冷たい彼女
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#121 [ゆーちん]
玄関の置物を見ながら待っていると3分もしないうちに凜が現れた。
「凜ちゃん!こんばんは〜。」
「あんたは時間に極端だね。」
俺に目もくれず、凜は『いってきます。』と居間にいるじいちゃんばあちゃんに叫んでから、サンダルを履いて外に出た。
:08/12/12 10:30 :SH901iC :ufvbrGno
#122 [ゆーちん]
俺も杉浦のじいちゃんばあちゃんに『いってきます。』を言ってから外に出た。
「やっぱ夜風は気持ちいいね〜!」
今日はいつもみたいにお洒落していない。
キャミソールにスウェットの短パン。
裸足でサンダル。
:08/12/12 10:31 :SH901iC :ufvbrGno
#123 [春菜]
初めて読みました。
面白いです。
頑張ってください
:08/12/12 10:42 :PC :fqhnNpXI
#124 [ゆーちん]
髪は巻いたりせず真っ直ぐのまま。
アクセサリーもなし。
化粧だけはいつも通りだったけど。
「凜ちゃん、海行こう!」
「…いいよ。」
凜は笑わない。
だけど声で気分がわかるんだ。
今日の声は機嫌がいい。
怒ってもないし、悲しんでもない。
普通の状態。
:08/12/12 10:44 :SH901iC :ufvbrGno
#125 [ゆーちん]
慣れた動きで自転車の後ろに乗り、凜は言った。
「あ、携帯忘れた。」
「取って来る?」
「…いいや。別にいらない。この島に来てから携帯依存症治ったし。」
携帯依存症?
何の事かわからないが、とりあえず俺は出発した。
:08/12/12 10:45 :SH901iC :ufvbrGno
#126 [ゆーちん]
海は、誰もいなかった。
誰かいたとしても知り合いだから、それはそれで面倒だし恥ずかしい。
貸し切りでよかった。
「あそこ座ろう!」
「…うん。」
俺らがいつも溜まる岩場を指さした。
砂浜に足を取られながらも、今日は俺の後ろを一生懸命ついて来てくれる凜。
:08/12/12 10:46 :SH901iC :ufvbrGno
#127 [ゆーちん]
最初は一目惚れだったけど、俺どんどん中身も好きになってる気がする。
俺に冷たい事言っといて、こうやって付き合ってくれる。
根はいい子なのに、どうして冷たい態度ばかりなんだろう。
そんな事を気にしていると後ろから声がした。
:08/12/12 10:47 :SH901iC :ufvbrGno
#128 [ゆーちん]
「きゃっ!」
慌てて振り返ると凜は転んでいた。
「うぉ!大丈夫?」
サンダルのヒールが砂のせいで埋もれてしまい、バランスが取れずに転んでしまったようだ。
俺は慌てて手を差し延べると、凜はガッと手を掴み、勢いよく立ち上がった。
「…どーも。」
「あ!」
:08/12/12 10:47 :SH901iC :ufvbrGno
#129 [ゆーちん]
「何よ、うるさいな。」
「初めて手ぇ繋いだね!」
俺は繋いだ手を顔の前まで上げた。
凜と俺の手が繋がれている。
「…。」
凜は少し難しそうな顔をしていた。
「また転ぶと危ないから、このまま岩場まで行こ〜?」
:08/12/12 10:48 :SH901iC :ufvbrGno
#130 [ゆーちん]
凜は何も言わなかったので、手を繋いだまま歩いた。
凜の手は小さかった。
今まで数少ないながら繋いだ女子の手の中でも、1番小さかった。
