【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#340 [◆8HAMY6FOAU]
 
まだ俺たちが付き合いたての頃、大学の帰り道に寄ったスーパー。
慣れた手つきで夕食の材料を選んでは黄色いかごに入れていく彼女の後ろ姿を、俺は世界で一番の幸せ者だと思いながら眺めていた。

「ねぇ、野菜炒めでいいかな?」

俺がいくら我が儘を言っても、何時間と待ち合わせに遅れても、どれだけバイトの愚痴を零しても、彼女はいつも天使みたいに優しく頷いてくれる。
かわいくて、気が利いて、頭も良くて、その上料理も出来る彼女。
この時、俺はコイツと結婚しようと心に決めたんだった。

⏰:08/09/14 22:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#341 [◆8HAMY6FOAU]
 

なのに、どうして俺は。


一年も経つと俺は、彼女を放置するようになっていた。
約束を破るのも、電話に出ないのも、メールを返さないのも、日常茶飯事。
しかも最低なことに、そうやって彼女を放置している間俺は幾度となく他の女たちの嬌声を浴びていた。
映画俳優として有名になるのが夢だった俺は、オーディションに落ちる度に彼女を放置し、小さな役を貰う度に彼女を求める、そんな愚行を繰り返した。
理由はわかっている。
彼女の瞳に映るには、どうしても自信が必要だったんだ。
虚勢やら見栄やらを何もかも食い尽くしてしまうような、あの透明な視線が恐かったのかもしれない。

⏰:08/09/14 22:22 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#342 [◆8HAMY6FOAU]
 
実際、彼女は俺の浮気を見抜いていた。
一度二度バレてからはそれを隠そうともしなくなっていた俺に、彼女は訊く。

「遅かったね。また女の子と一緒だったの?」

そう言われるともう、開き直るしかなかった。
自分が間違っているなんてことは俺の中でも果てしなく明白で。
ただ、彼女の前では何故か自分の非を認めることが出来なかった。

「どうしてそういうことしちゃうの? 他に好きな人が出来たんなら、正直に言うべきだよ」

⏰:08/09/14 22:22 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#343 [◆8HAMY6FOAU]
 
違う、好きなんかじゃない。
俺が好きなのはコイツだけなんだ、信じてはもらえないだろうけど。
言い訳をすると、役者仲間が女癖の悪いやつばかりなのがいけなかった、俺は流されていた。

「自分を持たなきゃダメよ。あなたには才能があるんだから」

彼女は役者としての俺の才能を、絶対的に認めてくれていた。
どんなに小さな役しか貰えなくても今まで続けて来られたのは、その事実があったからだ。
彼女の支えが無かったら、俺は諦めていただろう。
しかしそんな恩を感じながらもどうしてか素直に甘えることは出来なくて、俺はその後も数えきれないほどの禁忌を繰り返す。

⏰:08/09/14 22:24 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#344 [◆8HAMY6FOAU]
滑稽な男の、滑稽なプライドだった。

それなのに、彼女は俺を責めない。
何故そうなるのか、と控え目に訊いてくる以外は、俺の裏切り行為について一切触れなかった。
俺はその理由を、彼女が優しいからだと、俺のことが好きで仕方ないからだと思っていたけれど。
今思えば俺は、彼女のことをマリア様みたいに、或いはロボットみたいに崇めてしまっていたのかもしれない。
宇宙より広い心を持ち、何をしても傷つくことはなく、永遠に俺を好いていてくれる存在だと。
けどそんなはずないんだ。
彼女だって人間であり女性であり、同時に俺の彼女でもある。

⏰:08/09/14 22:25 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#345 [◆8HAMY6FOAU]
俺の行為に嫉妬もすれば嫌になることだってあるだろう、いや、あって当然だ。
俺はなんて馬鹿なことをしていたんだろう。

つまり、答えが出た。
俺が抱えていた一番大きな問題をたった今解き終えた。
だからだろうか、胃につっかえていた汚物を全て吐き出せたような肩の荷が降りたような不思議な安堵感を得て、俺はその時初めて雨が降り出していたことを知る。
薄い壁を隔てて耳に伝わる静かな雨音が、俺に決断させた。


