【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#265 [◆1y6juUfXIk]
飼育員に怒られて追い出され、その日はお開きになった。
夕暮れの中を駅に向かって歩きながら、花子は太郎に聞いた。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? 一体どんな計画なんだ?」
「秘密だ。とにかく、明日も同じ時間に喫茶店でな」
「まぁ別にいいけど…1週間は付き合うよ、約束だし」
:08/09/14 19:29 :P903i :☆☆☆
#266 [◆1y6juUfXIk]
次の日も、その次の日も太郎は花子をいろんな場所に連れていった。
映画館、博物館、遊園地に水族館に、何かのお祭りにも行った。
太郎は時にはおどけてみたりして花子の笑顔を誘った。
だが花子は困ったような、苦笑いのような顔を浮かべるだけだった。
本当の意味で笑った顔を、花子はまだ一度も見せていない。
そして、6日目の夕方。
:08/09/14 19:30 :P903i :☆☆☆
#267 [◆1y6juUfXIk]
2人は河口に面した公園のベンチに座り、夕焼けに染まった海と川の境界を眺めていた。
海も川も流れは穏やかなのに、2つが混ざりあう場所は流れが早い。
その早い流れで水面が小刻みに揺れ、夕方の太陽のオレンジ色の光を細かく反射している。
ダイヤモンドが水面のあちこちに落ちているみたいで、とてもきれいだ。
それを眺めながら、花子が呟いた。
「あなたの計画がわかった」
「ん?」
「つまり、この世にはあんな楽しいことがあるんだとか、こんな綺麗なものがあるんだとか、そういうことを教えたかったんじゃないか?」
:08/09/14 19:30 :P903i :☆☆☆
#268 [◆1y6juUfXIk]
「えーっと、まぁそうでもあるんだけど」
「違う?」
「少し、な」
「そう」
花子は少し空を仰いで、不意にベンチから立ち上がった。
「ナイフの使い方を教えてあげる」
:08/09/14 19:31 :P903i :☆☆☆
#269 [◆1y6juUfXIk]
「何だよいきなり」
「いいからほら、立って。こうして構えてみて」
太郎は立ち上がり、手にナイフを持っているつもりで、言われた通りの格好をした。
花子が太郎の腕を持ち上げ、姿勢を修正する。
「ナイフは一撃必殺の武器だ。自分が持ってることを相手に悟られてはいけない。
だから抜いてから攻撃するんじゃなく、抜くのと攻撃を同時にやるんだ」
そう言って花子は太郎の横で手を取り、ナイフを投げるマネをさせる。
そう言えば、チンピラを追い払った時も、花子はギリギリまでナイフを抜かなかった。
:08/09/14 19:31 :P903i :☆☆☆
#270 [◆1y6juUfXIk]
「こうだ、こう」
花子が太郎の後ろに回り、腕を取る。
2人の体が密着した。
「えーと……ああ、こうか」
「ニヤニヤするな」
「断じてしてない」
「こう、手首のスナップを活かして、ヒュッと。……あ」
花子がつまずき、太郎の方に倒れてくる。
太郎はそれを受け止める。
抱き合った格好のままで、少し時間が止まった。
:08/09/14 19:32 :P903i :☆☆☆
#271 [◆1y6juUfXIk]
「……今のは、わざとか?」
「かもね」
囁きあい、ゆっくり互いから離れる。
太郎はすぐさま今の出来事について考えを巡らせた。
ナイフの使い方を教えると言いだしたのも、自分にくっつきたかったからなのかも。
(いや、邪推か……あー、いやでも……うーん…)
「どうした?」
「何でもない」
「そうか…ところで、明日でちょうど1週間だが」
「そうか…もうあれから2週間経ったのか」
:08/09/14 19:33 :P903i :☆☆☆
#272 [◆1y6juUfXIk]
明日でゲームの最終日。
長くも短くも感じた。
いや、自殺したかった人間が2週間も生きたんだから、長かったのかもしれない。
「お前は結論は出たのか?」
「どうかな、わからない。あなたは?」
「俺もわからん」
「そうか」
それまでと同じように会う約束をして、2人は駅で別れた。
:08/09/14 19:33 :P903i :☆☆☆
#273 [◆1y6juUfXIk]
花子は電車を降りて駅前のアパートに向かう。
自宅のドア前で鍵を取り出そうとポケットに手を入れた時だった。
背後の空気が変わった。
ぞっとするような悪寒が背筋を走る。
反射的に、ポケットの中で鍵とナイフとを持ち変える。
しかし、ナイフを抜く前に背中に押し付けられた金属極が電流を吐き出した。
「ッ…!」
花子の意識は弾け飛んだ。
:08/09/14 19:34 :P903i :☆☆☆
#274 [◆1y6juUfXIk]
翌日。
太郎はいつもの喫茶店で花子を待っていた。
「…遅いな」
いつもなら彼女の方が先に来て座っているはずだ。
電話も何度かけても繋がらない。
太郎の胸に少しずつ不安が募っていく。
昼過ぎまで待ったが、花子が来る気配はない。
「まさか、抜け駆けてあの木へ…?」
急いで電車に飛び乗り、あの林へ向かう。
例の木のところまで行って確認したが、やはり誰もいなかった。
:08/09/14 19:34 :P903i :☆☆☆
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