闇の中の光
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#487 [ゆーちん]
「テツ…」
「ん?」
哲夫の腕の中で、萌子の話を始めよう。
「萌子はね、生まれてすぐ親に捨てられたんだ。施設で育って、7才の時に今の親の子供になった。最初は楽しかったの。でも、いつのまにか家族はバラバラになってた。父も母も、萌子に暴力を振るうの。痛くて恐くて苦しくて…生きる事に諦めてたんだぁ。」
:09/01/15 18:29 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#488 [ゆーちん]
まるで他人の話をしてるみたい。
お伽話でもするかのように私の口は語る。
:09/01/15 18:29 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#489 [ゆーちん]
「親も友達も彼氏も、みんな嫌い。ウザいだけ。必要のない存在。」
「…ん。」
「そんな人生に耐え兼ねた萌子は死ぬつもりだった。どの自殺方法が1番いいかなって考えてたんだけど、ある日の夜、父に本気で殺されかけた。自殺したかったのに他殺かって思ったけど、結局は父に半殺しのまま家からほうり出されたの。」
:09/01/15 18:32 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#490 [ゆーちん]
ほんの一ヶ月前のことなのに、なんだか10年以上前の話をしているみたいだった。
「首吊りとか飛び降りとか色々考えてたんだけど、もういいやって思った。半殺しのまま生きるのも苦しいだけだから、どんな方法でもいいから死にたいって思った。そんな気持ちのまま萌子はあてもなく夜道を歩いてたの。」
:09/01/15 18:32 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#491 [ゆーちん]
哲夫は、ずっと黙ったまま聞いてくれていた。
そのほうが話しやすい。
「そんな時、ふと目についたのがナイフで、神様が与えてくれたんだって思った。そのナイフで死になさいって言われた気がして、心臓を刺して死んでやろうって決めたの。で、ナイフを振りかざして…次の瞬間には知らない部屋にいた。死ねなかったんだってわかった時、自分が情けなかった。」
:09/01/15 18:33 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#492 [ゆーちん]
どうして生きているんだろうと、自分を恥じたっけ。
「でさ、またまた目の前にいた、いかつい顔の金髪男がいたから、調度いい、殺してもらおうと思った。そしたら…萌子はあっという間に殺されて、シホっていうペットになってた。」
:09/01/15 18:35 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#493 [ゆーちん]
「不思議な話だな。」
哲夫が笑った。
「不思議だよ。あんなに死にたいって思ってた萌子が、シホに生まれ変わった途端…死にたいなんて全く思わなくなった。むしろ生きたいとか、人間って楽しいって思うようになっちゃったの。本当…不思議だよ。」
:09/01/15 18:36 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#494 [ゆーちん]
哲夫が私を抱きしめる力が強くなったのがわかった。
「私はシホなのに、死んだはずの萌子がまだどっか心の奥に潜んでるみたい。だから…喧嘩の声が、父の暴力する声と重なって、苦しくなっちゃった。」
:09/01/15 18:37 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#495 [ゆーちん]
「なぁ、萌子。」
久しぶりに哲夫がその名前を呼んだ。
「萌子は死んだよ?」
「死んだ萌子に話し掛けてんの。」
「…ふーん。」
:09/01/15 18:39 :SH901iC :Jfqqe8Pw
#496 [ゆーちん]
「萌子さ、辛かったな。頑張ったよ。お前の辛さなんか、俺全然わかんないけど…殴られたりするのって痛いよな。俺も喧嘩して殴られた経験あるから痛いのわかる。でもな、殴る方も痛いんだよ。手と心が痛いんだ。」
今度は私が哲夫を抱きしめる力が強くなった。
「暴力はもちろん、いけねぇ事。萌子を苦しめたんだから。親が憎いよな。わかるよ、俺もそうだったから。」
:09/01/15 18:40 :SH901iC :Jfqqe8Pw
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