がケージの中に入っている。

⏰:08/09/14 19:28 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#264 [◆1y6juUfXIk]
「小さい蛇ってカワイイね。ほら、あなたも」

「遠慮するわ」

花子が指に絡ませている黄色い蛇を差し出したが、太郎は青ざめて後ずさった。

「もしかして蛇とか苦手?」

「にににに苦手ちゃうわ!」

「噛まないし大丈夫だって。ほら」

逃げ出そうとする太郎を掴まえて、ズボンを掴む。

「ズボンの中に入れてやろう。マムシパワー直腸注入〜!」

「やーめーてーーー!!」

⏰:08/09/14 19:29 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#265 [◆1y6juUfXIk]
飼育員に怒られて追い出され、その日はお開きになった。

夕暮れの中を駅に向かって歩きながら、花子は太郎に聞いた。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? 一体どんな計画なんだ?」

「秘密だ。とにかく、明日も同じ時間に喫茶店でな」

「まぁ別にいいけど…1週間は付き合うよ、約束だし」
 

⏰:08/09/14 19:29 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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