そんな小ささを、また好きになってしまう。
この波音が妙にロマンチックで、改めて波打つ海に感謝した。
「凜ちゃん。」
「何。」
:08/12/12 10:48 :SH901iC :ufvbrGno
#131 [ゆーちん]
「あっちの岩場にしない?」
遠くの方を指さした俺。
「何で。」
「もっと繋いでたいもん。」
そう言うと、凜はパッと手を離して、目の前の岩場に座った。
「香奈に殺されても知らないよ?」
:08/12/12 10:49 :SH901iC :ufvbrGno
#132 [ゆーちん]
シラッと言ったその言葉。
昨日の香奈の怖い顔を思い出してしまった。
「ごめん。明日も太陽が見たいから、ここでいいです。充分です。最高です。」
「香奈の名前聞いただけで焦りすぎでしょ。肝っ玉の小さい男は嫌いだからね。」
凜の隣に座ると、海が一望できた。
:08/12/12 10:50 :SH901iC :ufvbrGno
#133 [ゆーちん]
滅多に夜の海なんか来ないから、いつも遊んでる場所とは違う感じがした。
「今日は爆発頭じゃないんだね。」
「爆発頭?」
「うん。学校には毎日アフロみたいに爆発頭で来てるじゃん。」
凜ちゃん、そりゃないよ。
あれは爆発頭でもなけりゃアフロでもない。
:08/12/12 10:51 :SH901iC :ufvbrGno
#134 [ゆーちん]
「あれは、一応ワックスでセットしてんだけどぉ。」
「ふーん。そうだったの。」
わかってたくせに。
凜は俺を悲しませるのが得意みたいだ。
「シャワー浴びたから、もうワックスするの面倒でそのままにしたの。どっちのが似合う?」
:08/12/12 10:52 :SH901iC :ufvbrGno
#135 [ゆーちん]
俺は母ちゃん譲りの猫っ毛。
クセが付かないから毎朝ワックスで自分の髪と格闘している。
「どっちでも。あんたの頭なんか興味ない。」
ザブーンっと波音だけが虚しく響いた。
「ギャップにドキッとしたりとか‥」
「してないから安心して。」
:08/12/12 10:54 :SH901iC :ufvbrGno
#136 [ゆーちん]
最近、凜ちゃんに冷たくされるのにも慣れて来たかも。
でもさ、俺も男じゃん。
1つだけ慣れないっつーか、慣れちゃいけないとこがあるんだよね。
「あんたさぁ‥」
「凜ちゃん。」
「えっ、何?今から私が話そうとしてたのに。」
「凜ちゃん、俺の名前知ってる?」
:08/12/12 10:55 :SH901iC :ufvbrGno
#137 [ゆーちん]
凜は今まで一度も俺の名前を呼んだ事がない。
最初は気にならなかった。
でも『あんた。』って言われるたびに、溝は縮まらないなって寂しかった。
「何、いきなり。」
「俺の名前知らないなら教えるから、ちゃんと名前で呼んでよ。」
:08/12/12 10:56 :SH901iC :ufvbrGno
#138 [ゆーちん]
凜の大きな目はじっと俺を見ていた。
「もう、あんたって呼ばれんの嫌だ。」
「…。」
強い瞳。
俺も強い目で凜を見た。
「…知ってるよ。」
「え。」
「名前。江森心。」
竜くん。
僕いま泣きそうに嬉しいんですけど。
:08/12/12 10:57 :SH901iC :ufvbrGno
#139 [ゆーちん]
「名前呼んでよ。」
「…やだ。」
「何でさぁ。」
「あんたはあんただもん。呼び慣れた。」
「えぇー、そんなぁ。」
大輝くん。
嬉しいと悲しいが混ざった涙を流したいんですけど、いいですか?
