【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#267 [◆1y6juUfXIk]
2人は河口に面した公園のベンチに座り、夕焼けに染まった海と川の境界を眺めていた。

海も川も流れは穏やかなのに、2つが混ざりあう場所は流れが早い。
その早い流れで水面が小刻みに揺れ、夕方の太陽のオレンジ色の光を細かく反射している。

ダイヤモンドが水面のあちこちに落ちているみたいで、とてもきれいだ。

それを眺めながら、花子が呟いた。

「あなたの計画がわかった」

「ん?」

「つまり、この世にはあんな楽しいことがあるんだとか、こんな綺麗なものがあるんだとか、そういうことを教えたかったんじゃないか?」

⏰:08/09/14 19:30 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#268 [◆1y6juUfXIk]
「えーっと、まぁそうでもあるんだけど」

「違う?」

「少し、な」

「そう」

花子は少し空を仰いで、不意にベンチから立ち上がった。

「ナイフの使い方を教えてあげる」

⏰:08/09/14 19:31 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#269 [◆1y6juUfXIk]
「何だよいきなり」

「いいからほら、立って。こうして構えてみて」

太郎は立ち上がり、手にナイフを持っているつもりで、言われた通りの格好をした。

花子が太郎の腕を持ち上げ、姿勢を修正する。

「ナイフは一撃必殺の武器だ。自分が持ってることを相手に悟られてはいけない。
だから抜いてから攻撃するんじゃなく、抜くのと攻撃を同時にやるんだ」

そう言って花子は太郎の横で手を取り、ナイフを投げるマネをさせる。

そう言えば、チンピラを追い払った時も、花子はギリギリまでナイフを抜かなかった。

⏰:08/09/14 19:31 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#270 [◆1y6juUfXIk]
「こうだ、こう」

花子が太郎の後ろに回り、腕を取る。
2人の体が密着した。

「えーと……ああ、こうか」

「ニヤニヤするな」

「断じてしてない」

「こう、手首のスナップを活かして、ヒュッと。……あ」

花子がつまずき、太郎の方に倒れてくる。

太郎はそれを受け止める。

抱き合った格好のままで、少し時間が止まった。
 

⏰:08/09/14 19:32 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#271 [◆1y6juUfXIk]
 
「……今のは、わざとか?」

「かもね」

囁きあい、ゆっくり互いから離れる。

太郎はすぐさま今の出来事について考えを巡らせた。

ナイフの使い方を教えると言いだしたのも、自分にくっつきたかったからなのかも。

(いや、邪推か……あー、いやでも……うーん…)

「どうした?」

「何でもない」

「そうか…ところで、明日でちょうど1週間だが」

「そうか…もうあれから2週間経ったのか」

⏰:08/09/14 19:33 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#272 [◆1y6juUfXIk]
明日でゲームの最終日。
長くも短くも感じた。

いや、自殺したかった人間が2週間も生きたんだから、長かったのかもしれない。

「お前は結論は出たのか?」

「どうかな、わからない。あなたは?」

「俺もわからん」

「そうか」

それまでと同じように会う約束をして、2人は駅で別れた。

⏰:08/09/14 19:33 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#273 [◆1y6juUfXIk]
 
花子は電車を降りて駅前のアパートに向かう。

自宅のドア前で鍵を取り出そうとポケットに手を入れた時だった。

背後の空気が変わった。
ぞっとするような悪寒が背筋を走る。

反射的に、ポケットの中で鍵とナイフとを持ち変える。

しかし、ナイフを抜く前に背中に押し付けられた金属極が電流を吐き出した。

「ッ…!」

花子の意識は弾け飛んだ。 

⏰:08/09/14 19:34 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#274 [◆1y6juUfXIk]
 
翌日。
太郎はいつもの喫茶店で花子を待っていた。

「…遅いな」

いつもなら彼女の方が先に来て座っているはずだ。
電話も何度かけても繋がらない。

太郎の胸に少しずつ不安が募っていく。
昼過ぎまで待ったが、花子が来る気配はない。

「まさか、抜け駆けてあの木へ…?」

急いで電車に飛び乗り、あの林へ向かう。
例の木のところまで行って確認したが、やはり誰もいなかった。

⏰:08/09/14 19:34 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#275 [◆1y6juUfXIk]
太郎は内心ほっとしていた。

安心した自分はおかしいのだろうか。

しかし少なくとも、彼女は反則はしていなかった。

1度喫茶店に戻ったが、花子はいなかった。
電話も相変わらず繋がらない。

太郎はとうとう彼女の家に行くことにした。
一度聞いただけの曖昧な会話を頼りに、駅前のアパートを1つずつ確かめていく。

「……ここだな」

そろそろ暗くなってくる頃に、ようやくそのアパートを見つけた。
2階建ての建物に6世帯ほどが入る、小さなアパートだった。

「確か102号室って言ってたな……ここか」

⏰:08/09/14 19:35 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#276 [◆1y6juUfXIk]
ノックしようと息を整えた時、太郎は彼女の声を聞いた。
否、ただの声じゃない。

呻き声だ。

「なんだ…?」

裏のベランダに回り、カーテンの隙間から中をうかがう。

スーツ姿の男が1人いて、何か喋っているようだ。
こちらからは足ぐらいしか見えないが、奥に花子の姿も確認できた。

男は血の滲んだナイフを片手に下げていた。

太郎は思わず1歩後退する。
胃の底から恐怖がわき上がってきていた。

眼前のガラス窓に、自分の姿が写る。
その姿に、絞り出すような小声で言った。

⏰:08/09/14 19:35 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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