闇の中の光
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#700 [ゆーちん]
10分もすれば、シホでも萌子でも知らない景色が広がった。


「なぁシホちゃん、こんな事聞いて機嫌悪くしたらごめん。」

「何?」

「どこに住んでたの?」


康孝の質問に、私はひるむ事なく答えた。


すると車内の空気が一転。

⏰:09/01/24 21:50 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#701 [ゆーちん]
何か変な事でも言っただろうか。


哲夫と目が合い、どうしたのかと聞くと苦笑しながら言った。


「駅5つ。」

「え?」

「シホの住んでた場所と、萌子の住んでた場所は、駅5つ隣だって事。」

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#702 [ゆーちん]
これには驚いた。


そんなに近かったなんて。


外出なんて滅多になかったから、よその景色を知らない。


家族で出掛ける訳もなく、買い物は近くのスーパー。


援交も学校も付き合ってた彼氏達も、地元か隣街程度。

⏰:09/01/24 21:51 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#703 [ゆーちん]
「そんな…近かったんだ。」

「シホちゃん、いつでも連絡しろ。俺が地元以外の景色いっぱい見せてやっから。」


世間を知らない可哀相な子への同情としての優しさだったとしても、康孝の気遣いは嬉しいものだった。


「うん、ありがとう。」

⏰:09/01/24 21:52 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#704 [ゆーちん]
しばらく走ると康孝が哲夫に声をかけた。


「テッちゃーん、あの倉庫ここら辺だっけ?」

「んー…もう少し先じゃねぇの?」

「わかんねぇし。シホちゃん覚えてる?」

「え?」

「自分がナイフ拾った場所。」

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#705 [ゆーちん]
神様が置いてくれた、あのナイフを拾ったのは…どこだったっけ。


もう覚えてないよ。


そもそも、どうやって歩いてったのかもわからない。


「…ごめん。覚えてない。」

「そっか。仕方ねぇ、勘だ!」


そもそも、どうして哲夫はあの場所にナイフを落としたのだろう。

⏰:09/01/24 21:53 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#706 [ゆーちん]
そっと哲夫に聞いてみた。


一応、哲夫だけに聞こえるように声を出したつもりが、車内がうるさいため声を上げなくてはいけない。


自然と康孝の耳にも、声が聞こえてしまったらしい。


「えっ、テッちゃん話してなかったんだ。」

⏰:09/01/24 21:54 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#707 [ゆーちん]
康孝が笑った。


別にそんな複雑な理由がある訳じゃなさそうだ。


だったら聞いてもいいよね?


「そういえば話してなかったな。教えて欲しいか?」


私は頷いた。

⏰:09/01/24 21:55 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#708 [ゆーちん]
「あの日の集会は早く抜けて、康とラーメン食いに行ってたんだよ。」

「ラーメン?」

「そ。美味いラーメン屋ができたって噂聞いて。」

「味はイマイチだったけどな。」

「…それで?」

⏰:09/01/24 21:55 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#709 [ゆーちん]
「その帰りに康がションベンしたくなってさぁ。」

「はぁ?ションベンしたいって騒いだのは哲夫だろ?」

「バーカ。お前だっての。」

「いんや、哲夫だ。」

「どっちだっていいよ。それで?」

「倉庫の近くに草むらがあったから、そこでするかって事で結局2人でションベンした。」

⏰:09/01/24 21:56 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#710 [ゆーちん]
下品な話かもしれないが、私にとっては興味の沸く話だった。


続きを要求する。


「世の中物騒だから、康が護身用に持ってろってナイフくれたんだ。そのナイフは普段持ち歩かないんだけど、あの日はたまたま。それで案の定、倉庫前で落としちまった訳だ。家に帰ってから気付いて、康孝も帰っちまったから俺1人で探しに行ってさ。」

⏰:09/01/24 21:56 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#711 [ゆーちん]
普段は持ち歩かない。


たまたま持っていた。


倉庫前で落とした。


都合のいい解釈をしちゃうと、全て神様からのご褒美だったのかもって思ってしまう。


だって、こんなに私にとって都合のいい事が重なると、そう思っちゃうのも無理ないと思わない?

