闇の中の光
最新 最初 🆕
#1 [ゆーちん]
マイペース更新ですが、どうぞ最後までお付き合い下さいm(__)m

>>2 アンカー・感想板
>>3 前作

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#2 [ゆーちん]
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感想板
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#3 [ゆーちん]
本当にあった×××な話
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/9487/f

双子の秘密
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/9512/f

冷たい彼女
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/9538/f

⏰:08/12/28 20:44 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#4 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

自殺

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:08/12/28 20:49 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#5 [ゆーちん]
首を吊るか、それとも薬を大量に飲もうか。


手首を切って水の中に入れたままにしようか、どこかの屋上から飛び降りようか。


車や電車にひかれてしまおうか。


今までずっと我慢してきたんだ。


死に方ぐらい自分で決めたい。

⏰:08/12/28 20:50 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#6 [ゆーちん]
痛くない死に方がいいな。


静かに、楽に、安らかに。


だとしたら今考えた死に方は全てダメ。


拳銃で頭をぶち抜けば一瞬なんだろうな…。


でも、ここは日本。


拳銃なんか簡単に手に入る訳ない。

⏰:08/12/28 20:50 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#7 [ゆーちん]
「はぁ。」


自然にため息が出た。


「ため息ついてると幸せ逃げるよ、萌子!」

「あぁ、うん。そうだね。エヘヘッ。」


何が幸せだよ。


幸せって何?


人の気も知らないで、幸せ逃げるよ、とか簡単に言ってんじゃないよ。

⏰:08/12/28 20:51 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#8 [ゆーちん]
ムカつく。


何の悩みもなさそうに笑っている友達がムカつく。


その友達に合わせて、無理矢理笑顔を作った自分にもムカつく。


「今日買い物行かない?」

「あっ、いいね!」

「私も行く!」

「萌子は?」


聞かなくても、答えはわかるでしょ?

⏰:08/12/28 20:52 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#9 [ゆーちん]
「もちろん行くよ!」


得意の笑顔を咲かせた。


「じゃあ決まり!」


断れるわけない。


断ると、友達なくすから。


そもそも、こいつらを友達だなんて呼ぶのもおかしい話だ。


こんな…上辺だけの付き合いをしている女たちを。

⏰:08/12/28 20:52 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#10 [ゆーちん]
「彼氏がプレゼントしてくれてぇ。」

「いいなぁ。うちの彼氏なんて全然だもん。」

「でもイケメンじゃん!」

「まぁ顔はいいんだけどね。」


上辺だけの、その【友達】たちは恋愛話を楽しそうに繰り広げる。

⏰:08/12/28 20:53 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#11 [ゆーちん]
「萌子は?彼氏とどうなの?」

「順調だよー。」

「そっかぁ。よかったね!」

「うん。」


ちっともよくない。


彼氏なんか必要なの?


本当は彼氏いらない。


みんなが彼氏を作ったから、私も作った。


ただそれだけ。

⏰:08/12/28 20:54 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#12 [ゆーちん]
みんながいらないって言うなら、私も彼氏を作らない。


みんなが、みんなと、みんなで…。


誰かに合わせてないと生きていけない、そんな集団なの、私がいるグループは。


みんなが派手だから派手にする。


みんなが泣くから泣く。


みんなが笑うから笑う。

⏰:08/12/28 20:54 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#13 [ゆーちん]
正直、疲れた。


上辺だけの友達といるのも。


上辺だけの彼氏といるのも。


上辺だけの…家族といるのも。


もう、疲れた。


「ただいま。」


みんなと買い物に行って、晩ご飯を食べに行くという流れになったが、私はそれを断って家に帰って来た。

⏰:08/12/28 20:55 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#14 [ゆーちん]
「遅い。何してたんだ!」


父親が怒鳴った。


上辺だけの父親が。


「学校で居残りして、課題に必要な資料調べてた。」

「嘘つくな!」

「本当だよ。」

「ったく…さっさと夕飯の仕度しろ!」

「うん。ごめん。」

⏰:08/12/28 20:58 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#15 [ゆーちん]
部屋に荷物を置き、着替えを済ませてキッチンに向かった。


今日も母はいない。


また男のとこか…。


「焼きそばでいい?」

「何でもいいから早く作れ!」

「…うん。」


私の両親は、本当の両親ではない。


本当の両親は、知らない。

⏰:08/12/28 20:59 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#16 [ゆーちん]
私を生んですぐに施設に預けた本当の両親は、生きているのか死んだのか…そんなの全く知らない。


養子として今の両親である金河夫妻に引き取られたのは7才の時。


最初は仲のいい、本当の親子みたいだった。

⏰:08/12/28 20:59 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#17 [ゆーちん]
子供に恵まれる事はないといわれた母の体が理由で、私を養子として迎え入れてくれた。


本当の子供のように可愛がってくれてたのはいいが、数年前に父が浮気をした。


それがきっかけで仲のいい家族ごっこが終わった。

⏰:08/12/28 21:00 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#18 [ゆーちん]
母は怒り狂い、そのストレス発散方法として私を選んだ。


殴る、蹴る、引っ張る…何でもありかよって感じ。


毎日毎日、痛くて痛くて…この頃から私の心は暗闇に包まれた。


父は母に何度も謝った。


だけど母は父を許さなかった。

⏰:08/12/28 21:01 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#19 [ゆーちん]
母のストレス発散方法が変わったのは2年前。


私が高校生になった時だった。


父にされた事を、母もし始めた。


他所に男を作り、家事放棄。


そんな母に父は何も言わなかった。


なぜ何も言わないの。

⏰:08/12/28 21:02 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#20 [ゆーちん]
自分も浮気をしていたから?


自分に非があったから?


私のことを本当の子供として愛してるなら、また昔のように戻れるように努力してよ。


そう願ってはいたものの、願い損だと気付いたのは1年前だった。


父のストレス発散方法として、私が選ばれてしまった。

⏰:08/12/28 21:02 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#21 [ゆーちん]
母の暴力より痛かった。


殴る、蹴るは当たり前。


お腹に膝を入れられた時は気絶をしたぐらい。


首を締められた時は、死ぬ事を覚悟したぐらい。


痛いなんてもんじゃない。


「できたよ。」

「…おう。」

⏰:08/12/28 21:03 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#22 [ゆーちん]
暴力を振るう父だけど、普通に接してくれる事もある。


だから我慢する。


「仕事見つかった?」

「まだ。」

「そっか。」

⏰:08/12/28 21:03 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#23 [ゆーちん]
働かない父のせいで家計は苦しかった。


だから私はたくさん我慢をする。


お金がなくちゃ、何にもできない。


だから私は自分で稼いだ。

⏰:08/12/28 21:04 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#24 [ゆーちん]
高校生になった時、周りが派手だったから私も派手になった。


毛染め液、化粧品やアクセサリー。


全部、万引きした。


派手になった途端、父は私に言った。


体を売れ、と。


私は実の娘ではない。


だから父は簡単にそんな事を口にしたんだと思う。

⏰:08/12/28 21:05 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#25 [ゆーちん]
援助交際を親から勧められるなんて、思ってもみなかった。


体を売るって意味ぐらい、わかってた。


だけど私は処女だった。


処女は高く売れると噂では聞いていたけど、なぜか処女だけは売り物にしたくなかった。

⏰:08/12/28 21:05 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#26 [ゆーちん]
だから私は中学の時に付き合っていた元カレの宗太郎に頼んだ。


SEXしよう、って。


清く正しい付き合いだったから、キスしかした事のない関係だった。


別れた理由は、私がフッたから。


家族がぐちゃぐちゃになりだして、恋愛とか友情とか、そんなのに疲れたから。

⏰:08/12/28 21:06 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#27 [ゆーちん]
別れたはずなのに、宗太郎に頼ってしまうのは、未練とかそんなのじゃない。


ただ、宗太郎の気持ちを利用しただけ。


別れてからも私を好きだと言ってくれる宗太郎の気持ちを、利用しただけなんだ。

⏰:08/12/28 21:07 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#28 [ゆーちん]
初めてのSEXは痛かった。


血が出た。


だけど虐待されていた痛みに比べると、蚊に刺されるようなもの。


比べものにならない。


処女を捨てた私は、すぐに援助交際を始めた。


たった1回、目を閉じている間に行為は終わり、簡単に3万〜5万円は稼げた。

⏰:08/12/28 21:08 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#29 [ゆーちん]
金周りのいい客なら、おこずかいもくれた。


1日に何人もの男の欲を満たし、金を稼いだ。


家に帰り、稼いだ7割を父に渡し、残りの3割は父に内緒で自分のおこずかいにした。


おこずかいがないと上辺だけの友達や彼氏と遊べないから。

⏰:08/12/28 21:08 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#30 [ゆーちん]
そんな生活を続けているうちに、もう何もかも疲れてしまったんだ。


育てたくないなら生まなきゃよかったのに、と見た事のない本当の両親を恨んだ。


育てたくないなら引き取らなきゃよかったのに、と金河夫妻を恨んだ。

⏰:08/12/28 21:09 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#31 [ゆーちん]
嫌なら嫌だと言えばいいのに、と自分の根性のなさを恨んだ。


周りの奴が嫌い。


自分も嫌い。


生きるのも嫌い。


だったらいっその事、死んでやろうと思う。


だから最近はどうやって死のうか考えるのが私の日課だった。

⏰:08/12/28 21:10 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#32 [ゆーちん]
いつ死んでも後悔はない。


援助交際の客に殺されてもいい。


父の暴力で死んだっていい。


不慮の事故でもいい。


だけど、こんな時に限って何も起きない。

⏰:08/12/28 21:10 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#33 [ゆーちん]
だったら最期ぐらい自分で決めようかな、っていう願望が生まれる。


どうやって死のうかな。


それを考えるのが、私の今の生き甲斐だった。

⏰:08/12/28 21:11 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#34 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:08/12/28 21:11 📱:SH901iC 🆔:dum.zBc6


#35 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

ナイフ

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:08/12/29 15:43 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#36 [ゆーちん]
ある日の夜、何がきっかけだったのかわからないが父が暴れ出した。


母は今日もいない。


もう3〜4日は顔を見ていない気がする。


「ふざけるな!」


別にふざけてない。


ふざけてんのはあんただよ。

⏰:08/12/29 15:43 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#37 [ゆーちん]
背中を殴る父。


体を丸めて小さくなる私。


自分を守る為に丸まったんじゃない。


丸まっていないと、挑発してしまい、父の行為がエスカレートして、殺されてしまうかもしれないから。


最期は自分で、と決めたんだから、今死ぬわけにはいないの。


痛くない死に方をするんだから。

⏰:08/12/29 15:44 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#38 [ゆーちん]
髪を引っ張られ、無理矢理立たされた。


お腹を蹴り上げ発狂する。


「お前さえ、萌子さえいなきゃ!俺らは幸せだったんだ!」


だから…幸せって何。


私がいらないなら施設に戻せばいいじゃない。


「何なんだその顔は!」

⏰:08/12/29 15:45 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#39 [ゆーちん]
何なんだって言われても。


私を生み逃げした両親が作った顔だよ。


憎いでしょ?


あんたの人生を変えちゃったんだからね。


私なんかいなければ、幸せだったかもしれないもんね。


「この野郎…殺す!」


とうとう父の手が私の首を締めた。

⏰:08/12/29 15:45 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#40 [ゆーちん]
やばい。


こいつに殺される訳にはいかないの!


「やめ…て…」


苦しい。


息が出来ない。


「うるさい!黙れ!」


父の手に力が入る。


あぁー…もうダメだ。


私このままこいつに殺されるんだ。

⏰:08/12/29 15:46 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#41 [ゆーちん]
「おと…さ…」

「殺すーっ!」


はぁ…。


どうぞ。


もういいや。


殺して。


さっさと殺してよ。


それで私を開放して。

⏰:08/12/29 15:47 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#42 [ゆーちん]
天国かな、地獄かな。


きっと地獄だろうな。


万引きとか援交とかしてたし。


ゆっくりと意識が薄れてきた。


バイバイ、上辺だけのみなさん。

⏰:08/12/29 15:47 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#43 [ゆーちん]
だけど次の瞬間には、なぜか私の咳の声が聞こえた。


「ゲホッ、ゲホッ…」


あれ、なんで私むせ返してんの。


まさか…まだ生きてる?


「出て行け!」


これはこれでラッキーなのかな。


自分で死に方選べるんだし。

⏰:08/12/29 15:48 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#44 [ゆーちん]
でもどうせなら殺してくれたほうがよかったな。


もう苦しかったり、痛い思いはいやだよ。


ガチャ…


私は家から飛び出した。


フラフラの足取り。


…っていうか真っ直ぐ歩けてないし。


宛もなく、とにかく前に進んでみた。


だって…

⏰:08/12/29 15:48 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#45 [ゆーちん]
だってどこかに死ぬ方法が転がってるかもしんないでしょ?


体中痛くて、どこが痛いのかわかんない。


とりあえず、倉庫がたくさん立ち並ぶ場所に到着した。


ドサッ…


力尽きたかも。


地面に倒れてしまった。

⏰:08/12/29 15:50 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#46 [ゆーちん]
ふと夜空を見上げる。


…うざっ。


こんな日に限って、むちゃくちゃ星が綺麗だった。


自然に流れていた涙。


何泣いてんの私。


その時、思った。

⏰:08/12/29 15:51 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#47 [ゆーちん]
もうさ、痛いのも苦しいのもやだ。


今日、死のう。


方法なんて、もう何でもいい。


痛くてもいいから、もう…死にたい。

⏰:08/12/29 15:51 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#48 [ゆーちん]
もう一度だけ力を振り絞り、私は立ち上がった。


何か、何か死ねるもの。


その時、目の前に見えたのがナイフだった。


神様がいるのなら、感謝する。


この時、目の前にナイフを置いてくれたんだね。


ありがとう。

⏰:08/12/29 15:55 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#49 [ゆーちん]
フラフラとナイフまでたどり着き、手に取った。


案外綺麗なナイフ。


サビてないし、汚れてもいない。


ピカピカなナイフ。


痛いだろうけど、まぁいいや。


綺麗なナイフだし。


この星が見えなくなって、太陽が空にのぼった時には綺麗に死ねてるかな?

⏰:08/12/29 15:56 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#50 [ゆーちん]
そんなことを考えながら、私はナイフを高く振りかざした。


心臓の辺りをひとつきすれば、いいよね?


迷いはなかった。


今度こそ、上辺だけのみなさんバイバイ。


…。

⏰:08/12/29 15:57 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#51 [ゆーちん]
と、次の瞬間には場面が変わっていた。


あれ、私死んだ?


死んだら、こんな場所に来るんだ。


今から天国行きか地獄行きか決まるんのかな。


天国でも地獄でもどっちでもいいから、早く私を楽にさせて。

⏰:08/12/29 15:58 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#52 [ゆーちん]
死んだはずなのに、なぜか体が痛いよ。


「あ、起きた?」


えっ。


…誰。


…何。


…起きた?

⏰:08/12/29 15:58 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#53 [ゆーちん]
子鬼の声だろうか、天使の声だろうか。


だけど、どっちでもなかった。


なぜか私の目の前に映り込んだのは、金髪頭の人間だった。


「おい。大丈夫か?」


…は?


大丈夫じゃ困るんだけど。


私、死んだんだし。

⏰:08/12/29 15:59 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#54 [ゆーちん]
「医者に診てもらう?」


…医者?


死んだのに、まだ医者が必要なの?


「お前、名前は?」


ねぇ…。


もしかして私、死んでないの?

⏰:08/12/29 16:00 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#55 [ゆーちん]
思わず体が起き上がる。


ゴツンッ…


「いってぇー!」


うん、痛い。


頭と頭がごっつんこ。


何で私、生きてんの。


てか、ここどこ?

⏰:08/12/29 16:00 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#56 [ゆーちん]
「地獄?」

「は?」

「生きてんの?」

「何言って‥」

「私、生きてんの?」


金髪頭の男は私の質問に答えた。


「生きてるよ。」


その5文字を聞いた途端、泣きそうになった。

⏰:08/12/29 16:01 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#57 [ゆーちん]
死ねなかったんだ。


最悪。


心臓を狙ったはずなのに、まさか急所外れ…って、あれ?


どこにも傷がない。

⏰:08/12/29 16:01 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#58 [ゆーちん]
何がどうなっているのか、全く理解できない。


「名前は?」

「え?」

「名前。」

「てゆーか、あんた誰よ。」

「俺?俺は天下無敵の哲夫様。」


…哲夫?


聞いた事のない名前。

⏰:08/12/29 16:02 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#59 [ゆーちん]
「誰?」

「だから哲夫だってば!千早哲夫。」


そう言って哲夫は笑った。


「で、あんたは?」

「私、死んだはずなんだけど!何で生きてんの?」

「はぁ?」

「ナイフで心臓ひとつきにして、私は死んだの!」

「頭でも打った?」

「てゆーか、ここはどこ?」

⏰:08/12/29 16:03 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#60 [ゆーちん]
完全にパニック状態だった。


そんな私に、哲夫は教えてくれた。


「俺がお前を見付けた時、右手にナイフ握ってたけど普通に息してたぞ。」

「嘘だ…。」

「お前が握ってたナイフ、これだろ?」


そう言って哲夫が取り出したナイフ。

⏰:08/12/29 16:04 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#61 [ゆーちん]
あぁ、そうだ。


その綺麗なナイフで、綺麗な星空の元、綺麗に死ぬつもりだったんだ。


「このナイフ、俺の。」

「え?」

「護身用に持ってんの。それがどうした事か、なぜか倉庫前に落として来ちゃったみたいで。探しに行ったらナイフ握ったあんたが倒れてたってわけ。」

⏰:08/12/29 16:04 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#62 [ゆーちん]
えっ、それじゃ私…自殺する前にマジで力尽きて気を失ってた訳?


何それ信じられない。


最悪。


「呼び掛けても起きないから、とりあえず俺んち連れて来た。」

「ここ、あんたんちなの?」

「救急車呼ぶにも、携帯は家に忘れてたし。お前運んでここ到着したのはいいけど、かなり疲れてたから、そのまま俺も寝ちゃったんだわ。」

⏰:08/12/29 16:05 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#63 [ゆーちん]
哲夫は煙草に火をつけた。


「助けてくれたの?」

「まぁ、そんなとこかな。」


何それ。


益々信じらんない。


「余計な‥」


ガチャッ…

⏰:08/12/29 16:05 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#64 [ゆーちん]
いきなりドアが開き、私の声を遮った。


「テッちゃん腹減っ…たっ…て…誰?」


いきなり入って来た男が私を見て驚く。


「ノックしてよ、ヤッちゃん。」

「この女子高生、誰!何でこんなに汚いの?」


なんで私が女子高生ってわかんだろ、と思ったら…ばっちり制服姿だった私。

⏰:08/12/29 16:31 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#65 [ゆーちん]
着替える前に父親に殴られたんだっけ。


「千早哲夫。」

「んあ?」

「私、助けてくれなんて言ってない。わざわざここまで運んで、ベットに寝かせてくれたなんて余計なお世話だよ。」

⏰:08/12/29 16:31 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#66 [ゆーちん]
私がそう言うと、哲夫とヤッちゃんと呼ばれた男は固まった。


「人助けしたかと思ったかもしんないけど、こっちにしたら、ただの迷惑。」


するとヤッちゃんと呼ばれた男が言った。


「おい、やめとけ。哲夫に助けてもらってそんな言い方するな。」

⏰:08/12/29 16:32 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#67 [ゆーちん]
「だから助けてなんて頼んでない。」

「お前、生意気してると哲夫に殺されるぞ。こいつこう見えてでっけぇ集団仕切ってる人間だから。」


殺される?


集団?


あぁ、乱暴な不良グループの頭みたいな事?


だったら調度いいや。

⏰:08/12/29 16:32 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#68 [ゆーちん]
「だから何。有難迷惑なんだよ、こんな事されちゃ。」

「お前いい加減にしとけよ。哲夫怒らすとマジで殺され‥」

「殺してよ。」


ヤッちゃんという男の言葉を遮ってやった。


哲夫と男の顔が、また変わる。

⏰:08/12/29 16:33 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#69 [ゆーちん]
「哲夫を怒らせれば殺してくれんの?だったら早く怒ってよ。そんで私を殺して。」


哲夫にそう言うと、なぜか視線を反らされた。


「ねぇ、殺して。」

「…。」

「聞こえない?殺してって言ってんの。」

「…。」

「ねぇってば。殺してよ。」

⏰:08/12/29 16:34 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#70 [ゆーちん]
何度も言い寄る私を、いきなりベットに押し倒した哲夫。


…痛い。


ベットが弾んだだけなのに背中の傷に響いた。


「殺して殺して、うるさい。」

「怒った?だったら早く殺して。」

「康。お前ちょっと出てって。」


ヤッちゃん並びに康と呼ばれた男は何も言わずに部屋から出て行った。

⏰:08/12/29 16:34 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#71 [ゆーちん]
二人きりになった部屋。


哲夫はさっきのナイフを取り出して、私の喉に近づけた。


「いいの?殺すよ?」

「うん、殺して。」

「お前、怖くないの?」

「何で?」

⏰:08/12/29 16:35 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#72 [ゆーちん]
私を見下ろす哲夫の目は力強かった。


「康孝に聞いただろ?俺怒らせたら、あんた殺されんだよ?」

「だから何。怒らせた方が私にとっては好都合。」

「何で、死にたいの?」

⏰:08/12/29 16:36 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#73 [ゆーちん]
「あんたに関係ないじゃん。さっさと殺して。あ、殺してもらったのにあんたが捕まるのは可哀相だから自殺したように勝手に工作していいよ。自殺扱いになれば、あんたは捕まんないでしょ?」

「本当に殺すよ?」

「うん。」


ナイフを持つ手に力が入ったのがわかった。


やっと…死ねる。

⏰:08/12/29 16:37 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#74 [ゆーちん]
「フッ…」


私が目を閉じた途端、哲夫が笑った。


何、笑ってんの。


早く刺せよ、と思い目を開くとナイフを床に落とした音がした。


次の瞬間には、哲夫の唇が私の喉に触れていた。

⏰:08/12/29 16:37 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#75 [ゆーちん]
「あんたじゃなくてナイフを刺して。」

「…お前、何あったか知らないけど死ぬなんて考えんな。」


哲夫の舌が喉やうなじをなめ回す。


気持ち悪い。


「やめて。」

「何で死にたいの?」

⏰:08/12/29 16:38 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#76 [ゆーちん]
「関係ない。」

「まぁいいや。いつか教えてね。」


いつか?


いつかなんてないよ。


私は死ぬんだから。

⏰:08/12/29 16:38 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#77 [ゆーちん]
「殺してくんないの?」

「お前は死んだ。」

「は?」

「今さっき死んだ。」

「意味わかんない…」

「今から俺のペットとして、お前飼うから。死のうとしてたんだから、別にどうなってもいいんだろ?」

⏰:08/12/29 16:39 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#78 [ゆーちん]
「何言ってんの。私は死にたいの。」

「お前に飽きたその時は、ちゃんと殺してやるから。それまで俺のペットになれ。」


私の首筋から上がって来た顔は、また下りて来て、私の唇を塞いだ。


まだ体中痛い。


頭も痛い。

⏰:08/12/29 16:39 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#79 [ゆーちん]
何で生きてんのか、何で殺されなかったのか、何でキスされてるのか。


頭が痛くて考えられない。


唇が離れると、哲夫は言った。


「名前は?」

「…萌子。」

「萌子、お前は今日からシホだ。」

「シホ?」

⏰:08/12/29 16:40 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#80 [ゆーちん]
「萌子は死んだ。だからお前はシホだ。」

「シホ…」

「理由知りたい?」


私は頷いた。


「俺、星好きなんだ。星の反対はシホだろ?だからシホ。」

⏰:08/12/29 16:40 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#81 [ゆーちん]
そう言って笑った哲夫。


バカらしい。


こんなバカがでっかい集団をまとめている頭なら、その集団も長くないね。

⏰:08/12/29 16:41 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#82 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

ではまた

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:08/12/29 16:42 📱:SH901iC 🆔:HNTi4Nys


#83 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

ペット

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:08/12/30 16:15 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#84 [ゆーちん]
携帯も財布も着替えもない。


「欲しいものある?シホ。」


シホと呼ばれてもしっくりこない。


私は17年間、萌子だったわけで、今もまだ萌子。


だからいきなりシホだって言われても、頭がついて行かなかった。

⏰:08/12/30 16:15 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#85 [ゆーちん]
「…特に何も。」

「とりあえず…風呂だな。汚すぎる。」


哲夫の手を借りて、浴室に向かった。


立っているのも辛い。


制服を脱がせてもらい、下着も取ってもらった。


微動だにしない哲夫。


「哲夫。」

「おっ、やっと名前呼んだね。何?」

⏰:08/12/30 16:16 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#86 [ゆーちん]
「何歳?」

「俺?22歳。シホは?」

「…。」

「おい。」


…あぁ、シホは私か。


「17。」

「ふーん、若いね。」

「17の裸見て、動揺とかしないの?」

⏰:08/12/30 16:17 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#87 [ゆーちん]
「して欲しいの?」

「別に。援交の客だった親父は、みんな嬉しそうに私の裸見てたから。」

「…。」


また力強い目で私を見た哲夫。


どう、引いた?


汚いと思った?


捨てるなら捨ててもいいよ。


突き放される事なら慣れてるから。

⏰:08/12/30 16:17 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#88 [ゆーちん]
「シホは援交なんかしてないよ。」


哲夫はそう言って自分の服を脱ぎ出した。


何、言ってんの、こいつ。


意味わかんない…。

⏰:08/12/30 16:18 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#89 [ゆーちん]
お互い、素っ裸になって、温かいお風呂に入った。


湯舟につかりながら、哲夫は言った。


「おいで。」


何で行かなきゃなんないの。


無視していると、哲夫自ら私の方に寄って来た。


「しつけが必要だな。」

⏰:08/12/30 16:18 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#90 [ゆーちん]
私の後ろに周り、私を抱え込む。


何してんだ。


そんなうっとーしい事しないで欲しい。

⏰:08/12/30 16:19 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#91 [ゆーちん]
「どっかの野良犬と喧嘩でもした?痛かっただろ。」


そう言うと哲夫は私の背中を撫で始めた。


「は?」

「お腹も青アザあったし。大丈夫?」


さっき、私を殺そうとしていたのは、この哲夫だよね?

⏰:08/12/30 17:46 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#92 [ゆーちん]
声や態度が優し過ぎて、別人のような気がする。


「野良のくせに跳び蹴りのできる犬だったの。」

「そりゃおっかないね。」


哲夫が後ろで笑った。


私も、なぜか笑ってしまった。

⏰:08/12/30 17:47 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#93 [ゆーちん]
作り笑顔以外でちゃんと笑ったのはいつぶりだろう。


そんな私の背中やお腹を、何度も何度も哲夫は撫でてくれた。

⏰:08/12/30 17:47 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#94 [ゆーちん]
死にたかった理由とか、傷の理由を深く聞いて来ないので助かる。


「風呂から出たら、まずは買い物だな。色々必要なんだな、ペット飼うって。」


髪や体を綺麗に洗い終わり、お風呂から出ると、裸のまま部屋中をうろついてやった。

⏰:08/12/30 17:48 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#95 [ゆーちん]
「服着ろよ。」

「汚いもん。」


脱衣所にある脱ぎ捨てた制服しかない私。


「あ、そっか。着替えないんだっけ。」


そう言った哲夫は、クローゼットから上下繋がった服を取り出した。

⏰:08/12/30 17:49 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#96 [ゆーちん]
「何これ。」

「つなぎ服っつーの?見た事ない?」

「工事現場の人みたい。」

「いや?」

「いや。」

「もぉー、ペットのくせに文句言うなよ。」


そう言って哲夫は携帯電話で誰かに電話をかけた。


「お前、戻って来れる?…うん…うん…そう、じゃあ。」


簡単な電話を済ませた哲夫は、服を探すのをやめて、再びつなぎ服を私に手渡した。

⏰:08/12/30 17:50 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#97 [ゆーちん]
「康が来るから車出して貰おう。いるものとか欲しいものとか何でも買ってやるよ。」

「康って…」

「さっきのバカヅラ男。康孝って言って、みんなから康とかヤッちゃんて呼ばれてる。」

「そうなんだ。」

⏰:08/12/30 17:51 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#98 [ゆーちん]
パンツ一枚のまま、哲夫は煙草を吸い始めた。


「康が来るまでに服着ろよ。」

「…何で?」

「何でって…主人の命令だからだよ。」

「ふーん、主人ねぇ。」


下着もつけずに、言われた通りつなぎ服を着た。


「おっきい。」

「仕方ねぇだろ。男物なんだから。」

⏰:08/12/30 17:52 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#99 [ゆーちん]
「普通のTシャツとかないの?」

「あるけど…Tシャツのがいいのか?」

「うん。」

「…わがままな奴だな。買い物行ったら、しつけ本も買わないとなー。」


そう言って笑うだけで、結局哲夫はTシャツも出してくれなかった。

⏰:08/12/30 17:53 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#100 [ゆーちん]
しばらくすると、さっきの男が来た。


康孝だ。


「お待たせ〜。」

「悪いな。ちょっと車出してくれる?」

「えぇ!来ていきなり?」

「シホを飼うのに色々必要でさ。」

「…シホ?犬でも飼うの?」


キョトンとする康孝に、哲夫は言った。


「犬じゃない。人間だ。」

⏰:08/12/30 17:53 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#101 [ゆーちん]
アゴで私をさす哲夫。


「えっ、飼うって…この子?」


哲夫は笑う。


私は何も言わない。


驚いている康孝は私に言った。


「あんた、テッちゃんに飼われんの?」

⏰:08/12/30 17:54 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#102 [ゆーちん]
私は何も言わず、康孝を見た。


「シホってあんたのこと?」

「…。」

「何で?つーか、死んだんじゃないのかよ。」

「死んだよ。」

「え?」


私が口を開くと、康孝はまた驚いていた。


「さっきの汚い女子高生は死んだ。」

「えっ…何言ってんの。」

⏰:08/12/30 17:55 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#103 [ゆーちん]
「私はシホ。哲夫に飼われてんの。ただのペットだよ。」


もう、死のうだなんて考えは1ミリもなかった。


今はただ、哲夫のペットなんだって自分で自分に言い聞かせている。


私はシホなんだ、って。

⏰:08/12/30 17:55 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#104 [ゆーちん]
全然理解のできていない康孝を見て、哲夫は笑った。


「どうよヤッちゃん。面白いペットだろ?」

「いや…つーかさ…」

「詳しい事はまた集会の時にでも教えてやるよ。とりあえず車出してよ。早くしないと日が暮れる。」


哲夫の頼みに、康孝は納得のいかないまま、頷いていた。

⏰:08/12/30 17:56 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#105 [ゆーちん]
「シホ、おいで。」


哲夫に呼ばれ、床から立ち上がった私。


いきなり目の前が暗くなった。


「はい、サングラス。すっぴんは嫌だろ?化粧品買ってやるから、それまでこれで我慢な。」

⏰:08/12/30 17:57 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#106 [ゆーちん]
「別にいらない。」


化粧品なんかいらない。


化粧なんか、みんながしていたからしていただけ。


萌子が死んだ今、もうみんなの真似っこは必要ない。


私はシホなんだ。


「遠慮すんなって。女の子なんだからおめかしは必要でしょ。あとこれ、被ってろ。」

⏰:08/12/30 17:58 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#107 [ゆーちん]
目深くキャップ帽を被せられた私。


どこからどう見ても…怪しいでしょ。


つなぎ服に、サングラス、キャップ帽。


「靴は?」

「あぁ…これ履いて。」

「裸足で?」

「嫌かよ。」

「うん。」

「もぉー!本当わがままな奴だな。」

⏰:08/12/30 17:58 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#108 [ゆーちん]
さすがにこの格好にローファーは合わないでしょ。


ていうか、半殺しされてフラフラだったのに、ちゃっかりローファー履いて出て来た自分が偉いと思った。


…あっ、違う。


自分じゃない。


萌子が、だ。


「ほれ。おっきいかもしんないけど我慢しろ。」

⏰:08/12/30 17:59 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#109 [ゆーちん]
哲夫が靴下を貸してくれたので、私は座って履いた。


予想通り、めちゃめちゃ大きい。


「行くぞ。」


靴も大きい。


歩きにくい。


「何ちんたら歩いてんだよ、もう。」


そう言って哲夫に手を引かれた。


おっきな手だった。

⏰:08/12/30 17:59 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#110 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込むと、勢いよく発車した。


…やけに、うるさい、この車。


流れている音楽も、デカい音だし英語だしで何言ってるかわかんないし、何より車自体の音がうるさかった。


「ごめんね、うっさいだろ。」

「うん。」

⏰:08/12/30 18:00 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#111 [ゆーちん]
「いじりすぎなんだよ、康の車は。」

「いじり?」

「改造っつーの?マフラーとかってわかる?」

「首に巻く?」

「あぁ、わかんないか。じゃあいいや。」


首に巻くマフラーじゃないの?


