人生の案内板
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#301 [幸]
……。
もしかしてこの子…。



『私もね、前から聞きたかった
ことがあるの。』

『なんだよ…?』


『あなた、本当に弟を殺したの?』



少年は驚いた顔で私を見た。

⏰:09/01/09 17:16 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#302 [幸]
『…だからここにいるんだよ』


『母さんのため…?
笑わすなよ。
弟を殺した方が…『俺が殺したんだよ!!』


少年はそう言い張った。

『ねぇ、正直に話せば?
お母さん、あなたが
行きたくない場所に
行かせる方がより嫌な思いするよ?』

⏰:09/01/09 17:44 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#303 [幸]
私がそう言うと
少年は大粒の涙を流した。


少年の涙はとても綺麗だった。


『あなた、私と一番最初に
会った時、なんて会話したか
覚えてる?

“あの日だけ、弟を叱る
には殺気を感じた”って
言ってたよね?』

⏰:09/01/09 17:47 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#304 [幸]
『…止めろ』


弱々しく少年はそう言ったが
私は話しを続けた。


『本当は、お母さんが
弟さんを殺害して、
あなたはそれを…
『やめろって言ってんだろ!!』



やはり少年でも男だ。
声変わりをしている、
低い声。
その低い声で怒鳴られると
余計に怖い。

⏰:09/01/09 17:50 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#305 [幸]
『…これ以上、母さんを
苦しまないでくれ…
もう十分苦しんだよ。

弟が産まれて、
自分の両親や夫にも
見捨てられ、ボロボロ
になっていく母親を
もう…

見たくないんだ…。
母さんは頑張ったよ。
頑張って子育てしたよ。』



これが優しさというの?
…言うんだよね
この少年にとって…

⏰:09/01/09 17:55 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#306 [幸]
さらに少年は話を続ける。


『…あんたは身近に
そういう人いないだろ?
だから綺麗事が言えるんだよ。


あんたさぁ、“障害者独立支援法”って
知ってる?』

⏰:09/01/09 17:58 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#307 [幸]
授業で聞いたことがあった法律だ。


『障害者のカ―ドを
健常者が悪用して
お金を取らせないようにするために
作られた法律…。』

『表向きはな。
でも実際、全く違うんだよ。』

⏰:09/01/09 18:00 📱:W53H 🆔:lFHCHULI


#308 [幸]
『どういう意味?』




少年は私の顔をじっと見つめた。

『あんたが言う通り
障害者手帳って言うんだけどね、
それを使用禁止とか
言われたら障害者はとても困ってしまうんだよ。』


『例えば?』

⏰:09/01/16 11:46 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#309 [幸]
『ん―、例えば
耳の不自由な人がさぁ
普通に今まで通り
一定の給料を貰って
働いてたとするじゃん?
それがさぁ、給料が減らされて
しまうんだよ。』



私の胸に何か重りが乗ってるみたいな気分だった。


支援っていう法律なのに
全然支援になってないじゃん。

⏰:09/01/16 11:51 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#310 [幸]
『なんで…?』

こんなこと、授業や
参考書などに載ってるはずがない。
私が知るはずない!!


そう思ったが、


『…ニュース見てないの?』


少年にそう言われ、
気づいた。

⏰:09/01/16 11:53 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#311 [幸]
『障害者が働いている
会社に政府はお金を
余分に与えてるんだ。
ここの会社はバリアフリー
だから…みたいな…

だけど今まで通り与えてた
お金が減らされたんだ。
だから給料も減らされて…

今、“この法律を撤廃せよ”って
デモ行進がすごいじゃん?』



授業でやってなくても
テレビや新聞を見れば
分かるんだよ…。

⏰:09/01/16 11:57 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#312 [幸]
ははは…
私は世の中のこと
全然わかってないじゃん。


じゃあ、なんのために
勉強してたの?
受験するため?

じゃあ、今まで勉強してたことは
世の中に全く通用しないってことなの……?

⏰:09/01/16 11:59 📱:W53H 🆔:pMK1Q/zQ


#313 [幸]
『ねぇ。』


少年が話してきた。

『なんで母さんが弟を
殺したと思ったの?』



『…そう思ったから。』


私は一切、警察の人と
話したことを言わなかった。

⏰:09/01/18 11:41 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#314 [幸]
『証拠がないのに?』



『証拠があれば認めるの?』


『世の中そうだろ』



…やはり母親が……

暫く沈黙が続いた。

⏰:09/01/18 11:43 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#315 [幸]
『おい、もうそろそろいいか?』



警察の声で少年は
深々とおじぎをし、
部屋を出て行った。



私たちは、少年がここから去るのを
見てるしかなかった。

⏰:09/01/18 11:46 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#316 [幸]
『先生―…』


隣に立っていた、高城先生に
話をかけた。


『同じ人間なのに
なぜこんなに差があるのですか?』



答えがほしい…
答えが。

⏰:09/01/18 11:48 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#317 [幸]
『簡単だよ。
それはね、平等じゃないからだよ。』


『えっ?』



高城先生は悲しそうに笑った。



丁度そこで運よく
5時間目の始まりの鐘が鳴った。

⏰:09/01/18 11:50 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#318 [幸]
平等……
昔は身分の差別があった。
今は昔よりはそれがなくなった。



でも金持ちとの差が激しい。
それは資本主義社会だから。


じゃあ‘子供’は?
障害者の子供がいると
いないだけで
こんなにも差があるのか?