⏰:09/01/24 21:57 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#712 [ゆーちん]
▽▲▽▲▽▲▽

今日はここまで

>>2

▽▲▽▲▽▲▽

⏰:09/01/24 21:57 📱:SH901iC 🆔:JFMqBZYE


#713 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

笑顔

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 11:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#714 [ゆーちん]
倉庫前に一生到着するな。


…とか、別に思わなかった。


私には味方がいる。


今ならどんな苦しい戦いだろうが自分から噛み付きに行ける勢いだった。


「あっ、ここか。」


康孝はやっと道を思い出してくれたらしく、車の速度を落とした。

⏰:09/01/25 11:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#715 [ゆーちん]
見覚えの、あるような…ないような。


そんな倉庫前。


康孝は車のエンジンを切ったけど、私の耳の中は余韻だらけ。


そんなうざったい余韻でさえ、今では心地よかった。


「シホちゃん。」


運転席から、体をひねって後部座席の方を向く康孝。

⏰:09/01/25 11:17 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#716 [ゆーちん]
「俺にとってシホちゃんは妹みたいな奴だったよ。」


最高の笑顔。


やけに幼く見えてしまう、その笑顔が私は大好きだ。


「私も。ヤッちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だった。いっつも運転してくれて、本当ありがとう。」

⏰:09/01/25 11:18 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#717 [ゆーちん]
康孝にはどう見えたかわかんないけど、私なりの最高の笑顔だったと思う。


「お安いご用じゃ!」


髪の毛をグシャグシャに掻き回された。


その手の温もりは、哲夫の温もりとはまた違う暖かさ。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#718 [ゆーちん]
しおらしくなるのは嫌。


だから笑って車を降りた。


哲夫も後に続く。


康孝は降りて来なかった。


「シホ。」


哲夫に肩を抱かれ、私達は歩く。


ずっと無言のまま歩いた。


3度、角を曲がった時、哲夫は口を開いた。

⏰:09/01/25 11:19 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#719 [ゆーちん]
「ここで俺は女子高生を拾った。」


哲夫の視線は、冷たそうな地面だけを捕えていた。


「最初は死んでんだと思った。俺のナイフ握ってたから、すげぇびっくりした。」

「うん。」

「あまりにも汚い女で、何か笑えた。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#720 [ゆーちん]
哲夫の笑顔。


不思議なことに、それを見れば自然と勇気も沸く。


自分から、哲夫の腕から抜け出した。


「じゃあ、行くね。」

「道わかんのか?」

「何となく思い出せると思う。わかんなかったら誰かに聞くよ。」

⏰:09/01/25 11:20 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#721 [ゆーちん]
「そ。」

「ありがとう。」


【バイバイ】は言わない。


【バイバイ】したくないから。


また、会いたいから。


「シホ。」

「何?」

「いってらっしゃい。」


哲夫は右手をヒラヒラ動かし、私に手を振った。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#722 [ゆーちん]
私も手を振り返す。


「行ってきます。」


【いってらっしゃい】だなんて、哲夫に初めて言われた。


【行ってきます】だって、哲夫に初めて言った。


ちょっと、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:21 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#723 [ゆーちん]
哲夫に背を向け、歩き出した時。


「だぁー!待って!」


拍子抜けしちゃうような、哲夫の声。


足を止め、哲夫の方を向くと何か投げられた。


「落とすな!」

「えっ?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#724 [ゆーちん]
落とすまいと慌てて掴んだもの。


携帯電話だった。


「…これ。」

「服とか化粧品は置いといてやる。あと箸も。でも携帯電話は携帯って言うぐらいだから、携帯しねぇといけないもんじゃん?」

⏰:09/01/25 11:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#725 [ゆーちん]
哲夫、康孝、のんちゃん、チームの女の子達。


萌子の携帯電話より、登録件数は少ないけど、とても純粋な携帯電話だって自分では思う。


「いいの?」

「負けたら電話して来い!ぶっ飛んでってやるから。」


哲夫の笑顔も、最高だ。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#726 [ゆーちん]
涙は見せない。


笑顔を見せるんだ。


「ありがと。」

「次に会う時は、汚い格好で寝転がってんじゃなくて、綺麗な格好で恋人同士として会おうな!」

「うん!」


もう、振り返る事はなかった。


あまり見覚えのない道を堂々と歩いてやった。

⏰:09/01/25 11:32 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#727 [ゆーちん]
しばらく歩くと、すぐに見覚えのある道に出た。


