【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#359 [◆j9RqQwYZbM]
今から投下します!

タイトルは,

【花と君とあたし。】

⏰:08/09/14 22:49 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#360 [◆j9RqQwYZbM]
「別れたぁ〜!!
っていうかフラれたぁ!!」

突然の大声に店内に居る客という客の視線が、一斉に自分へと注がれる。そりゃあそうだ。
静かに花を選びに来ている人間からすれば、場違いにも甚だしい行動。

しかしそんな冷ややかな視線にも慣れている私は、店内の空気などお構いなしに、いつものようにある人物をキョロキョロと探し始める。

第一今の私に周りを気にしていられる程の余裕なんて、これっぽっちも残されていなかった。

「…イタッ!?」

すると突然、後頭部を何かで叩かれ思わず大声を上げる。

⏰:08/09/14 22:56 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#361 [◆j9RqQwYZbM]
「おい!これ以上大声出すな!
店はお前の家じゃねぇぞ!?」

振り返ると手には新聞紙を握り締めている長身の男が、呆れた表情で突っ立っている。
どうやら私の後頭部はコレで叩かれたらしい。

「…プッ…あたしより声張ってんじゃん」

そんな彼とは逆に、注意している本人が一番声を張り上げているのが可笑しくて、私は思わず吹き出した。

「…ッ!うるせぇーよ!とりあえずちょっとこっち来い」

そうこうしている間に、私はほぼ無理矢理の状態で店の奥へと連れて行かれる。

⏰:08/09/14 23:02 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#362 [◆j9RqQwYZbM]
店の奥へと彼に手を引かれている間も、客の視線が痛々しい程感じられた。

確かに逆の立場だったら私はウザイ客だろうな〜なんて考えていたら、いつもの広場に通された。

様々な種類の花が植わっている花壇が円を書くように敷き詰められた広場には、小さなベンチとテーブルが真ん中幾つか置かれている。

私はこの広場が好きなんだけど、今は使われていないらしくほぼ花の在庫置き場になっている。

⏰:08/09/14 23:12 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#363 [◆j9RqQwYZbM]
「…で?今度は何で別れたんだよ?」

ついつい綺麗な花に見とれていた私は、彼の声で一気に現実へと引き戻され急に腹が立って来た。

「そうだった!もぉ本当聞いてよ〜!今度はさぁ…」

私はずっと抑えていた気持ちを声の出る限り彼に伝えようとする。

そして彼はいつものように必死で話す私を彼は黙って聞いてくれる。

これが私と彼の関係の全てだった。今も昔も。

⏰:08/09/14 23:18 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#364 [◆j9RqQwYZbM]
彼、こと"大庭咲良(オオバサクラ)"は2つ年上の私の幼なじみでこの花屋の一人息子だ。

兄弟の居ない私にとっては幼なじみであり兄のような存在でもある。

そのせいか私は何か嫌なことがあったり心配事があったりすると、必ずこの花屋に駆け込んで咲良に話を聞いてもらっていた。

まぁその相談事の9割方が私の恋愛についてなのだが。

⏰:08/09/14 23:26 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#365 [◆j9RqQwYZbM]
今回の相談もそうだった。つい最近まで付き合っていた彼に突然、「重い」と言ってフラれてしまった。

フラれた彼に何の未練も無いしむしろあんな奴もうどうでも良いのだけど、いつも思うことがある。

彼の言う"重い"って一体何?
私にとって好き=いつも一緒に居たいとか、相手をいつも想いやっていたいとか、そういうこと。

それなのにその想いを"重い"だなんて言葉で片付けられちゃ、納得出来るワケが無い。

だから私はいつも自分に合う人を求めて沢山恋愛をしてきた。
でもいつも結果は同じ。

なかなか思う通りにいかなくてまたこの花屋に来てしまうんだ。

⏰:08/09/14 23:35 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#366 [◆j9RqQwYZbM]
「…で結局フラれた、と」

「…まぁ…まとめたらそうなります」

支離滅裂な話を終えた頃時計に目をやると約30分が過ぎていた。
咲良に喋ればスッキリすると思っていたのに、意外と未消化な気持ちで居る自分に驚いた。

暫く沈黙が続き、咲良はゆっくりと席を立ち上がる。

⏰:08/09/14 23:43 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#367 [◆j9RqQwYZbM]
数分程して帰って来たかと思うと、咲良はおもむろに何かを私に差し出して来た。

「そうだな…今の沙保にはこの花を…花言葉は」

「もぉぉ!!咲良の花の慰めは要らないって!!」

咲良の言葉を遮るようにそう言うと、私はテーブルにうつ伏せる。

「お前…本当失礼な奴だな!人が心配して選んだ花を受け取らないなんてよぉ!!」

まだ馬鹿げた文句を言いながら、咲良は不機嫌そうにイスに座り直す。

⏰:08/09/14 23:49 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#368 [◆j9RqQwYZbM]
花屋の息子だからか知らないが、咲良はいつもその時の私の状況に合わせた花言葉の"花"を選んで私にくれる。

