闇の中の光
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#84 [ゆーちん]
携帯も財布も着替えもない。
「欲しいものある?シホ。」
シホと呼ばれてもしっくりこない。
私は17年間、萌子だったわけで、今もまだ萌子。
だからいきなりシホだって言われても、頭がついて行かなかった。
:08/12/30 16:15 :SH901iC :Z9srDs2E
#85 [ゆーちん]
「…特に何も。」
「とりあえず…風呂だな。汚すぎる。」
哲夫の手を借りて、浴室に向かった。
立っているのも辛い。
制服を脱がせてもらい、下着も取ってもらった。
微動だにしない哲夫。
「哲夫。」
「おっ、やっと名前呼んだね。何?」
:08/12/30 16:16 :SH901iC :Z9srDs2E
#86 [ゆーちん]
「何歳?」
「俺?22歳。シホは?」
「…。」
「おい。」
…あぁ、シホは私か。
「17。」
「ふーん、若いね。」
「17の裸見て、動揺とかしないの?」
:08/12/30 16:17 :SH901iC :Z9srDs2E
#87 [ゆーちん]
「して欲しいの?」
「別に。援交の客だった親父は、みんな嬉しそうに私の裸見てたから。」
「…。」
また力強い目で私を見た哲夫。
どう、引いた?
汚いと思った?
捨てるなら捨ててもいいよ。
突き放される事なら慣れてるから。
:08/12/30 16:17 :SH901iC :Z9srDs2E
#88 [ゆーちん]
「シホは援交なんかしてないよ。」
哲夫はそう言って自分の服を脱ぎ出した。
何、言ってんの、こいつ。
意味わかんない…。
:08/12/30 16:18 :SH901iC :Z9srDs2E
#89 [ゆーちん]
お互い、素っ裸になって、温かいお風呂に入った。
湯舟につかりながら、哲夫は言った。
「おいで。」
何で行かなきゃなんないの。
無視していると、哲夫自ら私の方に寄って来た。
「しつけが必要だな。」
:08/12/30 16:18 :SH901iC :Z9srDs2E
#90 [ゆーちん]
私の後ろに周り、私を抱え込む。
何してんだ。
そんなうっとーしい事しないで欲しい。
:08/12/30 16:19 :SH901iC :Z9srDs2E
#91 [ゆーちん]
「どっかの野良犬と喧嘩でもした?痛かっただろ。」
そう言うと哲夫は私の背中を撫で始めた。
「は?」
「お腹も青アザあったし。大丈夫?」
さっき、私を殺そうとしていたのは、この哲夫だよね?
:08/12/30 17:46 :SH901iC :Z9srDs2E
#92 [ゆーちん]
声や態度が優し過ぎて、別人のような気がする。
「野良のくせに跳び蹴りのできる犬だったの。」
「そりゃおっかないね。」
哲夫が後ろで笑った。
私も、なぜか笑ってしまった。
:08/12/30 17:47 :SH901iC :Z9srDs2E
#93 [ゆーちん]
作り笑顔以外でちゃんと笑ったのはいつぶりだろう。
そんな私の背中やお腹を、何度も何度も哲夫は撫でてくれた。
:08/12/30 17:47 :SH901iC :Z9srDs2E
#94 [ゆーちん]
死にたかった理由とか、傷の理由を深く聞いて来ないので助かる。
「風呂から出たら、まずは買い物だな。色々必要なんだな、ペット飼うって。」
髪や体を綺麗に洗い終わり、お風呂から出ると、裸のまま部屋中をうろついてやった。
:08/12/30 17:48 :SH901iC :Z9srDs2E
#95 [ゆーちん]
「服着ろよ。」
「汚いもん。」
脱衣所にある脱ぎ捨てた制服しかない私。
「あ、そっか。着替えないんだっけ。」
そう言った哲夫は、クローゼットから上下繋がった服を取り出した。
