闇の中の光
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#101 [ゆーちん]
アゴで私をさす哲夫。
「えっ、飼うって…この子?」
哲夫は笑う。
私は何も言わない。
驚いている康孝は私に言った。
「あんた、テッちゃんに飼われんの?」
:08/12/30 17:54 :SH901iC :Z9srDs2E
#102 [ゆーちん]
私は何も言わず、康孝を見た。
「シホってあんたのこと?」
「…。」
「何で?つーか、死んだんじゃないのかよ。」
「死んだよ。」
「え?」
私が口を開くと、康孝はまた驚いていた。
「さっきの汚い女子高生は死んだ。」
「えっ…何言ってんの。」
:08/12/30 17:55 :SH901iC :Z9srDs2E
#103 [ゆーちん]
「私はシホ。哲夫に飼われてんの。ただのペットだよ。」
もう、死のうだなんて考えは1ミリもなかった。
今はただ、哲夫のペットなんだって自分で自分に言い聞かせている。
私はシホなんだ、って。
:08/12/30 17:55 :SH901iC :Z9srDs2E
#104 [ゆーちん]
全然理解のできていない康孝を見て、哲夫は笑った。
「どうよヤッちゃん。面白いペットだろ?」
「いや…つーかさ…」
「詳しい事はまた集会の時にでも教えてやるよ。とりあえず車出してよ。早くしないと日が暮れる。」
哲夫の頼みに、康孝は納得のいかないまま、頷いていた。
:08/12/30 17:56 :SH901iC :Z9srDs2E
#105 [ゆーちん]
「シホ、おいで。」
哲夫に呼ばれ、床から立ち上がった私。
いきなり目の前が暗くなった。
「はい、サングラス。すっぴんは嫌だろ?化粧品買ってやるから、それまでこれで我慢な。」
:08/12/30 17:57 :SH901iC :Z9srDs2E
#106 [ゆーちん]
「別にいらない。」
化粧品なんかいらない。
化粧なんか、みんながしていたからしていただけ。
萌子が死んだ今、もうみんなの真似っこは必要ない。
私はシホなんだ。
「遠慮すんなって。女の子なんだからおめかしは必要でしょ。あとこれ、被ってろ。」
:08/12/30 17:58 :SH901iC :Z9srDs2E
#107 [ゆーちん]
目深くキャップ帽を被せられた私。
どこからどう見ても…怪しいでしょ。
つなぎ服に、サングラス、キャップ帽。
「靴は?」
「あぁ…これ履いて。」
「裸足で?」
「嫌かよ。」
「うん。」
「もぉー!本当わがままな奴だな。」
:08/12/30 17:58 :SH901iC :Z9srDs2E
#108 [ゆーちん]
さすがにこの格好にローファーは合わないでしょ。
ていうか、半殺しされてフラフラだったのに、ちゃっかりローファー履いて出て来た自分が偉いと思った。
…あっ、違う。
自分じゃない。
萌子が、だ。
「ほれ。おっきいかもしんないけど我慢しろ。」
:08/12/30 17:59 :SH901iC :Z9srDs2E
#109 [ゆーちん]
哲夫が靴下を貸してくれたので、私は座って履いた。
予想通り、めちゃめちゃ大きい。
「行くぞ。」
靴も大きい。
歩きにくい。
「何ちんたら歩いてんだよ、もう。」
そう言って哲夫に手を引かれた。
おっきな手だった。
:08/12/30 17:59 :SH901iC :Z9srDs2E
#110 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込むと、勢いよく発車した。
…やけに、うるさい、この車。
流れている音楽も、デカい音だし英語だしで何言ってるかわかんないし、何より車自体の音がうるさかった。
「ごめんね、うっさいだろ。」
「うん。」
:08/12/30 18:00 :SH901iC :Z9srDs2E
#111 [ゆーちん]
「いじりすぎなんだよ、康の車は。」
「いじり?」
「改造っつーの?マフラーとかってわかる?」
「首に巻く?」
「あぁ、わかんないか。じゃあいいや。」
首に巻くマフラーじゃないの?
