人生の案内板
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#790 [わをん◇◇]
画面にはわたしの名前と電話番号が映っていた。しばらく停止した後、孝は通話ボタンを押した。ゆっくりと耳に近付けると、呼び出し音が響く。三回.......四回.......。
:23/01/06 18:42 :Android :pRdUKMH2
#791 [わをん◇◇]
出るはずがない、と確信しながら、孝の行動の意味を考えていた。結論、理解不能。八回目を過ぎると、孝は電話を切った。溜め息を吐く孝を横目に、少し気まずさを覚えた。孝が、教室で黙祷(もくとう)の時に見せた、わたしの机を見つめていた時のあの目をしていたのだ。
:23/01/06 18:42 :Android :pRdUKMH2
#792 [わをん◇◇]
何を考えているのか……わたしにはわからない。そう、思っていた。孝の漏らした言葉を聞くまでは。
「千恵。おまえはもう帰ってこないんだな、本当に、」
:23/01/06 18:42 :Android :pRdUKMH2
#793 [わをん◇◇]
不意打ちだった。
有り得ないと思っていたことが現実に起きた瞬間、わたしは顔に熱が昇るのを感じた。かああっ、と頬が熱くなる。孝は、わたしを想ってくれていたのだろうか。
:23/01/06 18:42 :Android :pRdUKMH2
#794 [わをん◇◇]
張り合い相手がいなくなったのを、寂しがってくれていたのだろうか。初めて見た、孝のそんな姿を。九年前に反発しだした関係が、九年ぶりに修復に向かった気がした。よくわからないが、気恥ずかしさでいっぱいになる。この感覚は知っていた。昔、体験したことがある。
:23/01/06 18:43 :Android :pRdUKMH2
#795 [わをん◇◇]
ランドセルを落としたあの放課後の時と同じだった。自らの熱と、場の空気と、何より恥ずかしさに耐え切れなくなったわたしは、逃げるようにその場を離れた。
:23/01/06 18:43 :Android :pRdUKMH2
#796 [わをん◇◇]
わたしは走った。顔の熱は冷める兆しはなく、走るスピードを上げてみる。しかし。息切れはしないし、全力疾走なのに思うように速くない。夢の中の全力疾走のような感じだ。それでも。わたしは走った。息切れはないが、疲労感が込み上げてくる。
:23/01/06 18:43 :Android :pRdUKMH2
#797 [わをん◇◇]
からだが脱力しきって走るのを止めたとき、空を見上げれば茜色の夕空が夜を待っているところだった。嗚呼、不思議だ。わたしは死んだ。なのに。生きていたときより、こころが躍っているような気がする。
:23/01/06 18:43 :Android :pRdUKMH2
#798 [わをん◇◇]
わたしは怖かった。道標がない未来に怯えていた。突然、影のように闇に紛れて消えてしまうんじゃないかと。突然、煙のように空気に混ざって溶けてしまうんじゃないかと。だけど、いまは違う。わたしは、怖くない。
:23/01/06 18:44 :Android :pRdUKMH2
#799 [わをん◇◇]
からだが熱い。実際の所、死んでから体温や気温などを感じる機能は遮断されていた。だから熱い、というよりは熱い気がするの方が正しいと思う。どちらにせよ、わたしはいま、赤面しているだろう。
:23/01/06 18:44 :Android :pRdUKMH2
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