:08/12/30 17:49 :SH901iC :Z9srDs2E
#96 [ゆーちん]
「何これ。」
「つなぎ服っつーの?見た事ない?」
「工事現場の人みたい。」
「いや?」
「いや。」
「もぉー、ペットのくせに文句言うなよ。」
そう言って哲夫は携帯電話で誰かに電話をかけた。
「お前、戻って来れる?…うん…うん…そう、じゃあ。」
簡単な電話を済ませた哲夫は、服を探すのをやめて、再びつなぎ服を私に手渡した。
:08/12/30 17:50 :SH901iC :Z9srDs2E
#97 [ゆーちん]
「康が来るから車出して貰おう。いるものとか欲しいものとか何でも買ってやるよ。」
「康って…」
「さっきのバカヅラ男。康孝って言って、みんなから康とかヤッちゃんて呼ばれてる。」
「そうなんだ。」
:08/12/30 17:51 :SH901iC :Z9srDs2E
#98 [ゆーちん]
パンツ一枚のまま、哲夫は煙草を吸い始めた。
「康が来るまでに服着ろよ。」
「…何で?」
「何でって…主人の命令だからだよ。」
「ふーん、主人ねぇ。」
下着もつけずに、言われた通りつなぎ服を着た。
「おっきい。」
「仕方ねぇだろ。男物なんだから。」
:08/12/30 17:52 :SH901iC :Z9srDs2E
#99 [ゆーちん]
「普通のTシャツとかないの?」
「あるけど…Tシャツのがいいのか?」
「うん。」
「…わがままな奴だな。買い物行ったら、しつけ本も買わないとなー。」
そう言って笑うだけで、結局哲夫はTシャツも出してくれなかった。
:08/12/30 17:53 :SH901iC :Z9srDs2E
#100 [ゆーちん]
しばらくすると、さっきの男が来た。
康孝だ。
「お待たせ〜。」
「悪いな。ちょっと車出してくれる?」
「えぇ!来ていきなり?」
「シホを飼うのに色々必要でさ。」
「…シホ?犬でも飼うの?」
キョトンとする康孝に、哲夫は言った。
「犬じゃない。人間だ。」
:08/12/30 17:53 :SH901iC :Z9srDs2E
#101 [ゆーちん]
アゴで私をさす哲夫。
「えっ、飼うって…この子?」
哲夫は笑う。
私は何も言わない。
驚いている康孝は私に言った。
「あんた、テッちゃんに飼われんの?」
:08/12/30 17:54 :SH901iC :Z9srDs2E
#102 [ゆーちん]
私は何も言わず、康孝を見た。
「シホってあんたのこと?」
「…。」
「何で?つーか、死んだんじゃないのかよ。」
「死んだよ。」
「え?」
私が口を開くと、康孝はまた驚いていた。
「さっきの汚い女子高生は死んだ。」
「えっ…何言ってんの。」
:08/12/30 17:55 :SH901iC :Z9srDs2E
#103 [ゆーちん]
「私はシホ。哲夫に飼われてんの。ただのペットだよ。」
もう、死のうだなんて考えは1ミリもなかった。
今はただ、哲夫のペットなんだって自分で自分に言い聞かせている。
私はシホなんだ、って。
:08/12/30 17:55 :SH901iC :Z9srDs2E
#104 [ゆーちん]
全然理解のできていない康孝を見て、哲夫は笑った。
「どうよヤッちゃん。面白いペットだろ?」
「いや…つーかさ…」
「詳しい事はまた集会の時にでも教えてやるよ。とりあえず車出してよ。早くしないと日が暮れる。」
哲夫の頼みに、康孝は納得のいかないまま、頷いていた。
:08/12/30 17:56 :SH901iC :Z9srDs2E
#105 [ゆーちん]
「シホ、おいで。」
哲夫に呼ばれ、床から立ち上がった私。
いきなり目の前が暗くなった。
「はい、サングラス。すっぴんは嫌だろ?化粧品買ってやるから、それまでこれで我慢な。」