⏰:09/01/18 11:53 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#319 [幸]
…おかしいね。
子供はみんな同じなのに。




授業なんて受けたくなかった。
授業中、それしか考えなかった。

⏰:09/01/18 11:55 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#320 [幸]
『あっ鮎川!!』




帰り道、小早川君に声をかけられた。

『なに?』



『俺さぁ見ちゃったんだよね。』

⏰:09/01/18 11:57 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#321 [幸]
『何を?』
『あの少年。テレビで
やってた。
障害の弟を殺害したんだろ?

なんでそいつが鮎川に?』




小早川君ならどうするかな?
この難問をあなたなら
解いてくれるのかしら?

⏰:09/01/18 12:00 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#322 [幸]
『障害者なんていなければいいのに…』



小早川君はあまりにも
サラッと言ったから
私は‘もう一回言って’と
言いたくなった。


『…なんで……?』


いなければいい…
つまり、死ねっていうこと?


死ねって、そんなに
サラッと言うもの?

⏰:09/01/18 12:55 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#323 [幸]
『その少年だって
障害者がいるから殺害
したんだろ?

じゃあ、いない方がましだよ。』



私は何も言えなかった。
さらに小早川君の話しは続く。

⏰:09/01/18 12:57 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#324 [幸]
『障害者を支えなければ
いけないじゃん?
俺ら……いや、働いてる人は。


しかも今は障害者の数が
増えてるしね。
真面目に働いてる人は
これから大変になる。
障害者の他に高齢者もいるしね。

負担者を殺害すればいいのに。

そうすれば、不景気の時
障害者も高齢者も苦しまないじゃん?』




小早川君がこういう考えを持ってたんだ…。

⏰:09/01/18 13:00 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#325 [幸]
『そ…それじゃあ
憲法に反する!!
25条の生存権に……』


何か言い返したかった。
そうしなければ
小早川君の言うことを
納得してしまう自分が
怖かったからだ。

⏰:09/01/18 13:03 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#326 [幸]
『綺麗事なんだよ…
憲法に反することとか…
今まで日本はしてきたから。
てか、時には破らなければ
どうにもできないことが
あるだろ?

世の中は全て綺麗事じゃ通らないんだよ!!』




…これが…現実か…
私は‘ごめん’と言い
その場から走り去った。

⏰:09/01/18 13:07 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#327 [幸]
想像しなかった。
小早川君があんな事を
言うなんて……

死ねだなんて…。



お腹の中にずうっと
育てられ、生まれたら
障害を持ってたら
殺せ………

なんて勝手なんだよ…

でもそれに対して何も言えない
私はもっと……

⏰:09/01/18 13:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#328 [幸]
死角の曲がり角を曲がった時、
走ってたせいか、激しく
ぶつかった。




おでこを触ると
漫画のたんこぶのように
腫れていた。

いったぁ…
涙がでてきた…


なぜだろう。
おでこより胸が痛いのは。

⏰:09/01/18 13:13 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#329 [幸]
‘会うたびに泣いてるね’

そう書かれたノートが
目の前に現れた。



顔を上げてみると
かけるがいた。

恥ずかしくなって
下を向いた。

⏰:09/01/18 13:15 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#330 [幸]
ひょいと、かけるの顔
が現れた。


びっくりして、一歩退いた。



普通人が下向いてる時
覗くかぁ!?

私がそう思っていると、
ノートがでてきた

⏰:09/01/18 13:18 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#331 [幸]
‘すごいたんこぶだね
どうしたね?’


……
あんたのせいだ!!


と、私は乱暴に書いた。

するとかけるは
自分の手提げの袋をあさり、

‘ああ、楽譜かぁ。
いやぁごめん。’

⏰:09/01/18 13:20 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#332 [幸]
と、ノートに書いた。



楽譜……
ピアノ弾けるのかな…?