意味不明。
午後3時、そんな意味不明な車は街を駆け抜けて行く。
:08/12/30 18:01 :SH901iC :Z9srDs2E
#112 [ゆーちん]
窓から見る景色は見た事のない景色だった。
「ここ、どこ?」
「あ?」
「見た事ない街。」
窓の外を眺める私に、哲夫は言った。
:08/12/30 18:01 :SH901iC :Z9srDs2E
#113 [ゆーちん]
「シホはこの街で生まれたんだから、この街からずっと出るなよ。」
「…うん。」
私の知らない街。
いや、これが私の街。
萌子がいた街と、私のこの街はあまりにも違っていて…何だか頭が痛くなった。
:08/12/30 18:02 :SH901iC :Z9srDs2E
#114 [ゆーちん]
何軒もの店を回って、大量の下着や洋服、化粧品などを買ってもらった。
帽子、アクセサリー、靴、歯ブラシ、シャンプーにリンス。
最後は携帯電話まで買ってもらった。
信じられない。
この人の金の使い方、ちょっと引く。
:08/12/30 18:03 :SH901iC :Z9srDs2E
#115 [ゆーちん]
全部カードで、カードがだめなら絶対一万円を渡す。
お釣りはなぜか受けとらず、隣にいた康孝が受け取って、小さな袋に入れていた。
「こんなもんか?」
「え?」
「何か欲しいものあるか?」
私は首を横に振った。
これ以上、もう何もいらない。
:08/12/30 18:04 :SH901iC :Z9srDs2E
#116 [ゆーちん]
「まぁまたいるものあれば明日来よう。帰るぞ。」
再び康孝の運転する車に戻り、うるさく唸りながら車は走る。
外はぼんやり暗くなっている。
「テッちゃん、このまま集会直行しない?」
「あぁー、いいわ。歩いて行く。荷物片付けないと。」
:08/12/30 18:05 :SH901iC :Z9srDs2E
#117 [ゆーちん]
「手伝おうか?」
「いや、いい。康は先に行ってて。」
「ほーい。」
私と哲夫とたくさんの荷物が車から降りると、康孝の車は走り去った。
「さぁ〜!気合い入れて、片付けるぞ!」
:08/12/30 18:05 :SH901iC :Z9srDs2E
#118 [ゆーちん]
なぜか意気込む哲夫と一緒に部屋へと戻る。
「とりあえずだな、シホのクローゼットを作らないと。」
ドサッと荷物を床に置き、自分のクローゼットの中を片付け始めた。
「ねぇ。」
「んー?」
作業をしながら、哲夫は私の質問に耳を傾けてくれた。
:08/12/30 18:06 :SH901iC :Z9srDs2E
#119 [ゆーちん]
「何でペットなんか飼いたかったの?」
「えー?」
「面倒なだけだよ、ペットなんて。」
「そうなの?俺ペット飼った事ないからわかんない。」
「いらなくなったら、いつでも殺していいからね。」
:08/12/30 18:07 :SH901iC :Z9srDs2E
#120 [ゆーちん]
すると作業していた手を止めて、哲夫はあの力強い目で私を見た。
「…わかってる。だからもうその話はするな。」
それだけ言うと、また作業を開始した哲夫。
私は何も言わないまま、ベットの上に座った。
しばらくの沈黙。
:08/12/30 18:22 :SH901iC :Z9srDs2E
#121 [ゆーちん]
さきに破ったのは哲夫だった。
「シホ。」
「はい。」
「お前もうサングラスとキャップ取れよ。何かオフの芸能人みたいだぞ。」
哲夫が笑った。
「芸能人?」
「お忍びで買い物ですか?」
「…まぁね。」
「ブハッ!何様だっつーの!」
:08/12/30 18:22 :SH901iC :Z9srDs2E
#122 [ゆーちん]
サングラスとキャップを外し、つなぎも靴下も脱いだ。
「何脱いでんだよ。裸族か?」
「下着つけないと気持ち悪い。」
「あぁ…。」
顔色1つ変えないで、買って来たばかりの下着を取り出してくれた哲夫。
:08/12/30 18:23 :SH901iC :Z9srDs2E
#123 [ゆーちん]
「お前の服はこっから右だからな。下着とか靴下はとりあえず1番下の引き出し。」
「うん。」
「服の片付けぐらいできるよな?」
「うん。」
「じゃあ俺、集会行ってくるから留守番してろよ。早めに帰って来るけど眠かったら先に寝ろ。腹へったら冷蔵庫漁れ。風呂に行きたきゃ勝手に行け。わかったな?」
:08/12/30 18:24 :SH901iC :Z9srDs2E
#124 [ゆーちん]
私が頷くと、哲夫が近付いて来た。
「いい子にしてろよ。」
そう言って、私の頬に哲夫は自分の唇を押し付けた。
「いってきマンモス。」
「いってらっしゃい。」
哲夫は振り返らずに出て行った。
:08/12/30 18:25 :SH901iC :Z9srDs2E