意味不明。


午後3時、そんな意味不明な車は街を駆け抜けて行く。

⏰:08/12/30 18:01 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#112 [ゆーちん]
窓から見る景色は見た事のない景色だった。


「ここ、どこ?」

「あ?」

「見た事ない街。」


窓の外を眺める私に、哲夫は言った。

⏰:08/12/30 18:01 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#113 [ゆーちん]
「シホはこの街で生まれたんだから、この街からずっと出るなよ。」

「…うん。」


私の知らない街。


いや、これが私の街。


萌子がいた街と、私のこの街はあまりにも違っていて…何だか頭が痛くなった。

⏰:08/12/30 18:02 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#114 [ゆーちん]
何軒もの店を回って、大量の下着や洋服、化粧品などを買ってもらった。


帽子、アクセサリー、靴、歯ブラシ、シャンプーにリンス。


最後は携帯電話まで買ってもらった。


信じられない。


この人の金の使い方、ちょっと引く。

⏰:08/12/30 18:03 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#115 [ゆーちん]
全部カードで、カードがだめなら絶対一万円を渡す。


お釣りはなぜか受けとらず、隣にいた康孝が受け取って、小さな袋に入れていた。


「こんなもんか?」

「え?」

「何か欲しいものあるか?」


私は首を横に振った。


これ以上、もう何もいらない。

⏰:08/12/30 18:04 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#116 [ゆーちん]
「まぁまたいるものあれば明日来よう。帰るぞ。」


再び康孝の運転する車に戻り、うるさく唸りながら車は走る。


外はぼんやり暗くなっている。


「テッちゃん、このまま集会直行しない?」

「あぁー、いいわ。歩いて行く。荷物片付けないと。」

⏰:08/12/30 18:05 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#117 [ゆーちん]
「手伝おうか?」

「いや、いい。康は先に行ってて。」

「ほーい。」


私と哲夫とたくさんの荷物が車から降りると、康孝の車は走り去った。


「さぁ〜!気合い入れて、片付けるぞ!」

⏰:08/12/30 18:05 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#118 [ゆーちん]
なぜか意気込む哲夫と一緒に部屋へと戻る。


「とりあえずだな、シホのクローゼットを作らないと。」


ドサッと荷物を床に置き、自分のクローゼットの中を片付け始めた。


「ねぇ。」

「んー?」


作業をしながら、哲夫は私の質問に耳を傾けてくれた。

⏰:08/12/30 18:06 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#119 [ゆーちん]
「何でペットなんか飼いたかったの?」

「えー?」

「面倒なだけだよ、ペットなんて。」

「そうなの?俺ペット飼った事ないからわかんない。」

「いらなくなったら、いつでも殺していいからね。」

⏰:08/12/30 18:07 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#120 [ゆーちん]
すると作業していた手を止めて、哲夫はあの力強い目で私を見た。


「…わかってる。だからもうその話はするな。」


それだけ言うと、また作業を開始した哲夫。


私は何も言わないまま、ベットの上に座った。


しばらくの沈黙。

⏰:08/12/30 18:22 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#121 [ゆーちん]
さきに破ったのは哲夫だった。


「シホ。」

「はい。」

「お前もうサングラスとキャップ取れよ。何かオフの芸能人みたいだぞ。」


哲夫が笑った。


「芸能人?」

「お忍びで買い物ですか?」

「…まぁね。」

「ブハッ!何様だっつーの!」

⏰:08/12/30 18:22 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#122 [ゆーちん]
サングラスとキャップを外し、つなぎも靴下も脱いだ。


「何脱いでんだよ。裸族か?」

「下着つけないと気持ち悪い。」

「あぁ…。」


顔色1つ変えないで、買って来たばかりの下着を取り出してくれた哲夫。

⏰:08/12/30 18:23 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#123 [ゆーちん]
「お前の服はこっから右だからな。下着とか靴下はとりあえず1番下の引き出し。」

「うん。」

「服の片付けぐらいできるよな?」

「うん。」

「じゃあ俺、集会行ってくるから留守番してろよ。早めに帰って来るけど眠かったら先に寝ろ。腹へったら冷蔵庫漁れ。風呂に行きたきゃ勝手に行け。わかったな?」

⏰:08/12/30 18:24 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#124 [ゆーちん]
私が頷くと、哲夫が近付いて来た。


「いい子にしてろよ。」


そう言って、私の頬に哲夫は自分の唇を押し付けた。


「いってきマンモス。」

「いってらっしゃい。」


哲夫は振り返らずに出て行った。

⏰:08/12/30 18:25 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#125 [ゆーちん]
一人ぼっちになった部屋。


急に静かになった部屋。


…なんだか、疲れた。


死ぬつもりが、目を開けると金髪野郎がいて。


殺してと頼んだら、萌子を殺してくれた。


私は数時間前にシホになって、哲夫のペットであって…ダメだ、頭が痛い。


私は片付けもせず、そのまま眠ってしまった。

⏰:08/12/30 18:25 📱:SH901iC 🆔:Z9srDs2E


#126 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

集会

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/01 10:30 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#127 [ゆーちん]
目が覚めると、人の温もりを感じた。


誰かに包まれている。


初めての感覚だった。


人の温もりに包まれてるなんて…。


少し、体を動かしてみた。


左肩が痛かったから。

⏰:09/01/01 10:31 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#128 [ゆーちん]
すると、私を包んでくれていた哲夫は低く唸った。


「んんーっ。」

「…。」


起こしちゃいけないと思い、また目を閉じてじっとしていた。


どうやらまた眠ってしまい、再び目を開けると、なぜか哲夫が私を見ていた。

⏰:09/01/01 10:31 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#129 [ゆーちん]
「あ、起きた。」

「…。」

「なぁシホ。片付けるって意味わかるか?」


哲夫が笑った。


「…あ。」


服も靴も何もかも、全く片付けないで眠ってしまった事を思い出した。


「やっぱ、しつけ本買うべきかなー?」

「…ごめん。」

「一緒に片付けっか。」

⏰:09/01/01 10:33 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#130 [ゆーちん]
哲夫が起き上がると、温もりが薄れた。


それもそのはず。


下着だけしか身につけていないんだ、私。


「パジャマ買っただろ?何で下着姿なわけ。もう初冬だぞ?」


煙草に火をつけた哲夫。


「シホは煙草吸わないの?」

「吸わない。」

「そ。」

⏰:09/01/01 10:33 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#131 [ゆーちん]
「哲夫。」

「はいよ。」

「いつ帰って来たの?」

「2時ぐらい。」

「今日も集会あるの?」

「あるよ。行きたい?」

「ううん。」

「そ。なら留守番ね。」

「うん。」

⏰:09/01/01 10:35 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#132 [ゆーちん]
時計を見ると12時を迎えようとしていた。


どうりでお腹が空くわけだ。


「シホ。お腹空かない?」

「空いた。」

「昨日の昼から何も食べてないんだわ、俺。」


私は、いつから食べてないんだろう。


一昨日の昼からだから…丸2日かな。

⏰:09/01/01 10:35 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#133 [ゆーちん]
最後の食事はサンドイッチだった。


萌子として、友達と昼ご飯を食べた。


そして、昨日、萌子は死んだ。


私はシホになった。


シホになってから、まだ水一滴たりとも口にしていない。


今、やっと空腹感に襲われた。


あぁ、生きてるんだって思えた。

⏰:09/01/01 10:36 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#134 [ゆーちん]
「飯食い行くか。シホ昨日風呂入った?」

「入ってない。」

「俺も入ってないし、一緒に入るか。」

「…やだ。」

「お前に拒否権はない。」


ニッと笑い、私の頭を優しく叩いた哲夫は立ち上がり、浴室に向かった。

⏰:09/01/01 10:37 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#135 [ゆーちん]
私も立ち上がり、哲夫のあとを追った。


「ねぇ。」

「ん?」

「何でお湯、溜まってんの?」

「え?」

「いつ入れたの、お湯。」

「あぁ、機械が入れてくれんだよ。タイマーにして。俺毎日風呂入るの昼間だからさ、このくらいの時間になったら自動で溜まるように設定してあんの。」

⏰:09/01/01 10:40 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#136 [ゆーちん]
驚いた。


世の中そんな素敵な機能のついたお風呂があるんだ。


信じらんない。


「楽チンだね。」

「便利な世の中だよな。」


哲夫はポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草の火を消した。

⏰:09/01/01 10:41 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#137 [ゆーちん]
「はい、脱いで。入るよ。」


下着だけの私は簡単に裸になった。


哲夫もすぐに服を脱ぎ捨て、私と一緒に湯舟につかる。


「うーっ、気持ちいい。俺風呂好きなんだわ。」

「どうして夜入んないの?」

「疲れてそのまま寝ちゃうんだよ。だからいっつも起きたら入る。」

⏰:09/01/01 10:58 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#138 [ゆーちん]
「一日の始まりはお風呂からなんだね。」

「そゆ事〜。」


今日も、哲夫に後ろから抱きしめられながら体を温める。


背中やお腹をずっと撫でてくれるんだ。


理由はわからないけど、なぜか哲夫が触れた場所は、痛みが和らいだ。

⏰:09/01/01 10:59 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#139 [ゆーちん]
お風呂から出て、買って来た服を身にまとった。


「おぉー、似合う似合う。化粧もしろよ。化粧は女の身嗜みって言うからな。」

「…面倒だよ。」

「じゃあスッピンで行くのか?もしくはピザでも頼む?」

「…私が、作る。」

⏰:09/01/01 11:00 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#140 [ゆーちん]
キッチンに行き、冷蔵庫の中を見ると、何とかなりそうだと思った。


「えっ、お前料理できんの?」

「…うん。」


萌子の時は、毎日料理していたから。


作りたくもない料理を、毎日毎日我慢して作ってたから。


「お好み焼きでいい?」

⏰:09/01/01 11:00 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#141 [ゆーちん]
「お好み焼き作れんの?お前なかなかやるな!」


哲夫が笑った。


「作れるよ。」

「じゃあお好み焼き作って〜。俺、シホの荷物の片付け始めててやるわ。」


萌子が嫌々作ってた料理。


だけど私、シホが今から作る料理は嫌じゃない。


初めてワクワクする。

⏰:09/01/01 11:01 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#142 [ゆーちん]
だってさ、笑ってくれたから。


父は私が料理を作っても、1ミリ足りとも笑わなかった。


苦痛だった。


もう…忘れたい。


忘れよう。


だって萌子は死んだんだから。


友達や彼氏、家族はきっと萌子が死んだって悲しまない。

⏰:09/01/01 11:02 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#143 [ゆーちん]
「出来た。」


大きなお好み焼きをお皿に盛って、テーブルに置いた。


湯気が立ち上る。


いい匂い。


「美味そっ!まさかの才能だな。」

「哲夫のお箸ってどこにあるの?」

「そんなもんないよ。いつも割り箸。」

「そうなんだ。」

⏰:09/01/01 15:26 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#144 [ゆーちん]
哲夫がキッチンの棚から割り箸を2つ取り出した。


あそこが割り箸入れか。


覚えておかないと。


「はい、いただきます!」

「…いただきます。」


哲夫は大きく切り取ったお好み焼きを頬張った。

⏰:09/01/01 15:27 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#145 [ゆーちん]
「んー!うめぇ!」


素直に嬉しかった。


自分が作ったものを褒めてもらえるのは嬉しい事なんだ。


「よかった。」

「酢豚とかも作れんの?」

「うん。」

「グラタンも?カツ丼も?エビチリも?」

⏰:09/01/01 15:28 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#146 [ゆーちん]
「…たぶん、作れる。」

「すげぇ。和洋中パーフェクトなんだな。いいペット捕まえたわ〜。」


笑いながら哲夫はお好み焼きをどんどん食べて行く。


私も食べた。


うん、お好み焼きだ。


自分が作ったものはなぜか美味しいと思わない。


不思議。

⏰:09/01/01 15:28 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#147 [ゆーちん]
シホになって初めての食事が済み、片付けに専念した。


買い過ぎたかな、と自分でもわかっているらしく、反省しながら片付ける哲夫。


「テッちゃん。」

「はい。」

「哲夫。」

「はい。」

「テツ。」

「はい。」

「ご主人様。」

「はぁ?何言ってんだ?」

⏰:09/01/01 16:10 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#148 [ゆーちん]
鼻で笑われた。


「どの呼び方がいい?」

「…ご主人様っての、なかなか気分いいな。」


不適な笑み。


「それ以外。」

「じゃあ候補に挙げるな。呼び方なんか何でもいいよ。」

⏰:09/01/01 16:11 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#149 [ゆーちん]
何でもいい、が1番困る。


でも、本人が何でもいいって言ってるんだから好きに呼ぼう。


「哲夫。」

「結局その呼び方かよ。」

「トイレどこ?」


シホになって初めてのトイレ。


「しょんべんずっと我慢してたの?」

⏰:09/01/01 16:12 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#150 [ゆーちん]
「ううん。我慢なんかしてない。今初めてしたくなった。」

「どうなってんだ、お前の体は。」


笑いながら哲夫に案内されたトイレに入ると、目を疑うように輝く便器があった。


初めて済ませたトイレから出て、哲夫に聞いた。

⏰:09/01/01 16:12 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#151 [ゆーちん]
「掃除とか自分でするの?」

「全然しない。」

「何であんなにトイレ綺麗なの。」

「誰かが掃除に来てるから。」

「誰かが?」

「俺って、周りから尊敬されてるんだって。だから、うちのチームの新人は俺の身の回りの世話を熟してこそ、初めてうちのチームに入れるってルールがあるらしくて。」

⏰:09/01/01 16:14 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#152 [ゆーちん]
「何それ…変わってるね。」

「だろ?俺も思う。新人なんて、まだ得体の知れない人間なのに、簡単に家に入れるなんて変な話だよな。でも悪い話じゃないから、そんなルールに甘えちゃってんの。」

⏰:09/01/01 16:15 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#153 [ゆーちん]
得体の知れない人間…かぁ。


「誰が決めたの、そのルール。」

「ヤッちゃん。あいつは管理職っつーか…まぁ簡単に言えば副リーダーだな。俺の幼なじみなの、康。」

「じゃあ昨日も来てたの?」

「来たみたいだね。」

⏰:09/01/01 16:16 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#154 [ゆーちん]
「いつ?」

「買い物行ってる間だろ。」

「今日も来るの?」

「さぁ知らない。」


どうやら、不定期で現れて、綺麗にしてから帰るってパターンみたい。


これからは下着姿でいられないな。


得体の知れない新人が、得体の知れない裸の女と鉢合わせになるかもしれないからね。

⏰:09/01/01 16:17 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#155 [ゆーちん]
何だかんだしていると片付けは無事終了。


散らかっていた部屋は綺麗になった。


「あぁーっ。疲れた。」


煙草に火をつけた哲夫。


「働いた後の煙草は美味いねぇ〜。」


そんなことをシミジミと言うから、なんだか笑ってしまった。

⏰:09/01/01 16:18 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#156 [ゆーちん]
「何笑ってんだよ。」

「何か、おやじ臭い。」

「お前と5つしか違わないだろ。」


ベットに座っている私の隣に、ドンッと座った哲夫。


「そうやって笑ってろ。」

「ん?」

「シホは笑った方が可愛いから。」

⏰:09/01/01 16:19 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#157 [ゆーちん]
哲夫はこうやって女を口説くんだろうか。


灰皿で煙草を消し、頬にキスをした哲夫。


「集会行くわ。」

「いってらっしゃい。」


哲夫が立ち上ると微かに弾んだベット。


振り返る事もなく、今日もまた哲夫は出掛けた。

⏰:09/01/01 16:20 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#158 [ゆーちん]
さて、私は何をしようか。


たくさん眠ったおかげで眠くはない。


体は痛いが、耐えられる。


そうだ、洗濯しよう。


新人の仕事かもしれないけど、そんなの知らない。


私だって何か仕事がないと、暇だもん。

⏰:09/01/01 16:20 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#159 [ゆーちん]
脱衣所には大きな洗濯機。


上からじゃなくて横から洗濯を入れるタイプ。


すごい。


洗濯を回している間、買い与えてもらった携帯電話を触った。


電話帳には哲夫と康孝の2件。


何かあった時、俺が電話に出なかったら康孝にかけろと哲夫に言われ、康孝の電話番号も登録してもらった。

⏰:09/01/01 16:21 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#160 [ゆーちん]
メールは0件。


着信履歴も発信履歴も今のところ0。


萌子じゃ、ありえない。


いつも誰かのメールや電話があった。


上辺だけの付き合いの友達や彼氏からの連絡があった。


だけど今は違う。


私はシホだ。

⏰:09/01/01 16:22 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#161 [ゆーちん]
あれだけ死にたかったのに、シホとして生きようと思ってる自分がいた。


それは死からの逃げなのか。


リセットされた人生を期待しているのだろうか。


私はこのままシホでいいのだろうか。


不安や疑問が襲う。

⏰:09/01/01 16:22 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#162 [ゆーちん]
あぁ、頭が痛い。


洗濯機が鳴っている。


洗い終わったんだ。


干さなきゃ。


でも頭が痛い。


なぜか、私はそのまま眠ってしまった。


あれだけ寝たのに、まだ眠いの?


変な体。


夢は見なかった。


起きた時は、また温もりに包まれていた。

⏰:09/01/01 16:23 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#163 [ゆーちん]
「哲夫。」

「…。」

「テッちゃん。」

「…。」

「テツ。」

「…。」


どれにも答えない。


「ご主人様。」

「…。」


よほど疲れていたのだろう。


私が動いても全く動かない。

⏰:09/01/01 16:24 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#164 [ゆーちん]
ベットから抜け出し、洗濯機を見に行くと、やっぱりそのままだった。


当たり前か。


哲夫が干す訳ない。


フタを開けて、洗濯物に触れた瞬間、目が覚めた。


何で?


確かに洗ったよ。


なのに、何で…乾いてるの。

⏰:09/01/01 16:24 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#165 [ゆーちん]
慌てて洗濯機の操作ボタンの付近を見た。


そこには乾燥機能のついた洗濯機だと現すボタンがたくさん並んでいた。


また、信じられない事を見つけた。


干さなくても、乾かしてくれんの?


しかもシワとかになってないし…。


驚きだ。

⏰:09/01/01 16:25 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#166 [ゆーちん]
どれだけ金河夫妻が時代遅れの生活を送っていたのか痛感した。


綺麗になった洗濯物を畳み、ご飯を作った。


ちょうど酢豚が出来たところで哲夫が目を覚ました。


「いい匂い〜。」

「酢豚作った。昨日なかったのに冷蔵庫に豚肉あったから。」

⏰:09/01/01 16:26 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#167 [ゆーちん]
「昨日、集会の時もらったんだ。掃除以外にも食料調達とかもしてくれんだわ。新人っつーのは。」

「ふーん。」

「何かいるもんあったら新人走らせるから遠慮すんなよ。」

「うん。」

「よし、風呂に入るか。入ってから飯だ。」

「冷めちゃうよ?」

⏰:09/01/01 16:28 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#168 [ゆーちん]
「温め直せばいいよ。シホも入るだろー?」

「…うん。」


今日も一緒にお風呂に入る。


一日の始まりはお風呂から。


そんな哲夫のペースに、私の体も合わせようとしていた。


お風呂から出るとご飯。


温め直した酢豚を美味しそうに食べてくれた。

⏰:09/01/01 16:30 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#169 [ゆーちん]
昨日は片付けをして時間を過ごした。


今日は何をして、集会までの時間を潰すのだろうか。


「テツ。」

「何だ。」

「私にも何か仕事ちょうだい。」

「仕事?」

「家にいる間、暇。料理だけじゃつまんない。」

⏰:09/01/01 16:30 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#170 [ゆーちん]
「大人しくしてろって。」


頭を撫でられた。


違う、そんな答えを望んでるんじゃない。


「体なまる。」

「んじゃ縄跳びでもしてろ。康孝が昔、縄跳びダイエットするとか言ってここに持って来たまま忘れてるんだ。だから探せばどっかに縄あるよ。」

「…やだ。」

「じゃあシホは何がしたいんだよ。」

⏰:09/01/01 16:31 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#171 [ゆーちん]
そう聞かれると何も答えが思い浮かばない。


「私も…」

「ん?」

「集会行きたい。どんなのか見たいな。」


哲夫は、本当に?大丈夫か?と笑いながら私に問う。


私は本当、大丈夫、と答えた。


「だったら着替えて化粧しろ。連れてってやるよ。」

⏰:09/01/01 16:32 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#172 [ゆーちん]
自ら行きたいと望んだ集会。


容易な気持ちだった。


人の集まりってのを見てみたい。


萌子では考えられない世界の話。


些細な好奇心を奮わせて、私は新品のコスメを使い、化粧をしたんだ。

⏰:09/01/01 16:34 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#173 [ゆーちん]
「シホ。」

「んー?」

「派手なメイクだな。もっとナチュラルビューティーを目指そうと思わないのかい?」

「はい?」

「だから、もっとこう…何つうの?上品な化粧しろって意味。」

「わかんない。」

「例えばだなぁ…」

⏰:09/01/01 18:04 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#174 [ゆーちん]
そう言って、なぜか哲夫は私に化粧をし始めた。


「化粧できるの?」

「ううん。見よう見真似。」

「誰の?」

「チームの女の子たち。集会の時、いっつも化粧直ししてんだわ。」

「ふーん。」


見よう見真似と言った哲夫の手つきは、見事なものだった。

⏰:09/01/01 18:05 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#175 [ゆーちん]
完成した私の顔は、初めての顔だった。


スッピンと、萌子での化粧の間って感じ。


ケバすぎたんだ、萌子が。


「ほら、やっぱこんくらいナチュラルのが可愛いよ。」


鏡を見て、自分でも今のメイクの方が可愛いって思う。

⏰:09/01/01 18:06 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#176 [ゆーちん]
萌子のメイクは、ただデカ目になればいいって感じのものだったから。


「ギャルはギャルでも、上品なギャルでないとね。」


そう言って、哲夫は笑いながら私の前に座った。


手にはハサミ。


「何。」

「前髪切ろっか。」

「え?」

「後ろも少し短くするぞ。」

⏰:09/01/01 18:06 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#177 [ゆーちん]
私に拒否権はない。


目の下まで伸びていた前髪を、目の上までパツンと切り落とした哲夫。


「おぉ!パッツンのが可愛いじゃん。人形みたいだそ、シホ。」


長くて傷んだ後ろの髪も、毛先が肩にかかるくらいの長さに切られた。

⏰:09/01/01 18:08 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#178 [ゆーちん]
「うん、完璧。俺って天才?」

「…。」

「よかったなシホ。お前は顔ちいせぇからこの髪形のが似合うぞ。」

「…。」

「何だよ。文句あるか?」

「ない。」

「よし。明日美容院行ってその明るい金髪をもう少し上品にしてもらおうな。」


脱色しすぎた私の髪を見て言った哲夫。


「テツだって、金髪。」

⏰:09/01/01 18:09 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#179 [ゆーちん]
「俺は目立たないと。でもシホは目立っちゃダメ。また野良犬と喧嘩でもされちゃ困るから。」

「美容院に行くなら、何でテツが髪切ったの?」

「シホの初披露なんだぞ?あんなボサボサ頭じゃ飼い主の俺のプライドが許さない。」


哲夫はそう言って笑った。

⏰:09/01/01 18:10 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#180 [ゆーちん]
「プライド…」


私にはそんなもの、ない。


「毛先傷みすぎでしょ。」


切り落とした私の髪を見て、哲夫が呟いた。


「バッサリ切ったから、綺麗な髪になったぞ。」


哲夫に褒められると、なぜか心が痛かった。

⏰:09/01/01 18:11 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#181 [ゆーちん]
名前も見た目も生まれ変わった私。


このメイクが、この髪がシホなんだ。


なんだか少し、自分が好きになった。


「歩いて行くか、バイクで行くか、車で行くか、お迎えに来てもらうか。さぁ、どれにする?」


哲夫に質問に『歩く。』と答えた。

⏰:09/01/01 18:11 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#182 [ゆーちん]
「元気だな。」

「体なまるの嫌だもん。」

「そここだわるんだね。」


笑って頭を撫でた哲夫。


今日は私も一緒に家を出るんだ。


哲夫の背中を見送らずに済む。


肩を抱かれて、暗くなった道を歩く。


どこに向かってるのかは、わからない。

⏰:09/01/01 18:12 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#183 [ゆーちん]
しばらく歩くと雑音が耳に入った。


昨日乗った康孝の車のように騒々しい音。


「…うるさいのが聞こえてきた。」

「アハハ。そのうるさい集まりのボスは俺だからね。」


大きい音が苦手。


怒鳴り声も怖い。


心臓が痛くなる。

⏰:09/01/01 18:24 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#184 [ゆーちん]
萌子の時に受けた傷のトラウマなんだ。


早くこの心の傷も癒し切って、シホに生まれ変わりたいよ…。


角を曲がると、そこには今までの街とは別の世界が広がっていた。


明るい。


賑やか。


うるさい。


ついつい目を背けたくなるような世界だった。

⏰:09/01/01 18:25 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#185 [ゆーちん]
「哲夫さん、お疲れ様です!」

「テツさん、お疲れ様でーす!」

「テッちゃん、お疲れ。」


たくさんの声が哲夫にかかる。


たくさんの呼び名を持つ千早哲夫は、『お疲れ。』と返事した。


「シホちゃん?」


見覚えのある顔が近付いて来た。


康孝だ。

⏰:09/01/01 20:29 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#186 [ゆーちん]
「康、みんなにシホ紹介してやって。」

「おぉ、わかった。」


そう言って康孝は、哲夫の隣に立ち、みんなの方を向いた。


「はぁーい、ちゅうもぉーくっ!」

⏰:09/01/01 20:30 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#187 [ゆーちん]
大きな声。


静かになった集団。


小刻みに震える車やバイクのエンジン音だけが、響いていた。


たった一言で全員を黙らせる康孝。


さすが管理職。


「こちら、シホちゃん。テッちゃんの女だ。」

⏰:09/01/01 20:30 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#188 [ゆーちん]
女?


彼女って意味?


だったら間違ってる。


昨日、私をペットだって哲夫が言ってたでしょ?


何にも覚えてないのかな、康孝は。


「テッちゃん何か一言。」

⏰:09/01/01 20:31 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#189 [ゆーちん]
康孝に話を振られた哲夫は言った。


「たまに集会に来るだろうから仲良くしてやって。過去の事を聞き出すのは禁止。あと新人、シホは俺んちで住んでっから、これからは掃除ルール廃止。もう俺んち勝手に来るなよ。以上。」

⏰:09/01/01 20:33 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#190 [ゆーちん]
哲夫が話し終えると、全員の低い声が唸った。


『はい。』と。


「掃除ルールやめちゃうの?」


小声で哲夫に聞くと、小声で答えをくれた。


「これからはシホの仕事。料理だけじゃつまんないんだろ?だったら家事全般、シホの仕事な。掃除して、体のなまり防止。頼んだぞぉ。」

⏰:09/01/01 20:34 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#191 [ゆーちん]
大きく頷いた。


与えられた私の仕事。


家事なら得意だ。


でも好きじゃない。


萌子の時、嫌ってほど家事ばかりしていたから。


だけど私はシホ。


家事は嫌いじゃない。


家事は楽しい事なんだ。

⏰:09/01/01 20:35 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#192 [ゆーちん]
哲夫のために掃除や料理をする。


与えられた仕事への意気込みは半端のないもの。


頑張ろう。


そう思わずにはいられなかった。


「テッちゃんからの話は以上。じゃあミーティング始めるから報告のある奴はいつも通り挙手な〜。」

⏰:09/01/01 20:35 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#193 [ゆーちん]
康孝の大きな声が、エンジン音と奏であう。


次々に手が挙がった。


地面に座り込んでいるみんなと対して、突っ立ってんのは私と哲夫と康孝だけ。


康孝が手を上げた男を指名して、何の報告かわからないけど指名された男は声を張り上げていた。

⏰:09/01/01 20:36 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#194 [ゆーちん]
「座らないの?」


哲夫に小声で聞くと『お前は座ってていいよ。』と言った。


「哲夫は?」

「哲夫様はリーダーだから座らない。」

「ふーん。康孝は?」

「副リーダーちゃんだから座らない。」


あぁ、そうなんだ。


そう思いながら、笑ってる哲夫の隣に座り込んだ。

⏰:09/01/01 20:38 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#195 [ゆーちん]
その後の【集会】と呼ばれるものは退屈だった。


どこの地区で喧嘩があって警察がどうとか、新入りの紹介とか、そんなもの私には関係なかった。


しばらくすると【集会】はお開き。


みんな、またそれぞれに騒ぎ始めた。


「テツさん、ちょっと来て下さーい。」


哲夫が呼ばれた。

⏰:09/01/01 20:39 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#196 [ゆーちん]
「シホ、ちょっと待ってて。暇なら適当に康孝に遊んでもらってて。」

「大丈夫、待ってる。」

「ん。」


小さく笑い、哲夫は呼ばれた方に歩いて行った。


哲夫の後ろ姿を見つめる。


「シホちゃん。」

⏰:09/01/01 20:39 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#197 [ゆーちん]
哲夫が呼ばれた人に笑いかけているのを見た瞬間、私は隣から名前を呼ばれた。


「…あ、はい。」


まだ慣れない名前。


振り向くと康孝だった。


「賑やかだろ?」

「…うん。」

⏰:09/01/01 20:40 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#198 [ゆーちん]
「ここにいるのはまだ全員じゃねぇよ。まだ他にもいるんだ。その全員をまとめてんのが哲夫。あいつはすげぇよ、マジで。」


見渡すと、本当にたくさんの人がいる。


「ヤッちゃんも管理職なんでしょ?すごいじゃない。」

「俺なんてまだまだ。哲夫がいないと何もできないし。」

⏰:09/01/01 20:41 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#199 [ゆーちん]
哲夫がどれほどすごい人なのか、やっぱりまだよくわかんないな。


こんなたくさんの人をまとめているのは大変だろうけど、なぜ哲夫がリーダーなのかとか…そんなの全然わかんない。


「ヤッちゃん。」

「ん?」

「楽しい?」

「何が?」

⏰:09/01/01 20:48 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#200 [ゆーちん]
「ここにいて。」

「ここ…って集会?」

「こんな風に集まって、喋ったり騒いだり笑ったり…みんな楽しいのかな?」

「そりゃ楽しいっしょ。だから来てんだし。」

「何が楽しいんだろ。」

「んー、仲間に会えるからじゃね?」

「仲間?」

⏰:09/01/01 20:49 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#201 [ゆーちん]
康孝は煙草に火をつけた。


「ここならきっとシホちゃんにも仲間が出来ると思うよ。」

「上辺だけの仲間じゃなくって本当の仲間がいい。」

「おう、できるできる。そもそも上辺だけの奴なんて仲間って言わないからさ。」

⏰:09/01/01 20:50 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#202 [ゆーちん]
康孝の言葉に励まされたのは予想外だった。


ちょっとバカっぽいのに、なぜか私に勇気をくれた。


萌子の時には作れなかった本当の仲間を作りたい。


そう思ってしまうのは贅沢なのかな?