それが咲良流の慰め方らしいのだが、私にしてみれば何の意味も無い行動に思えてならない。

「そんな花くれるんだったらさぁ〜私のことだけ考えてくれる人を連れて来てよぉ…」

周り一面に咲いている花を見ながら、私は思わずそう呟いた。

すると突然、咲良が席を立ち上がって一目散に奥の店内へと戻って行った。

咲良が奇怪な行動を取るのは日常茶飯事なので、私は気にせずテーブルに伏せていた。

⏰:08/09/14 23:56 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#369 [◆j9RqQwYZbM]
テーブルに顔をうずめたまま、急に静かになった広場で一人ふ、と思った。

[きっとまた恋しても、"重い"とか言われてフラれるだけなんだろな…]

この恋をバネにして!なんて、口では簡単に言えるけれど実際はそうじゃない。
毎回毎回、失恋する度に心身共々ボロボロで、自分ばっかり責めて、泣いて…。

そんなことを考え出したら急に悔しくて、悲しくて、涙が頬を伝った。

「こんな時に…一人にしてんじゃないよ…バカ咲良…ッ」

⏰:08/09/15 00:03 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#370 [◆j9RqQwYZbM]
すると突然、顔の下に敷いていた腕を力強く引き上げられた。

「一人で…ハァッ…泣くな!!俺が居る意味が無いだろ!」

驚いて見ると息を切らした咲良が私の手を握っている。

「だ…ッだって!っていうか、勝手に飛び出して行ったのは咲良の方じゃん!!」

突然のことに動揺した私は、急に泣いている自分が恥ずかしくなって慌てて涙を拭く。

その言葉を聞いた咲良は思い出したように、私の手を握る右手とは逆の手をまた勢い良く差し出した。

「これ…お前に渡せるの、今しかないと思って」

咲良はそう言って俯いた。
見ると咲良の手には、一輪の赤いバラがあった。

⏰:08/09/15 00:11 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#371 [◆j9RqQwYZbM]
「…バラ……?」

まだ現状が理解仕切れていない私は、じっとその花を見つめる。

そんな私を咲良は苛々した様子で暫く見ていると、胃を消したように突然大声を上げた。

「バラの花言葉ぐらいだったら、お前も知ってるだろ!」

「花言葉…?」

そこまで言うと咲良はまた恥ずかしそうに俯いた。
咲良を見つめながら、私はゆっくりと思い出す。

バラの花言葉。
確か……。

「ー……ッ!!!!!!!!」

思い出した途端、自分の体温が急上昇していくのが分かる。

「そ…れって…」

バラの花言葉、"愛・愛情"。私が何よりも欲しがっていたモノだ。

⏰:08/09/15 00:18 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#372 [◆j9RqQwYZbM]
「口で言わなきゃ分かんねぇのかよ…この鈍感」

いつになく顔を赤らめている咲良はバラをテーブルに置くと、私を見つめ直す。

「花言葉で告白って…。プッ…相変わらずダサいなぁ〜咲良は!」

大真面目に言っている咲良を前に私は思わず吹き出して言う。
咲良の方は一世一代の告白をまさか笑われるとは思っていなかったらしく、キョトンとしている。

「お前…っ…普通ここで笑うか…ッ!?」

咲良はそこまで言うとまた口を紡ぐ。
というよりも、紡がざるを得なかった。

咲良の唇を、私が塞いだから。

⏰:08/09/15 00:24 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#373 [◆j9RqQwYZbM]
何で気が付かなかったんだろう。

私が今まで恋をしていて不満だらけだった理由。それは、いつも相手に咲良を重ねて思っていたからだ。

咲良のような優しさや温もりを相手に求めては、拒まれていた。

そりゃあそうだ。
咲良の優しさは咲良にしか生み出せない。

こんな簡単なことに気が付くまで、随分時間がかかったものだ。

⏰:08/09/15 00:30 📱:W52P 🆔:☆☆☆


#374 [◆j9RqQwYZbM]
ゆっくりと唇を離すと、咲良から花の良い香りがした。
どこか懐かしくて心があったかくなる香り。

「沙保…お前って本当に無茶苦茶だな」

ようやく自由になった口を咲良は不満そうに開いた。その顔はバラより赤くて、また私は笑った。

「無茶苦茶な私に愛を誓ったのは咲良だよ?
最後まで付き合ってもらうから」

私はそう言って微笑むと目を閉じる。
咲良の甘い香りに包まれるのを、心地良く感じながら。

⏰:08/09/15 00:34 📱:W52P 🆔:☆☆☆


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