俺は彼女と付き合ってちゃいけない人間だ。

⏰:08/09/14 22:26 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#346 [◆8HAMY6FOAU]
 

彼女は完璧な女性だ。
俺なんかが汚しちゃいけない、もっとお似合いのヤツがいるんだ。
そうだ、好きな人が出来たって言ってたじゃないか、そいつと幸せになってくれたら、それでいい。

⏰:08/09/14 22:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#347 [◆8HAMY6FOAU]
 
思い立ったらすぐに立ち上がった。
まだ顔は溢れ続ける涙でグシャグシャだが、この雨なら気にすることもない。
溜まっている洗濯物の中に混ざり込んでいた黒い上着を引っ掴んで腕を通すが、生地が絡まってなかなか通らないことにイライラする。
腕をグイグイねじ込みつつ、俺の眼は鞄を探していた。
やっと袖に腕が通るとすぐ、ちゃぶ台の下に発見した鞄を肩にかけ、ちゃぶ台の上のタバコとライターと原付の鍵を床にボトボト落としながらジーンズのポケットに突っ込む。
部屋のドアを勢いよく開けるのと同時にサンダルをつっかけてそのまま走り出す。

⏰:08/09/14 22:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#348 [◆8HAMY6FOAU]
 
屋根の外に出た瞬間、大粒の雨が体を打つ。空は灰色の絵の具を塗りたくったようにべったりしていて、その透明感のない雲は凄まじいほどに水滴を落とし続けていた。
雨の日は危ないからバイクに乗らないで、と彼女に言われていたが今はそれどころじゃない。
一旦ポケットに入れた鍵を再び引っ張り出しながらバイク置き場に向かって駆け抜ける。
駐輪場の粗末な屋根が見えて、俺はそのままUターンした。
やっぱり彼女との約束は守りたい。
今更だけど、俺はやっぱり彼女が好きだったんだ。裏切りたくなんか、なかったんだ。

⏰:08/09/14 22:28 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#349 [◆8HAMY6FOAU]
 

普段なら原付を飛ばして一瞬で走りぬける道を、惨めに濡れながら息を切らしてメロスの如く走る。
俺は、ひとつのことだけを考えていた。
横を走るでかいトラックが撥ねた水を被ろうと、濡れたコンクリートに滑って転ぼうと、信号無視した車に轢かれそうになろうと、俺は彼女のことだけを脳内に浮かばせていた。

――どう言えば、うまく伝わるだろう。
俺の歪んだ本音を、どんな言葉にすれば理解してもらえるだろう。

赤い光が俺を立ち止まらせる。
降り続ける雨は、だんだんと強さを増していた。
もう俺の耳には、コンクリートと水滴のぶつかる音しか聞こえない。

⏰:08/09/14 22:31 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#350 [◆8HAMY6FOAU]
 
――いや、理解してもらおうなんて俺は……。
彼女はずっと理解してくれていたのに。それを無下にしたのは俺自身なのに。

着てきた上着も、破れたジーンズもその中の下着も伸びた髪も濡れてグチョグチョだ。体に纏わりついて余計に不快感を与える。
それでも、信号が青になるとまた走り出した。

――彼女のところに行っても、会ってくれるかどうかわからない。
今までどんなひどい行為をしても、彼女は俺を突き放さなかった。待っていてくれた。
俺はそんな彼女に甘えて、欺いて、期待して、……振られたんだ。

⏰:08/09/14 22:31 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#351 [◆8HAMY6FOAU]
 
何台もの自動車が水溜りを蹴散らしながら車道を走り抜けていく。
その横を俺はバチャバチャ音を立ててピエロみたいに走った。
完全に濡れ切った髪からいくつも水の筋が垂れて、目を開けていられない。
でも顔面に流れるのは薄汚れた空から降ってきた水分だけじゃなくて――俺はまだ、泣いていた。
前から歩いてきた相合い傘のカップルがそんな俺を見て嗤う。