いいんだよね、私、普通の人生を過ごしても。

⏰:09/01/01 20:50 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#203 [ゆーちん]
「でも、いつ終わるかわからない人生だから…やっぱり仲間なんかいらないのかも。」

「何で?別に明日終わろうが今終わろうが仲間を作っちゃいけないなんてルールないよ。」

「そうだけど。」

「哲夫はシホちゃんを殺したりしないよ。」

⏰:09/01/01 20:51 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#204 [ゆーちん]
ぽんぽんと灰を地面に落とした康孝。


「…何で言い切れるの?私に飽きたらいつでも殺すって約束だもん。」

「殺す相手に服なんか与えないし、みんなに紹介しないっしょ。」


康孝が笑った。


なぜか安心した。


私、殺されないで済むの?って。

⏰:09/01/01 20:51 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#205 [ゆーちん]
死にたかったはずなのに、たった2日で気持ちが変わった。


たった1人の男の存在で気持ちが変わった。


出来ることなら、死なずにいたい。


このまま哲夫のペットでいたいんだ。


「根性ないなぁ…。」

「ほえ?何が?」

「ううん。独り言。」

⏰:09/01/01 20:52 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#206 [ゆーちん]
生きたいと願ってしまっていることが情けない。


もし昨日死んでいたのなら、あそこにいる哲夫の笑顔を見て、ちょっと心が温まるというような気持ちに襲われる事はなかったんだろうな。


それにー仲間を作りたいとも思わなかったのかもね。

⏰:09/01/01 20:53 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#207 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

リズム

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/01 21:00 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#208 [ゆーちん]
「シホ、お待たせ。」


哲夫が戻って来ると康孝はどこかに行ってしまった。


「康と何話してたの?」


私の隣に腰を降ろす哲夫。


「仲間を作るってどういう事なのかな、って思って。」

「…。」

⏰:09/01/01 21:00 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#209 [ゆーちん]
「私、仲間とか友達とか…そういうの苦手だから。」


しばらく黙り込んだ哲夫。


煙草に火をつけ、一口吸ってからゆっくり白い息を吐き出すと、低い声で話してくれた。


「ここにいる奴らはさ、みんな何かしら訳有りが多いんだ。同情っつーか傷の舐め合いだって言われるかもしんないけど、俺には必要な存在。」

⏰:09/01/01 21:01 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#210 [ゆーちん]
必要な存在って何だろう。


私にはまだわからない。


萌子の場合、必要な存在はいなかった。


両親、友達、彼氏…どれも必要ではなかった。


むしろ不必要。


無くなればいいと何度も思った。

⏰:09/01/01 21:02 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#211 [ゆーちん]
だからまだ、その必要な存在って意味がわからない。


「そうなんだ。」

「シホもいつかわかるから。慌てなくてもいいぞ。」


何かを悟ってくれたのだろうか。


深入りしてくれないところが有り難いんだ。


さすがリーダーしてるだけある。


人の心を読むのが上手いのだろう。

⏰:09/01/01 21:02 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#212 [ゆーちん]
「帰るか。」

「え、もう?」

「まだいたいのか?」

「別にそんなんじゃないけど。」

「今日は何もトラブルとかなかったから俺がいてもいなくても、どっちでもいいし。帰りたい奴は帰るんだよ。」

「ふーん。じゃあ帰る。寒い。」

⏰:09/01/01 21:03 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#213 [ゆーちん]
哲夫は立ち上がり、『だったらもっと着込んで来いよ。』と笑った。


哲夫が歩き始めたので私も立ち上がり、彼の後を追った。


「康、俺ら帰るわ。」


哲夫が康孝にそう告げると、康孝が頷き、またみんなの方を向いて声を張り上げた。


「テッちゃん帰るって!」

⏰:09/01/01 21:03 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#214 [ゆーちん]
すると、その康孝の一言に、あれだけ騒がしかった場内は一気に同じ事を言い出した。


「お疲れ様でした!」


哲夫は『はーい、じゃあお先に。』とだけ答えた。


「シホ、おいで。」


呆気に取られていた私は、みんなを見ていた。


置いて行かれちゃたまらない。

⏰:09/01/01 21:04 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#215 [ゆーちん]
哲夫の声に素早く反応した私は、慌てて哲夫の元に駆け寄った。


「ほい。」


哲夫が着ていた上着が私の体を包む。


「テツ寒くないの?」

「男の子だもん。」

「ふーん。」

「ありがとうぐらい言え。」

「頼んでないよ。」

「生意気小娘。」

⏰:09/01/01 21:05 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#216 [ゆーちん]
哲夫の上着が温かい。


そのうえ肩を抱かれたので、もっと温かかった。


帰り道、私はたくさん笑った気がする。


家に戻ると哲夫は冷蔵庫からビールを取り出した。


「飲むか?」

「…飲んだ事ない。」

⏰:09/01/01 21:06 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#217 [ゆーちん]
「お子ちゃまだなぁ。俺のビールデビューなんて12才だぞ?」

「12才?」

「おうよ。中1の時、先輩に無理矢理飲まされて吐いたのが、俺の華々しいビールデビュー秘話だ。」

「フフッ…バカだ。」


コップに注いだビールを一気に飲み干した哲夫を見て、自然に口が動いていた。

⏰:09/01/01 21:07 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#218 [ゆーちん]
「美味しい?」

「おう!」

「美味しそうに飲むね。」

「だって本当に美味いし。飲んでみっか?」

「いい、いらない。」

「そ。」


哲夫がビールを飲む。


それは構わない。


だけど自分は飲みたくない。


まだ、恐いんだ。

⏰:09/01/01 21:08 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#219 [ゆーちん]
私はシホだけど、元は萌子だから。


萌子の時に恐かったものはシホになっても恐かった。


恐怖心が取れない。


ビールを飲むと機嫌が悪くなる、父と母の恐さが、未だに私を苦しめた。

⏰:09/01/01 21:08 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#220 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

ではまた

>>2

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/01 21:09 📱:SH901iC 🆔:XAv2cR7M


#221 [ゆーちん]
哲夫はビールを飲んでも酔わなかった。


よかった。


誰かが酔う姿は好きじゃないから。


「んー、眠い。」

「お風呂は?」

「朝入る。」

⏰:09/01/03 21:36 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#222 [ゆーちん]
「私、化粧落としてくる。」

「あいよ。」


ベットに倒れ込んだ哲夫を置いて、私は洗面所に向かう。


化粧を落としてから部屋に戻ると、哲夫はいびきをかいていた。


服を脱ぎ、パジャマに着替える。


哲夫の眠る隣に潜り、うるさいいびきを聞きながら、私は眠りについた。

⏰:09/01/03 21:37 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#223 [ゆーちん]
翌日は約束通り美容院に行って、カラーリングをしてもらった。


落ち着いたブラウンに染まった私の髪を何度も何度も哲夫は撫でてくれた。


その日は集会に行かず、留守番をした。


そのまた翌日は、眠る哲夫を起こさないよう朝から家事をして、昼前に起きた哲夫と一緒にお風呂に入る。

⏰:09/01/03 21:38 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#224 [ゆーちん]
ご飯を食べ、夕方までのんびり過ごし、集会に向かう哲夫を見送った。


なぜ集会に行かないのか。


別に具体的な理由はなかった。


仲間は欲しいけど慌てなくていいって哲夫が言ってくれたから。


だから行きたい時に行く。


それでいいんだよね?

⏰:09/01/03 21:39 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#225 [ゆーちん]
シホになってちょうど1週間が経った。


「久しぶりに集会行ってもいい?」


私の質問に哲夫は笑って答えた。


「温かい格好してけよ。」


私の顔も自然と綻んだ。


この前のように肩を抱かれ、私たちは集会場所に向かう。

⏰:09/01/03 21:40 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#226 [ゆーちん]
到着した途端、哲夫への挨拶が飛び交った。


康孝が声を張り上げる。


報告者が手を挙げる。


私は黙って座っていた。


30分程すれば集会が終わり、また賑やかになった。


すると、隣から哲夫と康孝以外の声が初めて私の名前を呼んだ。


「シホさん。」

⏰:09/01/03 21:41 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#227 [ゆーちん]
振り向くと女の子がいた。


「はい。」

「あの、よかったらあっちで話しませんか?」

「私と?」

「ダメなら結構ですけど…」

「あ、いや…ダメじゃないですけど…」


戸惑う私に隣にいた哲夫が助け船を出してくれた。


「人見知りするけど、シホよろしくね。」

⏰:09/01/03 21:42 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#228 [ゆーちん]
哲夫に私を頼まれた女の子は『はい!』と笑った。


「行っていいの?」


私が問うと、哲夫は『もちろん。』と答えた。


「行きましょうシホさん。」

「…はい。」


戸惑いながらも、立ち上がり、その女の子の後をついて行った。

⏰:09/01/03 21:43 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#229 [ゆーちん]
1時間後、私は私を恥じていた。


いや、正確には…私は萌子に恥じていた、だ。


どうして友達の作り方を知らなかったんだろう。


どうして仲間の素晴らしさを知らなかったんだろう。


今まで、仲間がこんな素敵な事を知らなかったなんて。


萌子に、腹がたった。

⏰:09/01/03 21:43 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#230 [ゆーちん]
打って変わって、シホを、好きになった。


初めて出来た仲間。


無理に笑わなくていい会話。


ありのまま、楽にいられる居場所。


他愛もない会話だったけど、楽しかった、心から。

⏰:09/01/03 21:44 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#231 [ゆーちん]
時間を忘れ、たくさんの話をした。


ほとんどはみんなが話のを聞いていただけだったけど、夢中になって話を聞いたし、心から笑ったりもした。


感情があるって素晴らしい事だと思う。


仲間がいるって有り難い事だと思う。

⏰:09/01/03 21:45 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#232 [ゆーちん]
「シホさんはそういうムカつく店員に会った事ありますかぁ?」

「ありますよ。でも私はムカついても何も言えないんですよね。」

「マジっすか?そこはガツンと言っちゃいましょうよ〜。」


なんて、盛り上がってると私の後ろから哲夫の声がした。

⏰:09/01/03 21:45 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#233 [ゆーちん]
「楽しそうだね。」


みんなの顔がちょっと強張った。


「哲夫さん。」

「敬語同士で盛り上がるのも珍しいけどな。」

「いや、だってやっぱ哲夫さんの彼女だと気使っちゃいますよ。」

「別に気にしなくていいのに、なぁシホ。」

⏰:09/01/03 21:46 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#234 [ゆーちん]
哲夫に話を振られた私は大きく頷いた。


「みんなの方が年上だし、私に敬語なんか使わなくていいですから。」

「えっ、だったらシホさんも私らなんかに敬語なんかしないで下さいよ。仲良くやりましょう。」

⏰:09/01/03 21:47 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#235 [ゆーちん]
哲夫は『よかったな、シホ。怖いお姉さん達と仲良くなれて。』と言うと、みんなが笑った。


「怖くないよ、シホさん。うちらめちゃめちゃ優しいから。」

「シホさんはおかしくない?シホちゃんって呼ばせてもらおうよ。」

「あ、そうだね。いいかな、シホちゃんで。」

「うん。」

⏰:09/01/03 21:48 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#236 [ゆーちん]
敬語で会話していたのに、急にため口になってなんだか違和感があったけど、しばらくすれば気にもならなくなった。


いつの間にか哲夫は私の後ろからいなくなっていて、再び哲夫に会ったのは解散の時だった。

⏰:09/01/03 21:48 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#237 [ゆーちん]
「じゃあねシホちゃん。」

「また語ろうね!」

「今度は私の幼稚園時代の武勇伝、聞かせてあげるよぉ。」


みんなが私に手を振る。


「うん、バイバイ。」


私もみんなに手を振った。


哲夫の近くにいたせいか、みんなは手を振った後に頭を軽く下げた。

⏰:09/01/03 21:50 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#238 [ゆーちん]
「帰りますかシホさん。」

「うん。」

「寒くない?」

「今日は大丈夫。」

「そ。」


肩を抱かれ、帰ろうとする哲夫と私に、残っていた人たちが『お疲れ様っす!』と叫んだ。


哲夫は振り向きもせず手を上げただけだった。

⏰:09/01/03 21:51 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#239 [ゆーちん]
「楽しかった?」

「うん。」

「わかってきた?仲間の意味。」

「…うーん。」

「まぁそんな簡単にわかるわけないか。ゆっくりでいいからな。また行きたい時に行けばいいよ。」

「うん。」


家につくと日付はとっくに変わっていて、もうすぐ鳥が鳴き始めるような時間だった。

⏰:09/01/03 21:52 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#240 [ゆーちん]
「長居しすぎた。俺いつもはもうちょっと早く帰るんだよ。」

「そうなんだ。」

「シホは寝てるから知らないよな、俺が帰って来る時間なんて。」

「うん、知らない。」


なんて事を話しながら、私たちは眠りについた。

⏰:09/01/03 21:53 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#241 [ゆーちん]
私が2回目の集会に行ってから、また一週間が経った。


最近、ようやく生活リズムが出来てきた。


朝、哲夫を起こさないようにベットから抜け出し、洗濯や掃除、昼食の準備をする。

⏰:09/01/03 21:54 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#242 [ゆーちん]
哲夫が起きてくると一緒にお風呂へ入る。


お風呂から出て、遅めの昼食。


昼食を食べ終えてからの事は、日によってバラバラ。


のんびりと部屋で過ごす事もあれば、買い物行く事もある。


そして夕方、哲夫は私の頬にキスをしてから集会に出掛ける。


私は行かない。

⏰:09/01/03 21:54 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#243 [ゆーちん]
集会に行かない理由は、特になかった。


この前、私に話し掛けてくれた人たちとも話したいとは思うけど…まだ怖かったんだ。


仲良くなればなるほど、上辺だけだってわかった時の傷はもう付けたくない。


あそこにいるみんなは、上辺だけで近付いてるんじゃないって言ってくれるかもしんない。

⏰:09/01/03 21:56 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#244 [ゆーちん]
有り難いんだけど、やっぱりまだ怖いんだ。


だから気分がいい時だけ、集会に行く事にした。


哲夫が集会に行き、一人になると残りの家事を済ます。


で、眠くなれば寝る。


起きると哲夫に抱きしめられている。


そんな毎日だった。

⏰:09/01/03 21:56 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#245 [ゆーちん]
ある朝…じゃなくて、お昼か。


眠そうな顔で起きてきた哲夫は、煙草を吸いながら言った。


「望実がシホに会いたいってさ。」

「…のんちゃん?」


哲夫が言う【望実】と、私が言う【のんちゃん】は同一人物。

⏰:09/01/03 21:58 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#246 [ゆーちん]
【望実】のあだ名が【のんちゃん】ってわけ。


この前、私に初めて話し掛けてくれた子。


私より2つ年上で、エクボの可愛い女の子。


もしかしたら…仲良くなれるかもしれない子。


「また調子いい時でいいからさ、一度顔出してやったら?」

「うん、そうだね。」

⏰:09/01/03 21:59 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#247 [ゆーちん]
煙草を消し、立ち上がる時に私の頭を撫でてくれた哲夫。


「慌てんな。」

「…うん。」


わかってる。


慌ててなんかない。


怖くて、一歩足りとも踏み出せないだけ。


だけどそれじゃだめなんだ。

⏰:09/01/03 22:00 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#248 [ゆーちん]
踏み出さないと始まんない。


「風呂入るか。」


一日の始まりはお風呂から。


今日も哲夫は、後ろから抱きしめてくれる。


「哲夫。」

「何?」

「今日行ってもいい?」

「集会?」

「うん。」


のんちゃんの、私に会いたいと言ってくれた言葉をきっかけに、一歩踏み出そうと思う。

⏰:09/01/03 22:00 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#249 [ゆーちん]
哲夫は快く了解してくれた。


お風呂から上がり、出掛ける準備をする。


髪形、化粧、服装。


みるみる変身していく自分を見るのが楽しかった。


落ち着いた色の髪と、ナチュラルなメイク、それに派手すぎない服装。


何だかんだで私はシホを気に入っていた。

⏰:09/01/03 22:01 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#250 [ゆーちん]
準備が終わり、残りの家事を済ませてから家を出た。


この前より、夜道が寒かった。


だから、この前より肩をきつく抱きしめてもらった。


人の温もりが心地いい。


哲夫の温もりが私に伝わって来た頃、集会場所に到着した。

⏰:09/01/03 22:02 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#251 [ゆーちん]
「お疲れ様っす!」


哲夫への挨拶が飛び交う。


その挨拶の中に、女の子の声が混じった。


「シホちゃん!」


声の主は探さなくても、向こうから近付いて来てくれた。


のんちゃんだ。

⏰:09/01/03 22:20 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#252 [ゆーちん]
「久しぶり〜!」


元気なシホちゃんの声と笑顔が、私を抱きしめた。


女の子に抱きしめられた事なんかなかったから、ちょっとビックリ。


「のんちゃん?」

「元気だった?超会いたかったよぉ!」

「あ、うん。のんちゃんも元気だった?」

「やや風邪ぎみ〜。でも余裕だよ?風邪なんかに負けてんないし!」

⏰:09/01/03 22:20 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#253 [ゆーちん]
のんちゃんの歓迎に驚きつつも、普通に嬉しかった。


私と会う事が、そんなに喜んでもらえるの?って。


「シホ、今から報告ばっかでつまんねぇだろうから望実たちと座ってろ。」


康孝たちと喋っていた哲夫が私の傍に来て言った。

⏰:09/01/03 22:22 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#254 [ゆーちん]
「あっ、哲夫さん。お疲れ様です。」


のんちゃんが挨拶すると、哲夫は『お疲れさん。』と言う。


「いいの?」


私が聞くと哲夫は頷いた。


「じゃあシホちゃん、あっち行こうよ。みんな待ってるし!」

「うん。」


そういう訳で、私はのんちゃんに手を引かれ、哲夫の傍から離れた。

⏰:09/01/03 22:22 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#255 [ゆーちん]
「シホちゃんだ!」

「久しぶり〜!」

「元気してた?」


そこにいた他の女の子たちは、みんな笑顔で私を受け入れてくれた。


集会が始まるまで、みんなで他愛もない話をする。

⏰:09/01/03 22:23 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#256 [ゆーちん]
「あーい、注目!」


康孝の声で、みんなは一気に静まり返る。


手を挙げて報告する人の話を聞く時間。


私には関係ないから、黙って座っている。


いつものように30分もすれば集会は終わる。


ここからは帰りたい人は帰ればいいって感じらしく、何人かは帰って行く。

⏰:09/01/03 22:24 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#257 [ゆーちん]
「のんちゃん達は帰らないの?」


私が聞くと、みんなは『帰る訳ないじゃん!』といった感じで笑っていた。


「せっかくシホちゃんに会えんのに、帰るの勿体ないし!」

「つーか帰っても暇だし。」

「みんなといる方が楽しいじゃん?」

⏰:09/01/03 22:25 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#258 [ゆーちん]
驚いた。


そんな答えが返ってくるなんてさ。「そっかぁ。」

「でも用があるときは集会終わったら嫌々帰るよ?」

「まぁでもウチらに用なんて滅多にないけどねぇ!」


笑い声のあとに、また違う話で盛り上がる。


この前よりも楽しい時間だった。

⏰:09/01/03 22:25 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#259 [ゆーちん]
「また来てよ?」


解散の時間になった。


「バイバイ。」


のんちゃん達ともさよならして、私は哲夫に肩を抱かれながら帰る。


「ねぇ哲夫。」

「ん?」

⏰:09/01/03 22:28 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#260 [ゆーちん]
「明日も集会来る。」


やっと一歩だけ進めた気がする。


「おう。」


哲夫の笑顔を見ると、明日も来たいと思う願望は、間違いなどではないんだと安心できる。


家に帰り、共に眠る。


これからは生活リズムをまた少し変えないとな。

⏰:09/01/03 22:29 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#261 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

感想など
よろしくお願いします

>>2

ではまた

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/03 22:30 📱:SH901iC 🆔:diob1dTs


#262 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

看病

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/04 22:18 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#263 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月。


ここ最近、毎晩のように集会に顔を出すようになったせいか肌荒れするようになった。


『夜更かしごときでニキビなんて、シホもまだまだガキだな。』と哲夫に笑われた。


腹なんか立たない。


哲夫が笑っていると、なんだか嬉しくなれたから。

⏰:09/01/04 22:18 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#264 [ゆーちん]
「行くぞ、シホ。」

「うん。」


今日も集会に向かう。


とても寒い夜だった。


「あっ、シホちゃーん!」


のんちゃん達が私を呼ぶ。


哲夫に『行ってもいい?』とアイコンタクトを送ると、『もちろん。』と答える。


無言の会話。


哲夫の腕の中から抜け出し、のんちゃん達のところまで走った。

⏰:09/01/04 22:19 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#265 [ゆーちん]
「お疲れ様〜。」

「今日も寒いね!」


相変わらず、私は自分の事をあまり話さないで、みんなの話を聞くばかり。


だけど楽しかった。


笑うと、温かかったから。


これが仲間なのかな。


だとしたら、萌子の友達ごっこは本当にくだらないものだった。


信じていいんだよね、のんちゃん達のこと。


それに…テツの事。

⏰:09/01/04 22:20 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#266 [ゆーちん]
「シホ。」

「ん?」


日付が変わる30分前、私たちが集まる場所に哲夫が来た。


みんな、急に畏まっちゃって…何だか笑える。


「お楽しみ中、悪いんだけど俺そろそろ帰りたい。お前まだいるか?」


珍しい。


ここ最近は最後まで残ってたのに。

⏰:09/01/04 22:21 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#267 [ゆーちん]
「ううん、帰る。」

「いいのか?居たい時間まで居れば良いよ。帰りは康孝にでも頼めばいいし。」


私は首を振り、哲夫の傍に駆け寄った。


「じゃあね。」

「バイバーイ!」


みんなと別れ、いつものようにチーム全員が哲夫に挨拶。

⏰:09/01/04 22:21 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#268 [ゆーちん]
見慣れた儀式だ。


それが終わると、私の肩を抱いて歩き出す。


なぜ哲夫が早く帰りたがったのか、それは家についてからわかった事だった。

⏰:09/01/04 22:22 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#269 [ゆーちん]
ベッドに倒れ込んだ哲夫。


「シホ…薬箱取って。」

「薬箱?お腹でも痛い?」


すっかり慣れたこの部屋から、私は薬箱を取り出した。


絆創膏、消毒液、ガーゼ、うがい薬…など、たくさんの薬品が詰まっている。


新人が用意した物だそうだ。

⏰:09/01/04 23:24 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#270 [ゆーちん]
「哲夫?」

「シホ…あのさ…」


哲夫の様子がおかしいと気付いたのは、ちょうどこの時だった。


日付がもうすぐ変わる。


「えっ、テツ?」

「風邪…薬…出して…」

⏰:09/01/04 23:25 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#271 [ゆーちん]
いつの間にこんなに荒い息になったんだろう。


苦しそうに呼吸をする哲夫に全く気付かなかった。


それに、汗もひどい。


「哲夫!?」

「大丈夫だから…薬、探して…」

⏰:09/01/04 23:25 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#272 [ゆーちん]
かなり焦った。


こんな弱った哲夫なんか見た事ないから。


恐かった。


哲夫が死ぬんじゃないか、って。


いなくなるんじゃないか、って。


また一人ぼっちになるんじゃないか、って。

⏰:09/01/04 23:27 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#273 [ゆーちん]
必死に探した。


頭痛薬、腹痛の薬、胃薬、花粉症の薬…


手に取るたびに欲しい薬以外のものが現れる。


「あ、あった!」


風邪薬は1番底にあった。


「ちょうだい…」

「うん。あ、待って!」

「え?」

「…どうしよ。使用期限過ぎてる。」

⏰:09/01/04 23:28 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#274 [ゆーちん]
2年以上も前の薬。


どうして点検してくんなかったんだろう、と少し前までこの部屋の掃除などをしていた新人に腹が立った。


そんなの私のせいでもあるのにね。


「無いよりマシだ…ちょうだい…」

「でも、余計に悪化するといけないし。」

⏰:09/01/04 23:28 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#275 [ゆーちん]
迷う暇なんかなかった。


「待ってて。」


哲夫の財布を握り、私は家を飛び出した。


シホになって初めての事。


一人だけで家の外に出た事なんかない。


一人だと、妙に恐かったから。


だけどそんなのビビってる訳にいかない。

⏰:09/01/04 23:30 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#276 [ゆーちん]
哲夫が苦しんでいるんだ。


私はコンビニまで走った。


息が上がる。


久しぶりに体を動かした。


なまらないように気をつけていたはずなのに、やっぱり運動不足だ。


息が苦しい。


「すみません、風邪薬どこですか?」

⏰:09/01/04 23:30 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#277 [ゆーちん]
だけど私より、哲夫の方が苦しいんだ。


店員に教えてもらい、即購入。


来た道を走りながら戻る。


「テツ!」


家に帰ると、『脱走すんな、バカ。』と汗だくの哲夫が笑った。


無理に笑わなくていいよ。


苦しいくせに。

⏰:09/01/04 23:31 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#278 [ゆーちん]
水をコップに汲み、薬を哲夫に飲ませた。


「初めての…おつかい…偉かったな…」


バカ。


無理に笑わないでよ。


何だか泣けてくる。


「シホが…買ってくれた薬だ。すぐに…治るよ。」


辞めて。


自分が苦しいのに、私に気を使わないで。

⏰:09/01/04 23:32 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#279 [ゆーちん]
「ありがとな…」


頭なんか撫でないで。


自分が撫でられる立場なんだよ。


私に優しくしないで…。


「哲夫、着替えた方がいいよ。」

⏰:09/01/04 23:32 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#280 [ゆーちん]
人を介抱するなんて初めてだから、服を着替えさすのは私にとって大仕事。


やっと着替えが終わった頃には、薬が効いてきたらしく哲夫は眠ってしまった。


このまま私も寝るってわけにはいかない。


哲夫の、看病しなくちゃ。

⏰:09/01/04 23:33 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#281 [ゆーちん]
テレビや漫画の見よう見真似。


冷たいタオルをおでこに乗せて、部屋を温かくする。


哲夫を起こさないように体温計で熱を計ると、38.9度もあった。


もっと汗をかかせなきゃ。


でも、もし風邪じゃなかったら…


もし、この看病の方法が間違ってたら…

⏰:09/01/04 23:34 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#282 [ゆーちん]
哲夫、死なないで。


そんな事ばかり願っていた。


「テツ…」


とりあえず、私にできる事をしよう。


こまめに冷たいタオルに変えて、温かい格好をさせれば大丈夫だよ。


萌子は、そうしてきた。


体調を崩したら、自分で自分を看病した。

⏰:09/01/04 23:35 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#283 [ゆーちん]
大丈夫。


私は萌子じゃなくて、シホだけど、きっと大丈夫。


哲夫の看病、できる。


「哲夫、頑張ってね。」


主人の回復を祈るペットは、その夜、一睡もせずに哲夫の看病をした。

⏰:09/01/04 23:35 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#284 [ゆーちん]
タオルを変えて、汗だくの服も着替えさせて、体温を計る。


鳥が鳴く頃、37.5度まで下がった時には嬉しくて一気に緊張の糸がほどけた。


「よかったー。」


思わず哲夫の頭を撫でた。


綺麗な金色頭。


怖い顔して、寝顔は子供みたいな顔。

⏰:09/01/04 23:36 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#285 [ゆーちん]
昼前。


普段の起床時間。


哲夫は自然に目を覚ました。


私が作ったお粥を完食し、薬を飲み、もう一度眠ると言った。


「お前、寝た?」


『寝たよ。』と嘘をついた。


一睡もしないで看病してたの、なんて恩着せがましい事は言わない。

⏰:09/01/04 23:37 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#286 [ゆーちん]
眠る前、熱を計ると37.2度だった。


もう心配はない。


哲夫の回復力に感謝。


「俺、今日の集会は顔出すだけにするわ。」

「うん。」

「シホは居てもいいんだぞ?」

「ううん。私も哲夫と一緒に帰る。」

「そ。」

⏰:09/01/04 23:39 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#287 [ゆーちん]
再び眠りについた哲夫を見て、一気に安心した。


いつの間にか私はカーペットが敷いてある床で眠っていた。


起こされた時、集会に行く時間の30分前だった。


「哲夫、大丈夫なの?」

「ん。熱下がった。」


体温計をみせてもらうと、36.5度。

⏰:09/01/04 23:41 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#288 [ゆーちん]
「超〜平熱。」


ピースをして煙草の煙を私にかけた。


「よかった。でも無理しないでね。」

「うん。看病の得意なペットのおかげだな〜。」

「いつから体調悪かったの?」

「…3日前。」


恥ずかしそうに笑った哲夫。


全然、気付かなかったよ。

⏰:09/01/04 23:42 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#289 [ゆーちん]
「何か体ダルいなーと思っててさ。で、昨日の集会の途中で急に限界迎えて、こりゃダメだって訳でシホ呼びに行って…実はそこから記憶ない。」

「えぇ?重症だよ、それ。」

「所々に記憶はあんだ。俺の財布持って家飛び出したと思ったら、薬持って帰って来たとか。後はタオル変えたり、体温計を脇に突っ込んで来たり。」

⏰:09/01/04 23:43 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#290 [ゆーちん]
哲夫は煙草を消し、コップの水を飲み干した。


「一晩中寝ずに起きててくれたんだろ?」


…知ってたんだ。


「ありがとな。」


お礼を言われると、嬉しい気持ちになる。


そんな、子供みたいな事をゆっくりと学び始めたんだ。


萌子じゃ学べなかった、人間くさい気持ち。

⏰:09/01/04 23:43 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#291 [ゆーちん]
「気付いてあげられなくてごめん。」

「何が?」

「3日も前から体調悪かったなんて…」

「気にすんな。最近一気に寒くなったから体調崩しただけだし。迷惑かけてごめんな。」


迷惑なんて思わない。


私は首を振った。

⏰:09/01/04 23:44 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#292 [ゆーちん]
だけど、体調の変化に気付けなかった事は気にするよ。


私の事はなんでも気付いているのに、私は哲夫の事、何にも感じ取ってあげらんない。


あぁ…何となく人間らしくなって来たのかな、ってこの時思った。


悔しさとか嬉しさとか…そういう感情があるのは人間くさいでしょ。

⏰:09/01/04 23:45 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#293 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

ではまた

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/04 23:45 📱:SH901iC 🆔:bKxDy5AQ


#294 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

色違い

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/05 18:13 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#295 [ゆーちん]
すっかり回復した哲夫と、買い物に行った時の事。


「シホ、これ試着してこい。」

「シホ、これ履いてみ。」

「シホ、欲しい物あるか?」


哲夫との買い物はいつもこんな感じ。


洋服や靴をテキパキと選んでくれる。

⏰:09/01/05 18:13 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#296 [ゆーちん]
一通り買い物が終わると、私の欲しい物がないかを聞いてくる。


いつもは『ない。』と答えるけど、今日は『ある。』と答えた。


「何?」

「…お箸。」

「箸?箸ならまだあっただろ?」


うん、ある。


たくさん。


でもそれは割り箸じゃん。

⏰:09/01/05 18:14 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#297 [ゆーちん]
「お箸を洗いたいんだ。」


哲夫は私の言葉に笑い出した。


笑われて、少し腹が立った。


何で笑うの、って。


腹が立ったけど、嬉しかった。


あぁ、私、人間やってるんだって思えたから。

⏰:09/01/05 18:16 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#298 [ゆーちん]
「何で割り箸じゃだめなわけ?」

「だって…寂しいじゃん。」

「寂しい?」

「自分専用のお箸ってさ、何かこう…家族の特権物って言うか。」


ふと思った。


私は哲夫に取って、一体なんなんだろう。

⏰:09/01/05 18:17 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#299 [ゆーちん]
チームの中では彼女という存在として認知されてしまっているが、本当のところただのペット。