足は自然と金河家に進む。


不思議と、人っこ一人出会わなかった。


目に映る、あの金河家。


吐き気がする。


そんな時は目を閉じて、笑顔を浮かべる。


のんちゃん、康孝、そして哲夫。

⏰:09/01/25 11:33 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#728 [ゆーちん]
よし、行こう。


私は歩くスピードを変えずに、家まで一直線と進んだ。


地獄への扉の鍵は開いたまま。


勢いよく扉を開けて、叫んでやった。


「ただいま!」

⏰:09/01/25 11:34 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#729 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

約束

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 11:48 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#730 [ゆーちん]
哲夫と過ごす季節は、いつだって寒い時だ。


11ヵ月ぶりの再会に、緊張などなかった。


ただただ気持ちが跳ね上がるだけ。


銀色だった頭は金色に戻り、1年前、死にきれなかった私を覗き込んだ哲夫を思い出させる。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#731 [ゆーちん]
11ヵ月前、私は戦った。


あの憎々しい親と。


もう殴られるのは懲り懲りだ。


私をストレス発散の道具にするな。


いらないなら私を施設に戻して。


涙を耐えながら訴えた。

⏰:09/01/25 11:49 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#732 [ゆーちん]
私は変わった。


哲夫達のおかげで、生きたいと思うようになった。


けど、変わったのは私だけではなかったようだ。


父は仕事を見つけ、酒を控えては朝から夕方まで毎日働くようになっていた。


母も不倫は辞めたのか続けているのかはわからないけど、毎日家に帰って来る。

⏰:09/01/25 11:50 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#733 [ゆーちん]
引き分けだと思った。


もう殴らない。


苦しめない。


萌子が必要だ。


確かにそう言った。


最初は信じられなかった。


口だけなら、何だって言える。


態度で表してもらうまで、警戒心はとけなかった。

⏰:09/01/25 11:51 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#734 [ゆーちん]
母を信じてもいいのかもしれない、と思ったのは私が萌子に戻って1週間後の事だった。


冬休みがちょうど終わったので、私は康孝にクリーニングしてもらった制服を着て高校にまた通う事にした。

⏰:09/01/25 11:52 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#735 [ゆーちん]
冬休み前から長く休んでいたのだ。


担任に何か色々と聞かれる事だろうと、うんざりしていた。


「…いってきます。」


朝、ぎこちなくリビングを出た。


「萌子。」

「…何?」


母は言った。


「一緒に学校まで行きましょう。ずっと休んでたんだから、先生に説明しないと。」

⏰:09/01/25 11:53 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#736 [ゆーちん]
驚いた。


授業参観なんて来た事もなく、個人懇談さえ嫌がる母が自ら学校に出向くなんて。


私と母は、朝の寒い道を歩いて学校まで進んだ。


ぎこちなく、くすぐったい。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#737 [ゆーちん]
学校に着き、職員室に行く。


担任が私を見て、目を丸くした。


「金河!」


久しぶりにその苗字を呼ばれた。


シホには苗字がなかったから。


「話を聞かせて下さい。こちらへ。」


担任が用意した教室に、3人で入る。


寒く、かび臭い教室。

⏰:09/01/25 11:54 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#738 [ゆーちん]
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」


母が、頭を下げた。


目を疑う。


あの、母が?


「冬休みに入る前から、私が体調を崩してしまい、ずっとこの子が私の面倒を見てくれていたんです。」

「お母様が体調をお崩しで?」

⏰:09/01/25 11:55 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#739 [ゆーちん]
私は黙って、母の話を聞いた。


「はい。学校にも連絡出来なくて本当に、色々とお手数かけて申し訳ありません。」


よくもまぁそんな嘘を。


「いえ、事情があったのなら仕方ないです。また今日から登校してくれるのなら、私達教師側としても嬉しいですからね。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#740 [ゆーちん]
嘘臭い教師の笑顔を睨んでやった。


心配なんかしなかったくせに。


ただのサボりだと思ってたに違いない。


わざわざ頭を下げる必要なんてないよ、お母さん。


「金河。授業は進んで勉強について行けないかもしれない。そんな時はいつでも先生に相談しなさい。友達だって助けてくれる。」

⏰:09/01/25 11:56 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#741 [ゆーちん]
虫ずが走る。