#125 [ゆーちん]
一人ぼっちになった部屋。
急に静かになった部屋。
…なんだか、疲れた。
死ぬつもりが、目を開けると金髪野郎がいて。
殺してと頼んだら、萌子を殺してくれた。
私は数時間前にシホになって、哲夫のペットであって…ダメだ、頭が痛い。
私は片付けもせず、そのまま眠ってしまった。
:08/12/30 18:25 :SH901iC :Z9srDs2E
#126 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲
集会
▲▽▲▽▲▽▲
:09/01/01 10:30 :SH901iC :XAv2cR7M
#127 [ゆーちん]
目が覚めると、人の温もりを感じた。
誰かに包まれている。
初めての感覚だった。
人の温もりに包まれてるなんて…。
少し、体を動かしてみた。
左肩が痛かったから。
:09/01/01 10:31 :SH901iC :XAv2cR7M
#128 [ゆーちん]
すると、私を包んでくれていた哲夫は低く唸った。
「んんーっ。」
「…。」
起こしちゃいけないと思い、また目を閉じてじっとしていた。
どうやらまた眠ってしまい、再び目を開けると、なぜか哲夫が私を見ていた。
:09/01/01 10:31 :SH901iC :XAv2cR7M
#129 [ゆーちん]
「あ、起きた。」
「…。」
「なぁシホ。片付けるって意味わかるか?」
哲夫が笑った。
「…あ。」
服も靴も何もかも、全く片付けないで眠ってしまった事を思い出した。
「やっぱ、しつけ本買うべきかなー?」
「…ごめん。」
「一緒に片付けっか。」
:09/01/01 10:33 :SH901iC :XAv2cR7M
#130 [ゆーちん]
哲夫が起き上がると、温もりが薄れた。
それもそのはず。
下着だけしか身につけていないんだ、私。
「パジャマ買っただろ?何で下着姿なわけ。もう初冬だぞ?」
煙草に火をつけた哲夫。
「シホは煙草吸わないの?」
「吸わない。」
「そ。」
:09/01/01 10:33 :SH901iC :XAv2cR7M
#131 [ゆーちん]
「哲夫。」
「はいよ。」
「いつ帰って来たの?」
「2時ぐらい。」
「今日も集会あるの?」
「あるよ。行きたい?」
「ううん。」
「そ。なら留守番ね。」
「うん。」
:09/01/01 10:35 :SH901iC :XAv2cR7M
#132 [ゆーちん]
時計を見ると12時を迎えようとしていた。
どうりでお腹が空くわけだ。
「シホ。お腹空かない?」
「空いた。」
「昨日の昼から何も食べてないんだわ、俺。」
私は、いつから食べてないんだろう。
一昨日の昼からだから…丸2日かな。
:09/01/01 10:35 :SH901iC :XAv2cR7M
#133 [ゆーちん]
最後の食事はサンドイッチだった。
萌子として、友達と昼ご飯を食べた。
そして、昨日、萌子は死んだ。
私はシホになった。
シホになってから、まだ水一滴たりとも口にしていない。
今、やっと空腹感に襲われた。
あぁ、生きてるんだって思えた。
:09/01/01 10:36 :SH901iC :XAv2cR7M
#134 [ゆーちん]
「飯食い行くか。シホ昨日風呂入った?」
「入ってない。」
「俺も入ってないし、一緒に入るか。」
「…やだ。」
「お前に拒否権はない。」
ニッと笑い、私の頭を優しく叩いた哲夫は立ち上がり、浴室に向かった。
:09/01/01 10:37 :SH901iC :XAv2cR7M
#135 [ゆーちん]
私も立ち上がり、哲夫のあとを追った。
「ねぇ。」
「ん?」
「何でお湯、溜まってんの?」
「え?」
「いつ入れたの、お湯。」
「あぁ、機械が入れてくれんだよ。タイマーにして。俺毎日風呂入るの昼間だからさ、このくらいの時間になったら自動で溜まるように設定してあんの。」
:09/01/01 10:40 :SH901iC :XAv2cR7M
#136 [ゆーちん]
驚いた。
世の中そんな素敵な機能のついたお風呂があるんだ。
信じらんない。
「楽チンだね。」
「便利な世の中だよな。」
哲夫はポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草の火を消した。
:09/01/01 10:41 :SH901iC :XAv2cR7M
#137 [ゆーちん]
「はい、脱いで。入るよ。」
下着だけの私は簡単に裸になった。
哲夫もすぐに服を脱ぎ捨て、私と一緒に湯舟につかる。
「うーっ、気持ちいい。俺風呂好きなんだわ。」
「どうして夜入んないの?」
「疲れてそのまま寝ちゃうんだよ。だからいっつも起きたら入る。」
:09/01/01 10:58 :SH901iC :XAv2cR7M
#138 [ゆーちん]