――頭のおかしい奴とでも思われてるんだろうな。
構わないさ、実際俺は狂ってた。
あんなひどい仕打ちを受ける罪なんて彼女には一つもなかったのに。
罰を与えられるべきなのは俺だ。
だから嗤えよ。気が済むまで嗤ってくれよ。

⏰:08/09/14 22:33 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#352 [◆8HAMY6FOAU]
 
もう少し走れば辿り着く。
目指していた建物の大きな影を認めて、俺はそれを畏敬の念を含んだ眼差しで見上げた。

――もう繕ったりしない。
今まで平気で嘘を吐いて虚勢を張って誤魔化してきた愚かな背徳者は、ありのままを曝け出すと誓うよ。
それが俺の償いだ。


彼女のマンションのエントランスは花畑と見紛うほど植木や花壇で溢れていて、ここを通る度にお前は場違いだと言われているような被害妄想に苛まれた。
この世で最も美しく我が身にとってただ唯一守るべき花を放り出して、簡単に股を開く安っぽく汚らわしい女たちと交わるような汚れた人間はここに来てはいけないんだ、と。

⏰:08/09/14 22:34 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#353 [◆8HAMY6FOAU]
だから俺はよっぽどのことがない限り彼女の部屋に入らなかった。
そして今、俺と彼女の間によっぽどすぎるくらいよっぽどの事態が起きている。
俺は迷わず足を進めた。


彼女の部屋は四階の端、エレベータで上がるとすぐだ。
四階のボタンを押して気付いた。俺の眼からは相変わらず涙が流れている。
もう顔面の感覚が麻痺して、自分の顔がどんな表情を映しているのかさえわからない。
というか、髪も服もビショビショ、顔は恐らく最低にひどい状態でしかも泣いている。
こんな無様な恰好を彼女に見せるのはいくらなんでも、と躊躇ってから、すぐに思い直した。

⏰:08/09/14 22:35 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#354 [◆8HAMY6FOAU]
 
これでいいんだ。
彼女の前で、俺は繕いすぎた。
だから虚構にがんじがらめにされて、真実を隠すのに必死になって、彼女の透き通る視線に怯えるような馬鹿になってしまった。

全身にかかっていた重力が解け、目の前の壁が両側に開いた。その先にある薄暗い世界は、しかし、さっきまでよりいくらか明度を上げたように感じた。
エレベータは俺を四階に降ろすとまたすぐに上昇を開始する。
それを見届けてから、俺はびしょ濡れの髪を弄んで無造作に整えた。
上着を脱いでギュウっと絞ると、大量に水が溢れて床に飛び散る。シミになっていく。
下に来ていたTシャツも腹の部分だけ絞る。またシミが増えた。

⏰:08/09/14 22:36 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#355 [◆8HAMY6FOAU]
ジーンズは水分をたっぷり含んだまま。
俺はこれから電気椅子に拘束されに行く死刑囚のような、それでいて、たった今刑期を終えて刑務所から解放される服役囚のような、多面的感情に溺れていた。どちらにせよ俺は犯罪者だ。罪は重い。


四〇八号室、表札に名前はない。ここが彼女の部屋だ。
表札の下のインターホンに人差し指を乗せてまだ流れる涙を空いた手の甲でぐいと拭うと、目をつぶって人差し指に力を込める。
チャイムの音が雨音と混じり合って空間を支配したが、それからすぐにドアの向こうから緩いテンポの足音が届いた。

⏰:08/09/14 22:37 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#356 [◆8HAMY6FOAU]
 
目の前の扉が開くと、そこには彼女がいた。白いワンピースを着て鳶色の長いストレートヘアを胸まで下ろしたその人は、やっぱり天使そのものだった。

「……ゴメン、悪かった。俺やっぱり好きだ。他のやつなんかに負けないぐらい、好きだ」

頭のてっぺんから爪先までびしょ濡れの上にひどい顔をして泣いている男が吐いた情けないセリフに、彼女は恋愛映画のヒロインよりロマンティックで残酷なくらい優しい笑顔を返す。
さっきまでの懺悔は天使を目にした瞬間全部吹き飛んでしまって、俺のこの脳みそは紛い物なんじゃないかと思った。