:08/12/12 10:58 :SH901iC :ufvbrGno
#140 [ゆーちん]
しばらくすると凜は話し始めた。
「私さぁ、前の街ではこんな風にのんびり過ごした事なかった。」
「のんびり?」
「うん。毎日毎日携帯触って誰かとアポ取って、用もないのに外に出掛けてさ。」
「あ…さっき言ってた携帯依存症とかって、その事?」
:08/12/12 10:59 :SH901iC :ufvbrGno
#141 [ゆーちん]
月明かりが凜を照らしていた。
こんな明るい夜は滅多にないよ。
「うん。寝ても覚めても携帯触ってた。誰かと連絡取ってないと不安だったの。でもさ、それって結構疲れんの。そんな時ちょうどこの島に来てさ、かなり驚いた。」
:08/12/12 11:00 :SH901iC :ufvbrGno
#142 [ゆーちん]
「何が?」
「みんな時間にルーズで、おじいちゃんもおばあちゃんも優しくて、島のみんなが笑ってる。私、前は隣の人に挨拶した事もなかったのに…この島の人はみんな家族みたいに優しくしてくれる。」
俺はこの島のことしか知らない。
:08/12/12 11:01 :SH901iC :ufvbrGno
#143 [ゆーちん]
都会でどんな近所付き合いをしてるかなんか、もっと知らない。
最近、物騒な世の中だってよくニュースで見るけど、同じ日本だとは思えない。
殺人とか誘拐とか、この島には無縁だ。
「友達と離れるのは寂しかったけど、そんなの最初だけ。」
:08/12/12 11:02 :SH901iC :ufvbrGno
#144 [ゆーちん]
「そうなの?」
「みんな上辺だけの付き合いしかしないの。でも、この島の人は違った。毎日メールや電話なんかしなくても、次の日も普通に接してくれる。あんたや香奈がいい例だよ。」
確かにね。
:08/12/12 11:03 :SH901iC :ufvbrGno
#145 [ゆーちん]
歩いて会える距離にいるのにメールや電話なんかしなくてもって感じだし。
「美帆だって千夏だって澪だって…みんなこの島の人は優しい。私ってこんな性格だから嫌われる事もあるの。だけどここは違った。イジメもないし、はぶられる事もない。香奈はちょっと浮いてて都会人みたいな感じだったけど、でも優しい。」
:08/12/12 11:04 :SH901iC :ufvbrGno
#146 [ゆーちん]
凜が自分の事をたくさん話してくれるのは嬉しかった。
どんな内容だろうが、凜と話したり一緒にいれるだけでココロが落ち着く。
「上辺だけの付き合いって寂しそうだね。俺そんなのわかんないけど。」
「羨ましい奴ね。あんな寂しいの体験してないなんて。」
:08/12/12 11:05 :SH901iC :ufvbrGno
#147 [ゆーちん]
「だから俺も凜ちゃんと上辺だけだなんて嫌だからね。」
「私も。もう上辺だけの彼氏なんかいらない。ヤる時だけ優しくしてくれるのはもう嫌。」
そう言った凜の声は寂しさに満ち溢れていた。
凜の顔が見れず、ずっと海を見ていた。
:08/12/12 11:05 :SH901iC :ufvbrGno
#148 [ゆーちん]
「凜ちゃん。」
「ん?」
「その話から判断すると、俺とは上辺だけで付き合ってないんだよね?」
「そうだよ。チャラチャラした奴だけど今までの上辺だけしか付き合えないような男とは違うってわかるから。」
「え、何でわかるの?」
:08/12/12 11:06 :SH901iC :ufvbrGno
#149 [ゆーちん]
「…名前。」
「名前?」
「私、異性から凜ちゃんなんて呼ばれた事ないの。名前何?って聞かれて、凜って答えると、もう呼び捨て。凜、凜って。でも凜ちゃんって呼んでくれてるじゃん。もし私の事、呼び捨てしてくるんじゃ私はあなたの彼女じゃなかったよ。」
:08/12/12 11:06 :SH901iC :ufvbrGno
#150 [ゆーちん]
何気なく呼んでいた凜の名前。
呼び捨てしない理由は、馴れ馴れしいのは失礼だと思ったから。
都会の人はみんな馴れ馴れしいのかな。
少なくとも俺は初対面の人を呼び捨てになんかするような環境で育ってない。
:08/12/12 11:07 :SH901iC :ufvbrGno
#151 [ゆーちん]
都会をバカにしてるんじゃないよ?
