【特別企画】1日限りの恋愛短編祭り!【投下スレ】
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#378 [◆ZPM9124utk]
大学の授業が終わり
大学1年生の
立架絢が自宅への帰り支度
をしているところに
近くで話していた生徒
の声が聞こえてきた。
「ねーねー最近あの歩道橋
に男の人がずっといるの
知ってる?」
:08/09/15 01:41 :F705i :☆☆☆
#379 [◆ZPM9124utk]
「え、何それナンパ?」
「ん〜わかんない…。でも
超イケメンで〜女の子
ガン見してるらしいよ。」
「え〜どうしよ、
見てみたいな。」
絢は鞄に本を詰める手を
休ませて生徒達の話に
思わず聞き入って
しまっていた。
「誰か待ってるのかもね!」
「なーんかそれロマンチック!」
絢は生徒達の話が
一通り済むまで聞くと
鞄を提げコートを羽織り、
生徒達を尻目に
部屋を出て行った。
:08/09/15 01:43 :F705i :☆☆☆
#380 [◆ZPM9124utk]
…―今更あの人が
いる訳ないよね、うん。
だって一年も前の話だし…。
絢はそんなことを思いながら
大学を出て外の冷たい
風を受けコートの襟を
少し立てた。
『カランコロン』
絢は数ヶ月ぶりに聞くドアに
取り付けられたベルの音色
を少し懐かしく思った。
「いらっしゃいませ…
絢ちゃん!久しぶり!!」
コーヒーを淹れていた
短髪の青年の
店員が嬉しそうに絢に
声をかけた。
:08/09/15 01:45 :F705i :☆☆☆
#381 [◆ZPM9124utk]
「久しぶり、元気してた?」
絢も微笑みながら、
店員の近くのカウンター席
に腰を下ろした。
「元気元気!あの頃は
店に慣れなかったけど、
今はこの通り副店長だよ!!」
店長は誇らしげに
制服の胸ポケットに
付けていたネームプレートを
指した。
確かに「副店長」と印刷
されている。
:08/09/15 01:47 :F705i :☆☆☆
#382 [◆ZPM9124utk]
「たった一年で!
…変わるもんなんだね。」
「うん、一年は大きいよ。
あ、絢ちゃん何頼む?」
「それじゃあ紅茶を。」
メニューも見ずに即答した
絢に副店長は頷き、
淹れたコーヒーを他の店員に
渡すと、今度は紅茶を
淹れ始めた。
「絢ちゃんは、アイツが
いなくなった、ってだけで
何にも変わらないね。」
「…アイツって、」
「峰原悠二のこと。」
:08/09/15 01:48 :F705i :☆☆☆
#383 [◆ZPM9124utk]
副店長は少し寂しそうな
表情をした。
「…一年前はよくここに
2人で来たしね。そういえば
…悠二と友達だったよね、
最近元気なの?」
絢は少しざわついている
店内の中でひっそり言った。
:08/09/15 01:49 :F705i :☆☆☆
#384 [◆ZPM9124utk]
「それが、一年前から連絡
取れなくてさ…。
他の峰原の友達も連絡
取れないって言ってて…。」
副店長は悲しげな面持ち
で言い、カウンター越しに
絢に紅茶を渡した。
「それっていつから?」
絢はとても嫌な予感がした。
興奮して少し声が大きくなる。
「12月20日、去年のちょうど
今頃だよ。あ、明日だね。」
:08/09/15 01:51 :F705i :☆☆☆
#385 [◆ZPM9124utk]
…―間違いない。
彼と別れた日だ。
絢は紅茶に手もつけず
鞄に入れていた財布から
千円札を乱暴に抜き取り、
副店長に渡した。
「え!?絢ちゃん!??」
副店長が驚いている間に
絢は鞄をつかみ、勢い良く
店を出た。
…―もしかして、
歩道橋にいるのは…
:08/09/15 01:52 :F705i :☆☆☆
#386 [◆ZPM9124utk]
絢は雑踏をかき分けて
例の歩道橋まで急いだ。
人にぶつかったって
コートがめくれたって
気にもしなかった。
ただ、絢は歩道橋にいる
女性を見ているイケメンが
誰なのか確信していた。
緑色の急な階段を
一気に駆け上がる。
男性はいた。
歩道橋の真ん中で
悲しい目で通る人々を
眺めている。
…―一年前の翌日に
この場所で別れた
元彼、悠二だ。