だけど世間一般からして、ペットだなんていう存在は認めてもらえない。


だって私は…人間だから。

⏰:09/01/05 18:17 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#300 [ゆーちん]
人間になりそこねた人間を拾った哲夫は、私のことをどう思っているのだろう。


…って、バカか私は。


そんな事を考えるようになっちゃったのかと思うと、この言葉にできない感情が何なのかわからなくて余計にウズウズする。

⏰:09/01/05 18:18 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#301 [ゆーちん]
「家族の特権物ねー…」


哲夫は何かに懐かしんでいた。


気になるけど聞いちゃいけない。


過去は、聞きたくないし聞かれたくない。


そんな関係なんだ、私たち。


「…ダメならいいよ。」

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#302 [ゆーちん]
哲夫の目は現在の光を映し、ニッと笑った。


「ダメじゃねぇよ。欲しけりゃ買ってやる。」

「…うん。」


お箸なんてさ、どうでもいいって思うかもしれないけど、私は思い入れがあるんだ。


いや、正確には私じゃなくて萌子だね。

⏰:09/01/05 18:19 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#303 [ゆーちん]
萌子は生きる希望や、楽しみなんか全然なかった。


何もいらない。


必要ない。


家族なんかこっちから願い下げだ。


何の夢もない家族。


一緒にいるのも辛い。


だけど…たまに優しかったんだ。

⏰:09/01/05 18:20 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#304 [ゆーちん]
萌子に暴力を振るっていた母も、萌子に暴力を振るう父も…ごくたまに、優しかったんだ。


だから、なかなか見放せなかったんだと思う。


そんなちっぽけな家族も、お箸だけはお揃いだった。

⏰:09/01/05 18:21 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#305 [ゆーちん]
父は青、母は赤、萌子は黄。


同じ形で長さが少しずつ違う、色違いのお箸。


赤と青が揃う事や赤を使う所を見たという事はもう何年もなかった。


青と黄だけが、動いていたんだ。

⏰:09/01/05 18:25 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#306 [ゆーちん]
文句を言いながらでも父は萌子が作った料理を食べてくれた。


あの青い箸で。


それが何だか家族らしくって、それだけが心安らぐ物だった。


こんな気持ち、萌子にしかわかりっこないよね。


哲夫にはわかんないよ、きっと。

⏰:09/01/05 18:27 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#307 [ゆーちん]
「ピンクとグリーン?」

「うん。グリーン嫌?」

「嫌じゃねぇけど…普通、色違いにすんなら赤と青だべ。」


それは、いや。


赤、青、黄は…いや。


「普通なんてつまんない。みんなと違う方がいい。」

「まぁ、それもそうだけど。じゃあピンクとグリーンでいっか。」

⏰:09/01/05 18:28 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#308 [ゆーちん]
哲夫に初めて自分からねだって買ってもらった物。


次の日の昼、さっそく使う事にした。


「つるつる〜。」


割り箸とは違う手触りに、哲夫は子供のように笑ってた。


そんな哲夫を見て、また心のどっかがウズウズした。

⏰:09/01/05 18:29 📱:SH901iC 🆔:R4f3CKXI


#309 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

トラウマ

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#310 [ゆーちん]
自殺失敗から1ヵ月以上が経った。


波風立たない生活を過ごしていた私と哲夫。


だけど急に波が荒れた。


風が吹いた。


些細な事がきっかけで、事件が起こった。


私を苦しませた、ちょっとした事件が。

⏰:09/01/06 17:21 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#311 [ゆーちん]
その日もいつものように集会に来ていた。


のんちゃん達と、あの芸能人がカッコイイとか不細工だとか、そんな話をしていた。


他愛もない、楽しい会話。

⏰:09/01/06 17:22 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#312 [ゆーちん]
「殺すぞっ!」


その場に相応しくない言葉が響いたのは、のんちゃん達と笑いあったすぐの事だった。


私たちのグループの隣にいた男の子2人が言い争いを始めた。


じゃれあいなんて日常茶飯事。


だけど、これはじゃれあいなんかじゃない。


…喧嘩だ。

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#313 [ゆーちん]
「あぁ?お前もっかい言ってみろ!」

「調子乗ってんじゃねぇぞ、てめぇ!」


初めてチーム内での喧嘩を目の当たりにした。


驚きの次に私を襲ったのは、恐怖だった。


「殺されてぇのか!」

「あぁ?」

⏰:09/01/06 17:27 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#314 [ゆーちん]
その大声と怒鳴り声。


私をシホから萌子に戻させた。


父から受けた虐待が脳裏に浮かぶ。


やめて、怖い。


声を、出さないで。


震える体は、喧嘩している2人の方を向いて動かない。


見たくないのに、目が2人から離れない。

⏰:09/01/06 17:28 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#315 [ゆーちん]
「ちょっと、やめなよー。」


のんちゃんたちが慌てて止めに入る。


が、止められれば止められるほど興奮してしまうのだろう。


声が余計に荒くなった。


「ふざけんな!離せ!」

「お前なんか殺してやるよ!」

⏰:09/01/06 17:31 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#316 [ゆーちん]
私はシホだよ。


萌子じゃない。


暴力なんか振るわれた事ない。


なのに、なんで体が震えんの。


シホには何のトラウマもないじゃない。


トラウマがあるのは萌子だよ。


私は…シホなんだよ?

⏰:09/01/06 17:32 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#317 [ゆーちん]
「いや…やだよ…」


無意識に呟いていた。


恐くて恐くて、息がうまくできない。


「シホちゃん?」


みんなが私の異変に気付いた時には、苦しくて苦しくて息ができなかった。


「助けて…テツ…」

⏰:09/01/06 17:33 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#318 [ゆーちん]
知らないうちに涙も出ていた。


喧嘩する2人と、それを止める人の声。


私を心配する声。


そして…


「おい!シホ!」


哲夫の声も聞こえた。

⏰:09/01/06 23:35 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#319 [ゆーちん]
哲夫の匂いが鼻につく。


近くに来てくれたんだ。


「シホ、おい!どうした?」


駆け付けてくれた哲夫は、私を抱き抱えた。


やっと、やっと目が喧嘩する2人から離れた。


目に映るのは、哲夫の顔だけ。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#320 [ゆーちん]
「テツ…怖い…」

「何?俺が怖いの?」


慌てている哲夫を見たのは初めてで、なんだか余計に涙が出てしまった。


首を横に振る私を見た哲夫は、すぐに喧嘩している2人に言った。

⏰:09/01/06 23:36 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#321 [ゆーちん]
「お前ら、ちょっと静かにしろ。」


哲夫の低くゆっくりした言葉に、さっきまで怒り狂ってた2人は悔しそうに言い合いを辞めた。


一気に、チーム全員の目が私と哲夫に向く。

⏰:09/01/06 23:37 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#322 [ゆーちん]
「康、車出してくれ。」

「おっ、おう。」


私は哲夫に抱っこされ、康孝の車に向かった。


『シホちゃん。』と、のんちゃんたちの声が聞こえたけど、息苦しくて何も言い返せなかった。


何でこんなに苦しいんだろう。


死にそうに、苦しい。

⏰:09/01/06 23:38 📱:SH901iC 🆔:jYt3qmaQ


#323 [ゆーちん]
車に乗り込み、哲夫は家まで走らるよう康孝に言った。


うるさい車が走り出す。


「テツ…」


息が、できないんだ。


それすら伝えられない。


名前を呼ぶのに必死。


「シホ…死ぬなよ。」

⏰:09/01/07 15:17 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#324 [ゆーちん]
さっきまで堂々としていた哲夫の表情が一気に弱くなった。


涙でぼやけてよく見えないけど、でも絶対…哲夫は焦っている。


哲夫に迷惑かけている。


「ごめ…ね…」

「いいから。無理に喋んなよ。」

⏰:09/01/07 15:18 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#325 [ゆーちん]
涙が止まらない。


苦しい。


「おい、康。家へ連れて帰るより病院のがいいのか?」

「わかんねぇよ。すげぇ苦しそうだし…もしかして過呼吸じゃね?」


…過呼吸?


あぁ、そうだ。


過呼吸だよ。


萌子の時、よくなったじゃん。


過呼吸なら、対処法はわかる。

⏰:09/01/07 15:19 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#326 [ゆーちん]
「袋…」

「え?」


哲夫に聞き返され、もう一度『袋。』と答えるだけでも苦しい。


「袋なんかねぇよ。康、お前持ってる?」

「ない。」


私は両手を口元にあて、わずかながらも二酸化炭素を吸う努力をした。

⏰:09/01/07 15:20 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#327 [ゆーちん]
「え、何してんだよ。吐きてぇの?」

「哲夫、それたぶん二酸化炭素吸ってんだわ。過呼吸って、体中の二酸化炭素が足りなくて苦しくなる症状だから。」


康孝の説明に、うんうんと頷くと哲夫は不安な顔のまま私を見ていた。

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#328 [ゆーちん]
所詮は自分の小さな手の平。


すき間だらけで、二酸化炭素なんて気休め程度。


苦しくて、死にそうだ。


死にたくないなんて思ってしまった私は、愚か者だろうか?

⏰:09/01/07 15:21 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#329 [ゆーちん]
家に到着し、哲夫に抱き抱えられながら車から降りた。


ベットに寝かされ、哲夫は康孝に聞いた。


「袋どこ?」

「はぁ?知らねぇよ!」

「俺、自分んちのこと把握してねぇんだよ。」

「袋ぐらいどこかにあるだろ!」

⏰:09/01/07 15:22 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#330 [ゆーちん]
いざと言う時の男は情けない。


あたふたして…苦しさに襲われている私は、なぜか嬉しくなった。


「哲夫…」

「ほら、呼んでんぞ!」


哲夫と康孝が駆け寄ってくれた。


「シホ、袋どこにあんの?」

⏰:09/01/07 15:23 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#331 [ゆーちん]
哲夫の質問は無視した。


私を覗き込む彼の顔を、必死に手を伸ばし、自分の顔に押し付けた。


「はぁ?」


康孝から見ればいきなりのキス。


私は康孝の目も気にせず、哲夫の口を広げた。

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#332 [ゆーちん]
息を送り、また哲夫の口の中の空気を吸う。


哲夫は驚き、唇を離してしまった。


「シホ?いきなりキスとか意味わかんねぇんだけど。しかも舌じゃなくて息入れてくるって、どういう事だよ!」

⏰:09/01/07 15:24 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#333 [ゆーちん]
照れてんのか怒ってんのかわかんないけど、哲夫は笑ってた。


すると康孝はいきなり哲夫の頭を掴み、私に押し当てた。


「わかった!テツ、お前の口が袋変わりだ。キスじゃねぇ。お前が二酸化炭素送り込んでやればいいんだ。」

⏰:09/01/07 15:25 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#334 [ゆーちん]
康孝、バカに見えて頭いいんだ…。


助かった。


哲夫は康孝に言われた通り、息を吐いてくれた。


それは私に二酸化炭素を与えてくれているのと同じで、私を救ってくれる。


しばらくすると涙が止まり、息も落ち着いて来た。

⏰:09/01/07 15:26 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#335 [ゆーちん]
哲夫の口を離し、酸素を吸った。


うん、もう大丈夫かな。


「シホ、もういいのか?」

「うん、ありがと。」


胸を撫で下ろす2人。


「ヤッちゃんも、ありがとうね。」

「どいたま。」


康孝に頭を撫でられ、生きた心地を感じた。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#336 [ゆーちん]
「それにしても康、よく過呼吸なんてわかったな。」

「あぁ、漫画で見たから。」


…なんだ。


漫画が情報源かよ。


でも、その漫画の情報を覚えてくれていたおかげで私は助かった。


ありがとね、康孝。

⏰:09/01/07 15:27 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#337 [ゆーちん]
「そんじゃ、もう大丈夫だろうから俺帰るわ。」


そう言って康孝が帰ったすぐ、家の中の電気は真っ暗に消された。


「哲夫、ごめん。迷惑かけて…」


いつものように私の隣に潜り込み、ベットに寝転がると、哲夫は私を包み込んだ。

⏰:09/01/07 15:28 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#338 [ゆーちん]
「迷惑じゃねぇよ。でもすっげぇ心配した。」

「ごめんなさい。」


哲夫の腕の中はいい匂いで、温かくて、気持ち良い。


「謝るな。俺が悪い。ごめんな。」


哲夫が謝る理由なんか1つもないのに…何で謝ってんの?

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#339 [ゆーちん]
「怖かっただろ。ごめん。」


その優しい言葉に、おもわず涙が出そうになった。


うん、怖かったよ。


だけどそんなの素直に言えなくて…ただ黙って、哲夫の腕の中で目を閉じる事しかできなかった。

⏰:09/01/07 15:29 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#340 [ゆーちん]
過呼吸は、萌子の時に何度も経験した。


そのたび、自分で口に袋をあてて対処した。


あんなの慣れっこだったのに、久しぶりだったもんだから。


それにシホとしての過呼吸は初めてで…正直戸惑ったんだ。


自分で自分の事、わかんなくなってきてるかも。


自分が自分を理解できていない…。

⏰:09/01/07 15:32 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#341 [ゆーちん]
あの喧嘩事件から3日後、私は集会に顔を出した。


それまでの2日間は哲夫だけの参加。


顔を出すだけですぐに帰って来てくれた。


久しぶりの集会は、少し緊張した。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#342 [ゆーちん]
「シホちゃん!」

「もう大丈夫?」


みんなの心配が、嬉しかった。


萌子の友達は、心配するっていう言葉を知らない奴らばっかだったから。


「ありがと。もう大丈夫だから。」


のんちゃん達と話していると、『シホさん。』と名前を呼ばれた。


振り返ると、喧嘩していたあの2人がいた。

⏰:09/01/07 15:33 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#343 [ゆーちん]
私が振り向くなり、頭を下げた。


「すみませんでした。」

「金輪際、喧嘩なんかしません。」


え?って顔で遠くにいた哲夫を見ると、ニッと笑っていた。


私は2人に視線を戻し『いえ、大丈夫です。』とだけ答えた。


言い訳や謝罪の言葉が聞こえたが、全部聞き流した。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#344 [ゆーちん]
「許してくれますか?」

「あっ…はい、もちろん。」

「本当すみませんでした。」


もう一度頭を下げてから私の前から去って行った2人。


「あれ?許しちゃったの?」


のんちゃんが言った。

⏰:09/01/07 15:34 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#345 [ゆーちん]
「うん。だって許すも何も、私あの人たちに怒ったりしてないもん。」

「デコピンぐらい喰らわせればよかったのに。」


のんちゃんのエクボを見て、私の顔も緩んだ。


「行こ。」

⏰:09/01/07 15:35 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#346 [ゆーちん]
のんちゃんに手を取られ、みんながいる場所に向かった。


哲夫の手も好きだけど、のんちゃんの手も好き。


人の温もりが心地いいよ。


ねぇ。


ずっとこのままでいたいよ。


それは望んじゃいけないことなのかな?

⏰:09/01/07 15:36 📱:SH901iC 🆔:K673H/..


#347 [我輩は匿名である]
あげますx
頑張ってくださいP

⏰:09/01/07 22:06 📱:W61SA 🆔:kGu8gGvQ


#348 [(´ー`)]
あげあげ
更新楽しみにしてるよー
頑張って(*´∀)ノ

⏰:09/01/10 03:24 📱:SH902iS 🆔:tyjpPZnY


#349 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

age
ありがとう
ございます

不定期更新で
すみません

今から書きます

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/10 22:25 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#350 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

お釣り袋

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/10 22:27 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#351 [ゆーちん]
私の茶色い髪も、哲夫の金色の髪も、根本が黒くなって来た頃。


美容院で2人して髪色を変えた。


私は少し暗くしてもらったのに、哲夫はますます明るくなった。


金って言うか…銀?


銀色ヘアーがなんだかやけに馬鹿っぽく見えて、お腹を抱えて笑った。

⏰:09/01/10 22:28 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#352 [ゆーちん]
家に帰って来てから私は哲夫に髪を切ってもらった。


長くなっていた前髪がまた短くなる。


「うん、やっぱシホはパッツンのが似合うな。」


褒められると、嬉しい。


そんな12月の末。


もうすぐ今年が終わるよ。

⏰:09/01/10 22:29 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#353 [ゆーちん]
このまま大晦日を迎えて、新年も哲夫と一緒に迎えたい。


そんな事を願いながら、髪をイメチェンした2人は今日も集会に向かう。


寒くて寒くて、哲夫の腕から離れたくなかった。


だけどのんちゃん達とも話したい。


人間って…私って、わがままなんだ。

⏰:09/01/10 22:31 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#354 [ゆーちん]
「寒いねぇ。」


私がみんなの輪の中にいつものように混ざると、いつものように出迎えてくれる。


「シホちゃん、お疲れ〜。」

「てゆーか髪切ったべ?」

「色も変わった?暗くしたの?」

「前髪パッツン復活じゃーん!」

「超可愛い!」

⏰:09/01/10 22:33 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#355 [ゆーちん]
仲間に褒められるのも、嬉しい。


「ありがと。」


ありがとうって言葉を言える環境の中にいれるってのも嬉しい。


嬉しい事だらけの12月。


だけど、ちょっと厄介な事もあった。


それは…


「いやーっ!」


私が夜中に、叫び出す事。

⏰:09/01/10 22:35 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#356 [ゆーちん]
「シホ、大丈夫。俺ここにいるから。」

「やだ…怖い…テツ…怖いよ…」


あの喧嘩を見てから、なぜだか夜中に叫びながら起きてしまうって事がある。


暴力振るわれる夢を見ていたのか、ただ無意識に恐怖を感じていたのか、自分でもわからないけど夜中に叫び出す。

⏰:09/01/10 22:35 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#357 [ゆーちん]
「怖くない、怖くない。ゆっくり息吸ってみ?」


眠りについたすぐなのに、哲夫を起こしてしまい、こうやって介抱してくれる。


ギュッと抱きしめて、優しくなだめてくれる。


この前みたく焦ったりしないで、冷静に介抱してくれる哲夫の声に安心感を覚える。


ゆっくりと息を吸い、ゆっくり吐いた。

⏰:09/01/10 22:38 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#358 [ゆーちん]
「そう。よくできました。はい、目ぇ閉じて。」


催眠術のような哲夫の言葉で、私は再び眠りにつく。


こんな事が何日か続いた。


哲夫は気にするなって言ってくれるけど、そういう訳にもいかない。


別々に寝ようと試したけど、余計に叫んじゃうし、全然眠れない。

⏰:09/01/10 22:38 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#359 [ゆーちん]
つまり、私は哲夫の隣じゃないと眠れないの。


結局、哲夫に迷惑かけながら眠る日が続いた。


「ごめんね。」

「悪いと思うなら今日の昼飯はハンバーグにして。」

「…子供みたい。」

「うるせ!」


笑って許してくれる哲夫に、本当感謝だよ。

⏰:09/01/10 22:41 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#360 [ゆーちん]
ある日の会話。


康孝に乗せられて、買い物に出掛けていた。


「テッちゃーん。今年のクリスマスどうすんの?」



康孝が聞いた。


「いつも通りだけど。」

「シホちゃんも参加?」

「参加するだろ?」


康孝と哲夫に聞かれたのはいいけど、何の事だかさっぱり。

⏰:09/01/10 22:56 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#361 [ゆーちん]
聞くと、毎年12月25日はチームのみんなでクリスマスパーティーをしているらしい。


場所は、いつもの集会場所じゃ寒いから、近くの居酒屋でやるんだって。


「シホも行く?」

「行く。」


生まれて初めて、クリスマスに楽しみができた。

⏰:09/01/10 22:57 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#362 [ゆーちん]
買い物中も、クリスマスパーティーの事が楽しみで、胸が騒いだ。


「ヤッちゃん。」

「ん?」

「クリスマスパーティーって、どんな事すんの?」


哲夫が自分の服を選んでいる間、私と康孝は後ろで雑談。

⏰:09/01/10 22:58 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#363 [ゆーちん]
「別に普通だよ。飯食って、酒飲んで、カラオケして、ビンゴして。」

「ビンゴ?ビンゴするの?」

「いかつい集団のくせに、可愛いゲームだなって思った?」


康孝が笑った。


違う、そうじゃない。


私が驚いたのは、それが理由じゃない。

⏰:09/01/10 22:58 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#364 [ゆーちん]
「私ビンゴした事ない。」

「えっ、マジ?」

「うん。でもやり方はわかるよ!経験ないだけ。」

「そっか。じゃあ楽しみだな。」

「うん、楽しみ!ねぇ、景品って何があるの?」

「当日までのお楽しみ。」

「気になる〜!」

⏰:09/01/10 22:59 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#365 [ゆーちん]
なんて話をしていたら、哲夫は買う物が決まったらしくレジに向かう。


この日の哲夫は、カード支払いせずに現金払いが目立った。


万札だけで支払いを済ませ、康孝がお釣りを受け取り、いつもの袋に入れる。


「次行くぞ。」


哲夫の後ろを私と康孝でついて行く。

⏰:09/01/10 23:00 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#366 [ゆーちん]
「ねぇ哲夫、ヤッちゃんが持ってるこの袋、お釣り入れ?」

「ん?まぁ、そんなもんだな。」


哲夫に聞いた後、また違う店で服を漁り出したので私は康孝と後ろで待つ。

⏰:09/01/10 23:02 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#367 [ゆーちん]
「この袋は哲夫の優しさなんだよ。」


康孝が、さっきの質問の答えを詳しく教えてくれた。


「優しさ?」

「この袋に入れてる金は、チームの経費みたいなもん。集会場所、野外なのにいつも電気点いてんだろ?あの電気代は、この袋の中の金で払ってんの。」

「…そうだったんだ。」

⏰:09/01/10 23:02 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#368 [ゆーちん]
確かに、よく考えれば電気はいつも点いていた。


電気代とか、そんな事考えた事もなかったな。


「チームのみんなには内緒なんだ。哲夫が電気代払ってるって事。みんなには電気は勝手に点けてる、みたいに振る舞ってんだけど…でもたぶんみんな知ってる。哲夫が電気代払ってる事。」

「何か…カッコイイ。」

⏰:09/01/10 23:03 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#369 [ゆーちん]
「おう。あいつはカッコイイ男だよ。俺が払ってんだぜーとか言わないで、さりげなくチームの環境整えてんのがカッコイイ。だからみんな哲夫に付いて来るんだな。」


そっか。


そうなんだ。


納得かも。


哲夫はリーダー性のある男なんだね。

⏰:09/01/10 23:04 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#370 [ゆーちん]
買い物も済み、そのまま康孝の車で集会に直行。


のんちゃん達と話した事はもちろんクリスマスパーティーの事だ。


「もちろん。みんな参加だよー。シホちゃんもでしょ?」

「うん。参加する。」

「やったね。超楽しみだ。」

⏰:09/01/10 23:05 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#371 [ゆーちん]
「何か緊張する…」

「アハハハ!緊張とか、可愛いね〜。さすが17才。シホちゃん見てるとウチらまで初々しい気持ちになるよ。」


笑顔が絶えないの、この人達といると。


12月の夜空の下、体寄せ合って寒さを笑い飛ばすんだ。


その空間が心地いい。

⏰:09/01/10 23:05 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#372 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

すみません

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/10 23:06 📱:SH901iC 🆔:mw88GgZk


#373 [ゆーちん]
そして待ちに待ったクリスマスパーティー前日。


そう、今日はイヴ。


彼女でもない私と、この日を一緒に過ごしてくれるなんて…。


「哲夫、彼女いないの?」

「はぁ?今更な質問だな。」

「聞くタイミングがなくて。」

「そ。」

⏰:09/01/11 11:24 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#374 [ゆーちん]
「いないの?」

「いない。いたらこんな日にこんな事してない。」


こんな事とは…クローゼット掃除。


また新しい服が増えたので、いらなくなった服を引きずり出しているらしい。


「いないんだ。ふーん。」

⏰:09/01/11 11:25 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#375 [ゆーちん]
「リアルな話。もしいたらシホをこの家に住ませないだろ?」

「…それも、そうだね。」

「わかったなら、そんな悲しい質問はもうすんなよ。」

「フッ。悲しいの?」

「悲しいよぉ。俺クリスマスとかに、ちゃんとした彼女いた事ないもん。」

「…ふーん。」

⏰:09/01/11 11:27 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#376 [ゆーちん]
哲夫の過去、聞きたいようで聞きたくないな。


私だけ哲夫の過去を聞いて、私は自分の過去を話さない。


そんなフェアじゃないのは、あんまり好きじゃないし…。


って、何きれいごと言ってんだろう私。

⏰:09/01/11 11:31 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#377 [ゆーちん]
哲夫に迷惑かけて、生かせてもらっているのに…何がフェアじゃない、だよ。


私は、自分の過去を思い出すのが怖いだけの、ただの弱虫じゃないの。


「今日はチキンでも焼く?」

「…イヴだから?」

「うん。嫌?」

「嫌じゃねぇけど…俺はシホの作る煮魚が食べたい。」

⏰:09/01/11 11:34 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#378 [ゆーちん]
「煮魚ぁ?」


思わず笑ってしまった。


「うん。」


哲夫は黙々とクローゼットの整理に励む。


「別にいいけど…クリスマスっぽくないよ、煮魚は。」

「俺日本人だし。別にキリストさんとか興味ないし。だからあえて日本食がいい。」

⏰:09/01/11 11:35 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#379 [ゆーちん]
「興味ないとか言っちゃってぇ…明日クリスマスパーティーなのに。」

「それはー…まぁあいつらがパーティーしたいっつうから仕方なく?」

「クリスマスに恋人がいない人の負け惜しみに聞こえるよ、テッちゃん。」

⏰:09/01/11 11:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#380 [ゆーちん]
からかうように私が肩を叩くと、哲夫は『うるせぇ。』とひるんでいた。


そんな哲夫を見て、自然と笑顔が零れてしまった。


「煮魚とご飯とみそ汁!頼んだよシホちゃん。」

「はいはい。」

⏰:09/01/11 11:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#381 [ゆーちん]
この前買い物に行った時、魚を買っておいてよかった。


こんな寒い日に買い物に行きたいとは思わないから。


いつの間にか、この家で料理をするのも手慣れたものになっていた。


調理具や調味料や食器。


どこに何があるのか今では全部把握できているはず。

⏰:09/01/11 21:34 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#382 [ゆーちん]
哲夫に言われた3品と、ちょっとしたおかずを作り終わると、お風呂の時間を迎えていた。


衣装部屋から戻ってきた哲夫が『風呂だぞ。』と呼びに来るまで、料理に夢中だった私。


「もうこんな時間?」

「いい匂い。早く風呂入って、飯食おうぜ〜。腹へった。」

⏰:09/01/11 21:35 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#383 [ゆーちん]
いつものように哲夫とお風呂に入り、のんびりと湯舟に浸かる。


体の芯から温まった。

⏰:09/01/11 21:36 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#384 [ゆーちん]
「片付け終わった?」

「あと少し。風呂出て飯食ってから続きする。たぶん集会行く前には終わると思うし。」

「…手伝おうか?」

「んあ?手伝う、イコール、クリスマスプレゼントのつもりか?」

⏰:09/01/11 21:37 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#385 [ゆーちん]
哲夫がニヤッとした。


「あぁ!うん、そう!」

「ナイスアイディアだ哲夫、とか思っただろ〜。」


脇腹をくすぐってくる哲夫。


笑いながら暴れたせいで、お湯も暴れる。

⏰:09/01/11 21:37 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#386 [ゆーちん]
お風呂から出て、和食尽くしの夜ご飯を食べた。


もちろん、色違いのお箸で。


「全然クリスマスっぽくなーい。」

「美味いな〜、煮魚。日本食最高だ。」


まぁ、いっか。


美味いって言ってくれたし。

⏰:09/01/11 21:38 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#387 [ゆーちん]
食べ終えた哲夫は、すぐにまたクローゼットに引き寄せられて行った。


私は後片付け。


お箸を洗うと、無意識に笑みが零れる。


こんな姿、哲夫に見られたら『何ニヤけてんだ?』って気味悪いって思われるかもしれないね。


最近さ、色んな感情が経験できて楽しいんだ私。

⏰:09/01/11 21:39 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#388 [ゆーちん]
「終わった?」


私が衣装部屋に顔を出すと、ちょうど哲夫がクローゼットの扉を閉めた所だった。


「残念でした。クリスマスプレゼントはまた別のものちょうだいね。」


銀色頭の哲夫が笑った。

⏰:09/01/11 21:39 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#389 [ゆーちん]
片付けが終わったという事で、私たちはいつものように集会へ向かった。


いつもと変わらない夜道はクリスマスイヴって感じはしない。


「この辺りってイルミネーションしてる家とか無いんだね。」

「そういえばそうだな。みんなシケシケ〜って感じ?」

⏰:09/01/11 21:40 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#390 [ゆーちん]
哲夫の家にイルミネーションを付けようと提案すると、笑われた。


明日飾って、すぐ片付けるのか?って。


「そっか。」

「おバカちゃんだな。」

「んー。」

「じゃあさ、また来年な。」

⏰:09/01/11 21:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#391 [ゆーちん]
「…来年?」

「おう。来年は12月に入ったらすぐにイルミネーション飾ろう。だから来年まで我慢しろよ。」


当たり前のように口走った【来年】と言う言葉。

⏰:09/01/11 21:41 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#392 [ゆーちん]
私、来年のクリスマスも哲夫と一緒にいるのかな?


もし、哲夫に彼女ができたら…私どうなっちゃうんだろ。

⏰:09/01/11 21:42 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#393 [ゆーちん]
来年のクリスマスの楽しみができて、ちょっと嬉しくなった。


けど、哲夫に彼女ができたらどうしようと、すごく不安になった。


そんなイヴの夜道。


賑やかな声が聞こえ始めた。

⏰:09/01/11 21:42 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#394 [ゆーちん]
その日の集会は、いつもと少し違った。


挨拶の後にある【報告】と呼ばれる作業は、いつもより手短だった。


そしてなぜかツリーがあった。


CDデッキもあり、クリスマスソングが大音量で流されていた。


自然と、笑顔が零れた。

⏰:09/01/11 21:43 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#395 [ゆーちん]
「のんちゃん。」

「んー?」

「明日クリスマスパーティーなんでしょ?なのに今日も騒ぐの?」

「前夜祭みたいなもんだよ。毎年イヴの集会はこんな感じ。」

「そうなんだ。」

⏰:09/01/11 21:43 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#396 [ゆーちん]
寒さなんか忘れちゃうくらい、たくさん笑った。


笑うって、楽しいね。


仲間って、楽しいね。


涙が出そうなくらい、幸せなイヴだった。

⏰:09/01/11 21:44 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#397 [ゆーちん]
あのツリーの輝きも、あのクリスマスソングを響かせるのも、全部哲夫がいるから存在するもの。


お金や人を管理するっていう康孝もすごいけど、哲夫もやっぱすごいと思う。


私は、とんでもない人に拾われたんだ。

⏰:09/01/11 21:45 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#398 [ゆーちん]
「はーい、注目〜!」


康孝の声が響いた。


クリスマスソングがピタリと止まると、哲夫の声が響く。


「みんなお疲れ。明日のパーティーに備えて、今日はここで全員解散な。」

⏰:09/01/11 21:45 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#399 [ゆーちん]
のんちゃんが携帯電話の時計を見ているのを私も覗かせてもらうと、いつもの解散より2時間程早い。


「去年もこのくらいに強制解散だったよ。」


と、のんちゃんが教えてくれた。

⏰:09/01/11 21:46 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#400 [ゆーちん]
「つーわけで、みんなまた明日な〜。」

「はいっ!お疲れっした!」


哲夫が話し終えると、みんなが声を揃えて挨拶する。


クリスマスツリーの明かりが消え、みんなそれぞれ帰って行く。

⏰:09/01/11 21:46 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#401 [ゆーちん]
「シホちゃん。また明日ね。」

「うん。また明日。」


のんちゃん達も帰って行くので、私は哲夫のところに向かった。

⏰:09/01/11 21:47 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#402 [ゆーちん]
「哲夫。」


康孝達と話をしていた哲夫は、私に気付くと、小さく笑った。


「おっ、帰るか?」


コクリと頷く私を手招きする哲夫。

⏰:09/01/11 21:47 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#403 [ゆーちん]
近寄ると、肩を抱かれた。


「んじゃ、また明日。」


哲夫が立ち去ると、後ろから声がした。


「お疲れっす!」

「お疲れ様です!」


本当、疲れたよ。


笑い疲れた。

⏰:09/01/11 21:48 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#404 [ゆーちん]
「テッちゃん。」

「ん?」

「ツリー綺麗だったね。」

「毎年グレードアップしてんだぜ、あれ。」

「そうなの?」

「来年はあのツリーに負けないくらいのをウチにも飾ろっか。」

「…うんっ!」

⏰:09/01/11 21:49 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#405 [ゆーちん]
知らない人が私たちを見て、私と哲夫をどんな関係だと思うだろう。


そりゃやっぱ恋人同士って思うだろうね。


クリスマスイヴの夜に、肩を抱かれて歩いてるんだから、私。


でも違うんだ。

⏰:09/01/11 21:49 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#406 [ゆーちん]
私と哲夫は、ペットと飼い主って関係なの。


恋人同士なんて、夢のまた夢の関係。


そんな夢を夢みちゃいけない。


わかってるんだけど、哲夫があまりに近くにいすぎて…勘違いしそうになる。


哲夫の甘ったるい香水は、私の脳を痺れさすのかな。

⏰:09/01/11 21:50 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#407 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

ではまた

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/11 21:50 📱:SH901iC 🆔:/n8N/9j.