:08/12/30 17:57 :SH901iC :Z9srDs2E
#106 [ゆーちん]
「別にいらない。」
化粧品なんかいらない。
化粧なんか、みんながしていたからしていただけ。
萌子が死んだ今、もうみんなの真似っこは必要ない。
私はシホなんだ。
「遠慮すんなって。女の子なんだからおめかしは必要でしょ。あとこれ、被ってろ。」
:08/12/30 17:58 :SH901iC :Z9srDs2E
#107 [ゆーちん]
目深くキャップ帽を被せられた私。
どこからどう見ても…怪しいでしょ。
つなぎ服に、サングラス、キャップ帽。
「靴は?」
「あぁ…これ履いて。」
「裸足で?」
「嫌かよ。」
「うん。」
「もぉー!本当わがままな奴だな。」
:08/12/30 17:58 :SH901iC :Z9srDs2E
#108 [ゆーちん]
さすがにこの格好にローファーは合わないでしょ。
ていうか、半殺しされてフラフラだったのに、ちゃっかりローファー履いて出て来た自分が偉いと思った。
…あっ、違う。
自分じゃない。
萌子が、だ。
「ほれ。おっきいかもしんないけど我慢しろ。」
:08/12/30 17:59 :SH901iC :Z9srDs2E
#109 [ゆーちん]
哲夫が靴下を貸してくれたので、私は座って履いた。
予想通り、めちゃめちゃ大きい。
「行くぞ。」
靴も大きい。
歩きにくい。
「何ちんたら歩いてんだよ、もう。」
そう言って哲夫に手を引かれた。
おっきな手だった。
:08/12/30 17:59 :SH901iC :Z9srDs2E
#110 [ゆーちん]
康孝の車に乗り込むと、勢いよく発車した。
…やけに、うるさい、この車。
流れている音楽も、デカい音だし英語だしで何言ってるかわかんないし、何より車自体の音がうるさかった。
「ごめんね、うっさいだろ。」
「うん。」
:08/12/30 18:00 :SH901iC :Z9srDs2E
#111 [ゆーちん]
「いじりすぎなんだよ、康の車は。」
「いじり?」
「改造っつーの?マフラーとかってわかる?」
「首に巻く?」
「あぁ、わかんないか。じゃあいいや。」
首に巻くマフラーじゃないの?
意味不明。
午後3時、そんな意味不明な車は街を駆け抜けて行く。
:08/12/30 18:01 :SH901iC :Z9srDs2E
#112 [ゆーちん]
窓から見る景色は見た事のない景色だった。
「ここ、どこ?」
「あ?」
「見た事ない街。」
窓の外を眺める私に、哲夫は言った。
:08/12/30 18:01 :SH901iC :Z9srDs2E
#113 [ゆーちん]
「シホはこの街で生まれたんだから、この街からずっと出るなよ。」
「…うん。」
私の知らない街。
いや、これが私の街。
萌子がいた街と、私のこの街はあまりにも違っていて…何だか頭が痛くなった。
:08/12/30 18:02 :SH901iC :Z9srDs2E
#114 [ゆーちん]
何軒もの店を回って、大量の下着や洋服、化粧品などを買ってもらった。
帽子、アクセサリー、靴、歯ブラシ、シャンプーにリンス。
最後は携帯電話まで買ってもらった。
信じられない。
この人の金の使い方、ちょっと引く。
:08/12/30 18:03 :SH901iC :Z9srDs2E
#115 [ゆーちん]
全部カードで、カードがだめなら絶対一万円を渡す。
お釣りはなぜか受けとらず、隣にいた康孝が受け取って、小さな袋に入れていた。
「こんなもんか?」
「え?」
「何か欲しいものあるか?」
私は首を横に振った。
これ以上、もう何もいらない。
:08/12/30 18:04 :SH901iC :Z9srDs2E
#116 [ゆーちん]
「まぁまたいるものあれば明日来よう。帰るぞ。」