萌子の友達なんて、何も助けてくれないよ。


話が終わり、担任が職員室に戻った。


「あの嘘、ちゃんと付き合うから。」


それだけ言って、私はさっさと母から離れようと歩き出した。


「あっ、萌子待って。」


足を止め、振り返ると、心臓が跳ね上がる光景が目に飛び込んで来た。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#742 [ゆーちん]
何年ぶりに見ただろう。


「お弁当、持って行きなさい。」

「…ん。」


これが、母からのお詫びのしるしなのだろうか。


ちょっと、泣きそうになった。


【ありがとう】を言うのが嫌で、お弁当を抱きしめ、私は教室までかけてった。

⏰:09/01/25 11:57 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#743 [ゆーちん]
教室に入ると、視線が痛かった。


「萌子じゃ〜ん!」

「マジご無沙汰。」

「生きてたんだ、ウケる〜。」


何か…吐きそう。


また昔の自分に戻りそうで。


「おはよう。」


それだけ言って席に座った。

⏰:09/01/25 11:58 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#744 [ゆーちん]
上辺だけの奴らは、昔と同じように私に寄って来る。


「何でいきなりサボりだしちゃったのぉ〜?」

「別にサボってた訳じゃないよ。」

「いきなり携帯繋がんなくなったし、みんな大騒ぎだったし。」

「お金払ってなくて止まってた。」

「つか、化粧変えた?マジ、ウケんべ。」

「パンダみたいに真っ黒な目、もう流行んないしね。」

⏰:09/01/25 11:59 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#745 [ゆーちん]
「髪も真っ黒だし?」

「黒っていうか、茶色じゃない?私この色気に入ってんの。」

「ふーん。性格もコロッと変わったくない?」

「そう?ありがとう。」

「いきなり連絡途絶えて、もう死んだかと思ってたよ。ギャハハ!」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#746 [ゆーちん]
死んだよ、一回。


外見も内面も変わって、生まれ変わったんだよ。


もう、こんな上辺だけの友達はいらない。


きつい言い方だったかもしれないけど、私は伝えた。


「みんなといると疲れる。もう関わりたくないんだ。」

⏰:09/01/25 12:00 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#747 [ゆーちん]
「…何だそれ。」

「ひどくない?」

「今までずっと仲良くやって来たじゃん。」


仲良く?


どこがだよ。


「ごめん、本気。一緒にいても楽しくないの。一緒にいるなら一人でいる方がマシ。」

⏰:09/01/25 12:01 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#748 [ゆーちん]
ブツブツと文句を言い、私の傍から離れると陰口を叩く。


イジメられたりするのかな?


別に怖いとは思わなかった。


退屈しのぎに調度いい、とさえ思える。


だけど元友達はいじめても来なかった。

⏰:09/01/25 12:02 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#749 [ゆーちん]
私なんかと友達だった事は最初から無かったかのような、そんな接し方。


それでいいよ。


みんなといた時より、なぜか一人でいる方が心が落ち着く。


もう、私には上辺だけの付き合いをする人はいらない。


スッキリした。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#750 [ゆーちん]
母からの初めてのお弁当。


あぁ、信じてみてもいいのかも…そう思った。


料理のしない母が、全て手づくりのおかずを隙間なく詰めてくれていた。


冷凍食品なんかじゃなく、包丁やフライパンを使って作るような、そんなおかずだった。

⏰:09/01/25 12:03 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#751 [ゆーちん]
他の子にしてみちゃ、どうって事ないんだろうけど…私にとっては、これがきっかけで母を信じてみようかと思えたんだ。


そんな昼下がり。


冬晴れした空を見上げ、ちょっとだけ理想の家族像ってのを妄想してしまった。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#752 [ゆーちん]
父を信じてもいいのかもと思ったのは、萌子に戻って1ヵ月程経った時だろうか。


私が作った晩ご飯に、初めて『美味い』と感想を述べてくれた。


他愛もない事が私にとっては嬉しくて、3人揃って色違いの箸を使いながら食事をとるのが奇跡に近かったから。

⏰:09/01/25 12:04 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#753 [ゆーちん]
萌子が死ぬ前に上辺で付き合っていた彼氏とやらは、いつのまにか私以外の彼女がいた。