そう思った。
するとかけるは私の手を掴み、

‘ついて来て’
と口パクで言った。

⏰:09/01/18 13:22 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#333 [幸]
タッタッタッ…
走る音。

私はおどおどしながらも
かけると走った。



なぜか周りのことなど
気にしなかった。
2人だけの世界にいるみたいだった。

⏰:09/01/18 13:25 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#334 [幸]
知らないレストランに入った。
そこは高級感が溢れてた。


すると、40代くらいの
男性が出てきた。

『やあ、かける君。
ん…隣の女の子……
もしや…』


男性は手話をしながら声をだして話した。

⏰:09/01/18 13:27 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#335 [幸]
‘まさか’


かけるは手話でそう言った。
当時、手話もできない私には
なんて言ったのか
全く分からなかった。



『すごいたんこぶだね。
かけるくん、女の子には
優しくしなきゃ。』


そう男性が言った。


‘俺のせいじゃない。’

⏰:09/01/18 13:30 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#336 [幸]
『でも、手当てぐらいは
してきなさいよ。』


‘もうすぐ仕事なんだよ
だからじじさんが代わりに
手当てしてよ’


『そのためにこの子と
一緒に来たのかよ。』


‘まあね、
じゃあ着替えてくる’

⏰:09/01/18 13:32 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#337 [幸]
かけるは楽譜を持って
奥の方に行った。


『やあ、いらっしゃい
さっき手話でね、
かけるに手当てしてって
頼まれたから手当てするか。』



男性はそう言うと
救急箱を取り出し
私のおでこに湿布を貼ってくれた。

⏰:09/01/18 13:34 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#338 [幸]
『じゃあ、これで失礼します。
湿布、ありがとうございました。』


私はそう言うと、


『せっかくだから
かけるのピアノ聞いたら?
かけるのピアノは凄いよ〜

それに、俺の楽譜が
あなたに傷を負わし
ちゃったからお詫びに
おごってあげるって。』

と男性が言った。

⏰:09/01/18 13:47 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#339 [幸]
ピアノ……
するとかけるがス―ツ
みたいな洋服を着、
楽譜を持って現れた。




そして優しく、強く
弾いた。

レストランの中にいた客は
ゆっくり、その音楽に
耳をすましていた。


『きれぃ……』



思わず口に出した。

⏰:09/01/18 14:04 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#340 [幸]
『かけるは一時期、
音大にスカウトされたんだ。

でも、小説を書きたいって言って
音大を蹴ったらしいよ。
ちなみにこの曲は
かけるが自分で作曲した…
“耳なしほういち”だよ』



『そうなんですか…』

⏰:09/01/18 14:08 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#341 [幸]
男性がこれしき何も
言わずに仕事をした。


ああ、なんて綺麗なのだろう。

私の濁った心が綺麗に
洗い流されるよいな…



私はずうっとこの曲を聞いていた。

⏰:09/01/18 14:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#342 [幸]
『何時まで平気なの?』

男性がそう聞いた。
この声に我に返った。

気がつけば7時を回っていた

『あっ…まぁいいや…』


私はそう言い、
同時にここでご飯を食べたら
帰ろうと思った。

⏰:09/01/18 14:12 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#343 [幸]
『はい、これかけるの
大好きなもの。
ちなみにかけるのおごり。』



そう男性に言われたので
一応男性にお礼を言い
食べた。

⏰:09/01/18 14:15 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#344 [幸]
『やぁかける、ありがとね。
今日はどうしても耳なしほういち
を聞きたいって客から
リクエストされたからね』



私は料理の半分食べ終わると
かけるがやってきた。


‘この時間帯ならなんとか’

⏰:09/01/18 18:04 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#345 [幸]
『でも、もうすぐ大学の
テストじゃないのか?』

‘なんとかなるよ’




かけるは私の隣に座り

‘かなちゃんはいつテストなの?’


とノートに書き、見せた。

⏰:09/01/18 18:07 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#346 [幸]
『私はまだ先だよ』

と言い、書いた。



‘へえ―’


かけるは私の食べてる
残りのご飯を見た。
そして

‘これおいしいだろ?’

と言った。

⏰:09/01/18 18:10 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#347 [幸]
『うん、ありがとね。
なんかおごらせて貰って。』



するとかけるは驚いた顔をした。

そして男性に手話で話しかけた

‘おい、じじさん!!’


『それくらいいいだろ』


男性はそう言いながら笑っていた。

⏰:09/01/18 18:13 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#348 [幸]
『では、今日はありがとうございました。

おいしいご飯に綺麗な音楽。
最高でした。』


私は食べた後、そうお礼した。



『1人で帰るの?
危険だよ。
かける送ってあげなよ。』

男性は手話をしながら
そう言った。

⏰:09/01/18 18:23 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#349 [幸]
‘えっ?なんで俺!?’


『お前が連れてきたんだろ。

借りたものは返すんだよ。』


‘しょうがねぇなあ。’


次にかけるはノートに

‘俺が食べ終わるまで
待ってろ’

と書いた。

⏰:09/01/18 18:25 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


#350 [幸]
『そんな、平気だよ』


私はそうノートに書いたが
押しに弱い私はかけるに
送ってもらうことになった。




内心、嬉しかったかも。

⏰:09/01/18 18:27 📱:W53H 🆔:D39xBK4k


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