人生の案内板
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#811 [わをん◇◇]
スーツ姿の父が、鞄を下げて手を上げる。
「行ってらっしゃい」
「今日は早めに帰るよ」
父がそう言うと母は笑った。
「早く帰りたい、でしょ?」
「まぁ、そうだな。じゃ、そろそろ行ってくる」
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#812 [わをん◇◇]
「はいはい。私もこのまま出ますよ」
「良枝。これから、頑張ろうな」
微笑む父に母はまた笑った。その様子に何故か違和感を覚えたが、父に「いってらっしゃい。頑張ってね」と、届かない声を掛けると玄関に向かう。リビングに上がると違和感が一気に増した。
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#813 [わをん◇◇]
あれ。違う。何かが違う。仏壇にわたしの写真がない?母の笑顔があたまにちらつく。父の言葉があたまを過ぎる。
「頑張ろうな」
頑張ろうな?
:23/01/06 18:47 :Android :pRdUKMH2
#814 [わをん◇◇]
昨日から何かが変だ。前向きだが、何かが違う。わたしは母が家に入って来ないことに気付いた。母の声が再生される。
「私もこのまま出ます」
出る?
:23/01/06 18:47 :Android :pRdUKMH2
#815 [わをん◇◇]
何処へ?何故、一昨日帰ってこなかった?何故、一昨日普段着だった?
何かに弾かれたように家を出る。キョロキョロと辺りを見渡せば、彼方に母の後ろ姿が見えた。わたしは走って後を追う。おかしい。人間のあたまで考えるのも変だが、どうもおかしい。わたしは死んだ。それならば。消滅するのはいつだ?
:23/01/06 18:47 :Android :pRdUKMH2
#816 [わをん◇◇]
三途の川はどこ?そこにはいつ行くの?それに、まだ見ていない。わたしという死者が存在しているのに、わたし以外の死者の姿を。
わたしは何だ?
:23/01/06 18:47 :Android :pRdUKMH2
#817 [わをん◇◇]
ひとつの希望があたまに浮かんだ。希望を断たれた時に傷付くのは嫌だが、往生際が悪いのはわたしの性格だ。だが、それに賭けてみたかった。わたしは死んでしまった。だけど、夢くらいは見ても罰は当たらないだろう。希望くらいは持っても、神様は許してくれるだろう。
:23/01/06 18:48 :Android :pRdUKMH2
#818 [わをん◇◇]
母の隣を歩き、やがてある建物に着いた。ここは、
「病院?」
白に統一された建物を見て、気持ちは高鳴った。落ち着け、わたし。まだ早い。答えは母について行けばわかるだろう。
:23/01/06 18:48 :Android :pRdUKMH2
#819 [わをん◇◇]
施設に入ると、内部を一瞥(いちべつ)してから母は受付を済ました。エレベーターで三階に上がると、廊下を通り抜け、ある病室の前で立ち止まる。母がドアを開ければ、中は個室になっていた。室内を見て、目を丸くした。
:23/01/06 18:48 :Android :pRdUKMH2
#820 [わをん◇◇]
「なんで?」
そこには。病室のベッドに身を埋めて眠る自分の姿があった。口元には呼吸を助けるためなのか、規則正しい音を出す機械が伸びている。呆然とするわたしの前で、母は、せっせと世話をし始めた。
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