驚きも、悲しみも、憎しみもない。


だって私にも大好きな彼氏がいるからね。


11ヵ月という月日は矢のように過ぎ、私は18歳になっていた。


彼も23歳になっている。

⏰:09/01/25 12:05 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#754 [ゆーちん]
そういえば宗太郎は元気だろうか。


あの襲撃の時に会った以来、顔も見てない。


連絡なんか取れる訳もなく、複雑な気持ちだけが残っていた。


私にちょっとばかし力をくれた宗太郎。


感謝しないといけないな。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#755 [ゆーちん]
12月。


なぜ11ヵ月もの間会わなかったのか。


理由なんかない。


戦った後、電話で『引き分けかも。』と伝えると『また冬に会おうな。』と言われた。

⏰:09/01/25 12:06 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#756 [ゆーちん]
会いに行けば会ってくれる距離にいたのに11ヵ月もの間、会わなくても私は大丈夫だった。


自惚れだって言われてもいい。


私は見放されないっていう自信が、なぜか満々とあった。


12月の再会には意味があった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#757 [ゆーちん]
萌子に戻ってからの11ヵ月間、毎日なにかしら忙しかった。


援助交際ではないアルバイトをし、父だけの収入では苦しい家庭を支えた。


高校3年生になり、夏には就職先が決まった。


秋が過ぎ、冬が来る。


本当に早かった。

⏰:09/01/25 12:08 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#758 [ゆーちん]
私の気持ちを親に打ち明けたのは11月の末。


家を出て行きたい。


好きな人と住みたい。


でもたまには家族として、3人で過ごしたい。


答えはOKだった。


私がいなくなった去年の冬、2人は考えてくれたらしい。

⏰:09/01/25 12:09 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#759 [ゆーちん]
萌子にも幸せな人生を歩かせてやりたい、って。


初心に戻って、1からやり直したいって思ったんだって。


信じがたい話だったけど、信じてみようと思った。


もう暴力を振るって来なくなったから。

⏰:09/01/25 12:10 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#760 [ゆーちん]
そんな私の幸せが、家を出て好きな人と暮らす事なら応援すると親は言った。


だけど仕送りを頼まれた。


結局お金かよ、って思ったけど援交してた時の苦痛とか苛立ちは感じなかった。


2人は私の巣立ちを、私は2人への仕送りを承諾し、話はまとまった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#761 [ゆーちん]
久しぶりにその携帯電話を使う。


ずっと料金は支払われていて、いつでも使える状態にしてくれていた。


「もっしっしー。」

「フフッ。元気そうだね。」

「俺はいつだって元気。」


私の兄のような人の11ヵ月ぶりの声には、何の変わりもなかった。

⏰:09/01/25 12:11 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#762 [ゆーちん]
「あの倉庫に迎えに来てくんないかな?」

「おうよ!」


康孝の威勢のいい返事。


よかった。


私の新たな旅立ちの出だしは好調。


断られたら、そのお伽話は見事に狂っちゃうからね。

⏰:09/01/25 12:12 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#763 [ゆーちん]
「ヤッちゃーん!」

「お久〜!」


相変わらずうるさい車。


康孝も相変わらずで、頭をくしゃくしゃと掻き乱してくる意地悪なところは変わらない。


後部座席に乗り込み、車はシホの家に向かう。

⏰:09/01/25 12:13 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#764 [ゆーちん]
シホに戻った途端、笑顔がどんどん溢れて来る。


そんな車内で、康孝と色んな事を話した。


「髪伸びたなー。」

「専属の美容師がいるから、他の美容師には切って貰わないの。」

「プッ。芸能人かよ。」

「前髪だけは自分で切ってたけど。」

「ふーん。相変わらずパッツン前髪で色も大人しい茶色だな。シホちゃん、って感じ。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#765 [ゆーちん]
メイクだってシホのまま。


私自身、そんな自分を気に入っていたんだ。


「のんちゃん元気?」

「おー、元気元気。彼氏できたみたいだぞ。」

「うっそぉ!色々聞きたいなぁ。」

「んじゃ早速今日の集会来いよ。また迎えに来てやるから。」

⏰:09/01/25 12:15 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#766 [ゆーちん]
ちょうど車は目的地に到着。


「いいの?」

「遠慮はいらないぞ、マイシスター。」

「英語似合わないね。」

「うるせっ!んじゃまた夕方に。」

「うん。ありがと。」


うるさい車から降りると、康孝は走り去った。

⏰:09/01/25 12:16 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#767 [ゆーちん]
11ヵ月ぶりのもう一つの我が家。


