冷たい彼女

そういえば凜ちゃんの笑った顔、知らないな。

「無理。やっぱりあんたみたいなガキと付き合うんじゃなかった。」

「えーっ！そんな事言わないでよ。凜ちゃんは俺の彼女なんだから、そんな寂しい事言わないでよ！」

凜は椅子から立ち上がりもしてくれない。

それに比べて俺は、凜の近くを動いてばかり。

確かにガキかもしんねぇ。

でも俺の性格上、じっとしてらんねーんだよ。

「あんたってさ、童貞でしょ？」

凜さん。

ここ教室。

みんな俺らの会話聞いてるよ。

俺はそういう話、嫌いじゃないけど凜ちゃん女の子じゃん。

うちのクラスの女子、そういう話に敏感な年頃なんだよ。

みんな引いてるよ。

友達できなくなるよ凜ちゃん！

「凜ちゃん、そういう話はみんながいる前でしない方が…」

「何で？あんただってみんなが聞いてるのに私に告ってきたじゃん。」

「告白とそういう話は別なんじゃないかな～なんて。」

「一緒だよ。付き合ったらキスもするしSEXもする。それくらいもう15なんだからわかるでしょ？」

教室は凜の声だけが響いた。

さすがの俺も言い返す言葉がない。

だって…

「ごもっとも。」

竜も大輝も呆気に取られていた。

男同士では惜しみなく話す下ネタも、女子の前ではしないもん。

教室で【SEX】なんて言葉が響くなんて思ってもなかった。

チャイムが鳴り、なんとか茶を濁した感じだった。

授業中も凜ばかり気になって、数学どころではない。

僕、厄介な彼女をゲットしちゃった感じですか？

「心。」

後ろから声をかけてきたのは菊地美帆。

「ん？」

「マジで付き合ったの？」

「美帆はどう思う？あの返事はOKだったんだよな？」

「んー…たぶん。」

「微妙だよな。」

「ま、難しい人だけど彼女ゲットおめでと。」

「ありがちゅ。」

「彼女できたんだからそのチャラいキャラ辞めた方がいいよ。」

「…はい。」

放課後になり、俺は凜の席に駆け寄った。

「りーんちゃんっ！」

「…。」

俺をチラッと見てすぐに視線を反らした凜。

「一緒に帰ろ！」

色々へこむ事だらけだけど俺の唯一の武器である笑顔を絶やさずに、凜に話し掛けた。

「…何で？」

キープ・ザ・笑顔！

「俺たち付き合ってんじゃん！」

「だからって何で一緒に帰らないといけないの？」

心くん、笑顔だよ！

「凜ちゃんと一緒に帰りたいもん！」

「…理由になってないよ。」

なんだか泣きそうだよ。

「心、帰るぞ。」

竜が呼びに来た。

「俺は今日、凜ちゃんと帰る！」

「あ、そう。じゃあな。」

竜は眠そうに教室から出て行った。

「何勝手に決めてんのよ。」

「一緒に帰ってくれるって言うまで帰さないからな！」