⏰:08/09/14 22:39 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#357 [◆8HAMY6FOAU]
俺にとって彼女は、無罪のみを言い渡す裁判官で、全てを許す神で、正しい方向を示す母で、そこはかとない愛を生む女で。


「おかえり」


自分が濡れるのも構わず、境界線がわからなくなるほど俺を強く抱き締めた彼女は、もう一つの解答を俺に教えてくれた。
この先も俺たちのスクリーンには、間抜けなピエロと麗しいヒロインのラヴストーリーがエンドレスで流れ続けるという真実の答えを。

⏰:08/09/14 22:39 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#358 [◆8HAMY6FOAU]
踊り狂え、愛しきピエロ

>>338-357


終了しました。
次の方どうぞ!

⏰:08/09/14 22:44 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#359 [◆j9RqQwYZbM]
今から投下します!

タイトルは,

【花と君とあたし。】

⏰:08/09/14 22:49 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#360 [◆j9RqQwYZbM]
「別れたぁ〜!!
っていうかフラれたぁ!!」

突然の大声に店内に居る客という客の視線が、一斉に自分へと注がれる。そりゃあそうだ。
静かに花を選びに来ている人間からすれば、場違いにも甚だしい行動。

しかしそんな冷ややかな視線にも慣れている私は、店内の空気などお構いなしに、いつものようにある人物をキョロキョロと探し始める。

第一今の私に周りを気にしていられる程の余裕なんて、これっぽっちも残されていなかった。

「…イタッ!?」

すると突然、後頭部を何かで叩かれ思わず大声を上げる。

⏰:08/09/14 22:56 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#361 [◆j9RqQwYZbM]
「おい!これ以上大声出すな!
店はお前の家じゃねぇぞ!?」

振り返ると手には新聞紙を握り締めている長身の男が、呆れた表情で突っ立っている。
どうやら私の後頭部はコレで叩かれたらしい。

「…プッ…あたしより声張ってんじゃん」

そんな彼とは逆に、注意している本人が一番声を張り上げているのが可笑しくて、私は思わず吹き出した。

「…ッ!うるせぇーよ!とりあえずちょっとこっち来い」

そうこうしている間に、私はほぼ無理矢理の状態で店の奥へと連れて行かれる。

⏰:08/09/14 23:02 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#362 [◆j9RqQwYZbM]
店の奥へと彼に手を引かれている間も、客の視線が痛々しい程感じられた。

確かに逆の立場だったら私はウザイ客だろうな〜なんて考えていたら、いつもの広場に通された。

様々な種類の花が植わっている花壇が円を書くように敷き詰められた広場には、小さなベンチとテーブルが真ん中幾つか置かれている。

私はこの広場が好きなんだけど、今は使われていないらしくほぼ花の在庫置き場になっている。

⏰:08/09/14 23:12 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#363 [◆j9RqQwYZbM]
「…で?今度は何で別れたんだよ?」

ついつい綺麗な花に見とれていた私は、彼の声で一気に現実へと引き戻され急に腹が立って来た。

「そうだった!もぉ本当聞いてよ〜!今度はさぁ…」

私はずっと抑えていた気持ちを声の出る限り彼に伝えようとする。

そして彼はいつものように必死で話す私を彼は黙って聞いてくれる。

これが私と彼の関係の全てだった。今も昔も。

⏰:08/09/14 23:18 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#364 [◆j9RqQwYZbM]
彼、こと"大庭咲良(オオバサクラ)"は2つ年上の私の幼なじみでこの花屋の一人息子だ。

兄弟の居ない私にとっては幼なじみであり兄のような存在でもある。

そのせいか私は何か嫌なことがあったり心配事があったりすると、必ずこの花屋に駆け込んで咲良に話を聞いてもらっていた。

まぁその相談事の9割方が私の恋愛についてなのだが。

⏰:08/09/14 23:26 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#365 [◆j9RqQwYZbM]
今回の相談もそうだった。つい最近まで付き合っていた彼に突然、「重い」と言ってフラれてしまった。