:08/09/15 01:53 :F705i :☆☆☆
#387 [◆ZPM9124utk]
「ゆう…」
そう言って伸びた手を
絢はふと我に返って
制した。
…―今更悠二に声
かけるものじゃ
ないかもしれない…。
まして、あんな別れ方
だったんだから…。
絢は悠二を見つめながら
制した手を強く握った。
…―でもみんな心配してた
し、私が一声かけるくらい…。
:08/09/15 01:54 :F705i :☆☆☆
#388 [◆ZPM9124utk]
絢が脳内で悶々と
悩んでいると、
歩道橋を通った子どもが一人
悠二に近づいた。
「お兄ちゃん何してるの?」
不思議そうな顔をして
その子どもは悠二に聞いた。
悠二はしゃがみ込むと、
子どもに微笑み、答えた。
「大切な人、待ってるんだ。」
「大切な人?それって
お兄ちゃんの彼女なの?」
「……たぶん。」
:08/09/15 01:55 :F705i :☆☆☆
#389 [◆ZPM9124utk]
悠二は少し困ったように
言った。そんな悠二に子どもは
へんなのー、と言って、
歩道橋を駆けていった。
「…だよな。」
絢には悠二がぼそりと
つぶやいたのがわかった。
人ごみに混ざったざわめき
なんてもう聞こえなかった。
悠二にスピーカーが
ついているかのように
彼の声だけ聞こえた。
「…何もかもわかんない
なんて変だよな…。」
:08/09/15 01:56 :F705i :☆☆☆
#390 [◆ZPM9124utk]
「どういうこと?」
いつの間にか絢は
悠二の目の前に
しゃがみ込んでいた。
長い沈黙が流れた。
悠二の目はまん丸だ。
「…………え?」
悠二が絢に向かって言った
第一声はそれだった。
「………すみません、
もしかしてあなた、
立架絢さんですか?」
…―これは冗談?
絢の思考は停止する。
悠二は絢を見つめたままだ。
…―もし本当に悠二が
忘れたとしたら、彼の記憶
が丁度消えているのなら…。
:08/09/15 01:57 :F705i :☆☆☆
#391 [◆ZPM9124utk]
絢はうつむいて、
悠二を見つめた。
「すみません、違います。」
…―これはきっと
彼にとって、私にとって
一番いいのかもしれない。
悠二は、絢の答えを聞くと、
慌ててぺこりと
謝り、立ち上がった。
「そうですよね、すみません。
よくその人に
似ていたもので。」
「…いえ。それより、
さっき、何もかもわからない
って…。」
:08/09/15 01:58 :F705i :☆☆☆
#392 [◆ZPM9124utk]
絢も立ち上がって悠二
と並び、橋の下を眺める。
鞄を握り跡がついて
しまいそうなくらい
強く掴んだ。
「あ、はい。僕、丁度一年前に
事故で記憶
なくしちゃいまして、」
絢の目の前が真っ暗に
なった。
「事故っていっても
ぶつかった程度なんです
けどね…でも厄介なことに
なかなか記憶が
戻ってくれないんですよ。」
「…………。」
何も言い出せない絢を
お構いなしに悠二は
話を続ける。
:08/09/15 01:59 :F705i :☆☆☆
#393 [◆ZPM9124utk]
「親や少人数の
親しい友人に大まかな話を
聞いて大体の記憶は
取り戻したんですが、一年前
の数ヶ月のことだけ
誰に教えてもらっても
しっくり来ないんですよ。
ほら、あのパズルで形が
似てるピースが
当てはまらないみたいに。」
「…………はい。」
なんとか絢は頷いた。
「立架絢さんという女性が
僕の大切な人だった、
ということはわかるんですが。」
:08/09/15 02:00 :F705i :☆☆☆
#394 [◆ZPM9124utk]
同じく絢は頷く。
…―落ち着け私。
彼にとって私を思い出さない
方が幸せなはず。
「記憶って大きいキーワード
を思い出したらあとは
思い出せるらしいんです。
あと少しなんですよね。」
…―そのために早く
私のことを諦めせなくちゃ。
絢の呼吸が荒くなる。
「て、ごめんなさい。
見ず知らずの人にこんな
こと話してしまって…。」
悠二は慌てて絢に
謝った。
:08/09/15 02:01 :F705i :☆☆☆
#395 [◆ZPM9124utk]
「記憶をなかなか
思い出せないのは、あなたの
どこかで思い出したくない
自分がいるんじゃない?