#408 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

襲撃

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/12 20:58 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#409 [ゆーちん]
翌25日。


クリスマスパーティーは【楽しい】以外の言葉があったら教えてもらいたい程のものだった。


ずっと笑ってた。


昨日より笑ってた。


本当、楽しい。


パーティーから帰ってくると、ほろ酔いだった哲夫はビンゴゲームで当たったおもちゃで大笑いしながら遊んでいた。

⏰:09/01/12 20:59 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#410 [ゆーちん]
遊ぶのに飽きると私をベットに誘い、強く抱きしめて眠りについた。


こんな心トキめくクリスマスは初めてで、何か罰が当たりそうな気さえする。


このままでいたいな。


でも、人生そう上手くいかないんだよ。


わかってる。


楽あれば苦あり。

⏰:09/01/12 21:01 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#411 [ゆーちん]
人生ってうまい具合にプラスマイナスゼロになってるんだ。


過去がマイナスすぎて、現在がプラスなら、未来はゼロでいいじゃない。


なのに、どうしてだろう。


私の未来はプラスでもゼロでも無い気がする。

⏰:09/01/12 21:04 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#412 [ゆーちん]
そう思わずにいられないぐらいな現在だった。


…なんでだろう。


良い予感は当たらないのに、悪い予感だけが的中する。


その悪い予感が当たったのは4日後だった。

⏰:09/01/12 21:05 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#413 [ゆーちん]
それは、本当に突然だった。


12月29日の夜、いつものように集会に来ていて、私はのんちゃん達と話をしていた。


のんちゃんがお笑い芸人の話をして、みんなが大笑いしていた。


「おいっ!」

「抑えろ!」


哲夫達がいる所が急に騒がしくなった。

⏰:09/01/12 21:06 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#414 [ゆーちん]
何事だと、みんなの視線が動く。


人が多くてよく見えない。


「ふざけんなっ!」

「やめろ!」


…喧嘩?


心臓が痛くなる。


喧嘩なんか、もう見たくないし聞きたくない。


私の体が強張った。

⏰:09/01/12 21:06 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#415 [ゆーちん]
「ウチら、様子見て来るよ。」

「あ、じゃあ私シホちゃんとここで待ってる。」

「うん。」


強張る私の手を、そっと握ってくれたのはのんちゃんだった。


のんちゃんと私を残し、みんなが様子を見に向かった。

⏰:09/01/12 21:08 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#416 [ゆーちん]
「のんちゃん…ありがと。ごめんね。」

「気にするなぁ〜!」


のんちゃんのえくぼが、少しだけ私の心を落ち着かせてくれた。


あの喧嘩事件以来、大声が苦手なんだと知ってもらえたらしく、少しでも怒鳴り声が聞こえるとみんな心配してくれる。


本当、ありがたい仲間達。

⏰:09/01/12 21:09 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#417 [ゆーちん]
「てゆーか聞いてくれる?私この前、服買ったのね。で、いつものサイズ買ってぇ、いざ着てみたら…入らないの!太っちゃったよ〜マジでショックでかい。」


少しでも気を紛らわそうとしてくれるのんちゃん。


感謝しても感謝しきれないね。

⏰:09/01/12 22:14 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#418 [ゆーちん]
「…太ったようには見えないけど。」

「嬉しい事言ってくれんねー。でも太っちゃったんだよぉ。シホちゃん何かいいダイエット方法知らない?」

「んー…」

「あぁ、シホちゃんみたいな華奢っ子はダイエット経験ないか!私のこの肉、シホちゃんにあげたいよ〜。」

⏰:09/01/12 22:14 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#419 [ゆーちん]
「…いらないよぉ。」

「何で?クリスマスプレゼントって事で。」

「やだー。」

「アハハ。」


えくぼが可愛いのんちゃん。


手を握ってくれたのんちゃん。


おかげで、ちょっと落ち着いた。

⏰:09/01/12 22:15 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#420 [ゆーちん]
…と、思ったのはつかの間だった。


「キャーッ!」


その悲鳴と共に、急に騒がしくなり、みんなが慌ただしく動き出した。


「えっ、何?」


のんちゃんの手に力が入る。


私も思わず強く握り返してしまった。

⏰:09/01/12 22:16 📱:SH901iC 🆔:4O9J1hkU


#421 [さき]
超気になります(>_<)
がんばってくださいイ

⏰:09/01/13 00:48 📱:W61SH 🆔:W9CWv442


#422 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

コメントありがとうございますm(__)m

更新します

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/13 15:13 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#423 [ゆーちん]
状況が読めない。


今、何が起こってる?


たくさんの怒鳴り声、たくさんの悲鳴、たくさんの笑い声、たくさんの…哲夫の声。


「お前ら逃げろ!」


顔は見えなくても、今の声は哲夫だ。

⏰:09/01/13 15:14 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#424 [ゆーちん]
逃げろって?


何から逃げなくちゃいけないの?


「ねぇシホちゃん。何か様子おかしくない?」

「…。」


怖い。


苦しい。


どうしよう。

⏰:09/01/13 15:14 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#425 [ゆーちん]
「あいつら…誰?」


のんちゃんが言う【あいつら】が目の前に現れた時、何となくわかってきた。


バットや鉄パイプ持ってる人って今時いるんだ…。


恐かったくせに頭の中は妙に冷静だった。

⏰:09/01/13 15:15 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#426 [ゆーちん]
知らない男たちが私たちの方に近付いてくる。


「おい!女は逃げろ!」


そんな声が聞こえた。


康孝の声だったような気がしたけど…もう、無理だった。


私とのんちゃんは、知らない男たちに囲まれていた。

⏰:09/01/13 15:16 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#427 [ゆーちん]
「てめぇら誰?」


のんちゃんが聞いた。


「あぁ?」

「何の用?」


きっと、大声あげて、威嚇したいに決まってる。


だけどのんちゃんは冷静を保ちながら、男たちを睨んでいた。


「喧嘩、売りにきた。」


すると男がいきなり殴り掛かって来た。

⏰:09/01/13 15:16 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#428 [ゆーちん]
何とかかわしたが、男達が本気だって事が伝わったせいで急に恐さが増した。


「辞めて!」

「やだね。女だろうが俺たちは手加減しねぇぞ?」


そう言った瞬間、バットを持った男がのんちゃんのお腹を殴った。


「うっ…」

⏰:09/01/13 15:17 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#429 [ゆーちん]
倒れ込んだのんちゃんを見て、男たちは笑ってる。


「のんちゃん!」

「はい、雑魚一匹片付いた。弱いな〜、女は。次はお前だよ?おちびちゃん。」


鉄パイプが私の右腕に飛んで来た。


少ししか当たらなかったけど、たまらなく痛かった。

⏰:09/01/13 15:18 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#430 [ゆーちん]
痛い。


痛い。


痛い。


「ギャハハハ!さすが雑魚だな。弱すぎだろ。」

「こいつら拉致ろうぜ。」

「あ、そうだな。」


気を失っているのんちゃんを、男が連れて行こうとした。

⏰:09/01/13 15:18 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#431 [ゆーちん]
「やだ!ダメ、やめて!」


痛い腕を押さえ、必死に抵抗したら太ももを蹴られて、うずくまってしまった私。


その間にも、のんちゃんが連れて行かれそうになる。


「やだー!助けてー!」


大声を出したが、辺りがうるさすぎて響かない。


「ガキは黙ってろ!」

⏰:09/01/13 15:19 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#432 [ゆーちん]
お腹を蹴られた。


久しぶりだった。


びっくりした。


自分を守る方法を、まだ体が覚えていたなんて。


体を丸めて、身を守る私。


「ギャハハハハ。ますます小さくなりやがった!」


楽しそうに私を蹴る男。

⏰:09/01/13 15:20 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#433 [ゆーちん]
痛い。


体中痛いのなんて、久しぶりだ。


「おい、ガキはいらねぇ。この女一人でいい。行くぞ。」


その声で、私に蹴る足が止まった。


苦しい。


力を振り絞り起き上がると、本当にのんちゃんが連れて行かれていた。


ヤバイ。


助けなきゃ。

⏰:09/01/13 15:20 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#434 [ゆーちん]
起き上がり、私は辺りを見渡した。


すると…


「シホちゃん!」


そう呼びながら康孝が私の方に走ってきてくれた。


「康!助けて!」

「やられたの?お前、何で逃げなかったんだよ!」

⏰:09/01/13 15:21 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#435 [ゆーちん]
「そんなことより、のんちゃんが連れてかれた!」

「のんちゃん…望実?」

「あっち!」


遠くの方で、かすかに見えるのんちゃんをさらった男達。


「お願い!のんちゃん助けて!私なら大丈夫だから。」

「本当か?安全なとこに逃げろよ?」

「わかった。康、早く行って!」

⏰:09/01/13 15:22 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#436 [ゆーちん]
康孝はのんちゃんをさらった奴らの方に向かって、走って行った。


お願い。


のんちゃんを助けて。


そう願いながら、私自身も逃げようと思い、立ち上がった。

⏰:09/01/13 15:23 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#437 [ゆーちん]
やばい、足が痛くて上手く歩けない。


でも早く逃げないと、またやられる。


足を引きずりながら必死に歩いた。


すると、後ろから哲夫の声がした。


「シホ!」

「哲夫!」


哲夫の顔中、傷だらけだった。

⏰:09/01/13 15:23 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#438 [ゆーちん]
「シホ、殴られたの?」

「私は大丈夫。それより哲夫は…」

「俺は無傷。お前、誰にやられたか覚えてるか?」

⏰:09/01/13 15:24 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#439 [ゆーちん]
それのどこが無傷なのよ。


「覚えてない。」

「くっそ。マジごめんな。てこずってなかなかシホのとこ行けなくて。」

「それより、のんちゃんがさらわれちゃったの…今、康孝が助けに行ってくれた。哲夫ものんちゃん助けに行って来て。」

⏰:09/01/13 15:24 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#440 [ゆーちん]
「望実が?」

「うん。お腹をバットで殴られて気絶しちゃったの、のんちゃん。」

「バット?あいつら人間腐ってんな!」


哲夫が怒っていた。


「私なら大丈夫だから、のんちゃん助けに‥」

「大丈夫じゃねぇだろ?つか、康孝が助けに行ったんなら絶対大丈夫だ。」

⏰:09/01/13 15:25 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#441 [ゆーちん]
「でも…」

「ったくよぉ、どうなってんだよコレ。いきなりで俺も訳わかんねぇ。」


哲夫に抱っこされ、私たちは少し離れたところに移動し始めた。


と、その時だった。

⏰:09/01/13 15:26 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#442 [ゆーちん]
「萌子?」


久しぶりに聞く名前。


私と哲夫は、思わず声の主の方に振り返った。


そこにいたのは、


「…宗太郎。」


萌子の元カレだった。

⏰:09/01/13 15:26 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#443 [ゆーちん]
やめて。


来ないで。


話し掛けないで。



「萌子、何してんの?」


宗太郎が近付いて来ると、哲夫が言った。

⏰:09/01/13 15:27 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#444 [ゆーちん]
「萌子って誰?つか、お前が誰?近寄んじゃねぇぞガキが。」


哲夫の威嚇に、宗太郎が怒鳴った。


「うるせぇ!お前には関係ねぇんだよ。俺は萌子に用があるんだ。」


いつの間にか、私の目から涙が溢れていた。

⏰:09/01/13 15:27 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#445 [ゆーちん]
「だから萌子って誰?こいつは萌子じゃねぇよ。失せろ。」


哲夫がそう言ったはずなのに、宗太郎は構わず私に話し掛けて来た。

⏰:09/01/13 15:28 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#446 [ゆーちん]
「なぁ、萌子!お前こんなとこで何してんの?地元じゃお前がいなくなったって、みんな騒いでるぞ!」


…みんなって、誰。


…騒ぐって、何。


どうせ…上辺だけなくせに。

⏰:09/01/13 15:28 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#447 [ゆーちん]
「俺だって心配したんだ。連絡つかないし…でも良かった。ちゃんと生きてて!」


…生きてて?


「死んだよ!」

「え?」

「萌子は死んだよ。私、萌子じゃない。」

「何言ってんの?」

「どっか行って!私は萌子じゃないんだから!」


泣き叫ぶ私に、哲夫が『シホ。』と優しく名前を呼んでくれた。

⏰:09/01/13 15:29 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#448 [ゆーちん]
どうしよう。


また苦しい。


「行くぞ?」


小さな声で私に問う哲夫。


「うん。」


哲夫が歩き出す。


すると宗太郎が走ってくる足音が聞こえた。


「おいっ!」

⏰:09/01/13 15:29 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#449 [ゆーちん]
宗太郎が哲夫の肩に手をかけて、私は振り落とされた。


次の瞬間、違う温もりが私を包んでいた。


「会いたかった、萌子。」


離して。


宗太郎になんか抱きしめられたくない。


私は萌子じゃない。


宗太郎じゃなくて、哲夫に抱きしめられたいの。


「やだ…」

⏰:09/01/13 15:30 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#450 [ゆーちん]
「おいっ!」


今度は哲夫が宗太郎の肩に手をかけた。


私は宗太郎の腕から開放され、すぐにま哲夫に抱っこされた。


「ふざけんな!失せろ。」


哲夫が走りだす。


もう宗太郎は追い掛けてこなかった。

⏰:09/01/13 15:30 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#451 [ゆーちん]
どこに逃げたのかわかんない。


ずっと哲夫の腕の中で泣いていたから。


「シホ、おい。大丈夫か?」

「て…おっ…苦し…」

「過呼吸?」


たぶん。


私は頷いた。

⏰:09/01/13 15:31 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#452 [ゆーちん]
すぐに口を塞がれ、哲夫の二酸化炭素を吸った。


この前よりも治るのに時間がかかった。


頭が余計な事を考えているからかな。


さっきの宗太郎の顔と声が忘れらんない。


何で今更現れんのよ。


萌子の事、思い出したくないのに。


苦しいよ…体も心も。

⏰:09/01/13 15:31 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#453 [ゆーちん]
「シホ?」

「もう…大丈夫。」

「本当か?」

「うん。」


やっと落ち着いた。


だけど涙が止まらない。


「もう泣くな。お前、ちょっとここで待ってろ。」

「うん。」

「すぐに戻るから。」


頷く私を抱きしめてから、哲夫は走り去った。

⏰:09/01/13 15:32 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#454 [ゆーちん]
ここ、どこだろう。


寒い。


痛い。


眠い。


少し、横になろう。


冷たい地面に寝転がり、空を見上げた。


汚い空。


今日は星が1つも出ていない。


真っ暗な空だ。


暗闇が広がっている空。


気味悪い。

⏰:09/01/13 15:32 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#455 [ゆーちん]
次の瞬間にはシーンが変わっている。


前にもこんな事あったよね。


空を見ていたはずなのに、次の瞬間には家の天上が映る。


あぁ、そっか。


あれは自殺失敗した時だ。


て、ことはそろそろ哲夫が覗き込んで来るよ。

⏰:09/01/13 15:34 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#456 [ゆーちん]
「あ、起きた。わかるか、シホ?」


ほらね。


「哲夫…」


ベットから体を起こすと、見慣れた景色が広がる。


「家だから安心しろよ。」


哲夫は吸っていた煙草を消すと、私の隣に潜り込んで来た。


「今日は疲れたな。」

⏰:09/01/13 15:35 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#457 [ゆーちん]
時計を見ると、本来ならいつも私達が眠りにつく時間。


「ねぇ哲夫。のんちゃんは?」

「望実なら無事だ。康孝が助けた。」

「本当?」

「意識も戻ったし、普通に元気だったから康孝が家まで送ってった。」

「よかった…」

⏰:09/01/13 15:35 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#458 [ゆーちん]
心から安心した。


のんちゃんが助かって、本当に本当によかったよ。


「おいで。」


座っていた私を寝かし、哲夫の抱き枕変わりになった。


「哲夫、怪我してる。」

「これのどこが怪我?俺、無敵だもん。怪我なんかしねぇよ。」

⏰:09/01/13 15:36 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#459 [ゆーちん]
頬に傷を負っていた場所に絆創膏が貼ってあった。


「嘘つき。だって絆創膏貼ってあるじゃ‥」

「あぁ、これ?これはアレだよ。流行の最先端シール。」


笑ってしまった。


「何それ。」


哲夫も笑っていた。

⏰:09/01/13 15:37 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#460 [ゆーちん]
「心配すんな。余裕だから。」


私を抱きしめる力が強くなった。


哲夫の匂いや温かさが私を包む。


「ねぇ。」

「ん?」

「何だったの?一体…」

「その話はまた明日。俺眠いわ。」


さっきまでの騒ぎが嘘のようにこの部屋は静かだ。

⏰:09/01/13 15:37 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#461 [ゆーちん]
「やだ!気になって眠れないもん。」

「もぉ〜、めんどくせっ。」

「何だったの?」

「ただの殴り込みだよ。どこの奴らかは忘れたけど、前にあそこのチームと揉めてさ。向こうの頭と俺で話し合って和解したんだけど、どうやら頭が変わったらしいんだわ。」

⏰:09/01/13 15:38 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#462 [ゆーちん]
「向こうのリーダーが変わったから、哲夫と前のリーダーの和解なんて関係ない…みたいな?」

「まさに、それ。不意打ちすぎだから、女や新人はとりあえず逃がしたんだけど…何でお前ら逃げてなかったんだよ。」

⏰:09/01/13 15:38 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#463 [ゆーちん]
状況把握が遅くて逃げ遅れちゃったんだ、私とのんちゃん。


私のせいで、のんちゃんまで痛い思いさせちゃって…。


「…ごめんなさい。」

「どこ叩かれた?」

「腕とか…お腹蹴られたり。」


すると哲夫は急に体を起こし、私の服を脱がせた。

⏰:09/01/13 15:39 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#464 [ゆーちん]
「哲夫?」

「…うわ。本当だ。痛かっただろ?」


腫れたり青くなったりしている。


久しぶりにこんな汚い自分の肌を見て、また苦しくなった。


「ごめんな。助けてやれなくて。」


もう一度服を着せ、腫れている部分を撫でてくれた。

⏰:09/01/13 15:39 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#465 [ゆーちん]
再び寝転がった哲夫。


「哲夫のせいじゃない。」

「俺らのバカ騒ぎに、シホまで巻き込んでさ。本当、悪い。」


抱きしめられると殴られた腕が痛かった。


だけど痛いなんて言わない。

⏰:09/01/13 15:40 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#466 [ゆーちん]
このままこうしていたいから。


そう願ってしまうのは、ダメなことなのかな?


シホのままでいるのは、いけない事なのかな?


「なぁシホ。あの男…向こうのチームの奴だった。」

「…宗太郎?」

「シホの事泣かしたから殴ろうかと思ったのに、誰かが呼んだ警察が来ちゃって…みんな散らばって逃げたんだ。」

⏰:09/01/13 15:40 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#467 [ゆーちん]
哲夫は続けた。


「今回は警察のせいで解散したけど、白黒ハッキリさすために、あいつらはまた殴り込みに来ると思う。俺らもこのままやられっぱなしは嫌だし。だから近々また騒ぐと思う。その時は女無しで行くからさ…だからシホは留守番な。」

⏰:09/01/13 15:41 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#468 [ゆーちん]
何も言えない。


哲夫が誰かに殴られたり、誰かを殴ったりするのは嫌だ。


だけどそんなのを嫌がる権利なんて私にはない。


「うん…」

「なぁシホ?」

「何?」

「お前はシホだからな?変な事考えんなよ?」

⏰:09/01/13 15:42 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#469 [ゆーちん]
そう言ってもらえて嬉しかった。


宗太郎の事、考えたくない。


あいつを思い出すと、私はシホじゃなくなるから。


金河萌子の私になっちゃうから。


「おやすみ。」

「…うん、おやすみ。」

⏰:09/01/13 15:43 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#470 [ゆーちん]
哲夫はすぐに眠りについた。


私は寝息を立てる哲夫に抱かれ、しばらく考えていた。


宗太郎の事は考えちゃだめ。


わかってる。


だけど頭から離れらんないんだよね。

⏰:09/01/13 15:43 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#471 [ゆーちん]
私、このまま哲夫と一緒にいていいのかな?


哲夫に、昔の事、話した方がいいかな?


っていうか…聞いてもらいたいのかも。

⏰:09/01/13 15:43 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#472 [ゆーちん]
哲夫さ、いつかは聞いてくれるって言ったよね?


それが、今なんだ。


いつか、が、今なんだよ。


明日、目が覚めたら必ず話そう。


ゆっくりと思い出して、哲夫に聞いてもらおう。


哲夫に聞いてもらいたい。

⏰:09/01/13 15:44 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#473 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

いったんSTOP

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/13 15:45 📱:SH901iC 🆔:4gcR8RAo


#474 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

お伽話

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/15 18:17 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#475 [ゆーちん]
過呼吸は、疲れる。


いつの間にか眠ってしまい、夢も見ずに朝を迎えた。


いつもより少し早くに目が覚めて、哲夫の腕の中から抜け出し、トイレに行った。


寒い。


もう一度ベットに潜ろう。

⏰:09/01/15 18:17 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#476 [ゆーちん]
再び、哲夫の眠る布団の中に戻ると自分がいた場所の温もりと、哲夫からの温もりが混ざって、心地いい空間ができていた。


ずっと、この空間にいれたらいいな。


シホのままでいたい。

⏰:09/01/15 18:18 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#477 [ゆーちん]
萌子になんか、戻りたくない。


完璧なシホになりたいよ。


萌子の時のトラウマなんかに、もう苦しめられたくない。


だから…話さないと。

⏰:09/01/15 18:19 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#478 [ゆーちん]
「…シホ。」

「ごめん、起こした?」

「ううん、俺が勝手に起きた。」


布団が動く音と共に、私は哲夫にきつく抱きしめられた。


「抱き枕。」

「辞めてよ。」

「なぁシホ。」

「何?」

⏰:09/01/15 18:19 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#479 [ゆーちん]
「人間の温もりって安心すんのな。シホのおかげで俺、初めて知った。」


何を、言ってるんだろう、この人は。


人間の温もりなんて、哲夫なら有り余る程、もらってきたんじゃないの?


「俺さぁ、こうやって誰かを抱きしめた事もなけりゃ、抱きしめてもらった事もねぇの。」

⏰:09/01/15 18:20 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#480 [ゆーちん]
哲夫の過去は、何だか少し同情と…仲間意識のようなものが沸いた。


「俺、長男でさ、親からの期待とかすげぇデカくて。親父の会社を俺に継がすのに必死なんだよ。」


哲夫の低い声が続く。


「そんな親に反抗して、迷惑かけて、親に見放されるっつう…よくあるパターンだ。」

⏰:09/01/15 18:21 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#481 [ゆーちん]
「見放されるって…」

「金はいくらでもやるから千早家には帰って来るな、って。昔から冷たい親だったから甘えさせてもらった事もないし、物心ついた時から俺は家族に対してドライだったんだ。」


私が話をしようと思ってたこと、哲夫にバレちゃったのかな?


哲夫は自分の過去を淡々と話し続けた。

⏰:09/01/15 18:23 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#482 [ゆーちん]
「会社は弟が継ぐらしくて、必死に勉強してる。俺が継ぐもんだと思ってて会社経営の勉強なんかしてなかったから慌てて将来の夢、変更ってわけだよ。弟には悪い事したなって思う。」


弟、いるんだ。


萌子には血の繋がったキョウダイ、いたのかな?

⏰:09/01/15 18:24 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#483 [ゆーちん]
「実家飛び出して女のとこ転々として。でも自分の居場所が欲しくて…いつの間にかチームとか作ってた。親は、どっから俺の情報拾ったのか知んねぇけど、毎月お金を振り込む通帳みたいなの俺に送ってきやがった。」

⏰:09/01/15 18:25 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#484 [ゆーちん]
そっか。


だから哲夫はお金には困らない生活をしていたんだ。


「通帳と一緒に手紙入ってて、たまには帰って来いとか書いてあるのかと思ったら…金はいくらでもやるから、うちの会社とは無関係だと誓え、みたいな事書いてあんの。」

⏰:09/01/15 18:26 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#485 [ゆーちん]
それって…


「勘当ってやつ。ムカついたり悲しんだり悔しかったりしなかった。むしろ安心した。何でかわかんねぇけど、生きる勇気とか沸いたし。」


ねぇ、哲夫。


私も、話したい事があるよ。

⏰:09/01/15 18:26 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#486 [ゆーちん]
いや、私じゃない。


萌子として、聞いて欲しい事があるよ。

⏰:09/01/15 18:27 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#487 [ゆーちん]
「テツ…」

「ん?」


哲夫の腕の中で、萌子の話を始めよう。


「萌子はね、生まれてすぐ親に捨てられたんだ。施設で育って、7才の時に今の親の子供になった。最初は楽しかったの。でも、いつのまにか家族はバラバラになってた。父も母も、萌子に暴力を振るうの。痛くて恐くて苦しくて…生きる事に諦めてたんだぁ。」

⏰:09/01/15 18:29 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#488 [ゆーちん]
まるで他人の話をしてるみたい。


お伽話でもするかのように私の口は語る。

⏰:09/01/15 18:29 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#489 [ゆーちん]
「親も友達も彼氏も、みんな嫌い。ウザいだけ。必要のない存在。」

「…ん。」

「そんな人生に耐え兼ねた萌子は死ぬつもりだった。どの自殺方法が1番いいかなって考えてたんだけど、ある日の夜、父に本気で殺されかけた。自殺したかったのに他殺かって思ったけど、結局は父に半殺しのまま家からほうり出されたの。」

⏰:09/01/15 18:32 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#490 [ゆーちん]
ほんの一ヶ月前のことなのに、なんだか10年以上前の話をしているみたいだった。


「首吊りとか飛び降りとか色々考えてたんだけど、もういいやって思った。半殺しのまま生きるのも苦しいだけだから、どんな方法でもいいから死にたいって思った。そんな気持ちのまま萌子はあてもなく夜道を歩いてたの。」

⏰:09/01/15 18:32 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#491 [ゆーちん]
哲夫は、ずっと黙ったまま聞いてくれていた。


そのほうが話しやすい。


「そんな時、ふと目についたのがナイフで、神様が与えてくれたんだって思った。そのナイフで死になさいって言われた気がして、心臓を刺して死んでやろうって決めたの。で、ナイフを振りかざして…次の瞬間には知らない部屋にいた。死ねなかったんだってわかった時、自分が情けなかった。」

⏰:09/01/15 18:33 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#492 [ゆーちん]
どうして生きているんだろうと、自分を恥じたっけ。


「でさ、またまた目の前にいた、いかつい顔の金髪男がいたから、調度いい、殺してもらおうと思った。そしたら…萌子はあっという間に殺されて、シホっていうペットになってた。」

⏰:09/01/15 18:35 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#493 [ゆーちん]
「不思議な話だな。」


哲夫が笑った。


「不思議だよ。あんなに死にたいって思ってた萌子が、シホに生まれ変わった途端…死にたいなんて全く思わなくなった。むしろ生きたいとか、人間って楽しいって思うようになっちゃったの。本当…不思議だよ。」

⏰:09/01/15 18:36 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#494 [ゆーちん]
哲夫が私を抱きしめる力が強くなったのがわかった。


「私はシホなのに、死んだはずの萌子がまだどっか心の奥に潜んでるみたい。だから…喧嘩の声が、父の暴力する声と重なって、苦しくなっちゃった。」

⏰:09/01/15 18:37 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#495 [ゆーちん]
「なぁ、萌子。」


久しぶりに哲夫がその名前を呼んだ。


「萌子は死んだよ?」

「死んだ萌子に話し掛けてんの。」

「…ふーん。」

⏰:09/01/15 18:39 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#496 [ゆーちん]
「萌子さ、辛かったな。頑張ったよ。お前の辛さなんか、俺全然わかんないけど…殴られたりするのって痛いよな。俺も喧嘩して殴られた経験あるから痛いのわかる。でもな、殴る方も痛いんだよ。手と心が痛いんだ。」


今度は私が哲夫を抱きしめる力が強くなった。


「暴力はもちろん、いけねぇ事。萌子を苦しめたんだから。親が憎いよな。わかるよ、俺もそうだったから。」

⏰:09/01/15 18:40 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#497 [ゆーちん]
哲夫の小さな声が、耳元で響く。


「手は上げられてなくても、俺は言葉の暴力っつうの?それ体験してるんだ。でもさ、萌子の辛さに比べりゃ俺なんて屁だよ。萌子は女の子なのに…痛かったな。」


本当に、優しい声だった。

⏰:09/01/15 18:41 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#498 [ゆーちん]
我慢してたのに…。


あまりにも優しい声だから、涙が溢れた。


だけど泣いてるなんてバレたくないから、ただただ哲夫の腕の中に顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。


「憎くて憎くて、殺してやりたいって思ったかもしんねぇ。でも…いくらムカつく奴でも、親には勝てないんだよ。」

⏰:09/01/15 18:42 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#499 [ゆーちん]
…勝てない?