インターホンを押す。


ガチャ…


ドアが開く。


持っていた荷物は思わず手からずり落ち、その手は迷わず前に伸びる。


金髪頭をした笑顔の彼に。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#768 [ゆーちん]
「…哲夫っ。」

「おかえり、シホ。」

「ただいま。」


そのあとしばらく、哲夫の腕の中で泣いたのは言うまでもないよね。

⏰:09/01/25 12:23 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#769 [ゆーちん]
12月のシホの帰宅。


それには1つの約束が関わっていた。


『イルミネーションを飾ろう。来年まで我慢しろ。』


そう、あれは私の我が儘でもあった約束。


家にクリスマスのイルミネーションを飾りたいって言うと、哲夫は来年だと約束してくれた。


その約束が叶えるための12月の帰宅。

⏰:09/01/25 12:24 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#770 [ゆーちん]
「もう電球とかツリーとか買ってあっから、集会行くまでに飾り切っちゃおうか。」

「うん。」

「あっ、でもその前に…」


久しぶりのキスは、煙草の味がやけに濃かった。


だけど幸せなキスだった。

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#771 [ゆーちん]
この幸せにたどり着く為に随分辛い思いをしたけど、今なら胸を張って言える。


生きててよかった、って。


END

⏰:09/01/25 12:25 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#772 [ゆーちん]
▲▽▲▽▲▽▲

あとがき

▲▽▲▽▲▽▲

⏰:09/01/25 12:26 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#773 [ゆーちん]
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今までのゆーちんの作品と、雰囲気はガラリと違ったんじゃないかなと思います。

テーマが重かった分、合間合間に楽しいシーンを入れようと頑張りましたが、どうだったでしょうかf^_^;

1番の長編作で、自分でもこんなに長くなるなんて思ってませんでした。

⏰:09/01/25 12:27 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#774 [ゆーちん]
もっと簡潔に終わらせたかったんですけど、伝えたい事が次から次へと溢れてしまい、こんな結果に(+_+)

ダラダラと長くなり、何が言いたいのかわからない、って批判があるかもしれません。

実際自分でもわからなくなったりしましたから…。

それは私の力不足なので謝ります(:_;)

すみませんm(__)m

⏰:09/01/25 12:28 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#775 [ゆーちん]
だけど何か1つでも伝わってくれたり、考えてくれたりしてくれると幸いです。

親子関係、友情、恋愛…などなど、みんな何かしら悩みを抱えているはずです。

自殺とか虐待とDVとか…。

私なんかの作品ですが役立てたらな、と思います(>_<)

⏰:09/01/25 12:29 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#776 [ゆーちん]
もっとあとがきで書きたい事があったんですが、約1ヵ月間ダラダラと更新して来て、やっと完結できた喜びに浸ってしまい、何がなんだか(-.-;)笑

また感想やアドバイスなどもいただけると嬉しいです!

⏰:09/01/25 12:30 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#777 [ゆーちん]
では、次に会えるのは【冷たい彼女〔続編〕】だと思うので、その時はまたよろしくお願いします。

長い間応援してくださった読者様、ありがとうございましたm(__)m

>>2

⏰:09/01/25 12:31 📱:SH901iC 🆔:PIdEEYAI


#778 [かすみ]
お疲れさまでした(^^)

この小説大好きでした

たくさん大切な何かが得れた気がします!!
ありがとうございました

⏰:09/01/25 13:43 📱:D905i 🆔:☆☆☆


#779 [我輩は匿名である]

お疲れ様でした
毎日更新をのぞいて
読むのが楽しみでした
私にも過呼吸があって
なんだか重なっちゃいました
いつかその後の哲夫達も
読みたいです

⏰:09/01/25 19:31 📱:F903i 🆔:a4cqaN1A


#780 [我輩は匿名である]
いつも仕事終わってからの楽しみにしてました☆この小説読んで人の純粋なやさしさ、思いやり、絆など色々と考えさせられました。本当よかったです☆  
お疲れ様でした。また、小説書いてください!