そんな辛い過去、忘れたまま
の方がいいに決まってる!
こんな先の見えない
記憶探し、馬鹿みたい!!」
絢は悠二に言った。
胸が痛くて今にも
倒れてしまいそうだった。
:08/09/15 02:02 :F705i :☆☆☆
#396 [◆ZPM9124utk]
絢が歩道橋を引き返そう
とした時、悠二の足元に
見覚えのあるマフラーを
見つけた。
…―私が去年あげた
マフラー。
「これ、落としてる。」
乱暴にそれを悠二に
押し付けると絢は
振り向きもせずに歩道橋の
階段を駆け下りた。
:08/09/15 02:03 :F705i :☆☆☆
#397 [◆ZPM9124utk]
悠二はマフラーを
受け取りながら絢の
背中を見つめていた。
「さっきの…もしかして……。」
一人暮らししている
マンションの部屋の
鍵を開けてベッドに
倒れ込んだ絢の顔は
涙でぐちゃぐちゃだった。
「…あのマフラー、
まだ使ってた…。」
ふとさっきの情景が
絢の中で思い出された。
「悠二…。」
絢はいつの間にか
眠って夢をみていた。
一年前の話だ。
:08/09/15 02:04 :F705i :☆☆☆
#398 [◆ZPM9124utk]
絢は7年間片思いしていた
異性に男友達だった
悠二に後押しされながらも
思い切って告白した。
「ごめん、君に興味ないから。」
返ってきたのは、
期待していた言葉より
何倍も何倍も冷たい言葉。
その態度に絢が
傷つかない訳がなかった。
何ヶ月も家に引きこもった
絢を心配した悠二は
見舞いついでに絢に
声をかけた。
:08/09/15 02:05 :F705i :☆☆☆
#399 [◆ZPM9124utk]
「絢に最高の場所、
教えてやるよ。」
絢がしぶしぶ付いていくと
そこはただの歩道橋だった。
ぼやく絢に悠二は
歩道橋の上から向こうを
指差した。
「絢、ほらあれみて。」
絢の瞳に映ったのは
クリスマス期間限定で
道路の端々の木に付けられた
数え切れない程に
輝いているイルミネーション
だった。
「こんなの、知らなかった…。」
:08/09/15 02:06 :F705i :☆☆☆
#400 [◆ZPM9124utk]
絢は目を丸くして
笑顔で景色を眺める。
「絢、もし良かったら
俺とつ、つ、付き合って
くれないか!??」
絢を先ほどから見つめていた
悠二は緊張した面もちで
告白した。
驚いた絢は固まった後、
はにかみながら、
「…うん。」
と返事をした。
:08/09/15 02:07 :F705i :☆☆☆
#401 [◆ZPM9124utk]
それから悠二は
片時も絢のそばから
離れなかった。
絢が昔を思い出して
悲しくなったらいつだって
励ましてくれた。
絢の大学合格が決まった時
は自分のことのように
喜んでくれた。
そんな悠二を絢も
いつからかかけがえのない
大切な人だと感じる
ようになった。
しかし、そう思う反面
絢は自分が寂しさを
埋めるために悠二と付き合い
始め都合の良いことを
しているのではないか、
と悩むようになった。
:08/09/15 02:08 :F705i :☆☆☆
#402 [◆ZPM9124utk]
絢にとって悠二は
大切な人だった。
しかし片思いしていた異性
は絢にとってまだ
諦めきれない大好きな人
だったのだ。
そうと分かったら
いても立ってもいられなく
なった絢は悠二を
あの歩道橋に呼び出した。
「別れてほしいの。」