「萌子の親は、四六時中お前に暴力振るったか?一時でも優しくしてくれた事はねぇの?」


…あるよ。


激しい暴力を振るわれたあと、なんだか優しかった。


父も母も、謝りはしなかったけど…萌子に対して一瞬だけど優しくしてくれた気がする。

⏰:09/01/15 18:42 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#500 [ゆーちん]
哲夫は、萌子の答えを聞いたかのように話を続けた。


「あるだろ?だったら、その親にまだ望みはある。諦めないで戦え。死んだら負けだ。親を殺せば、もっと負け。もし勝てなくても、引き分けならいい。」

⏰:09/01/15 18:44 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#501 [ゆーちん]
哲夫の声が、弱くなった気がした。


「俺はもう戦う相手がいないんだ。相手にしてくんねぇから、戦いたくても戦えねぇ。だから余計、萌子には戦って欲しい。俺の独りよがりだけど、わかってくれたら嬉しい。」

⏰:09/01/15 18:48 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#502 [ゆーちん]
何度も何度も哲夫が『戦え。』って言うから、頭の中で萌子が父親を殴るシチュエーションを想像してしまった。


だけど哲夫が言う『戦え。』は、その意味じゃない。


体で戦うんじゃない。


心で戦わなきゃいけないんだ。

⏰:09/01/15 18:48 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#503 [ゆーちん]
「萌子にしてきた事を許してやれって言ってんじゃねぇぞ?そりゃ許してあげるんなら許してやったらいいけど…無理だろ?だから、許さなくていい。まずは許せるかもしれないキッカケを作るんだ。」


哲夫の言葉は、スッと私の中に入り込む。


『なるほど。』ってなる。

⏰:09/01/15 18:49 📱:SH901iC 🆔:Jfqqe8Pw


#504 [ゆーちん]
だけど、今はまだ『そうだね。許してあげられるようなキッカケを作ってあげよう。』だなんて、1ミリ足りとも思わなかった。


そこまで大人じゃない。


「今はまだそんな事、考えれねぇか。」


哲夫の腕の中で、小さく頷いた。

⏰:09/01/16 15:10 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#505 [ゆーちん]
萌子への質問なのに、シホが答える。


死んだ萌子の変わりに、私が返事してあげたの。


…なんちゃって。


わかってるよ。


現実的な話をすれば、金河萌子は生きてんの。


そう、私。

⏰:09/01/16 15:10 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#506 [ゆーちん]
だけど千早哲夫の近くにいる時だけは、萌子っていう生き方を忘れて、シホになるの。


っていうか…そうでいたい。


シホのままでいたい。

⏰:09/01/16 15:11 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#507 [ゆーちん]
ただの【逃げ】と【甘え】なの。


わかってる。


わかってるよ。


萌子の時にできなかった人間くさい事をシホで叶える。


それが楽しくて心地よくて、ついついシホに、哲夫にも頼り過ぎてたんだ。

⏰:09/01/16 15:12 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#508 [ゆーちん]
いつかはシホを辞めて、萌子に戻り、親と戦わなきゃいけないんだ。


「いつかは…戦うよ。その時は、背中押してくれる?って…萌子が言ってる。」


泣いてたのがバレバレな私の声。


優しい哲夫の声は笑いを含んでいた。

⏰:09/01/16 15:13 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#509 [ゆーちん]
「何?シホは死んだ萌子と通信できんの?」

「…超能力。すごいでしょ?」

「フッ。そりゃすごい。羨ましいわ。」

「…うん。萌子に、返事ある?」


哲夫は言った。


「俺が守ってやるから、心配すんなって萌子に伝えてやって?」


バレバレだ。


声を出して泣いた。


どうしてかな。

⏰:09/01/16 15:14 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#510 [ゆーちん]
見ず知らずの私を拾って、生かしてくれて、仲間とか家族とか…そういうのも教えてくれた。


優しすぎるよ。


お人よしってレベルじゃないよね。


哲夫、いい人過ぎる。


巨大なチームを率いる頭なだけあるよ。


人の気持ちがわかる人なんだ。

⏰:09/01/16 15:14 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#511 [ゆーちん]
「はいはい、わかったから。もう泣くなー。」

「子供扱いするなっ。」

「だって子供じゃん。まだ17なのにさ、こんなちっこい体で…でっかい荷物抱えちゃって。可哀相だよ、本当。」

「同情なんか、いらないよ。」

「お?同情するなら金をくれってやつ?金ならいくらでも‥」

⏰:09/01/16 15:17 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#512 [ゆーちん]
「金なんかいらないよ。」


泣き顔のまま、哲夫の笑顔を見上げた。


答えのわからなかった感情が、爆発した。


「哲夫が欲しいよ。」

「…俺?」

「好きなんだよ、哲夫が。」


泣きすぎて、上手く言えたかわかんない。

⏰:09/01/16 15:18 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#513 [ゆーちん]
だけどちゃんと聞こえたらしく、哲夫は笑いながら答えてくれた。


「俺も好きだよ、シホの事。」

「違う!」

「何が違うの?」

「私の好きと、哲夫の好きは違うよ…全然。」

「はぁ?一緒だっつーの。」

「哲夫が言った好きは…私を…ただの…ペットとして…」

⏰:09/01/16 15:19 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#514 [ゆーちん]
私、何が言いたいんだろう。


言葉が上手く出てこない。


「シホ、もうやめろ。喋るな。また苦しくなるぞ。」

「私は…テツは…」

「黙れ。」


笑っていたはずの哲夫は、やけに物静かな声で私に命令した。


その後、私が黙ってるよう唇を塞いでくれた。

⏰:09/01/16 15:21 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#515 [ゆーちん]
過呼吸なんかになってない。


だから今日は、息じゃなくって…。


哲夫の舌が、私の口の中を支配してくれた。


「…シホ、もう泣くな。」


初めてこの家に来た時の事を思い出した。

⏰:09/01/16 15:22 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#516 [ゆーちん]
このベットの上で、私は哲夫に萌子を殺せと頼んだ。


ナイフで喉をひとつき。


そうしてくれればよかったのに、哲夫はナイフではなく、自分の舌を喉にやった。

⏰:09/01/16 15:23 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#517 [ゆーちん]
あんな最悪なキス、初めてだったよ。


殺されたかったのに、殺してくんないんだもん。


でもね、人間の気持ちって簡単に変わっちゃうらしくて…今、このキスは最高だって思う。

⏰:09/01/16 15:23 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#518 [ゆーちん]
喉に舌が這っていく。


気持ち良いとか、恐いとか、悲しいとか…そんなんじゃない。


嬉しくて、私はただただ涙を流していたの。


「テツ…」

「ん?」

「好きです。」

「俺も好きですよ。」

「うん、ありがとね。」

⏰:09/01/16 15:24 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#519 [ゆーちん]
ペットとしての【好き】なのか、それとも人として【好き】と言ってくれてるのかはわかんない。


もう、どっちでもいい。


哲夫がいてくれるだけでいいよ。

⏰:09/01/16 15:25 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#520 [ゆーちん]
いつの間にか、初恋をしていた自分が嬉しくてたまらない。


あの日、神様がナイフを置いてくれたなら感謝する。


死ぬ為の道具じゃなくて、私を人間らしくしてくれた道具。


あのナイフのおかげで、私は恋ができた。

⏰:09/01/16 15:25 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#521 [ゆーちん]
哲夫のSEXはさ、荒っぽかったよ。


でもね、幸せだった。


好きな人に『好き。』って言ってもらえて、キスしてもらえて、抱きしめてもらえて、体を重ねられて。


シホの人生、文句なんかないよ。

⏰:09/01/16 15:27 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#522 [ゆーちん]
SEXが終わった後、哲夫にゆっくりキスされた時、『あぁ、これが幸せってやつなんだ。』って気付いた。


結局、私はペットなのか彼女なのか…そんなのはっきりさせなくてもいい。


この幸せを感じてられるなら、何だっていい。


だけど哲夫から離れるような事だけは嫌。


ずっと、ここにいたい。

⏰:09/01/16 15:28 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#523 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/16 15:28 📱:SH901iC 🆔:GhjenJ72


#524 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

蕎麦

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/18 17:09 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#525 [ゆーちん]
12月30日。


哲夫だけ集会に顔を出し、1時間ほどで帰ってきた。


「今年最後の集会だったんだよね。お疲れ。」

「んー、集まり悪かったけどな。」

「…そっか。」

「今日はもう寝よ。眠いわ俺。」


集会で何を話して来たのかは知らないけど、哲夫は少し元気がなかった。

⏰:09/01/18 17:10 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#526 [ゆーちん]
そりゃそうだよね。


いきなり自分のチームが襲撃に遭って、怪我人もたくさん出て、やり返しに行くって憤っている中、テンション高い方が変だもんね。


哲夫も哲夫なりに大変なんだよ。


仕方ない。

⏰:09/01/18 17:11 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#527 [ゆーちん]
翌日、体の芯から冷える寒さのせいで普段より少し早い時間に目が覚めた。


昨日、眠る時間が早かったから起きた時間も早いんだ。


哲夫の機嫌は、いいみたい。


「今日は集会ないんだよね?」

「うん。年末年始とクリスマスと盆は休み。あとゴールデンウイークも。」

⏰:09/01/18 17:12 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#528 [ゆーちん]
「ふーん。なんか…学校みたい。」


ベットに座りながら笑う私の隣に、チョンと腰を降ろした哲夫。


「ありゃ学校より低レベル。幼稚園みたいなもんだな。」

「康とか幼稚園児っぽいもんね。」

「顔だけ大人で、中身は幼稚園児より幼い奴だ。」

⏰:09/01/18 17:16 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#529 [ゆーちん]
煙草に火をつけるのかと思ったら、哲夫は私の手を取り自分の頬にあてた。


「何してんの?」

「ん?お前の手ぇ暖かいから。俺の顔寒い。」

「顔が寒いって表現おかしくない?」



あぁ、この気持ちを【愛おしい】とかって言うんだ。

哲夫が可愛くて、優しくしたくなる。



心臓をキュッと摘まれてるみたい。

⏰:09/01/18 17:17 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#530 [ゆーちん]
その痛みが、気持ち良いの。


「そう?」

「うん。康孝がバカだって言ったよね?でもよく考えたら実は康孝より哲夫のがバカだったりして?」


私はもう片方の手も哲夫の頬に添えた。


「千早様をナメんな?」

「アハハ!」


人の笑顔って、安心する。


自分も他人も、笑顔は幸せになれるものなんだ。

⏰:09/01/18 17:19 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#531 [ゆーちん]
両手で掴んだ哲夫の顔。


自分の方に引き寄せると、哲夫は『そんなバカな千早様を好きなシホが、1番バカだな。』と言ってから私にキスをくれた。


うん、そうだね。


私が1番バカだよ。


バカだけど、バカでよかったって思うんだ。


こんなに愛おしい気持ちを知らなかった自分をバカだと思うけど、その気持ちを教えてくれたのが哲夫でよかった。


ずっとこのままでいたい。

⏰:09/01/18 17:20 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#532 [ゆーちん]
いつものようにお風呂に入りご飯も食べ終えた頃、哲夫が言った。


「シホちゃん。」

「何、テッちゃん。」

「デートしない?」

「…する。」


慌てて服を着て、化粧や髪を整えた。

⏰:09/01/18 17:21 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#533 [ゆーちん]
「どこ行くの?」

「ん?内緒。」


哲夫に肩を抱かれ、暗くなった外をゆっくり歩く。


風が冷たい。


だけど哲夫が傍にいるから、平気。

⏰:09/01/18 17:21 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#534 [ゆーちん]
歩いて向かった先は、近くの公園だった。


「ブランコ乗る?」

「乗らない。」

「そ。俺は乗っちゃうよ〜。」


哲夫はブランコに腰をかけ、小さく揺らした。

⏰:09/01/18 17:22 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#535 [ゆーちん]
キーコーキーコー…


懐かしい音。


萌子が施設でいた時、園内にブランコがあった。


よく聞いた音。


ブランコはいつも人気で、取り合いしてたっけ。

⏰:09/01/18 17:22 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#536 [ゆーちん]
「なぁシホ。」

「ん?」


私はブランコの向かいにある小さな鉄棒にもたれ掛かった。


「お前の名前、なんでシホにしたか覚えてる?」

「…星が好きだからでしょ?」

⏰:09/01/18 17:23 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#537 [ゆーちん]
「うん、そう。」


私は空を見上げた。


「私も星、好きだよ。綺麗だよね。」


冬の星は、よく輝く。


真っ黒な空に、小さく光る星。


ベストマッチだよ。

⏰:09/01/18 17:26 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#538 [ゆーちん]
「綺麗だな。」


哲夫は煙草をくわえながら空を見上げた。


白い煙が空を舞う。


「お前に言っておきてぇんだけどさ。」

「うん?」

「俺、マジでシホの事好きだからな。」


慌てて視線を哲夫に向けた。


だけど哲夫は空を向いたままで…信じられない事を言われた私は、目を丸くする事しかできない。

⏰:09/01/18 17:26 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#539 [ゆーちん]
「お前この前、私をペットとかどうとか…私の好きと俺の好きは違うとか…」


ねぇ、心臓が痛いよ。


でもこの痛みは、心地いい方の痛み。

⏰:09/01/18 17:29 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#540 [ゆーちん]
「一緒だっつうの。ペットとかさぁ…口実。お前を俺の傍に置いとくための。」

「哲夫、何言って‥」

「一目惚れって、生まれて初めてなんだよ俺。」


ずっと空を見ていた哲夫の目が、やっと私に降って来た。


「汚い格好でボロボロの女が倒れてて…俺なぜかそいつ見て惹かれちゃったんだよね〜。まさか、あんな汚い女に一目惚れするなんて…自分でもビックリ。」

⏰:09/01/18 17:30 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#541 [ゆーちん]
真面目な顔して、そんな事言わないでよ。


涙が出そうじゃない。


「殺せ殺せって喚くし、生意気だし、汚いし?」


白い煙と一緒に笑いも吐き出した哲夫。


「お前にとっちゃ同情なんていらねぇんだろうけど…俺はお前の事、可哀相な奴だなって思ったよ。だから余計に惹かれた。こいつ、俺より辛い思いしてんだろうなって思った。」

⏰:09/01/18 17:30 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#542 [ゆーちん]
「…。」


何も言えない。


何も言っちゃいけない。


哲夫の話をゆっくり聞きたいから。

⏰:09/01/18 17:31 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#543 [ゆーちん]
「お前と俺の好きは一緒だ。あ、やっぱ違うか。俺の好きのがお前よりでけぇわ。」


そんな嬉しい言葉、笑って言わないで。


涙が、出て来たよ。


「嘘…」


小さく呟いた独り言も哲夫は聞き逃さなかった。

⏰:09/01/18 17:32 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#544 [ゆーちん]
「嘘じゃねぇよ。俺は好きな奴にしかキスしないし、髪切ってやったり、服とか携帯買ったりもしないぞ?それに…星の反対の名前だなんて付けないし。」


俯きながら涙を地面にポトポト落とした。

⏰:09/01/18 17:33 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#545 [ゆーちん]
「俺のSEXに、お前は愛を感じねぇのか?」


哲夫が笑った。


愛って、何だろう。


哲夫とSEXした時に感じたもの?


快楽以外の…あの感情の事?


胸がキュッて締め付けられて、体中電気が走って、たまらなく抱きしめたいって思わされる…あれ?

⏰:09/01/18 17:33 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#546 [ゆーちん]
だったら、私はSEXしている以外の時も哲夫の愛を感じてるよ。


一緒にいるだけで感じさせてもらってる。


そっか…。


あれが、愛なんだ。


「…感じる。」

「だったら余計な事とか考えんな。夜中に騒ぐのも迷惑とか思ってないし。俺はお前の味方だから。」

⏰:09/01/18 17:34 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#547 [ゆーちん]
【味方】って言葉が、心底嬉しかった。


甘えてもいい?


頼ってもいい?


「本当に?」

「うん、本当。」

「それはシホに?それとも萌子に?」

「…どっちも。」

「二股はダメだよ。」

「えぇーっ。んじゃ…萌子に。」


哲夫が煙草を消した。


またブランコを少し揺らす。

⏰:09/01/18 17:35 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#548 [ゆーちん]
「何で萌子なの?」

「シホは仲間がいるから。」

「…そっか。ねぇ!」

「ん?」

「萌子から伝言。親と…戦う。だから味方してくれる?」


哲夫の返事は聞かなくてもわかっていた。


彼は断るはずないもん。


「当たり前。一生味方だって伝えといて。」


優しい人だから。

⏰:09/01/18 17:36 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#549 [ゆーちん]
笑顔の哲夫の胸の中に飛び込んだ。


「哲夫…」

「はいはい、泣かないの。」

「ありがと…」

「戦って戦って、どうしてもダメな時はいつでも戻ってきていいから。俺の家はお前の家だ。」

「うん。」

⏰:09/01/18 17:42 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#550 [ゆーちん]
「戦いに負けても死のうなんて考えんなよ?」

「うん。」

「でもまぁ俺が味方だし?死にたいなんて思わせねぇから。」

「うん。」

「守ってやるから、お前の事。ずっと。」


哲夫の服が私の涙で濡れた。


「ずっと?」

「ずっと。ゼット・ユー・ティー・ティー・オー!」

⏰:09/01/18 17:42 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#551 [ゆーちん]
笑いながらキスをしたら、涙の味がした。


泣きすぎだ、私。


しょっぱいキスなんて、いやだよね。


ごめん、哲夫。


ありがとう、哲夫。


「年が明けたら帰る。それまでシホでいてもいい?」

「おう。」

⏰:09/01/18 18:15 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#552 [ゆーちん]
せめて、残り少ない今年だけはシホでいさせて。


幸せな年越しをして、笑いながら年明けをしたい。


そんなわがままを快くOKしてくれた哲夫。


本当、最高だよ、この男。


愛、イコール、哲夫。


こんな感情、教えてくれて、ありがとう。

⏰:09/01/18 18:15 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#553 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

>>2

▲▽▲▽▲▽▲ 

⏰:09/01/18 18:16 📱:SH901iC 🆔:.ySjYrww


#554 [ゆーちん]
家に戻り、自分でお風呂を入れ直した。


ずっとタイマー予約に頼り切っていたから、自分たちでお湯を溜めるのはなんだか違和感があった。


お湯が溜まる間、哲夫は教えてくれた。

⏰:09/01/19 10:56 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#555 [ゆーちん]
「俺、人をちゃんと好きになった事ないから萌子を拾った時どうすりゃいいか、わかんなかったんだ。殺せって頼む女を好きなのに、どうすれば正解なんだ?って。」

「…うん。」

「キスしたのだって、萌子を殺したくないって願望より、俺がお前とキスしたかったっていう欲望が強かっただけだし。」

⏰:09/01/19 10:58 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#556 [ゆーちん]
あの日、ナイフの変わりに、舌が這った私の喉をそっと触った哲夫。


「ペットとか言われて嫌だったよな。ごめん。あんな風に言わないと、お前を傍に置いとけないと思って。」


照れて笑った哲夫が愛くるしい。

⏰:09/01/19 10:59 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#557 [ゆーちん]
何で謝られてるのか意味わかんないよ。


ペットだろうが奴隷だろうが、哲夫の傍にいられるなら何だっていい。


一緒にいれるなら、どんな口実だっていい。


心からそう思う。

⏰:09/01/19 11:00 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#558 [ゆーちん]
なのに哲夫は、苦笑いしたままで…申し訳なさそうな顔をする。


そんな彼の唇を、私から奪いに向かった。


気にしてないよ。


哲夫の傍にいられるなら何でもいいよ。


大好きだよ。


そんな事を頭に浮かべながら、甘いキスを繰り返した。

⏰:09/01/19 11:00 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#559 [ゆーちん]
シホ。


シホ。


シホ。


唇が少し離れるたびに名前を呼ばれる。


何だか名前を呼ばれる事が、急に切なく感じた。


私はシホなの?


シホでいいの?


そんな感じ。


勝手に涙が流れていた。

⏰:09/01/19 11:05 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#560 [ゆーちん]
数分後。


お風呂に入り、消えかけている青アザや古傷を撫でてもらった。


萌子の傷は、シホの傷じゃない。


「消えて来たな。腹のアザ。」

「…うん。」

「俺のマジックハンドのおかげ?」


そうだよ。


哲夫の手のおかげだよ。


優しく撫でてくれる哲夫がいたから、傷は和らいだんだ。

⏰:09/01/19 11:06 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#561 [ゆーちん]
お風呂から上がり、哲夫がテレビをつけた時、私たちは気付いた。


「今日、大晦日じゃん。」


12月31日。


ついこの間、クリスマスだって騒いでいたかと思えば、もう大晦日だ。


今年も終わり。


今年は私にとって劇的な年。

⏰:09/01/19 11:07 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#562 [ゆーちん]
チームが襲撃にあってから、ドタバタしすぎて、日にち感覚がなかったかも。


って言ってもほんの2、3日前だけどね。


「年越し蕎麦食ってねぇしー。」


年越し蕎麦か。


もう何年食べてないんだろう。


家族がバラバラになってからの年末年始なんて、ただの苦痛の日々でしかなかった。

⏰:09/01/19 11:08 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#563 [ゆーちん]
年越し蕎麦もなし。


お雑煮やお節料理だってなし。


もちろん、お年玉も。


年末年始は普段よりも仕事に精を出していた。


父親にも『年末年始は稼げるから、たくさん働け。』と言われる程だもの。


寒い中、懐の緩んだ親父との援助交際に励んでいたんだ。

⏰:09/01/19 11:09 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#564 [ゆーちん]
いい思い出なんかない大晦日。


もちろん、お正月だって同じ。


いい思い出なんか、全然…。


「蕎麦食わなきゃ年越せねぇっつうの。康呼ぶぞ。」


そう言って哲夫は康孝に電話をかけた。

⏰:09/01/19 11:10 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#565 [ゆーちん]
「蕎麦3人前買って来て。」


哲夫のその命令に、たった20分で対応した康孝は、なぜか上機嫌で蕎麦を持ってやって来た。


「いぇーい、あけおめイヴ〜。」

「意味わかんねぇし。」

「ヤッちゃん、寒いのにわざわざありがと。こっち座って。」

「おっ、サンキュね。シホちゃん。」

⏰:09/01/19 11:11 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#566 [ゆーちん]
私が座っていた場所を康孝に譲り、年越し蕎麦を作りにキッチンへ向かった。


ダシを作って、温めた蕎麦にかけるだけ。


こんな簡単な料理なのに、どうして金河家は年越し蕎麦を作ってくれなくなったんだろう。


そんな疑問、考えたって答えは出るはずもないか。

⏰:09/01/19 11:12 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#567 [ゆーちん]
「出来たよ。」


哲夫、康孝、そして私。


3人で年越し蕎麦を食べた。


「美味い!」

「三玉百円の蕎麦なのに、案外美味いね〜。」

「はぁ?康、お前そんな安物買って来たのかよ。」

「こういうのしかスーパーに置いてねぇんだもん。」

⏰:09/01/19 11:12 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#568 [ゆーちん]
久しぶりの年越し蕎麦は、本当に美味しくて…安物の蕎麦だろうが何だろうが、私にとってはご馳走だった。


体が温まり、後片付けが済んだ頃、康孝は帰ると言い出した。

⏰:09/01/19 11:13 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#569 [ゆーちん]
「いればいいじゃん。」

「そうだよ。一緒にカウントダウンしようよ、ヤッちゃん。」

「いやっ、二人の邪魔する気はねぇし。」


邪魔だなんて思わない。


康孝は私のお兄ちゃんみたいな存在なんだもん。


「ねぇヤッちゃん。私、まだお礼言ってなかったよね。」

「お礼?」

⏰:09/01/19 11:13 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#570 [ゆーちん]
「この前…のんちゃん助けてくれてありがとう。」

「あぁ、その事か。」

「ヤッちゃんが助けに来てくれてなかったら…のんちゃん…」

「お礼なんかいらねぇぞ。仲間を助けるのは当然の事だからさ。」


康孝はニッと笑い、私の頭を撫でた。

⏰:09/01/19 11:14 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#571 [ゆーちん]
哲夫に撫でられる時より、少し違う感情が私の心臓を跳ね上げさせた。


「テッちゃんから聞いたと思うけど、年明け早々ぶっかまして来るから応援頼むよシホちゃん。」

「あ、うん…気をつけてね。」

「あいよ!んじゃバイバイ。よいお年をー。」

⏰:09/01/19 11:15 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#572 [ゆーちん]
最後まで上機嫌だった康孝。


彼が帰った部屋は、何だか急に静けさが増した気がする。


「つーわけだ。仲間なんだから助けるっつう行為は当然の物なの。」


私と康孝の会話を聞いていた哲夫は優しく笑いながら教えてくれた。

⏰:09/01/19 11:16 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#573 [ゆーちん]
「哲夫。」

「ん?」

「仲間って…いいね。」

「だろ?」


ほら、やっぱり、違う。


哲夫に頭を撫でてもらった時に、胸いっばい広がるこの感情は、康孝に撫でてもらった時のモノとはまた違う。


人間って変なの。

⏰:09/01/19 11:17 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#574 [ゆーちん]
頭を撫でてもらった私は、そのまま引き寄せられて、哲夫と唇を重ねた。


康孝がいなくなり、静かになった部屋は、テレビの音と私の口から零れる声だけが響いていた。

⏰:09/01/19 11:17 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#575 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

ではまた

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/19 11:18 📱:SH901iC 🆔:ZU.S4G5o


#576 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

戦い

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/20 21:27 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#577 [ゆーちん]
誰かと新年をカウントダウンするなんて、生まれて初めてだった。


だけど年明け早々のSEXは、別に珍しい事じゃない。


萌子だって、1月1日の午前中から援交してた事もあるから。


でも…援交のSEXとは比べ物になんないよ。


てゆーか、比べちゃいけない。


あんな素敵な愛ある行為を。

⏰:09/01/20 21:27 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#578 [ゆーちん]
年が明けるとお互い目を見合わせ、笑いあった。


しばらくすると哲夫からのキスが降って来たので、そのままベットで1つになった。


服を着なくても平気なくらい温かい部屋のおかげで、下着のままベットの中で眠った。


目が覚めたのは昼過ぎで、とてものんびりとした元旦だった。

⏰:09/01/20 21:29 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#579 [ゆーちん]
今日、明日、明後日と集会は休み。


明々後日の集会で、哲夫は『明日、この間の仕返しに行く。』と発表するらしい。


つまり1月5日、この前の惨劇のお返しをしに行くってわけだ。


女子は留守番。


私は、家で哲夫の無事を祈るしかないって訳だ。

⏰:09/01/20 21:30 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#580 [ゆーちん]
「餅が食いてぇ。」


哲夫が誰かに電話をしていたと思えば、数分後にはインターホンが鳴る。


「お待たせしました!」


お餅が届く。


チームの新人は新年早々、哲夫に動かされてちょっぴり可哀相だと思ったけど、一緒になってお餅を食べる私も同罪だ。

⏰:09/01/20 21:31 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#581 [ゆーちん]
何をする訳もなく、部屋でゴロゴロとテレビを見たりゲームをしたり、お腹が空けば二人で買い物に行く。


相手を可愛いと思えばキスをするし、愛おしいと思えばSEXをする。


そんなお正月も矢のように過ぎて、今年初めての集会の時間を迎えた。

⏰:09/01/20 21:32 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#582 [ゆーちん]
襲撃されてから初めて顔を出す集会。


そこは、いつもと変わらない賑やかさと明るさが溢れていた。


「シホちゃーん!」


誰かが私を呼びながら近付いて来る。


顔を見なくても、もう声だけでわかるんだ。


私の、仲間だから。

⏰:09/01/20 21:33 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#583 [ゆーちん]
「のんちゃん。」

「あけおめ!今年も仲良くしようね〜。」


いつもと変わらない笑顔がそこにはあった。


まるで、あの日の惨劇なんて最初っから無かったかのような笑顔。


「のんちゃん…体、だいじょ‥」

「気にしないで!ただの打撲だし。心配かけてごめんね。」

⏰:09/01/20 21:34 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#584 [ゆーちん]
心配する私をよそに、明るい表情のままののんちゃん。


「私の方こそ本当ごめんなさい。私のせいで、のんちゃん…」

「あぁー、シホちゃん、そういうの無し無し。誰のせいでもないよ。現に私は超元気なわけだし、結果オーライじゃん?」

⏰:09/01/20 21:35 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#585 [ゆーちん]
「でも…」

「本当に大丈夫だから。あんなの一々気にしてたら、これからやってけないよ?だからほら、笑って!」


終始笑顔ののんちゃんにつられ、少しだけの笑顔が浮かんだ私。


本当に許してもらっていいのだろうか。

⏰:09/01/20 21:36 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#586 [ゆーちん]
なんだか納得いかない気もするけど、話はそのまま流れてしまい、場内に康孝の声が広がった。


「はーい、注目!みんな、あけおめ。まずはテッちゃんから挨拶と報告がありまーす。」


続いて哲夫の声が響く。

⏰:09/01/20 21:36 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#587 [ゆーちん]
「あけましておめでとうございまーす。今年もよろしくっつう事で、さっそくみんなに報告。この前の仕返し、明日行くつもりだから、いつもの時間にここ集合。女子と新人はついて来んじゃねぇぞ?はい、以上。」

「つーわけだ!わかったか?」

⏰:09/01/20 21:37 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#588 [ゆーちん]
康孝の付け足した問いに、みんなが返事を返した。


いつもより、気合い入ってる返事。


隣にいたのんちゃんや、他の女の子も、返事に力が入ってた。

⏰:09/01/20 21:39 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#589 [ゆーちん]
「うちらのかたき、哲夫さんに取って来てもらわなきゃね!」


のんちゃんが笑って言った。


「…うん。」


複雑なの、心の中が。


仲間が私の過ちを許してくれたり、好きな人が誰かを殴りに行ったり、元カレが敵だったり、もうすぐ萌子に戻らなきゃいけなくなったり。


色んな感情が混ざりあった私の頬を、冷たい風が撫でてった。

⏰:09/01/20 21:40 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#590 [ゆーちん]
早めの解散で、のんちゃん達とは明後日会おうねと笑顔で別れた。


哲夫の肩に抱かれながら、夜道を歩く。


「綺麗だね、星。」

「冬の夜空が1番だな。」


歩きながら二人で見上げた綺麗な夜空。

⏰:09/01/20 21:41 📱:SH901iC 🆔:F4H0SjdY


#591 [ゆーちん]
何が引き金だったと言う訳ではなく、突然、私の目から涙が零れた。


「…ねぇ。」

「んー?…っつか何泣いてんだよ!」


慌てて立ち止まった哲夫。


涙でぼやけて、その驚いた哲夫の顔が上手く見えないよ。

⏰:09/01/21 10:39 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#592 [ゆーちん]
「哲夫に…伝えたい事…まだまだ、いっぱい…ある。」

「あぁ?何言ってんだよ。つーか泣くな。」

「でも…何から話せばいいのか…わかんないし…上手く話せない…かもしんないし…」

「今でも全然上手く話せてないぞ。ほら、もう泣くな。」

⏰:09/01/21 10:43 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#593 [ゆーちん]
泣きじゃくる私の涙を、笑いながら拭き取る哲夫。


思わず抱き着いてしまった。


「おいおい。そういう可愛い事は家に帰ってからしろよな。」

「…ごめ…なさい。」

「帰ろ。話ならゆっくり聞いてやるから。まだまだ夜は長いぞぉー。」

⏰:09/01/21 10:45 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#594 [ゆーちん]
結局、家に帰ってから、何も伝えらんなかった。


翌日、哲夫が出掛けるまでたくさん時間はあったのに何も言えずに、見送った。


「いってらっしゃい。」

「いってきます。」


笑顔の哲夫。


キスをもらってから送り出した。

⏰:09/01/21 10:47 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#595 [ゆーちん]
家で一人ぼっち。


私はベットに潜り、哲夫の匂いを抱きしめた。


好きで、好きで、こんなに人を好きになれるなんてまだ信じらんない。


今頃、哲夫は怒ってるのかな。


誰かを殴ってるのかな。


願わくば、哲夫の笑った顔だけを見ていきたい。


これから先、ずっとずっと。

⏰:09/01/21 14:22 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#596 [ゆーちん]
気が付くと哲夫が隣で眠っていた。


私、いつのまに寝ちゃったんだろう。


隣に哲夫がいる事実に、思わず涙が浮かんだ。


無事でよかった。


だけど顔には数ヵ所に傷。


見てて痛々しかった。

⏰:09/01/21 14:23 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#597 [ゆーちん]
「…シホ。」


小さく囁いた哲夫。


「ごめん、起こした?」

「ううん。おはよう。」

「おはよう。ていうか…おかえり。」

「ただいま。」


笑ってる哲夫を見て、浮かんでいた涙は零れてしまった。

⏰:09/01/21 14:24 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#598 [ゆーちん]
「情緒不安定だな、お前。」

「ごめ…なさ…」

「謝んなくていいっつうの。それより消毒して。ズキズキして熟睡できねぇ。」

「あ、うん。」


涙を拭いて、薬箱を取りに向かった。

⏰:09/01/21 14:25 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#599 [ゆーちん]
薬箱の中には、私が以前買って来た薬が入っていた。


シホになって初めて1人で外に出た時、コンビニで買ったんだっけ。


哲夫が熱出して、助けたくて、じっとしてらんなくて…今思えば、きっとあの時から、私は哲夫を好きだったんだ。

⏰:09/01/21 16:15 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#600 [ゆーちん]
「いってぇ!」

「…我慢して。」

「もうちょっと優しくしてよ。」

「優しくしてるよ?」

「殴られるより消毒のが痛いし。」


哲夫は誰かを殴った?