再び康孝の運転する車に戻り、うるさく唸りながら車は走る。
外はぼんやり暗くなっている。
「テッちゃん、このまま集会直行しない?」
「あぁー、いいわ。歩いて行く。荷物片付けないと。」
:08/12/30 18:05 :SH901iC :Z9srDs2E
#117 [ゆーちん]
「手伝おうか?」
「いや、いい。康は先に行ってて。」
「ほーい。」
私と哲夫とたくさんの荷物が車から降りると、康孝の車は走り去った。
「さぁ〜!気合い入れて、片付けるぞ!」
:08/12/30 18:05 :SH901iC :Z9srDs2E
#118 [ゆーちん]
なぜか意気込む哲夫と一緒に部屋へと戻る。
「とりあえずだな、シホのクローゼットを作らないと。」
ドサッと荷物を床に置き、自分のクローゼットの中を片付け始めた。
「ねぇ。」
「んー?」
作業をしながら、哲夫は私の質問に耳を傾けてくれた。
:08/12/30 18:06 :SH901iC :Z9srDs2E
#119 [ゆーちん]
「何でペットなんか飼いたかったの?」
「えー?」
「面倒なだけだよ、ペットなんて。」
「そうなの?俺ペット飼った事ないからわかんない。」
「いらなくなったら、いつでも殺していいからね。」
:08/12/30 18:07 :SH901iC :Z9srDs2E
#120 [ゆーちん]
すると作業していた手を止めて、哲夫はあの力強い目で私を見た。
「…わかってる。だからもうその話はするな。」
それだけ言うと、また作業を開始した哲夫。
私は何も言わないまま、ベットの上に座った。
しばらくの沈黙。
:08/12/30 18:22 :SH901iC :Z9srDs2E
#121 [ゆーちん]
さきに破ったのは哲夫だった。
「シホ。」
「はい。」
「お前もうサングラスとキャップ取れよ。何かオフの芸能人みたいだぞ。」
哲夫が笑った。
「芸能人?」
「お忍びで買い物ですか?」
「…まぁね。」
「ブハッ!何様だっつーの!」
:08/12/30 18:22 :SH901iC :Z9srDs2E
#122 [ゆーちん]
サングラスとキャップを外し、つなぎも靴下も脱いだ。
「何脱いでんだよ。裸族か?」
「下着つけないと気持ち悪い。」
「あぁ…。」
顔色1つ変えないで、買って来たばかりの下着を取り出してくれた哲夫。
:08/12/30 18:23 :SH901iC :Z9srDs2E
#123 [ゆーちん]
「お前の服はこっから右だからな。下着とか靴下はとりあえず1番下の引き出し。」
「うん。」
「服の片付けぐらいできるよな?」
「うん。」
「じゃあ俺、集会行ってくるから留守番してろよ。早めに帰って来るけど眠かったら先に寝ろ。腹へったら冷蔵庫漁れ。風呂に行きたきゃ勝手に行け。わかったな?」
:08/12/30 18:24 :SH901iC :Z9srDs2E
#124 [ゆーちん]
私が頷くと、哲夫が近付いて来た。
「いい子にしてろよ。」
そう言って、私の頬に哲夫は自分の唇を押し付けた。
「いってきマンモス。」
「いってらっしゃい。」
哲夫は振り返らずに出て行った。
:08/12/30 18:25 :SH901iC :Z9srDs2E
#125 [ゆーちん]
一人ぼっちになった部屋。
急に静かになった部屋。
…なんだか、疲れた。
死ぬつもりが、目を開けると金髪野郎がいて。
殺してと頼んだら、萌子を殺してくれた。
私は数時間前にシホになって、哲夫のペットであって…ダメだ、頭が痛い。
私は片付けもせず、そのまま眠ってしまった。
:08/12/30 18:25 :SH901iC :Z9srDs2E
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