「一日の始まりはお風呂からなんだね。」
「そゆ事〜。」
今日も、哲夫に後ろから抱きしめられながら体を温める。
背中やお腹をずっと撫でてくれるんだ。
理由はわからないけど、なぜか哲夫が触れた場所は、痛みが和らいだ。
:09/01/01 10:59 :SH901iC :XAv2cR7M
#139 [ゆーちん]
お風呂から出て、買って来た服を身にまとった。
「おぉー、似合う似合う。化粧もしろよ。化粧は女の身嗜みって言うからな。」
「…面倒だよ。」
「じゃあスッピンで行くのか?もしくはピザでも頼む?」
「…私が、作る。」
:09/01/01 11:00 :SH901iC :XAv2cR7M
#140 [ゆーちん]
キッチンに行き、冷蔵庫の中を見ると、何とかなりそうだと思った。
「えっ、お前料理できんの?」
「…うん。」
萌子の時は、毎日料理していたから。
作りたくもない料理を、毎日毎日我慢して作ってたから。
「お好み焼きでいい?」
:09/01/01 11:00 :SH901iC :XAv2cR7M
#141 [ゆーちん]
「お好み焼き作れんの?お前なかなかやるな!」
哲夫が笑った。
「作れるよ。」
「じゃあお好み焼き作って〜。俺、シホの荷物の片付け始めててやるわ。」
萌子が嫌々作ってた料理。
だけど私、シホが今から作る料理は嫌じゃない。
初めてワクワクする。
:09/01/01 11:01 :SH901iC :XAv2cR7M
#142 [ゆーちん]
だってさ、笑ってくれたから。
父は私が料理を作っても、1ミリ足りとも笑わなかった。
苦痛だった。
もう…忘れたい。
忘れよう。
だって萌子は死んだんだから。
友達や彼氏、家族はきっと萌子が死んだって悲しまない。
:09/01/01 11:02 :SH901iC :XAv2cR7M
#143 [ゆーちん]
「出来た。」
大きなお好み焼きをお皿に盛って、テーブルに置いた。
湯気が立ち上る。
いい匂い。
「美味そっ!まさかの才能だな。」
「哲夫のお箸ってどこにあるの?」
「そんなもんないよ。いつも割り箸。」
「そうなんだ。」
:09/01/01 15:26 :SH901iC :XAv2cR7M
#144 [ゆーちん]
哲夫がキッチンの棚から割り箸を2つ取り出した。
あそこが割り箸入れか。
覚えておかないと。
「はい、いただきます!」
「…いただきます。」
哲夫は大きく切り取ったお好み焼きを頬張った。
:09/01/01 15:27 :SH901iC :XAv2cR7M
#145 [ゆーちん]
「んー!うめぇ!」
素直に嬉しかった。
自分が作ったものを褒めてもらえるのは嬉しい事なんだ。
「よかった。」
「酢豚とかも作れんの?」
「うん。」
「グラタンも?カツ丼も?エビチリも?」
:09/01/01 15:28 :SH901iC :XAv2cR7M
#146 [ゆーちん]
「…たぶん、作れる。」
「すげぇ。和洋中パーフェクトなんだな。いいペット捕まえたわ〜。」
笑いながら哲夫はお好み焼きをどんどん食べて行く。
私も食べた。
うん、お好み焼きだ。
自分が作ったものはなぜか美味しいと思わない。
不思議。
:09/01/01 15:28 :SH901iC :XAv2cR7M
#147 [ゆーちん]
シホになって初めての食事が済み、片付けに専念した。
買い過ぎたかな、と自分でもわかっているらしく、反省しながら片付ける哲夫。
「テッちゃん。」
「はい。」
「哲夫。」
「はい。」
「テツ。」
「はい。」
「ご主人様。」
「はぁ?何言ってんだ?」
:09/01/01 16:10 :SH901iC :XAv2cR7M
#148 [ゆーちん]
鼻で笑われた。
「どの呼び方がいい?」
「…ご主人様っての、なかなか気分いいな。」
不適な笑み。
「それ以外。」
「じゃあ候補に挙げるな。呼び方なんか何でもいいよ。」
:09/01/01 16:11 :SH901iC :XAv2cR7M
#149 [ゆーちん]
何でもいい、が1番困る。
でも、本人が何でもいいって言ってるんだから好きに呼ぼう。
「哲夫。」
「結局その呼び方かよ。」
「トイレどこ?」
シホになって初めてのトイレ。
「しょんべんずっと我慢してたの?」
:09/01/01 16:12 :SH901iC :XAv2cR7M
#150 [ゆーちん]
「ううん。我慢なんかしてない。今初めてしたくなった。」
「どうなってんだ、お前の体は。」
笑いながら哲夫に案内されたトイレに入ると、目を疑うように輝く便器があった。
初めて済ませたトイレから出て、哲夫に聞いた。
:09/01/01 16:12 :SH901iC :XAv2cR7M
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