…って、そんな事聞くのはタブーだよね。

⏰:09/01/21 16:16 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#601 [ゆーちん]
「シホ。」

「ん?」

「あの男…萌子に伝えてくれって頭下げに来た。」


心臓が波打った。


あの男って、宗太郎の事だよね。


「…何?」

「萌子がまだ好きだ、ってさ。」

⏰:09/01/21 22:07 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#602 [ゆーちん]
何、それ。


宗太郎、頭おかしいよ。


萌子のどこが好きなの。


嘘だ。


萌子をまだ好きでいてくれてるなんて嘘だよ。


「地元じゃ騒ぎになってるらしい。警察には届けてねぇみたいだけど…萌子を心配してる人もいるんだ。」

⏰:09/01/21 22:07 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#603 [ゆーちん]
「シホ…じゃねぇや。萌子。急かすつもりなんか無かったけど、近々戦ってこいよ。俺も戦ったんだ。次は萌子の番じゃねぇか?」


自信がないとか、まだ恐いとか、そんな甘い事を言ってる場合じゃないって思った。

⏰:09/01/21 22:08 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#604 [ゆーちん]
「前にも言ったけど、俺が味方だから心配なんかいらねぇぞ。萌子がずっと我慢してきた不満を正直に親に伝えろ。勝っても負けても、俺がいる。仲間もいる。帰ってくる家だってある。」


そんな嬉しい事言われちゃ涙腺が緩んじゃう。


でもね、私もう泣かない。

⏰:09/01/21 22:09 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#605 [ゆーちん]
泣いてる場合じゃないもん。


「明日、戻る。萌子に。」

「そ。」

「だから、それまではシホでいたい。」

「おうよ。」

「哲夫の事、信じていいんだよね?」

「当たり前だっつーの。」

「ありがとう。」

⏰:09/01/21 22:10 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#606 [ゆーちん]
誰かの為じゃなく、自分の為に戦わなきゃいけないんだ。


人生60年だとして、残り43年。


まだまだやりたい事がたくさんある。


やりたいって純粋に願ってしまう。


希望とか勇気を学べて、本当によかったよ。


一度死んで、よかった。


シホになれて、本当によかった。

⏰:09/01/21 22:10 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#607 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

今日はここまで

>>2

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/21 22:11 📱:SH901iC 🆔:FXDa00ZA


#608 [我輩は匿名である]
泣けました
楽しみにしてます

⏰:09/01/22 03:28 📱:F903i 🆔:N6eJwZDc


#609 [ゆーちん]
感想ありがとうございます嬉しいです

続きは今日の夜か明日になると思います
更新遅くて申し訳ありません

⏰:09/01/23 07:32 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#610 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

闇と光

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/23 21:25 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#611 [ゆーちん]
薬箱を棚に戻し、部屋へ戻ると哲夫は眠っていた。


よほど眠かったのか、寝付きがいいのか。


もしくは傷の痛みが和らぎ、安心したのか。


どれにしろ、哲夫は私に伝えてくれたんだ。


戦う意味を。

⏰:09/01/23 21:25 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#612 [ゆーちん]
自惚れかもしれないけど、シホを必要としてくれる人はたくさんいる。


だけど萌子は誰からも必要なんかされていない。


ずっとそう思っていた。


だけど違った。


嘘かもしれないけど、宗太郎は萌子を必要だとしてくれていた。

⏰:09/01/23 21:26 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#613 [ゆーちん]
もし宗太郎の気持ちが本当だったとしても、私は彼の気持ちには応えられない。


哲夫が好きだから。


だけど、宗太郎たった一人にでも、萌子は必要とされた。


その事実に、自信がついたんだ。


親と戦おうって言う、自信。

⏰:09/01/23 21:27 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#614 [ゆーちん]
哲夫を起こさないように、シホとして最後になるかもしれない家事をした。


掃除、洗濯、料理。


お風呂の時間が近付くと、哲夫は目を覚ました。


「まだ眠い…」

「お風呂入ればすっきりするよ。」

⏰:09/01/23 21:28 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#615 [ゆーちん]
あくびばかりする哲夫と、いつもより長い時間、お湯につかった。


「気持ち良いね。」

「だな〜。風呂最高。」


気の抜けた哲夫の声が浴室に響き、自然と笑顔を誘った。

⏰:09/01/23 21:30 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#616 [ゆーちん]
「今日の夕飯、何だと思う?」

「何か焼いてた音がしたから〜…炒め物?」

「ヒント、哲夫の好きなもの。」

「あぁ、ハンバーグだ!」

「ブブー。ヒント2、私にとって思い出の料理。」

「シホにとって?」

「うん。じゃあヒント3。最後のヒントだよ。」

⏰:09/01/23 21:31 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#617 [ゆーちん]
「ん。」

「ヒント3。シホの初めての料理。」


哲夫は覚えてくれているのだろうか。


私がここに来て、シホとしての初めての食事であった食べ物。


誰かのために料理をするなんて、面倒だから嫌いだった。


だけど、美味しいって言ってくれる人のために作る料理は、嫌いじゃなかった。

⏰:09/01/23 21:33 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#618 [ゆーちん]
「わかった?」


少し考えた哲夫は、口の端を吊り上げて笑った。


「お好み焼きだ。」


嬉しかった。


覚えててくれたんだ。


照れるような、恥ずかしいような。


「正解。」

「さすが、俺。」


浴室には二人の笑い声が優しく響いた。

⏰:09/01/23 21:34 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#619 [ゆーちん]
お風呂から上がり、そのお好み焼きを頬張った。


簡単な料理だけど、私にとっては特別な料理。


色違いのお箸で食べたお好み焼き。


自分で作った物を、初めて美味しいって思えた。


料理って味だけじゃなく、誰とどこでどんな風に食べるかも左右されるんだね。

⏰:09/01/23 21:35 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#620 [ゆーちん]
食べ終わり、片付けが済めば、集会に行く支度をする。


着替えたり、髪をセットしたり、化粧したり。


今日もいつものように準備に取り掛かる。


そんな私を、ベットに腰掛けて煙草を吸う哲夫の目が、ずっと追い掛けていた。

⏰:09/01/23 21:36 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#621 [ゆーちん]
「何見てんの?」

「んー?」

「あんま見ないでよ。恥ずかしいじゃん。」


照れ笑いした私に哲夫は小さく呟いた。


「明日の今頃には、もういねぇのかなって思って。」


私の顔から笑顔が消えた。


同時に、化粧をする手の動きも止まった。

⏰:09/01/23 21:45 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#622 [ゆーちん]
「そんな寂しい事、言わないで。」

「…ん、悪い。」


ずっとずっと、はっきりさせたいって思っていた事があった。


この機会に、哲夫に聞いてもいいよね?


「聞いてもいいかな?」

「何?」

⏰:09/01/23 21:46 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#623 [ゆーちん]
「ずっと私を守ってくれるって言ったよね。それって、どういう意味なの?」

「…味方っつう事。」

「私って、哲夫にとって…何?味方以外の言葉で教えて。」


【味方】って言葉だけで充分なのに、私は欲が出た。


自分が欲しい言葉が返って来なかったらヘコむくせに…バカでしょ?

⏰:09/01/23 21:47 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#624 [ゆーちん]
せっかく恋愛感情を知れたのに、一気に砕け散るのが恐かった。


勇気のない女だ。


でも今なら少しだけ自信があった。


【彼女】とまではいかないが、【ペット】ではないだろうっていう自信。

⏰:09/01/23 22:56 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#625 [ゆーちん]
「知りてぇの?」

「うん。」


哲夫の口が開いたシーンが、とてもスローモーションに目に映った。


次の瞬間、哲夫の口から出た言葉を聞き、私はまんまと泣かされた。

⏰:09/01/23 22:57 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#626 [ゆーちん]
「愛してる人。」


ねぇ、今なら前言撤回していいよ?


でないと私、信じちゃうから。


私が欲しかった言葉以上だよ、それ。


「じゃあ聞くけど、シホにとって俺って何?」

「…二酸化炭素くれる人。」

「フフッ。何だそれ。」

「嘘、ごめん。」

⏰:09/01/23 22:58 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#627 [ゆーちん]
嘘はだめだから、ちゃんと言い直せと叱られたから、言い直した。


「世界一大好きな人。」


泣いてる私を抱きしめた哲夫の笑顔は、幼稚園児みたいだったよ。


笑顔がキラキラしてた。

⏰:09/01/23 22:58 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#628 [ゆーちん]
私の心は闇だった。


だけど哲夫っていう、手をかざしたくなるような光が照らしてくれた。


「哲夫は光だ…。」

「光?俺、改名したっけ?」

「違う、そうじゃない。」

「じゃあ何。」

⏰:09/01/23 22:59 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#629 [ゆーちん]
「ずっと闇の中でウロウロしてた私に、哲夫が光を与えてくれた。そういう意味の光。その光のおかげで、私…こんな幸せな気分になってる。」

「じゃあ言わせてもらうけど。」

「何?」

「闇がなきゃ光は輝かねぇんだぞ?知ってた?つまりシホがいなきゃ俺は生きてけねぇっつう事だな。」

⏰:09/01/23 23:00 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#630 [ゆーちん]
何が、つまりだよ。


全然つじつま合わないし。


やっぱりちょっとバカなんだ。


そんな人間らしい哲夫の温もりに、涙が止まらなかった。


マスカラを塗る前でよかった。


塗ってたら、黒い涙だって哲夫にバカにされそうだからね。

⏰:09/01/23 23:00 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#631 [ゆーちん]
『これ以上抱きしめていると、歯止めが効かないから。』と笑いながら、私から離れた哲夫。


もっと哲夫の傍に居たかったんだけど…私も化粧の途中だし。


涙を拭いてからマスカラやアイライン、そしてアイシャドーを目に施す。

⏰:09/01/23 23:01 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#632 [ゆーちん]
このメイクは、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】だ。


明日、萌子に戻ったら…またあの派手な化粧をしなきゃなんないのかな。


…って、別にそこまで完璧にシホと萌子を切り替えなくてもいいのか。

⏰:09/01/23 23:04 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#633 [ゆーちん]
目の前に迫る運命が近付くと、急に慌ててしまう私は、ただの臆病者だった。


焦っちゃって、恐くなっちゃって…また痛い思いをするのかなと思うと、何もかも投げやりたくなる。

⏰:09/01/23 23:04 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#634 [ゆーちん]
でも違う。


それは間違ってる。


いくら苦しくても、いくら辛くても、いくら恐くても、いくら痛くても…もう逃げちゃいけないんだよ。


【死】に逃げるのは、試合放棄してるって事。


私はまだまだ戦えるんだ。


戦うべきなんだ。

⏰:09/01/23 23:05 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#635 [ゆーちん]
まだ戦ってもいないのに、私は常に【敗退】の覚悟をしたまま、殴られたり蹴られたり…。


それで人生全てを嫌になる。


人間としての楽しさや希望や、光。


そんな素敵なもの全部を自ら手放そうとしていたんだ。

⏰:09/01/23 23:05 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#636 [ゆーちん]
そんな萌子の人生を、哲夫が変えてくれた。


色んな感情を教えてくれて、色んな希望を持たせてくれた人。


【命の恩人】だなんて言葉は一生関係のない言葉だと思っていたけど、今、ここにいる哲夫がそうだ。


そんな言葉が頭に浮かぶ自分にも、その言葉の対象である哲夫にも、【ありがとう】を与えたい。

⏰:09/01/23 23:06 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#637 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/23 23:06 📱:SH901iC 🆔:OVGZkR5U


#638 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

仲間

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/24 18:17 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#639 [ゆーちん]
二日ぶりの集会も相変わらず寒かった。


風が冷たくて、耳がちぎれんじゃないかってくらい。


だけど、楽しかった。


笑ったり驚いたり。


怪我をしている人もいたけど、いつものような賑やかさだった。

⏰:09/01/24 18:18 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#640 [ゆーちん]
本当に昨日、どんちゃん騒ぎしてきたの?ってくらいみんな穏やかに笑ってるもんだから。


こういう空間に、ずっといれたらいいのにな。


最後の集会とか、そんな事は考えないようにした。


だけど頭の端っこでは気になってたりして、上手く笑えてたのかはわからない。

⏰:09/01/24 18:19 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#641 [ゆーちん]
結局、何も言えずお開きしてしまい、みんなとバイバイした。


哲夫の元に駆け寄り、男の人たちともバイバイする。


集会場所から出て、哲夫に肩を抱かれながらいつもの道を歩く。


と、その時だった。

⏰:09/01/24 18:20 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#642 [ゆーちん]
「シホちゃん!」


そこにいたのは、のんちゃんだった。


「…のんちゃん。どうかした?」

「シホちゃんさぁ、居なくなったりしないよね?」


思わず、のんちゃんから目を反らしてしまった。


「何、言ってるの?」


私、上手く、笑えてる?


「隠さないでよ。今日のシホちゃん、何かおかしかったよ。」

⏰:09/01/24 18:21 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#643 [ゆーちん]
この人には、敵わない。


どうしてそんなに優しいの。


哲夫にしても康孝にしても、のんちゃんにしても。


シホとして出会った人たちは、みんな素敵な人ばかりだ。

⏰:09/01/24 18:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#644 [ゆーちん]
哲夫の顔を見上げると、私を見下ろしながら頷いてくれた。


のんちゃんには、話そう。


ていうか、話しを聞いてもらいたい。


同情とかが欲しいんじゃない。


のんちゃんへの気持ちは、哲夫に話したいって思った時の感情と同じようなもの。


大切な人だからこそ、私を知っていてもらいたい。

⏰:09/01/24 18:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#645 [ゆーちん]
「のんちゃん、ごめん。本当は言うつもりはなかったんだけど、実は‥」

「望実、うち来い。」


いきなり哲夫が言ったその言葉にのんちゃんは驚いていた。


「えっ、いやっ…それは…」

「集会中は人がいっぱいいるからマシだけど、今は3人だ。だからすっげぇ寒い。女は体冷やすなって小学校で習っただろ?」

⏰:09/01/24 18:23 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#646 [ゆーちん]
のんちゃんは遠慮していたけど、哲夫の命令だとすれば話しは別…らしい。


「のんちゃんは哲夫の家に来た事ないの?新人の時に掃除とか。」

「うん。私はそのルールが決まる前からチームに入ってたの。」

⏰:09/01/24 18:24 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#647 [ゆーちん]
と、なると…やっぱり緊張するのかな。


チームのリーダーである哲夫の家に行くという事は。


3人で歩く帰り道は、なんだか違和感たっぷりで…私まで緊張してしまった。


そんな私の肩から手を下ろし、煙草を吸う哲夫だけは平然としていたけどね。

⏰:09/01/24 18:24 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#648 [ゆーちん]
家に着くと、のんちゃんの表情は益々堅くなった。


「失礼しますっ!」

「そんな力まなくても。」

「いや、だって哲夫さんの家だし…」


すると、哲夫は笑いながら言った。


「シホの家でもあるんだぞ。ツレん家に入るだけなのに、そんなカチカチになる必要ねぇよ。」

⏰:09/01/24 18:25 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#649 [ゆーちん]
それを聞いたのんちゃんの表情は、少し緩んだ。


私も、緩んだ。


私の家でもあるんだって、この家。


それって、すごい嬉しい事だよね。


なんだか心がキュンとなる。


「それじゃあ、おっ…お邪魔します!」

⏰:09/01/24 18:26 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#650 [ゆーちん]
「リラックスしてね?そんな緊張されてちゃ、私も緊張しちゃうよ。」

「あっ、うん。そうだよね。」

「何か飲む?」

「ううん、お構いなく!」

「…紅茶でいい?」

「あっ、うん。じゃあ紅茶で。」


どっちだよ、とツッコミたくなるほどだった。

⏰:09/01/24 18:27 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#651 [ゆーちん]
いつものリラックスしたのんちゃんとは別人。


でもなんか、可愛かった。


のんちゃんのそういう性格、好きだな。


「哲夫は?」

「俺はいらなーい。ビール飲む。」

⏰:09/01/24 18:28 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#652 [ゆーちん]
のんちゃんにはソファーに座って待っててもらい、私と哲夫はキッチンに。


哲夫が冷蔵庫を漁りながら、声をあげた。


「望実ぃー!」


ソファーから立ち上がったのんちゃんは、元気な返事をする。


「はいっ!」

⏰:09/01/24 18:29 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#653 [ゆーちん]
「ビール飲むか?」

「いや、私まだ19なんで。」

「あぁ、そ。残念。」

「すみません。ありがとうございます!」


のんちゃん見てると、癒される。


と、同時に感心。


そんな風に尊敬できるような人がいて、緊張とかしちゃって…萌子には無かった事だったから。

⏰:09/01/24 18:29 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#654 [ゆーちん]
上下関係を知らなかった私に、そっと教えてくれたのは、哲夫のチームのおかげ。


あんまり上下関係を気にしないで、ってチームだったから私自体、緊張したり尊敬したりって事はなかったけど、その事実を目の当たりにして、ちょっと感動とかしちゃったし。

⏰:09/01/24 18:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#655 [ゆーちん]
「お待たせ。」

「あっ、ありがとう。」

「砂糖とミルクは?」

「どっちも入れてくれる?」

「OK。」


紅茶を入れ終え、私も哲夫ものんちゃんのいる場所に移動した。


のんちゃんの表情は、玄関にいた時よりほんの少し、緩んだかな。


さて、何から話そうか。

⏰:09/01/24 18:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#656 [ゆーちん]
紅茶を飲む音。


ビールを飲む音。


シンとした部屋。


最初に口を開いたのは、のんちゃんだった。


「美味しい。」


哲夫以外の人に美味しいと言われた。


それがたまらなく嬉しく感じてしまう。


「ありがとう。」

⏰:09/01/24 18:31 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#657 [ゆーちん]
他愛もない事だけど、私には心が奮い立つぐらい幸せな言葉なんだ。


インスタントの紅茶にお湯を入れただけなのに、美味しいって。


社交辞令かもしれないけど、嬉しい。

⏰:09/01/24 18:31 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#658 [ゆーちん]
こんな気持ちをどうやって伝えればいいのかわかんないけど、私なりの言葉で説明しよう。


大丈夫。


シホとしてのタイムリミットは、まだある。


萌子に戻る前に、シホとして、萌子の話をしておきたい。

⏰:09/01/24 18:32 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#659 [ゆーちん]
「今から話す事、上手く伝わらないかもしんない。けど私なりに頑張って伝えるから聞いてね。」


するとのんちゃんは、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。


そのエクボに、何度と心を落ちつかしてもらっただろう。

⏰:09/01/24 18:32 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#660 [ゆーちん]
「私、シホなんかじゃないの。」

「…。」


のんちゃんは、何も言わなかったし、何の反応も見せなかった。


「本当の名前は、金河萌子って言うんだ。」

「…そっか。」

「ごめんなさい。ずっと黙ってて。」

⏰:09/01/24 18:33 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#661 [ゆーちん]
「謝んないで。ていうか名前なんて何だっていいじゃん。あだ名みたいなもんだよ。」

「…うん。」


薄々気付いてたのかもしんない。


驚いているというより、確信を持った表情だったから。

⏰:09/01/24 18:33 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#662 [ゆーちん]
ゆっくりと萌子の話をした。


哲夫にお伽話をした時に、過去を思い出す痛みへの免疫はついたつもりだった。


だけどまだ弱かった。


途中、何度も泣きそうになった。


けど…泣かなかったよ。


泣いてちゃ、のんちゃんに伝えらんないもん。

⏰:09/01/24 18:34 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#663 [ゆーちん]
冷めきった紅茶で何度も喉を潤わせながら、話した。


途中、哲夫にも助けてもらいながら。


「それで私決めたの。明日…っていうか日付的には今日だね。」

「もしかして…」

「うん。萌子に戻るよ。それで、親と話し合ってみる。」

⏰:09/01/24 18:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#664 [ゆーちん]
今までずっと、過去を聞くのを禁じられていた哲夫の仲間であるのんちゃんは、信じられないって顔をしながら萌子の過去を聞いていてくれた。


そのお伽話のクライマックスが、今日でシホを辞めるってもの。


そりゃ、ビックリするよね。

⏰:09/01/24 18:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#665 [ゆーちん]
「すぐ帰って来るんだよね?」

「…わかんない。」

「何で?」

「親と和解できるなら、金河家で暮らすと思う。許せないぐらいムカつく親だけど…何だかんだで、ここまで育ててくれたのは、あの人達だし。」

⏰:09/01/24 18:36 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#666 [ゆーちん]
「育ててくれたって…子供に援交させて金稼ぎさす親なんか最低だよ?」

「うん。わかってる。最低な親だよね。」

「だったらどうして…」

「哲夫が、味方だから。」

「…哲夫さんが?」

⏰:09/01/24 18:36 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#667 [ゆーちん]
ずーっとベットの端に座りながら煙草を吸っていた哲夫。


そう、あの人が味方だから。


「私には哲夫がいるから。生きたいって思うようにもなれた。」

「シホちゃん…」

「殴られて蹴られて半殺しにされて…もし和解できなくても、死のうだなんて考えないようにする。誓うよ。」

⏰:09/01/24 18:37 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#668 [ゆーちん]
「その時はまたシホとしてここで暮らせばいい話。」


哲夫の付け加えのおかげで、話にリアリティが出た。


そっと哲夫に視線を向けると、優しい笑顔で私を見てくれた。


「もし萌子ちゃんに戻っちゃってもさ、絶対遊ぼうね?約束だから。」

⏰:09/01/24 18:38 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#669 [ゆーちん]
ありがとう、と言った。


「私も、ずっとシホちゃんの味方だから。親とか友達に何かされたら、ぶっ飛んでくよ。約束する。」


また、ありがとう、と言った。


感謝しても、しきれない。

⏰:09/01/24 18:38 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#670 [ゆーちん]
「私ら出会って2〜3ヵ月だけど、シホちゃんはマジで大切な仲間だから。」

「…仲間ってものも、萌子じゃわかんなかった。シホになって、仲間の良さを学んだんだよ。」

「私もシホちゃんから学んだ事いっぱいあるよ。」

⏰:09/01/24 18:40 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#671 [ゆーちん]
泣かないって決めたのに、勝手に流れてしまった。


「アハハ。泣き虫シホちゃん。」

「うるさいっ。」


涙が乾いた頃、のんちゃんは帰った。


夜も遅いし、近くまで送り届けた後、哲夫に肩を抱かれて家まで歩いた。

⏰:09/01/24 18:41 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#672 [我輩は匿名である]
シホちゃん大好き

なんだか私の昔の心に
すっごい似てて...

また勇気が持てた(・ω・´)


だから最後まで
頑張って下さい

⏰:09/01/24 19:34 📱:SH706ie 🆔:YP02nN8I


#673 [ゆーちん]
>>672さん

はいっ(>_<)
ありがとうございます
最後まで頑張ります!

⏰:09/01/24 21:18 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#674 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

ご褒美

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/24 21:19 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#675 [ゆーちん]
夜空を見上げた。


今日も星が綺麗だ。


「シホぉ。」

「ん?」

「星だって、暗闇がなきゃ光ってんのに気付いてもらえないんだぞ。」


いきなり、何を言い出したのかと思った。


「シホが自分の事を闇で俺を光りだって言うなら、俺はシホの傍でずっと光っててやるよ。」

⏰:09/01/24 21:20 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#676 [ゆーちん]
言葉にならない感情が込み上げてきた。


この感情を何て呼ぶ?


答えがわからない。


だって、初めての体験だったし。


哲夫と過ごした数ヵ月、私には初めての事だらけだったよ。

⏰:09/01/24 21:21 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#677 [ゆーちん]
また、自分からすがってしまった。


荒っぽいSEXからは、溢れんばかりの愛を感じる。


愛してる人に愛をもらえるなんて、私の人生にはありえない事なんだと思ってた。


「シホ…」


哲夫が色っぽい声で私の名前を呼ぶ。


涙が出そうで鼻が痛くなった。

⏰:09/01/24 21:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#678 [ゆーちん]
シホとして最後に見た夢は覚えていない。


それほど熟睡できたんだ。


安心しながら、心地よく、眠ったんだ。


誰かの温もりを感じながら眠るだなんて、私には贅沢すぎる。


そんな贅沢をさせてくれた哲夫の腕の中で、いつもの時間に自然と目を覚ました。

⏰:09/01/24 21:22 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#679 [ゆーちん]
ぼーっとしながら、布団の中の温かさと哲夫の体温を楽しむ。


何も考えずに、ただただ布団の中でじっとしていた。


目を開けて眠っていたのかもしれない。


頑張らなきゃって前に進もうとする私がいる。


だけど、もう少し甘えていようよってすがっちゃう自分もいる。

⏰:09/01/24 21:23 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#680 [ゆーちん]
結局、哲夫も目を覚まし、必然的に起きる事になっちゃったけど。


「おはよ。」

「おはよう。」

「んー…便所。」


哲夫が起き上がり、ベットからいなくなると冷気が入ってきた。


なんだか寂しい。

⏰:09/01/24 21:23 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#681 [ゆーちん]
寂しがってる場合じゃない。


明日からは、この温もりは無いのかもしれないし。


いつまでも甘えてるわけにはいかない。


ベットから起き上がり、洗面所で顔を洗う。


目が覚める。


モヤモヤしていた気持ちも、眠気と共に吹き飛ばしてやった。

⏰:09/01/24 21:29 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#682 [ゆーちん]
パジャマを脱ぎ、何を着ようかと悩んでいた時だった。


「おっはー!」


まさかの来客。


康孝だ。


「あ、おはよう。」

「シホちゃん。何で下着姿なわけ?」


康孝が苦笑いする。

⏰:09/01/24 21:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#683 [ゆーちん]
「何着ようかなって。」


すると哲夫が言った。


「着るもの決めてから脱げよ、バカ。」


そう言って、康孝の手に握られていた袋を奪い、そのまま私に手渡した。


「えっ、何これ。」

「ちょうど着るもの悩んでたんだろ?俺からのプレゼント。」


と、康孝が笑った。

⏰:09/01/24 21:30 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#684 [ゆーちん]
袋の中身を見て、息を飲み込んだ。


「これ…」


私が初めてここに来た時、着ていた服だ。


あんなに汚かったのに、新品のように綺麗。


「私の制服…」

「康がクリーニングに出してくれたんだぞ。」

「ヤッちゃんが?」

「たまには俺だって役に立つだろ?」

⏰:09/01/24 21:31 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#685 [ゆーちん]
舌を出してピースサインをした康孝はバカっぽかった。


幼稚園児以下。


だけどそんな康孝が好きだった。


仲間として、男として、人として、好きだった。


だけどそれは哲夫への【好き】とは、また違う。


人間の感情は、数え切れない。

⏰:09/01/24 21:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#686 [ゆーちん]
「それともう1つプレゼント。」

「え?」

「玄関にツルピカに輝いてるローファーが待ってるぞ。」


康孝の言葉を聞いた私はすぐさま玄関まで走った。


康孝の言う通り。


汚かったローファーが、ピカピカしている。

⏰:09/01/24 21:35 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#687 [ゆーちん]
驚いていた私を追い掛けて来た康孝が、教えてくれた。


「靴みがき買って来て、みんなで磨いたんだぞ。」


【ありがとう】を何度言えばいいのかわからない。


【嬉しい】を通り越した感情が私を襲う。


「私、何て言ったらいいのか…」

「お礼はいいから早く服着ろ。」

⏰:09/01/24 21:36 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#688 [ゆーちん]
部屋に戻ると哲夫が笑ってた。


「哲夫ぉ、ローファーが…」

「フッ。よかったな。半泣きなってるし。」

「泣いてないよ。もう泣かないって決めたんだから。」

「そ。早く服着ないと風邪ひくぞ。」

「うん。今さっきヤッちゃんにも服着ろって叱られた。」

⏰:09/01/24 21:37 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#689 [ゆーちん]
二人の視線は気にならない。


というか着替える私なんか見ていなかったのかも。


久しぶりに袖を通した制服は、ひんやりしていた。


やけに体にフィットする。


あぁ、私はやっぱり紛れも無い【金河萌子】なんだって実感した。

⏰:09/01/24 21:38 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#690 [ゆーちん]
スカートを短くし、あの日履いてた靴下を引っ張り上げる。


靴下は、クローゼットの下の引き出しの1番奥に潜んでた。


久しぶりに取り出すもんだから、なんだか違和感たっぷりだった。

⏰:09/01/24 21:39 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#691 [ゆーちん]
「ほほぉー。シホちゃんも何だかんだでまだ現役だもんな。やっぱ制服似合うわ。」


康孝がそんな言葉をサラッと言いきると、哲夫に『セクハラかよ。』と笑われていた。


そんな笑ってた哲夫が、小さな声で呟いた。

⏰:09/01/24 21:39 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#692 [ゆーちん]
「懐かしいな。」


康孝も『あぁ。』と私を見ながら懐かしんでいた。


「つい昨日の事みたい。制服着た女が俺のナイフ握って眠ってたんだよな。」

「哲夫の部屋に知らない女子高生がいて、俺すっげぇビックリした。」

⏰:09/01/24 21:40 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#693 [ゆーちん]
「髪も服も化粧もぐちゃぐちゃで汚かったよな。」

「いきなり殺せって要求するし?」

「哲夫に何言われたのか知んねぇけど、次会った時はケロッとした顔だった。」


二人は私を見ながら懐かしそうに昔話を続けた。

⏰:09/01/24 21:42 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#694 [ゆーちん]
色んな感情が混ざりあう。


嬉しいけど、寂しい。


恥ずかしいような、緊張するような。


二人の視線を気にしながらも鏡の前に座り、化粧をし始めた私。


化粧は、哲夫に教えてもらった【シホのメイク】を施した。

⏰:09/01/24 21:42 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#695 [ゆーちん]
髪形だってシホのまま。


この髪形には、この化粧が合うっていうのもあるけど…私は萌子でもあるしシホでもある、って事を示したい意思の現れだったんだと思う。

⏰:09/01/24 21:43 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#696 [ゆーちん]
「できた。」


私の支度ができたのは、目が覚めて2時間程経ってからだった。


「じゃあ行くか。」


哲夫の問いに、私は頷く。


『車で待ってっから。』と言い、康孝が出て行った。

⏰:09/01/24 21:44 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#697 [ゆーちん]
最後に部屋を見渡した。


「ここはシホの部屋だ。お前の居場所はここにもある。」


哲夫にそう言われ、誇らしい気持ちでいっぱいだった。


「うん。」

⏰:09/01/24 21:44 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#698 [ゆーちん]
荷物は何もない。


萌子は手ぶらでここに来たのだから。


何も持たないその手を、哲夫に握ってもらい、家を飛び出した。


今日は冬らしくない気候だった。


暖かい風が私の背を押す。

⏰:09/01/24 21:45 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#699 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込み、後部座席へと座る。


隣には哲夫。


車内は相変わらずうるさくて、首に巻く方でない車のマフラーが低く唸る。


窓の外は、シホのよく知る町並み。


だけど萌子には全く知らない町並み。


この街はシホの生まれた場所だから。

⏰:09/01/24 21:46 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。


「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」

「何?」

「どこに住んでたの?」


康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。


すると車内の空気が一転。

⏰:09/01/24 21:50 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#701 [ゆーちん]
何か変な事でも言っただろうか。


哲夫と目が合い、どうしたのかと聞くと苦笑しながら言った。


「駅5つ。」

「え?」

「シホの住んでた場所と、萌子の住んでた場所は、駅5つ隣だって事。」

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#702 [ゆーちん]
これには驚いた。


そんなに近かったなんて。


外出なんて滅多になかったから、よその景色を知らない。


家族で出掛ける訳もなく、買い物は近くのスーパー。


援交も学校も付き合ってた彼氏達も、地元か隣街程度。

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#703 [ゆーちん]
「そんな…近かったんだ。」

「シホちゃん、いつでも連絡しろ。俺が地元以外の景色いっぱい見せてやっから。」


世間を知らない可哀相な子への同情としての優しさだったとしても、康孝の気遣いは嬉しいものだった。


「うん、ありがとう。」

⏰:09/01/24 21:52 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#704 [ゆーちん]
しばらく走ると康孝が哲夫に声をかけた。


「テッちゃーん、あの倉庫ここら辺だっけ?」

「んー…もう少し先じゃねぇの?」

「わかんねぇし。シホちゃん覚えてる?」

「え?」

「自分がナイフ拾った場所。」

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#705 [ゆーちん]
神様が置いてくれた、あのナイフを拾ったのは…どこだったっけ。


もう覚えてないよ。


そもそも、どうやって歩いてったのかもわからない。


「…ごめん。覚えてない。」

「そっか。仕方ねぇ、勘だ!」


そもそも、どうして哲夫はあの場所にナイフを落としたのだろう。

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#706 [ゆーちん]
そっと哲夫に聞いてみた。


一応、哲夫だけに聞こえるように声を出したつもりが、車内がうるさいため声を上げなくてはいけない。


自然と康孝の耳にも、声が聞こえてしまったらしい。


「えっ、テッちゃん話してなかったんだ。」

⏰:09/01/24 21:54 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#707 [ゆーちん]
康孝が笑った。


別にそんな複雑な理由がある訳じゃなさそうだ。


だったら聞いてもいいよね?