でも、凜はその事を気にしていたんだと言う事を知って、お互い名前にコンプレックスがあるんだと思った。
まぁ俺のコンプレックスなんてちっぽけだろうけど。
名前を呼ばれたいって言うね。
:08/12/12 11:08 :SH901iC :ufvbrGno
#152 [ゆーちん]
「転校初日に凜ちゃん凜ちゃんって話し掛けて来て、2日目には告白。見た目も行動も軽いけど、中身は違うんだって思った。この島のみんなは凜ちゃんって呼んでくれるのかもしれないけど、この人を信じてみようと思った。だから彼女になった。」
「そんな事思ってくれてたんだぁ。なんか照れるんだけど。」
:08/12/12 11:10 :SH901iC :ufvbrGno
#153 [ゆーちん]
「信じてよかった。今までの男とは違うよ…心。」
…言った?
咳ばらいじゃないよな。
犬の鳴き声でもないよな。
今、凜ちゃんが『心。』って言ったよな!
:08/12/12 11:10 :SH901iC :ufvbrGno
#154 [ゆーちん]
「名前‥」
慌てて振り向くと、凜は小さく笑ってた。
「わ、笑ってる!」
「え?」
「凜ちゃんの笑った顔、初めて見たよ!」
今日は良いことだらけで本当に泣きそう。
手を繋ぎ、名前を呼ばれ、笑顔も見せてくれた。
:08/12/12 11:12 :SH901iC :ufvbrGno
#155 [ゆーちん]
「呼び捨ては嫌?」
「ううん!俺は名前呼んでくれるなら何でもいい。」
「そう。私ももういいよ。心は信用できるってわかったから、凜って呼んでも。」
「信用?俺、凜ちゃんに信用されてるの?マジ?」
「…そのテンションの高さはまだ理解できないけど。」
:08/12/12 11:13 :SH901iC :ufvbrGno
#156 [ゆーちん]
何にせよ、俺は凜に信用されてるという事実にマジで泣けてきた。
「やべぇ。泣いてもいい?」
「は?ダメに決まってんじゃん。バカじゃないの。」
言う言葉はキツいけど、それでもいい。
凜にまた一歩近づけた。
:08/12/12 11:14 :SH901iC :ufvbrGno
#157 [ゆーちん]
「んもー!凜ちゃんやっぱり冷たい!俺の事まだ好きじゃないのぉ?」
子供みたいに半ベソかきながら海を見ていた。
凜を見ると絶対泣いてしまいそうだから。
鼻の奥が痛い。
「心。」
やっぱり、名前呼ばれるのっていいですね。
「はい?」
涙をこらえながら横を向いた。
:08/12/12 11:15 :SH901iC :ufvbrGno
#158 [ゆーちん]
…ら!
俺の目の前に凜の顔があった。
頭真っ白。
何?
これ、何?
すぐに凜は離れていき、さっきのような小さな笑顔を浮かべた。
「私は好きな人にしかキスはしないよ。」
嬉し涙を流しました。
:08/12/12 11:15 :SH901iC :ufvbrGno
#159 [ゆーちん]
「凜ちゃ…ん…」
「あー、もぉウザイ。男のくせに泣くなっつーの。」
「だって…今…キス…」
「まさかキスも初めてだった?」
「ごめん…キスは…初めてじゃないです…」
「あっそ。正直者だね。」
「俺…目ぇ開けたまんま…」
:08/12/12 11:17 :SH901iC :ufvbrGno
#160 [ゆーちん]
泣きながら凜を見続けていると、凜が滲んだ。
涙を拭く。
やっぱり少し凜は滲んでいた。
「困ったくんだね。」
「ごめんなさい。」
「まぁ、童貞だから仕方ないか…」
凜はゆっくり顔を近づけながら目を閉じて行く。
俺も目を閉じた。
:08/12/12 11:18 :SH901iC :ufvbrGno
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