フラれた彼に何の未練も無いしむしろあんな奴もうどうでも良いのだけど、いつも思うことがある。

彼の言う"重い"って一体何?
私にとって好き=いつも一緒に居たいとか、相手をいつも想いやっていたいとか、そういうこと。

それなのにその想いを"重い"だなんて言葉で片付けられちゃ、納得出来るワケが無い。

だから私はいつも自分に合う人を求めて沢山恋愛をしてきた。
でもいつも結果は同じ。

なかなか思う通りにいかなくてまたこの花屋に来てしまうんだ。

⏰:08/09/14 23:35 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#366 [◆j9RqQwYZbM]
「…で結局フラれた、と」

「…まぁ…まとめたらそうなります」

支離滅裂な話を終えた頃時計に目をやると約30分が過ぎていた。
咲良に喋ればスッキリすると思っていたのに、意外と未消化な気持ちで居る自分に驚いた。

暫く沈黙が続き、咲良はゆっくりと席を立ち上がる。

⏰:08/09/14 23:43 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#367 [◆j9RqQwYZbM]
数分程して帰って来たかと思うと、咲良はおもむろに何かを私に差し出して来た。

「そうだな…今の沙保にはこの花を…花言葉は」

「もぉぉ!!咲良の花の慰めは要らないって!!」

咲良の言葉を遮るようにそう言うと、私はテーブルにうつ伏せる。

「お前…本当失礼な奴だな!人が心配して選んだ花を受け取らないなんてよぉ!!」

まだ馬鹿げた文句を言いながら、咲良は不機嫌そうにイスに座り直す。

⏰:08/09/14 23:49 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#368 [◆j9RqQwYZbM]
花屋の息子だからか知らないが、咲良はいつもその時の私の状況に合わせた花言葉の"花"を選んで私にくれる。

それが咲良流の慰め方らしいのだが、私にしてみれば何の意味も無い行動に思えてならない。

「そんな花くれるんだったらさぁ〜私のことだけ考えてくれる人を連れて来てよぉ…」

周り一面に咲いている花を見ながら、私は思わずそう呟いた。

すると突然、咲良が席を立ち上がって一目散に奥の店内へと戻って行った。

咲良が奇怪な行動を取るのは日常茶飯事なので、私は気にせずテーブルに伏せていた。

⏰:08/09/14 23:56 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#369 [◆j9RqQwYZbM]
テーブルに顔をうずめたまま、急に静かになった広場で一人ふ、と思った。

[きっとまた恋しても、"重い"とか言われてフラれるだけなんだろな…]

この恋をバネにして!なんて、口では簡単に言えるけれど実際はそうじゃない。
毎回毎回、失恋する度に心身共々ボロボロで、自分ばっかり責めて、泣いて…。

そんなことを考え出したら急に悔しくて、悲しくて、涙が頬を伝った。

「こんな時に…一人にしてんじゃないよ…バカ咲良…ッ」

⏰:08/09/15 00:03 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#370 [◆j9RqQwYZbM]
すると突然、顔の下に敷いていた腕を力強く引き上げられた。

「一人で…ハァッ…泣くな!!俺が居る意味が無いだろ!」

驚いて見ると息を切らした咲良が私の手を握っている。

「だ…ッだって!っていうか、勝手に飛び出して行ったのは咲良の方じゃん!!」

突然のことに動揺した私は、急に泣いている自分が恥ずかしくなって慌てて涙を拭く。

その言葉を聞いた咲良は思い出したように、私の手を握る右手とは逆の手をまた勢い良く差し出した。

「これ…お前に渡せるの、今しかないと思って」

咲良はそう言って俯いた。
見ると咲良の手には、一輪の赤いバラがあった。

⏰:08/09/15 00:11 📱:W52P 🆔:☆☆☆


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