「そういえば話してなかったな。教えて欲しいか?」


私は頷いた。

⏰:09/01/24 21:55 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#708 [ゆーちん]
「あの日の集会は早く抜けて、康とラーメン食いに行ってたんだよ。」

「ラーメン?」

「そ。美味いラーメン屋ができたって噂聞いて。」

「味はイマイチだったけどな。」

「…それで?」

⏰:09/01/24 21:55 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#709 [ゆーちん]
「その帰りに康がションベンしたくなってさぁ。」

「はぁ?ションベンしたいって騒いだのは哲夫だろ?」

「バーカ。お前だっての。」

「いんや、哲夫だ。」

「どっちだっていいよ。それで?」

「倉庫の近くに草むらがあったから、そこでするかって事で結局2人でションベンした。」

⏰:09/01/24 21:56 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#710 [ゆーちん]
下品な話かもしれないが、私にとっては興味の沸く話だった。


続きを要求する。


「世の中物騒だから、康が護身用に持ってろってナイフくれたんだ。そのナイフは普段持ち歩かないんだけど、あの日はたまたま。それで案の定、倉庫前で落としちまった訳だ。家に帰ってから気付いて、康孝も帰っちまったから俺1人で探しに行ってさ。」

⏰:09/01/24 21:56 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#711 [ゆーちん]
普段は持ち歩かない。


たまたま持っていた。


倉庫前で落とした。


都合のいい解釈をしちゃうと、全て神様からのご褒美だったのかもって思ってしまう。


だって、こんなに私にとって都合のいい事が重なると、そう思っちゃうのも無理ないと思わない?

⏰:09/01/24 21:57 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#712 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/24 21:57 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#713 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

笑顔

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 11:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#714 [ゆーちん]
倉庫前に一生到着するな。


…とか、別に思わなかった。


私には味方がいる。


今ならどんな苦しい戦いだろうが自分から噛み付きに行ける勢いだった。


「あっ、ここか。」


康孝はやっと道を思い出してくれたらしく、車の速度を落とした。

⏰:09/01/25 11:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#715 [ゆーちん]
見覚えの、あるような…ないような。


そんな倉庫前。


康孝は車のエンジンを切ったけど、私の耳の中は余韻だらけ。


そんなうざったい余韻でさえ、今では心地よかった。


「シホちゃん。」


運転席から、体をひねって後部座席の方を向く康孝。

⏰:09/01/25 11:17 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#716 [ゆーちん]
「俺にとってシホちゃんは妹みたいな奴だったよ。」


最高の笑顔。


やけに幼く見えてしまう、その笑顔が私は大好きだ。


「私も。ヤッちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だった。いっつも運転してくれて、本当ありがとう。」

⏰:09/01/25 11:18 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#717 [ゆーちん]
康孝にはどう見えたかわかんないけど、私なりの最高の笑顔だったと思う。


「お安いご用じゃ!」


髪の毛をグシャグシャに掻き回された。


その手の温もりは、哲夫の温もりとはまた違う暖かさ。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#718 [ゆーちん]
しおらしくなるのは嫌。


だから笑って車を降りた。


哲夫も後に続く。


康孝は降りて来なかった。


「シホ。」


哲夫に肩を抱かれ、私達は歩く。


ずっと無言のまま歩いた。


3度、角を曲がった時、哲夫は口を開いた。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#719 [ゆーちん]
「ここで俺は女子高生を拾った。」


哲夫の視線は、冷たそうな地面だけを捕えていた。


「最初は死んでんだと思った。俺のナイフ握ってたから、すげぇびっくりした。」

「うん。」

「あまりにも汚い女で、何か笑えた。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#720 [ゆーちん]
哲夫の笑顔。


不思議なことに、それを見れば自然と勇気も沸く。


自分から、哲夫の腕から抜け出した。


「じゃあ、行くね。」

「道わかんのか?」

「何となく思い出せると思う。わかんなかったら誰かに聞くよ。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#721 [ゆーちん]
「そ。」

「ありがとう。」


【バイバイ】は言わない。


【バイバイ】したくないから。


また、会いたいから。


「シホ。」

「何?」

「いってらっしゃい。」


哲夫は右手をヒラヒラ動かし、私に手を振った。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#722 [ゆーちん]
私も手を振り返す。


「行ってきます。」


【いってらっしゃい】だなんて、哲夫に初めて言われた。


【行ってきます】だって、哲夫に初めて言った。


ちょっと、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#723 [ゆーちん]
哲夫に背を向け、歩き出した時。


「だぁー!待って!」


拍子抜けしちゃうような、哲夫の声。


足を止め、哲夫の方を向くと何か投げられた。


「落とすな!」

「えっ?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#724 [ゆーちん]
落とすまいと慌てて掴んだもの。


携帯電話だった。


「…これ。」

「服とか化粧品は置いといてやる。あと箸も。でも携帯電話は携帯って言うぐらいだから、携帯しねぇといけないもんじゃん?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#725 [ゆーちん]
哲夫、康孝、のんちゃん、チームの女の子達。


萌子の携帯電話より、登録件数は少ないけど、とても純粋な携帯電話だって自分では思う。


「いいの?」

「負けたら電話して来い!ぶっ飛んでってやるから。」


哲夫の笑顔も、最高だ。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#726 [ゆーちん]
涙は見せない。


笑顔を見せるんだ。


「ありがと。」

「次に会う時は、汚い格好で寝転がってんじゃなくて、綺麗な格好で恋人同士として会おうな!」

「うん!」


もう、振り返る事はなかった。


あまり見覚えのない道を堂々と歩いてやった。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#727 [ゆーちん]
しばらく歩くと、すぐに見覚えのある道に出た。


足は自然と金河家に進む。


不思議と、人っこ一人出会わなかった。


目に映る、あの金河家。


吐き気がする。


そんな時は目を閉じて、笑顔を浮かべる。


のんちゃん、康孝、そして哲夫。

⏰:09/01/25 11:33 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#728 [ゆーちん]
よし、行こう。


私は歩くスピードを変えずに、家まで一直線と進んだ。


地獄への扉の鍵は開いたまま。


勢いよく扉を開けて、叫んでやった。


「ただいま!」

⏰:09/01/25 11:34 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#729 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

約束

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 11:48 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#730 [ゆーちん]
哲夫と過ごす季節は、いつだって寒い時だ。


11ヵ月ぶりの再会に、緊張などなかった。


ただただ気持ちが跳ね上がるだけ。


銀色だった頭は金色に戻り、1年前、死にきれなかった私を覗き込んだ哲夫を思い出させる。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#731 [ゆーちん]
11ヵ月前、私は戦った。


あの憎々しい親と。


もう殴られるのは懲り懲りだ。


私をストレス発散の道具にするな。


いらないなら私を施設に戻して。


涙を耐えながら訴えた。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#732 [ゆーちん]
私は変わった。


哲夫達のおかげで、生きたいと思うようになった。


けど、変わったのは私だけではなかったようだ。


父は仕事を見つけ、酒を控えては朝から夕方まで毎日働くようになっていた。


母も不倫は辞めたのか続けているのかはわからないけど、毎日家に帰って来る。

⏰:09/01/25 11:50 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#733 [ゆーちん]
引き分けだと思った。


もう殴らない。


苦しめない。


萌子が必要だ。


確かにそう言った。


最初は信じられなかった。


口だけなら、何だって言える。


態度で表してもらうまで、警戒心はとけなかった。

⏰:09/01/25 11:51 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#734 [ゆーちん]
母を信じてもいいのかもしれない、と思ったのは私が萌子に戻って1週間後の事だった。


冬休みがちょうど終わったので、私は康孝にクリーニングしてもらった制服を着て高校にまた通う事にした。

⏰:09/01/25 11:52 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#735 [ゆーちん]
冬休み前から長く休んでいたのだ。


担任に何か色々と聞かれる事だろうと、うんざりしていた。


「…いってきます。」


朝、ぎこちなくリビングを出た。


「萌子。」

「…何?」


母は言った。


「一緒に学校まで行きましょう。ずっと休んでたんだから、先生に説明しないと。」

⏰:09/01/25 11:53 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#736 [ゆーちん]
驚いた。


授業参観なんて来た事もなく、個人懇談さえ嫌がる母が自ら学校に出向くなんて。


私と母は、朝の寒い道を歩いて学校まで進んだ。


ぎこちなく、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#737 [ゆーちん]
学校に着き、職員室に行く。


担任が私を見て、目を丸くした。


「金河!」


久しぶりにその苗字を呼ばれた。


シホには苗字がなかったから。


「話を聞かせて下さい。こちらへ。」


担任が用意した教室に、3人で入る。


寒く、かび臭い教室。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#738 [ゆーちん]
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」


母が、頭を下げた。


目を疑う。


あの、母が?


「冬休みに入る前から、私が体調を崩してしまい、ずっとこの子が私の面倒を見てくれていたんです。」

「お母様が体調をお崩しで?」

⏰:09/01/25 11:55 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#739 [ゆーちん]
私は黙って、母の話を聞いた。


「はい。学校にも連絡出来なくて本当に、色々とお手数かけて申し訳ありません。」


よくもまぁそんな嘘を。


「いえ、事情があったのなら仕方ないです。また今日から登校してくれるのなら、私達教師側としても嬉しいですからね。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#740 [ゆーちん]
嘘臭い教師の笑顔を睨んでやった。


心配なんかしなかったくせに。


ただのサボりだと思ってたに違いない。


わざわざ頭を下げる必要なんてないよ、お母さん。


「金河。授業は進んで勉強について行けないかもしれない。そんな時はいつでも先生に相談しなさい。友達だって助けてくれる。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#741 [ゆーちん]
虫ずが走る。


萌子の友達なんて、何も助けてくれないよ。


話が終わり、担任が職員室に戻った。


「あの嘘、ちゃんと付き合うから。」


それだけ言って、私はさっさと母から離れようと歩き出した。


「あっ、萌子待って。」


足を止め、振り返ると、心臓が跳ね上がる光景が目に飛び込んで来た。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#742 [ゆーちん]
何年ぶりに見ただろう。


「お弁当、持って行きなさい。」

「…ん。」


これが、母からのお詫びのしるしなのだろうか。


ちょっと、泣きそうになった。


【ありがとう】を言うのが嫌で、お弁当を抱きしめ、私は教室までかけてった。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#743 [ゆーちん]
教室に入ると、視線が痛かった。


「萌子じゃ〜ん!」

「マジご無沙汰。」

「生きてたんだ、ウケる〜。」


何か…吐きそう。


また昔の自分に戻りそうで。


「おはよう。」


それだけ言って席に座った。

⏰:09/01/25 11:58 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#744 [ゆーちん]
上辺だけの奴らは、昔と同じように私に寄って来る。


「何でいきなりサボりだしちゃったのぉ〜?」

「別にサボってた訳じゃないよ。」

「いきなり携帯繋がんなくなったし、みんな大騒ぎだったし。」

「お金払ってなくて止まってた。」

「つか、化粧変えた?マジ、ウケんべ。」

「パンダみたいに真っ黒な目、もう流行んないしね。」

⏰:09/01/25 11:59 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#745 [ゆーちん]
「髪も真っ黒だし?」

「黒っていうか、茶色じゃない?私この色気に入ってんの。」

「ふーん。性格もコロッと変わったくない?」

「そう?ありがとう。」

「いきなり連絡途絶えて、もう死んだかと思ってたよ。ギャハハ!」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#746 [ゆーちん]
死んだよ、一回。


外見も内面も変わって、生まれ変わったんだよ。


もう、こんな上辺だけの友達はいらない。


きつい言い方だったかもしれないけど、私は伝えた。


「みんなといると疲れる。もう関わりたくないんだ。」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#747 [ゆーちん]
「…何だそれ。」

「ひどくない?」

「今までずっと仲良くやって来たじゃん。」


仲良く?


どこがだよ。


「ごめん、本気。一緒にいても楽しくないの。一緒にいるなら一人でいる方がマシ。」

⏰:09/01/25 12:01 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#748 [ゆーちん]
ブツブツと文句を言い、私の傍から離れると陰口を叩く。


イジメられたりするのかな?


別に怖いとは思わなかった。


退屈しのぎに調度いい、とさえ思える。


だけど元友達はいじめても来なかった。

⏰:09/01/25 12:02 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#749 [ゆーちん]
私なんかと友達だった事は最初から無かったかのような、そんな接し方。


それでいいよ。


みんなといた時より、なぜか一人でいる方が心が落ち着く。


もう、私には上辺だけの付き合いをする人はいらない。


スッキリした。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#750 [ゆーちん]
母からの初めてのお弁当。


あぁ、信じてみてもいいのかも…そう思った。


料理のしない母が、全て手づくりのおかずを隙間なく詰めてくれていた。


冷凍食品なんかじゃなく、包丁やフライパンを使って作るような、そんなおかずだった。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#751 [ゆーちん]
他の子にしてみちゃ、どうって事ないんだろうけど…私にとっては、これがきっかけで母を信じてみようかと思えたんだ。


そんな昼下がり。


冬晴れした空を見上げ、ちょっとだけ理想の家族像ってのを妄想してしまった。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#752 [ゆーちん]
父を信じてもいいのかもと思ったのは、萌子に戻って1ヵ月程経った時だろうか。


私が作った晩ご飯に、初めて『美味い』と感想を述べてくれた。


他愛もない事が私にとっては嬉しくて、3人揃って色違いの箸を使いながら食事をとるのが奇跡に近かったから。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#753 [ゆーちん]
萌子が死ぬ前に上辺で付き合っていた彼氏とやらは、いつのまにか私以外の彼女がいた。


驚きも、悲しみも、憎しみもない。


だって私にも大好きな彼氏がいるからね。


11ヵ月という月日は矢のように過ぎ、私は18歳になっていた。


彼も23歳になっている。

⏰:09/01/25 12:05 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#754 [ゆーちん]
そういえば宗太郎は元気だろうか。


あの襲撃の時に会った以来、顔も見てない。


連絡なんか取れる訳もなく、複雑な気持ちだけが残っていた。


私にちょっとばかし力をくれた宗太郎。


感謝しないといけないな。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#755 [ゆーちん]
12月。


なぜ11ヵ月もの間会わなかったのか。


理由なんかない。


戦った後、電話で『引き分けかも。』と伝えると『また冬に会おうな。』と言われた。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#756 [ゆーちん]
会いに行けば会ってくれる距離にいたのに11ヵ月もの間、会わなくても私は大丈夫だった。


自惚れだって言われてもいい。


私は見放されないっていう自信が、なぜか満々とあった。


12月の再会には意味があった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#757 [ゆーちん]
萌子に戻ってからの11ヵ月間、毎日なにかしら忙しかった。


援助交際ではないアルバイトをし、父だけの収入では苦しい家庭を支えた。


高校3年生になり、夏には就職先が決まった。


秋が過ぎ、冬が来る。


本当に早かった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#758 [ゆーちん]
私の気持ちを親に打ち明けたのは11月の末。


家を出て行きたい。


好きな人と住みたい。


でもたまには家族として、3人で過ごしたい。


答えはOKだった。


私がいなくなった去年の冬、2人は考えてくれたらしい。

⏰:09/01/25 12:09 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#759 [ゆーちん]
萌子にも幸せな人生を歩かせてやりたい、って。


初心に戻って、1からやり直したいって思ったんだって。


信じがたい話だったけど、信じてみようと思った。


もう暴力を振るって来なくなったから。

⏰:09/01/25 12:10 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#760 [ゆーちん]
そんな私の幸せが、家を出て好きな人と暮らす事なら応援すると親は言った。


だけど仕送りを頼まれた。


結局お金かよ、って思ったけど援交してた時の苦痛とか苛立ちは感じなかった。


2人は私の巣立ちを、私は2人への仕送りを承諾し、話はまとまった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#761 [ゆーちん]
久しぶりにその携帯電話を使う。


ずっと料金は支払われていて、いつでも使える状態にしてくれていた。


「もっしっしー。」

「フフッ。元気そうだね。」

「俺はいつだって元気。」


私の兄のような人の11ヵ月ぶりの声には、何の変わりもなかった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#762 [ゆーちん]
「あの倉庫に迎えに来てくんないかな?」

「おうよ!」


康孝の威勢のいい返事。


よかった。


私の新たな旅立ちの出だしは好調。


断られたら、そのお伽話は見事に狂っちゃうからね。

⏰:09/01/25 12:12 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#763 [ゆーちん]
「ヤッちゃーん!」

「お久〜!」


相変わらずうるさい車。


康孝も相変わらずで、頭をくしゃくしゃと掻き乱してくる意地悪なところは変わらない。


後部座席に乗り込み、車はシホの家に向かう。

⏰:09/01/25 12:13 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#764 [ゆーちん]
シホに戻った途端、笑顔がどんどん溢れて来る。


そんな車内で、康孝と色んな事を話した。


「髪伸びたなー。」

「専属の美容師がいるから、他の美容師には切って貰わないの。」

「プッ。芸能人かよ。」

「前髪だけは自分で切ってたけど。」

「ふーん。相変わらずパッツン前髪で色も大人しい茶色だな。シホちゃん、って感じ。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#765 [ゆーちん]
メイクだってシホのまま。


私自身、そんな自分を気に入っていたんだ。


「のんちゃん元気?」

「おー、元気元気。彼氏できたみたいだぞ。」

「うっそぉ!色々聞きたいなぁ。」

「んじゃ早速今日の集会来いよ。また迎えに来てやるから。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#766 [ゆーちん]
ちょうど車は目的地に到着。


「いいの?」

「遠慮はいらないぞ、マイシスター。」

「英語似合わないね。」

「うるせっ!んじゃまた夕方に。」

「うん。ありがと。」


うるさい車から降りると、康孝は走り去った。

⏰:09/01/25 12:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#767 [ゆーちん]
11ヵ月ぶりのもう一つの我が家。


インターホンを押す。


ガチャ…


ドアが開く。


持っていた荷物は思わず手からずり落ち、その手は迷わず前に伸びる。


金髪頭をした笑顔の彼に。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#768 [ゆーちん]
「…哲夫っ。」

「おかえり、シホ。」

「ただいま。」


そのあとしばらく、哲夫の腕の中で泣いたのは言うまでもないよね。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#769 [ゆーちん]
12月のシホの帰宅。


それには1つの約束が関わっていた。


『イルミネーションを飾ろう。来年まで我慢しろ。』


そう、あれは私の我が儘でもあった約束。


家にクリスマスのイルミネーションを飾りたいって言うと、哲夫は来年だと約束してくれた。


その約束が叶えるための12月の帰宅。

⏰:09/01/25 12:24 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#770 [ゆーちん]
「もう電球とかツリーとか買ってあっから、集会行くまでに飾り切っちゃおうか。」

「うん。」

「あっ、でもその前に…」


久しぶりのキスは、煙草の味がやけに濃かった。


だけど幸せなキスだった。

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#771 [ゆーちん]
この幸せにたどり着く為に随分辛い思いをしたけど、今なら胸を張って言える。


生きててよかった、って。


END

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#772 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

あとがき

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 12:26 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#773 [ゆーちん]
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今までのゆーちんの作品と、雰囲気はガラリと違ったんじゃないかなと思います。

テーマが重かった分、合間合間に楽しいシーンを入れようと頑張りましたが、どうだったでしょうかf^_^;

1番の長編作で、自分でもこんなに長くなるなんて思ってませんでした。

⏰:09/01/25 12:27 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#774 [ゆーちん]
もっと簡潔に終わらせたかったんですけど、伝えたい事が次から次へと溢れてしまい、こんな結果に(+_+)

ダラダラと長くなり、何が言いたいのかわからない、って批判があるかもしれません。

実際自分でもわからなくなったりしましたから…。

それは私の力不足なので謝ります(:_;)

すみませんm(__)m

⏰:09/01/25 12:28 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#775 [ゆーちん]
だけど何か1つでも伝わってくれたり、考えてくれたりしてくれると幸いです。

親子関係、友情、恋愛…などなど、みんな何かしら悩みを抱えているはずです。

自殺とか虐待とDVとか…。

私なんかの作品ですが役立てたらな、と思います(>_<)

⏰:09/01/25 12:29 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#776 [ゆーちん]
もっとあとがきで書きたい事があったんですが、約1ヵ月間ダラダラと更新して来て、やっと完結できた喜びに浸ってしまい、何がなんだか(-.-;)笑

また感想やアドバイスなどもいただけると嬉しいです!

⏰:09/01/25 12:30 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#777 [ゆーちん]
では、次に会えるのは【冷たい彼女〔続編〕】だと思うので、その時はまたよろしくお願いします。

長い間応援してくださった読者様、ありがとうございましたm(__)m

>>2

⏰:09/01/25 12:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#778 [かすみ]
お疲れさまでした(^^)

この小説大好きでした

たくさん大切な何かが得れた気がします!!
ありがとうございました

⏰:09/01/25 13:43 📱:D905i 🆔:☆☆☆


#779 [我輩は匿名である]

お疲れ様でした
毎日更新をのぞいて
読むのが楽しみでした
私にも過呼吸があって
なんだか重なっちゃいました
いつかその後の哲夫達も
読みたいです

⏰:09/01/25 19:31 📱:F903i 🆔:a4cqaN1A


#780 [我輩は匿名である]
いつも仕事終わってからの楽しみにしてました☆この小説読んで人の純粋なやさしさ、思いやり、絆など色々と考えさせられました。本当よかったです☆  
お疲れ様でした。また、小説書いてください!

⏰:09/01/25 21:19 📱:N703imyu 🆔:ZPezwmCI


#781 [ゆーちん]
>>778かすみさん

早速の感想ありがとうございます
そう言っていただけると頑張った甲斐あります
これからもよろしくお願いしますm(__)m

⏰:09/01/26 11:37 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#782 [ゆーちん]
>>779さん

感想ありがとうございます
実は私も過呼吸になった事あります
あれ、かなりキツイですよね生き地獄です

続編みたいなのは予定してないんですけど、機会があれば是非

応援ありがとうございました

⏰:09/01/26 11:39 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#783 [ゆーちん]
>>780さん

仕事終わりに読んでくださってたなんて…ありがとうございます
不定期更新で申し訳ありませんでした

また新作の方も頑張りますので、よろしくお願いしますm(__)m

⏰:09/01/26 11:40 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#784 [ゆーちん]
章ごとに
区切ったアンカーを
記載しておきます(^^)

よかったら
活用してみて下さい

⏰:09/01/26 11:41 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#785 [ゆーちん]
自殺
>>5-33

ナイフ
>>36-81

ペット
>>84-125

集会
>>127-206

リズム
>>208-260

看病
>>263-292

色違い
>>295-308

トラウマ
>>310-346

お釣り袋
>>351-406

襲撃
>>409-472

⏰:09/01/26 11:42 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#786 [ゆーちん]
お伽話
>>475-522

蕎麦
>>525-574

戦い
>>577-606

闇と光
>>611-636

仲間
>>639-671

ご褒美
>>675-711

笑顔
>>714-728

約束
>>730-771

あとがき
>>773-777

⏰:09/01/26 11:43 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#787 [エ]
主さんおつかれさまでしたイ
またあいましょー(´ω`)

⏰:09/01/27 17:07 📱:W51CA 🆔:flIK6.3A


#788 [我輩は匿名である]
主様お疲れ様でした
この小説大好きで何度も
読み返しました

また機会があれば
萌子と哲夫のその後が
見たいです

次の作品も頑張って下さい
応援してます

⏰:09/01/29 02:51 📱:SH906i 🆔:WNiAcyBg


#789 [我輩は匿名である]
まじ泣けた
主さんありがとう

⏰:09/03/01 21:39 📱:SH904i 🆔:BluT9KQY


#790 [ゆち]
久々に最後まで
飽きんと読んだ!

めちゃ泣いたし
最高でした!ありがとう

⏰:09/03/03 09:08 📱:D904i 🆔:pQoKFu4U


#791 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!

⏰:09/03/04 21:22 📱:SH903i 🆔:7oEXHjWo


#792 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!
ゆーちんさん大好き

⏰:09/03/04 21:22 📱:SH903i 🆔:7oEXHjWo


#793 [我輩は匿名である]
みんな読んで〜

⏰:09/03/27 08:17 📱:N903i 🆔:ANqnd7Y.


#794 [ユウ]
やっぱりいつ、何を見てもゆーちんさんは凄いです。考え方が変わります。あたしも自殺したいと思ってて、なかなか実行出来なくて、でもしなくてよかったかも。これからも生き方は変わらないけど、いつか素直な自分になりたいです。

⏰:09/03/28 02:29 📱:F03A 🆔:iERJNLWU


#795 [我輩は匿名である]
泣きました

⏰:09/04/03 11:48 📱:SH904i 🆔:hO9VD1pA


#796 [我輩は匿名である]
>>305-800

⏰:09/04/03 13:42 📱:N905imyu 🆔:d21HajVE


#797 [我輩は匿名である]
>>623-800

⏰:09/04/03 14:10 📱:N905imyu 🆔:d21HajVE


#798 [我輩は匿名である]
>>785
>>786

⏰:09/04/06 17:50 📱:N903i 🆔:mHTjdttY


#799 [我輩は匿名である]
>>1-200
>>200-400
>>400-600
>>600-800
>>800-1000

⏰:09/04/06 18:09 📱:D902i 🆔:☆☆☆


#800 [ゆーちん]
みなさん、感想ありがとうございます

私なんかの小説で泣いたり感動してもらえたり、色々考えてくれたり…

本当に嬉しいです

頑張って書いた甲斐ありました


もしよかったら、また感想板にも遊びに来て下さい

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4098/

⏰:09/04/10 08:55 📱:SH901iC 🆔:MY4.82P2


#801 [さや]
ゆーちんさんの小説
たくさん読んできましたが
この作品がいちばん泣けました!
めっちゃ感動ですh}

⏰:09/05/18 02:32 📱:W62SA 🆔:bvRtxkVo


#802 [まり]
ほんま感動した(*_*)
映画化してほしいし

⏰:09/05/20 17:50 📱:SH903i 🆔:S9yfVyHc


#803 [我輩は匿名である]

⏰:09/06/05 16:12 📱:N903i 🆔:☆☆☆


#804 [我輩は匿名である]
あげます
みんな読んで

⏰:09/07/10 10:47 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#805 [あると]
今の僕と重なって…

泣けました…


たくさんの人に、

読んで貰いたい´`*


作者サン、お疲れ様でした♪

⏰:09/07/26 19:19 📱:W64SA 🆔:wVnB5r6I


#806 [あき]
失礼します

>>1-200
>>200-400
>>400-600
>>600-800
>>800-1000

素敵なお話しです

⏰:09/07/30 00:49 📱:N02A 🆔:uHNk5mTs


#807 [*紫陽花*]
あげます
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:09/08/07 17:31 📱:N02A 🆔:xhzALeAY


#808 [我輩は匿名である]
あげん

⏰:09/08/10 20:51 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#809 [あうあう]
>>1-100
>>100-200
>>200-300
>>300-400
>>400-500
>>500-600
>>600-700
>>700-800
>>800-900
>>900-1000

⏰:09/08/10 21:47 📱:920P 🆔:P/2cbER6


#810 [*紫陽花*]
あげ∩・ω・`
あげ∩・ω・`

⏰:09/08/12 18:39 📱:N02A 🆔:ukkB6NT2


#811 [我輩は匿名である]
感動しました(;_;)

⏰:09/08/12 22:51 📱:N03A 🆔:1ywbmp3w


#812 [*紫陽花*]
あげ(´・3・`)

⏰:09/08/15 03:59 📱:N02A 🆔:OI5ek87Q


#813 [我輩は匿名である]
あげる

⏰:09/08/19 07:44 📱:P903iTV 🆔:☆☆☆


#814 [´ω`]
あっげゆ

⏰:09/10/01 00:26 📱:820N 🆔:38xTVtAQ


#815 [*]
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:09/10/11 00:46 📱:N02A 🆔:4Km8bYrc


#816 [*]
あげます(´・ω・`)
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:10/01/24 01:13 📱:N02A 🆔:Q9Ft8Mzk


#817 [我輩は匿名である]
泣ける作品

⏰:10/07/01 11:27 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#818 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:11/01/01 23:05 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#819 [我輩は匿名である]
新作希望

⏰:11/02/06 21:45 📱:D902i 🆔:☆☆☆


#820 [あゆ]
昨日から前作から全て読みました私自身と似ている部分もあってとてもいい作品で感動しましたこの続編も見てみたいしまた新しいもの見たいなと思いました素敵な作品をありがとうございました

⏰:12/02/13 16:25 📱:N07A3 🆔:5oYhmgQA


#821 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:12/11/28 11:28 📱:SH10C 🆔:☆☆☆


#822 [匿名]
あげる

⏰:12/12/28 14:05 📱:KYL21 🆔:☆☆☆


#823 [我輩は匿名である]
あげ。

⏰:13/11/25 22:52 📱:iPhone 🆔:fhrLlHMs


#824 [我輩は匿名である]
ふむふむ

⏰:14/05/17 22:26 📱:iPhone 🆔:p707pxDg


#825 [&◆JJNmA2e1As]
👨‍⚕️👩‍⚕️🕵👨👩‍🦱👨‍🦱👅👂🦻🧠👱‍♀️👨‍🦰👨‍🦰😻😻😻

⏰:22/10/01 17:24 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#826 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a

⏰:22/10/01 21:54 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#827 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/03 18:13 📱:Android 🆔:LEXcEWww


#828 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/04 21:16 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#829 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)

⏰:22/10/25 18:40 📱:Android 🆔:zH8LnywQ


#830 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑(∩゚∀゚)∩age

⏰:22/11/21 19:11 📱:Android 🆔:.FGKzkPw


#831 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑

⏰:23/01/26 09:42 📱:Android 🆔:gmyD7Q62


#832 [わをん◇◇]
>>1-30

⏰:23/01/26 09:43 📱:Android 🆔:gmyD7Q62


#833 [わをん◇◇]
>>780-810

⏰:23/01/26 09:43 📱:Android 🆔:gmyD7Q62


#834 [わをん◇◇]
>>770-790

⏰:23/01/26 09:43 📱:Android 🆔:gmyD7Q62


#835 [わをん◇◇]
>>760-775

⏰:23/01/26 09:44 📱:Android 🆔:gmyD7Q62


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