先生の言うとおり③

　
部屋を見渡すと
朝使った食器が洗われていて
朝洗濯して干していた服は
綺麗に畳まれていた

その事で愛子が
あの後
家に帰って来たのは
間違いない事実だった
　

　
「アコ…
どこに行ったんだよ…」

力無くそう呟くと
ふとテーブルに置かれた
紙が目に止まる

その紙に書かれた字は
まさしく

愛子の字だった
　

　
呆然とする
達也の手から
するりと紙が落ちる

その紙には

【暫く実家に帰って
これからの事を考えます
勝手な事してごめんなさい。
けど、一人になりたいです。お店の方も暫く休みます。　　　　　愛子】

と、綺麗な字で書かれていた
　

　

達也は呆然と
立ち尽くしながら
麗子に言われた

『事情が事情かもしれないけど、夫婦になるって言う二人にどんな“秘密”も要らない！そのせいで取り返しのつかない擦れ違いになる事だってあるんだからね！！』

と言う言葉を
一人噛み締めていた
　

　
……………………………………………

「…愛子は寝たのか？」

「ええ。」

愛子の実家では
神妙な面持ちの二人が
テーブルに座っていた
　

　
「でも愛子、ちゃんと達也さんに言って来たのかしら…？」

「置き手紙して来たってたろ？ほっとけばいい」

「けど…」

「もうアイツになんかやらん！あんな大口叩いてたくせに、結婚前からこんなんじゃ思いやられる」
　

　
そう言って
マリエの入れた
緑茶をすする

「マリエ、達也って奴が来ても会わせるなよ！」

怒りが
納まらない様子のクロ

「嫌です。」
　

　
「嫌ですってお前なぁ…。今日の愛子を見ただろ？とても結婚前の幸せな女の顔じゃなかった」

「えぇ。疲れ切った顔だった。」

「ならっ！」

「クロ、けどね、別れる別れないを決めるのは親の私達じゃない。本人達よ？私達は静かに見守るだけでいいの！」
　

　
その剣幕に敵わず
『俺は最初から気に食わなかった』と呟くと

拗ねたのか
そっぽを向くクロ

「私だって愛子を身篭った時を考えたら、クロに振り回されてた様な気がするけど？」

その言葉に
返す言葉はなく
クロはそそくさと風呂場に逃げ込む
　

　
「もう…クロは親バカなんだから……」

そう言うマリエは
優しく微笑んでいる

ふと気配を感じ
後ろを振り向くと
愛子が立っていた。
　