【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#272 [◆1y6juUfXIk]
明日でゲームの最終日。
長くも短くも感じた。

いや、自殺したかった人間が2週間も生きたんだから、長かったのかもしれない。

「お前は結論は出たのか?」

「どうかな、わからない。あなたは?」

「俺もわからん」

「そうか」

それまでと同じように会う約束をして、2人は駅で別れた。

⏰:08/09/14 19:33 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#273 [◆1y6juUfXIk]
 
花子は電車を降りて駅前のアパートに向かう。

自宅のドア前で鍵を取り出そうとポケットに手を入れた時だった。

背後の空気が変わった。
ぞっとするような悪寒が背筋を走る。

反射的に、ポケットの中で鍵とナイフとを持ち変える。

しかし、ナイフを抜く前に背中に押し付けられた金属極が電流を吐き出した。

「ッ…!」

花子の意識は弾け飛んだ。 

⏰:08/09/14 19:34 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#274 [◆1y6juUfXIk]
 
翌日。
太郎はいつもの喫茶店で花子を待っていた。

「…遅いな」

いつもなら彼女の方が先に来て座っているはずだ。
電話も何度かけても繋がらない。

太郎の胸に少しずつ不安が募っていく。
昼過ぎまで待ったが、花子が来る気配はない。

「まさか、抜け駆けてあの木へ…?」

急いで電車に飛び乗り、あの林へ向かう。
例の木のところまで行って確認したが、やはり誰もいなかった。

⏰:08/09/14 19:34 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#275 [◆1y6juUfXIk]
太郎は内心ほっとしていた。

安心した自分はおかしいのだろうか。

しかし少なくとも、彼女は反則はしていなかった。

1度喫茶店に戻ったが、花子はいなかった。
電話も相変わらず繋がらない。

太郎はとうとう彼女の家に行くことにした。
一度聞いただけの曖昧な会話を頼りに、駅前のアパートを1つずつ確かめていく。

「……ここだな」

そろそろ暗くなってくる頃に、ようやくそのアパートを見つけた。
2階建ての建物に6世帯ほどが入る、小さなアパートだった。

「確か102号室って言ってたな……ここか」

⏰:08/09/14 19:35 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#276 [◆1y6juUfXIk]
ノックしようと息を整えた時、太郎は彼女の声を聞いた。
否、ただの声じゃない。

呻き声だ。

「なんだ…?」

裏のベランダに回り、カーテンの隙間から中をうかがう。

スーツ姿の男が1人いて、何か喋っているようだ。
こちらからは足ぐらいしか見えないが、奥に花子の姿も確認できた。

男は血の滲んだナイフを片手に下げていた。

太郎は思わず1歩後退する。
胃の底から恐怖がわき上がってきていた。

眼前のガラス窓に、自分の姿が写る。
その姿に、絞り出すような小声で言った。

⏰:08/09/14 19:35 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#277 [◆1y6juUfXIk]
「逃げろよ。逃げてあの木で吊っちまえ。……そう言いたいんだろ?
確かにいい案だ。
だってあれだろ、俺はチンピラにすらびびっちまう男だし、どうせ死ぬわけだし、なんつーかさ」

言い訳をするだけして、最後に固く目を閉じた。

「今日1日はまだ、花子を助ける日だ。そうだろ?」

ベランダを見回すと、手頃なサイズの石を見つけた。
それを手に取り、ガラス窓に投げつけた。

「!?」

男が弾かれたように振り返る。
鼻息は荒く、目は充血して血走っていた。

その奥には花子が、下着姿でベッドに縛り付けられて、猿グツワを咬まされていた。

⏰:08/09/14 19:36 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#278 [◆1y6juUfXIk]
花子は全身を浅く刻まれており、白い肌に赤い傷口が縦横に走っている。

「いきなり入ってきて何処のどちら様だコラ。取り込み中だ出ていけ」

「こりゃ、テメェがやったのか?」

「――!!」

ベッドで花子が言葉にならない叫びを上げている。
「逃げて」だろうか。それとも「私に構うな」だろうか。

「この女の新しい男か。ふん…趣味が悪いな」

「お前が言うな、変態野郎が」

「出ていけと言ったはずだが?」

⏰:08/09/14 19:37 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#279 [◆1y6juUfXIk]
男はナイフを小さく払い、指で回して逆手に持ち変えた。
相当に使い慣れているらしい。

(だが落ち着け、奴は俺が『武器』を持ってるのを知らない。一瞬でもいい、気を逸らせれば…)

「どうした、ビビったか? ふん、その様子じゃこの女がどんな奴か知らないらしいな」

「は?」

「こいつは元コールガールで、さらに――」

「――!!」

縛り付けられている花子が、全身の力を込めてベッドの上でのたうち回った。

その拍子にベッドサイドに置かれていた目覚まし時計がひっくり返って、派手な音を立てる。

男の視線が、一瞬だけそちらに向いた。

⏰:08/09/14 19:37 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#280 [◆1y6juUfXIk]
 
今この瞬間だけ、俺は俺じゃない。俺が書く小説に出てくるような、タフでクールなナイスガイだ。

太郎は自分にそう言い聞かせた。

ポケットに手を突っ込む。
一次選考通過者に贈られた万年筆。
太郎にとっては大事なそれを、躊躇なくポケットから抜いた。

抜くと同時に親指でキャップを弾く。

弾くと同時に踏み込んで、男の胸めがけてねじり込む。

「くっ!?」

「だああああ!!」

⏰:08/09/14 19:38 📱:P903i 🆔:☆☆☆


#281 [◆1y6juUfXIk]
腕の力だけでは、人間の体にナイフはそうそう簡単に刺さるものじゃない。
タックルをかける要領で体をぶつけ、自分の体重を使って突き立てる。

花子に教わった通りのやり方を、狂いなく実行した。
男ともつれ合って床を転がる。

「ぐぎゃあああ!!! ひいいいい!!!」

「うるせぇな、黙ってろよ」

先に立ち上がった太郎が、床でのたうち回る男の顔面を、渾身の力を込めて踏みつけた。

男が気絶したのを確認し、花子の猿グツワと縄をほどく。

⏰:08/09/14 19:38 📱:P903i 🆔:☆☆☆


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