⏰:09/01/25 21:19 📱:N703imyu 🆔:ZPezwmCI


#781 [ゆーちん]
>>778かすみさん

早速の感想ありがとうございます
そう言っていただけると頑張った甲斐あります
これからもよろしくお願いしますm(__)m

⏰:09/01/26 11:37 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#782 [ゆーちん]
>>779さん

感想ありがとうございます
実は私も過呼吸になった事あります
あれ、かなりキツイですよね生き地獄です

続編みたいなのは予定してないんですけど、機会があれば是非

応援ありがとうございました

⏰:09/01/26 11:39 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#783 [ゆーちん]
>>780さん

仕事終わりに読んでくださってたなんて…ありがとうございます
不定期更新で申し訳ありませんでした

また新作の方も頑張りますので、よろしくお願いしますm(__)m

⏰:09/01/26 11:40 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#784 [ゆーちん]
章ごとに
区切ったアンカーを
記載しておきます(^^)

よかったら
活用してみて下さい

⏰:09/01/26 11:41 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#785 [ゆーちん]
自殺
>>5-33

ナイフ
>>36-81

ペット
>>84-125

集会
>>127-206

リズム
>>208-260

看病
>>263-292

色違い
>>295-308

トラウマ
>>310-346

お釣り袋
>>351-406

襲撃
>>409-472

⏰:09/01/26 11:42 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#786 [ゆーちん]
お伽話
>>475-522

蕎麦
>>525-574

戦い
>>577-606

闇と光
>>611-636

仲間
>>639-671

ご褒美
>>675-711

笑顔
>>714-728

約束
>>730-771

あとがき
>>773-777

⏰:09/01/26 11:43 📱:SH901iC 🆔:/YQU96WE


#787 [エ]
主さんおつかれさまでしたイ
またあいましょー(´ω`)

⏰:09/01/27 17:07 📱:W51CA 🆔:flIK6.3A


#788 [我輩は匿名である]
主様お疲れ様でした
この小説大好きで何度も
読み返しました

また機会があれば
萌子と哲夫のその後が
見たいです

次の作品も頑張って下さい
応援してます

⏰:09/01/29 02:51 📱:SH906i 🆔:WNiAcyBg


#789 [我輩は匿名である]
まじ泣けた
主さんありがとう

⏰:09/03/01 21:39 📱:SH904i 🆔:BluT9KQY


#790 [ゆち]
久々に最後まで
飽きんと読んだ!

めちゃ泣いたし
最高でした!ありがとう

⏰:09/03/03 09:08 📱:D904i 🆔:pQoKFu4U


#791 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!

⏰:09/03/04 21:22 📱:SH903i 🆔:7oEXHjWo


#792 [我輩は匿名である]
めちゃおもしろい
感動です!
ゆーちんさん大好き

⏰:09/03/04 21:22 📱:SH903i 🆔:7oEXHjWo


#793 [我輩は匿名である]
みんな読んで〜

⏰:09/03/27 08:17 📱:N903i 🆔:ANqnd7Y.


#794 [ユウ]
やっぱりいつ、何を見てもゆーちんさんは凄いです。考え方が変わります。あたしも自殺したいと思ってて、なかなか実行出来なくて、でもしなくてよかったかも。これからも生き方は変わらないけど、いつか素直な自分になりたいです。

⏰:09/03/28 02:29 📱:F03A 🆔:iERJNLWU


#795 [我輩は匿名である]
泣きました

⏰:09/04/03 11:48 📱:SH904i 🆔:hO9VD1pA


#796 [我輩は匿名である]
>>305-800

⏰:09/04/03 13:42 📱:N905imyu 🆔:d21HajVE


#797 [我輩は匿名である]
>>623-800

⏰:09/04/03 14:10 📱:N905imyu 🆔:d21HajVE


#798 [我輩は匿名である]
>>785
>>786

⏰:09/04/06 17:50 📱:N903i 🆔:mHTjdttY


#799 [我輩は匿名である]
>>1-200
>>200-400
>>400-600
>>600-800
>>800-1000

⏰:09/04/06 18:09 📱:D902i 🆔:☆☆☆


#800 [ゆーちん]
みなさん、感想ありがとうございます

私なんかの小説で泣いたり感動してもらえたり、色々考えてくれたり…

本当に嬉しいです

頑張って書いた甲斐ありました


もしよかったら、また感想板にも遊びに来て下さい

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4098/

⏰:09/04/10 08:55 📱:SH901iC 🆔:MY4.82P2


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