:08/09/15 02:09 :F705i :☆☆☆
#403 [◆ZPM9124utk]
悠二は案の定、嫌だ、
と言った。しかし絢は
聞く耳を持たずに
言ってしまった。
「あんたなんか最初から
好きなんかじゃなかった。」
『ピピピ!!!』
目覚ましの音で絢は
長い夢から目を覚ました。
「…………嫌な夢。」
絢は一言つぶやくと
いつも通り身支度を整えて、
自宅を出て大学へ向かった。
:08/09/15 02:10 :F705i :☆☆☆
#404 [◆ZPM9124utk]
いつもは通らない歩道橋
が気になって引き寄せら
れるかのように
絢は階段を上っていた。
悠二が立っていた。
髪もボサボサで服も
ジャージだ。
「………絢だよね。」
悠二が絢に近づいて
ゆっくり言った。
絢は何も言えなかった。
悠二が涙を流していたから。
:08/09/15 02:11 :F705i :☆☆☆
#405 [◆ZPM9124utk]
「俺、昨日マフラー拾って
もらった時、思い出したんだ。
絢がこれプレゼントして
巻いてくれたの。」
そう言い、悠二は
適当に巻きつけたマフラーを
きゅっ、と握った。
「それがキーワードに
なっていろんなこと
思い出したんだ。」
「確かに、辛かったけど…
でも俺思い出して
良かったよ。久しぶり、絢。」
「………久しぶり…。」
絢も挨拶を返した。
悠二があまりにも
嬉しそうに言うので、
さすがに嘘をつくことが
できなかった。
:08/09/15 02:12 :F705i :☆☆☆
#406 [◆ZPM9124utk]
「ひとつ思い出せないことが
あるんだけど何で俺のこと
振ったの?」
橋の下で何台もの車が
ものすごいスピードで
走り抜けていくので
絢は思わず目でそれらを
追いかけながら答えた。
「あたし、あの時、寂しくて
誰でもいいからそばにいて
欲しかった。」
…―また言えない。
素直になれない。
もう二度とあんな思い、
したくない。
:08/09/15 02:13 :F705i :☆☆☆
#407 [◆ZPM9124utk]
絢は下唇を噛んで、
悠二を見据えた。
「ううん、本当は悠二に
いてほしかった。でも、」
「あの人のことが諦め
られなくて、このままじゃ
悠二のこと寂しい時だけ
利用してる
みたいだったから…。」
絢は言い終えてすがすがしい
ような申し訳ないような
複雑な気持ちに襲われた。
「…ひどいな。」
:08/09/15 02:14 :F705i :☆☆☆
#408 [◆ZPM9124utk]
悠二は悲しそうに俯いた。
絢は頷く。
「でもさ、」
「今度は俺が寂しいから
絢のこと諦めきれないから
そばにいてほしいって
言ったらどうする?」
そう言って顔を上げた
悠二は一年前に見たことある
笑顔だった。
:08/09/15 02:15 :F705i :☆☆☆
#409 [◆ZPM9124utk]
絢は驚いて固まった後、
「わかんない。」
と笑顔で答えた。
「わかんない、って何だよ!」
簡単にあしらわれた悠二
が絢に少しムキになって
言った。
「私もやっとあの人のこと
吹っ切れたから、
考えてみる。」
絢はピースサインを
してみせた。
「…おう。」
今年の冬の始まり、
2人の関係が再び
この歩道橋の上で
変化し始めた。
:08/09/15 02:16 :F705i :☆☆☆
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